一人ひとりの日常に、オレンジスパイニクラブの音楽を。『非日常』リリースツアーファイナルを独占レポート!
オレンジスパイニクラブ | 2020.12.07
4ピースバンド・オレンジスパイニクラブ の「2nd mini album『非日常』リリースツアー<またあとで>」のファイナル公演が、12月5日に渋谷CLUB QUATTROにて行われた。7月23日に開催された無観客配信ライブ「パイン vol.9」を経て、今回のツアーは11月からスタートし、東名阪の3ヵ所で有観客でのライブとして行われ、チケットは見事に即完売。もちろん人数制限はされていたものの、会場には目の前でのライブを待ち遠しく思っていたであろう、たくさんのファンたちが集まった。そこで行われたライブは、楽曲にしてもメンバーの立ち振る舞いにしても、今のオレンジスパイニクラブの魅力を体感するには十分過ぎるものだった。
スズキユウスケ(Vo/Gt)、スズキナオト(Gt/Cho)、ゆっきー(Ba/Cho)、ゆりと(Dr)の4人がステージに登場し、「ようこそ、オレンジスパイニクラブです」というユウスケの挨拶を合図に、いよいよライブがスタート!……と思いきや、初っ端からユウスケがピックを落としてしまい、「ごめんなさいね! もう1回やりますね!(笑)」と言って仕切り直しに。久々の有観客ライブということや、広い会場に立ったが故の緊張のせいなのかは定かではないが、そんなハプニングすらも等身大の彼ららしさだなぁと思いつつ、『非日常』収録の「またあとで」をきっかけにライブが始まった。<単純な事で優しくなれるような/毎日が愛おしかった/でも少し寂しかった>と、幸せの中にもたしかに存在する陰りや違和感を丁寧に救い上げる彼らの歌詞。それは、微熱の時のぼんやりとした熱さや夢見心地の雰囲気をそのままメロディと歌詞にしたためた「37.5℃」でも同様に感じられた。そして、そんなふんわりとした雰囲気を自らぶち壊すかのように、パンクチューン「スリーカウント」を投下! 極端な曲調変化への驚きと同時に、「軽傷」「結構」「結晶」「影響」という韻踏みの巧みさにもハっとさせられた。
オレンジスパイニクラブの作詞・作曲については、ユウスケ、ナオトのスズキ兄弟が担っており、各々の個性が感じられるところもある。例えば「またあとで」や「37.5℃」のように、ユウスケの書く詞からは詩的さを強く感じるし、「スリーカウント」や、次にプレイされた「眠気」のように、ナオトの書く詞は韻や語感を重んじつつ、人の甘えや本音を突くものが多いように思う。とはいえ、そういった違いはそこまで重要ではないと個人的には思っている。ふたりの異なる感性から別々に楽曲は生まれるが、「良質な音楽」という単純かつ明快な共通項をもとに、「オレンジスパイニクラブの曲」として完成させている。だから、別々の人間が書いているけれど「どちらのほうがオレンジスパイニクラブらしい」という定義ができないし、まさしくそこがこのバンドの面白いところだ。
そして「眠気」から、アルペジオが切なさと蒼さを増長させる「リンス」、さらに「デイリーネイビークレイジー」へと続ける。この日のチケットが即日ソールドアウトしたことへの驚きと喜びを露わにしたMCを経て「みょーじ」をプレイした彼らは、次に「駅、南口にて」を奏でたのだが、この曲の<終電から先の未来に/俺はいないんだろ>という歌詞が秀逸だなと心底思った。「終電」という現実的で身近な言葉を用いながら、「終わり」と「未来」という、相反する言葉の共鳴で聴き手の想像力を掻き立てる。直接的な表現ではなくとも、しっかりと情景が浮かんでくる歌詞であり、その景色に色を付けるようなメロディだなと思う。そういったバランス感覚は、オレンジスパイニクラブの魅力であり強みだ。そして「駅、南口にて」から繋がるように「モザイク」をプレイし、改名前の「The ドーテーズ」時代のアルバム『under20』から、ストレートな歌詞が胸を打つ「死ぬほど好き」を披露! 演奏後にユウスケが「この曲、知ってる人いる?」と聞いていた様子からもわかるように、かなりレアな演奏だったようだ。
続いて、「寒くなったけど、秋の曲を」という言葉から、彼らの代表曲「キンモクセイ」をプレイ。季節感を感じさせる珠玉のバラードだが、その余韻にじっくりと浸らせる間もなくロックチューン「ドロップ」を掻き鳴らし、さらに「東京の空」「Finder」を連続で演奏! 楽曲のテイストも、ナオト、ゆっきー、ゆりとのテンション感も、ユウスケの歌い方も、曲ごとにまったく異なるのが面白い。以前行ったインタビュー(参考記事:初期衝動の狭間で揺れる青さ、4人の目に映るものとは――。初インタビュー!の中で、ユウスケが「ライブでバカバカやりたいんですよね。ライブ映えではないですけど、『東京の空』や『デイリーネイビークレイジー』のような曲はライブのお楽しみとしてとっておきたい」と話していたのだが、ここまで大胆に怒涛の変化球を投げられるのは、まさにライブの醍醐味だ。そんなオレンジスパイニクラブが持つ“理想のライブ”を体現したアクトに、オーディエンスも拳を上げて呼応していた。
また、今回のライブは配信も行われていたということで、会場にいるオーディエンスだけではなく、カメラの奥にいる視聴者にも声をかける4人。「動画を観ながら配信を観ている人もいるんですかね? ご飯と炒飯を一緒に食べてる、みたいな」というユウスケの発言をきっかけに、「白米と一緒に何を食べられるか?」という話題に発展させるなど、肩肘張らないマイペースなやりとりが続く。そんなMCの雰囲気を引き継ぐかのように、まったりとしたミディアムチューン「コーヒーとコート」、さらにThe ドーテーズ時代のパンキッシュな楽曲「急ショック死寸前」をプレイするなかで、ナオトのギターの弦が切れてしまうというアクシデントが発生するも、しっかりと「タルパ」と「たられば」を演奏しきった。そして、今回の東名阪のツアーを回ったことで感じた「ステージから見える景色の違い」について話しつつ、「こういうツアーができたのも、メンバーのおかげでもあり、支えてくれたスタッフさんのおかげでもありますが、やっぱり一番は、お客さんのおかげです」と、ユウスケがバンドを代表して改めて感謝を告げて、ラストに「敏感少女」を届けた。
アンコールでは、明るく軽快な「イージーゴーイング」と「パープリン」をプレイした彼ら。今回のライブは、最新作『非日常』のリリースツアーであったと同時に、改名以前の楽曲も演奏するなど、「オレンジスパイニクラブの歩み」を辿るようなライブでもあった。彼らが今作に至るまで、歌い、音楽に乗せてきた「日常」の情景は、聴く人によってはドラマチックなラブストーリーに思えるのだろうし、ある人にとっては自分事のように記憶や心に響くのだろう。彼らの楽曲は、人それぞれの「日常」と「非日常」があることを理解したうえで、先述したように、人の本音を突きつつ「想像力」を掻き立てるからこそ、多くの人に愛されるのだと思う。この日のMCで、来年の抱負を発表するシーンがあり、その中でユウスケは「もっといろんな人に曲を聴いてもらいたい」と話していた。その目標は、着実に叶っていくだろう。そんな確信めいた予感をさせる、とても良いライブだった。
【取材・文:峯岸利恵】
【撮影:冨田味我】
リリース情報
非日常
2020年11月04日
primitive
02.スリーカウント
03.駅、南口にて
04.コーヒーとコート
05.またあとで
06.Finder
07.ドロップ
08.たられば
セットリスト
2nd mini album「非日常」
リリースツアー<またあとで>
2020.12.05@渋谷CLUB QUATTRO
- 01. またあとで
- 02. 37.5℃
- 03. スリーカウント
- 04. 眠気
- 05. リンス
- 06. デイリーネイビークレイジー
- 07. みょーじ
- 08. 駅、南口にて
- 09. モザイク
- 10. 死ぬほど好き
- 11. キンモクセイ
- 12. ドロップ
- 13. 東京の空
- 14. Finder
- 15. コーヒーとコート
- 16. 急ショック死寸前
- 17. タルパ
- 18. たられば
- 19. 敏感少女 【ENCORE】
- EN1. イージーゴーイング
- EN2. パープリン
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