期待の新人、満を持しての東京初ワンマンである。5月のメジャーデビューEP「Unchained」リリース以降、牛乳石鹸とコラボした「Love and Wash」、「モンスターストライク」インタラクティブアニメ「ハレルヤ　- 運命の選択 -」シリーズ主題歌「Missing angel」、映画「弁当の日　『めんどくさい』は幸せへの近道」エンディングテーマ「メモ書き」と、仕掛けは派手に華やかに。しかし楽曲制作には根岸孝旨(Ba)、小田原豊(Dr)ら実力者をずらりと揃え、音楽はあくまで渋く骨太に。舞台は老舗ライブハウスの高円寺Showboat、Maica_nのタイムレスな音楽を楽しむにはうってつけの場所だ。

「こんばんは、Maica_nです。今日は一緒に楽しみましょう!」

　バンドが繰り出す強靭なグルーヴに乗り、カウベルを叩きながら笑顔で登場。おもむろにアコースティックギターを抱えて歌いだす、低音の効いたハスキーボイス、魅力的な倍音、確かな声量が、分厚いサウンドに負けていない。根岸、小田原、草刈浩司(Gt)、友成好宏(Key)という百戦錬磨のメンバーを従え、曲は「Trio」から「Hanakoさん」へ。ギミック無し、シンプル＆メロディアスなロックチューンを、まっすぐに前を見つめて歌う。ボーイッシュなルックスに、時折こぼれ落ちる若さと愛らしさ。新型コロナ感染予防ガイドラインのもと、会場を埋めたオーディエンスから、声にならない歓声と温かい拍手が飛ぶ。いい雰囲気だ。

　ギターを置いて歌う「秘密」は、グルーヴィーなR&Bの節回しに、オールドフレイバーなハモンドオルガンの音色が心地よく寄り添う。ほんのりラテンビートの「タバコと私」は、大人びた設定と少女めいた純情のギャップが魅力的な恋の歌で、エアリーな発声が健康な色気を放つ。現在二十歳、子供と大人の境目ならではの、絶妙のニュアンスに惹きつけられる。

　「Love and Wash」はタイトル通り、コロナ禍での手洗いの大切さを綴った、カントリータッチのほっこりチューン。＜Wash Wash Wash your hands＞と繰り返すキャッチーなコーラスが可愛い。「Missing angel (acoustic ver.)」は、UKロックの伝統を思わせる哀愁の旋律を持つマイナー調のアップテンポで、「Unchain」はさらにロック度を増した演奏でぐいぐい迫る。Maica_nはアコギ2本を使い分け、時にマイク1本で、メロディと歌詞をしっかり届けることに専念する。余計な添加物は何もない、誠実なライブスタイル。幼少期から父親の音楽的な薫陶を受けてきたという体験が、初ワンマンにも関わらず、安定感あるライブパフォーマンスに表れている気がする。

　感染予防のため、15分間の換気と休憩を経た【第二部】は、エレクトリックギターを手にした鮮烈な「Baby it’s you」から始まった。オリジナルは1961年のザ・シュレルズ、しかしおそらくザ・ビートルズのカバーが広く知られているだろう、60’sアメリカンポップスの名曲を、エッジの効いたビートと太いオルガンの音色で飾り、力強く歌いあげる。2019年リリースのEP「秘密」に収録され、元々は「高3の時に初めてデモテープを録った曲」だというが、17歳や18歳でこんな歌を選んで歌っていたのだから、やはりタダモノじゃない。続く「メモ書き」はフォーキーなテイストで、語りかけるようにみずみずしく爽やかに。まだ二十歳、だが歌の表現にも、いくつかの引き出しをすでに持っている。

「Maica_nの“n”はNeutralの“n”です。音楽もビジュアルも、ジャンルとか○○系とかにこだわらず、面白いと思ったことをやっていこうと思います」

　この日が初披露となった新曲「replica」は、強いビートにマイナー調メロディ、攻撃的ニュアンスを持った曲調にファルセットを交えた技巧的なボーカルを重ねた、エモーショナルな1曲。全身を使って感情を表現する、ボーカリストとしての底力を感じさせる曲だ。一転して「Unknown」は、ピアノをフィーチャーした迫力あるロックバラード。シンプルなバックライトに照らされ、凛として立つ姿がハマっている。そして本編ラストチューン「Flow」では、満場の手拍子が沸き起こった軽快なビートに乗せ、間奏でエレクトリックギターのソロをばっちり決めて見せた。今を生きる若さと情熱と、クラシックロックへのリスペクトを重ね合わせた、いいソロだった。

　アンコールは2曲。ピアノ1台でしっとりと歌い切った「海風」は、心地好い切なさと魅力的な倍音と共に。そして12月6日リリースの最新シングル「Mind game」は、景気のいいホーンの音色をキーボードで再現しながら、とことん明るくやんちゃでアグレッシブに。オーディエンスに手拍子を求める笑顔が、ほっとしたようにほころんでいる。人生一度の東京初ワンマンを見事に成功させた、それは充実感いっぱいの笑顔だった。

　2021年2月17日、ファーストアルバム『replica』リリース。2月26日、アルバム発売記念ワンマンライブ『LIVE 2021～Approach to…vol.2』を開催。コロナに振り回された2020年は終わり、新しい年が始まる。ここから始まる二十歳のニューヒロインの全力疾走を、並走しながら見届けてみたい。

【取材・文：宮本英夫】
【撮影：中村嘉昭】