amazarashi、やるせない思いを浄化し新たな希望を提示したオンラインライブ
amazarashi | 2020.12.18
12月12日にamazarashiが、秋田ひろむの弾き語りによる初のオンラインライブ「amazarashi Online Live 末法独唱 雨天決行」を開催した。今回のステージセットは、建築家である安藤忠雄氏が設計した「真駒内滝野霊園・頭大仏」にプロジェクションマッピングを施し「雨曝大仏」に見立てたものだ。周囲360度を丘に囲まれたドーム状の屋根の真ん中から頭だけ突き出して見える「頭大仏」は、ここ数年、札幌観光の新名所としても知られている。
配信前。漢数字でカウントダウンされていく画面。その中に時折「雨天念経」というタイトルで並ぶ漢字が映る。作者は秋田ひろむ。度々、精霊流しを思わせる灯籠の映像も挟み込まれる。その灯籠には、こう書かれていた――ツアーが中心になって会いたい人に会えなかったこと。この灯籠は、今回のオンラインライブにあたり、amazarashiがTwitterで募集をかけたメッセージが書かれた献灯である。献灯とは、神社やお寺に灯明を奉納すること。つまり、供養のための灯籠だ。声明(※註:しょうみょう。仏典に節をつけた仏教音楽のひとつ。儀礼に用いられる)を彷彿させるBGMといい、amazarashiは、配信前からこのオンラインライブの意味を明確に提示していた。
ライブは、「夏を待っていました」でスタートした。大仏の前に置かれた無数の灯籠。その中に立ち、力強く歌い始める秋田ひろむ。大仏を半円で囲むように設置されたビジョンに、雨と一緒に歌詞が降って来る。曲が終わると、最初のポエトリー。印象に残ったのがこのワンフレーズ。「未来になれなかった夜達を」。2曲目は「未来になれなかったあの夜に」だった。この曲の途中、コメント欄にこんな言葉が流れた。「辛いなぁ……」とひとこと。コロナ禍以降、これまで様々なアーティストの配信ライブを拝聴してきたが、コメント欄に「辛いなぁ」という言葉を見つけたのは、この日が初めてだった。ポロリと漏らされた本音。amazarashiが、本音だけを歌って来たアーティストだからこそ、その音楽は多くの人が本音を言える場所になったのだろう。誰もが抱える辛さ。この辛さを背負い秋田ひろむは歌っている。
再びポエトリーへ。今回の書き下ろしポエトリーは、全部で7編。曲と曲とをつなぐことはもちろん、ライブ全体の軸になるストーリーテラー的な役割も担っている。特にこのブロックでのポエトリーは、美しい日本語を使った描写と韻を踏む言葉のリズムが、交差するように出て来てお見事だった。彼の紡ぐ言葉の魅力は多々あるが、絶対に英語で訳すことの出来ない日本語になっているところが、最大の魅力だと私は思う。秋田ひろむは、言葉と言葉の並びや、間合いにまで意味を持たせることが出来る稀有な詩人だ。ここ数年、ますますその武器が研ぎ澄まされていると感じていたが、今回のオンラインライブのポエトリーで、さらに新たなステージに踏み出そうとしていることが窺えた。
大仏が青く染まった「さよならごっこ」では、そこに金色の模様が映し出され、薬師如来のようだった。
ライブ中盤は「雨曝大仏」が多彩な表情を見せる。6曲目「無題」。大仏は表面が剥がれ落ち、最後には頭から崩れ落ちた。5編目のポエトリーの後「積み木」へ。大仏が、土台から少しずつ組み立てられていく。輪廻、崩壊、再生。個人の人生にも重なるが、コロナ禍の終焉が見えない今、人類という単位に重ねずにいられない。壊れるのか、そうしないと再生は出来ないのか……と、シビアに考えさせられていたところに、秋田ひろむの歌声が降って来た。<光が射し込んだ この街の片隅で>。この歌詞に合わせ、大仏の後方から眩い光が放たれた。「ワンルーム叙事詩」では大仏が燃えた。楽曲の最後を飾る<焼け野原>という印象的な歌詞。この「焼け野原」をプロジェクションマッピングは、大仏に投影した火の粉で表現した。
空間が明滅し「拒否オロジー」。続けて「とどめを刺して」と、2020年3月にリリースしたアルバム『ボイコット』から2曲を披露。「早く生ライブで聴きたい」「ライブまで我慢」といった内容のコメントが、すごい勢いで流れていく。コロナ禍の中、ツアーやライブを中止せざるを得なかったアーティストは多い。この決断も決して間違いではない。きっと正解なんてない。あるとすれば、それぞれの中にある信念だ。amazarashiも2020年4月28日から『ボイコット』を携えた全国ツアーを行う予定だった。延期、再延期を経て、現在、2021年9月以降での開催を目指して日程を調整中である。ツアーで会いたかった人に会えなかった――この献灯を己の手で浄化するためにも、秋田ひろむは、時間がいくらかかっても延期を決断し、会いたい人に会いに行くことを選んだのではないだろうか。
ライブは後半へ。12月16日にリリースされるニューEP「令和二年、雨天決行』から「曇天」。罰、悲劇、現実主義、尻尾、神様、仏様、救世主、栄枯盛衰、など、今の世の中を表す鮮烈な言葉が乱射される1曲だ。秋田ひろむの個人的感情を吐露し続けるスタイルには、初期のamazarashiに通ずるものがある。続けて「令和二年」「馬鹿騒ぎはもう終わり」と続いた後、6編目のポエトリー。その後に歌われたのが「夕立旅立ち」。原風景を思い出すメランコリックなメロディが流れる中、「帰省に後ろめたさを感じたこと」という灯籠が映し出される。暗転する画面。闇の中に降っていた雨が雪に変わる。続いて「真っ白な世界」。大仏にも雪が降る。その雪の粒の大きさから、ほたん雪だな、積もるんだよな……なんて考えていたら<積もる 積もる 白い雪>という声が飛び込んで来た。やられた。雪の質まで考えているのか?……なんてことを思う程、細部までじつに考えられていることが窺えた。
最後のポエトリー。秋田ひろむの言葉はこう締め括られた。
雨天決行 今日だってどうせやまない雨
どうかくじけることなく あの光へ進め
ラストを飾ったのは「スターライト」。一瞬だけ「頭大仏」のリアル映像が上空から映る。真っ暗な霊園の中で、そこだけ発光した生命体のようだった。咆哮するように力強く歌う秋田ひろむ。歌い終わると「ありがとうございました」と挨拶し、オンラインライブは終わった。しかし配信終了後も、新しい驚きが待っていた。配信が終了してからも視聴者数が伸び続けたのである。終演直後からアーカイブ配信がアナウンスされていたことも影響していたと思うが、配信が終わってからも視聴者数が増えていくという現象を見るのは、初めてだった。amazarashiの特異性と、底力を見せつけられた気がした。
また今回のオンラインライブで特筆すべきは、秋田ひろむがあくまでリアルなライブ映像にこだわったことである。映像においては、音楽シーンに新機軸を作ったほど多彩な手法を持っているamazarashi。そのアップデートも続けており、言うなれば、映像演出の百戦錬磨である。多彩な選択肢がある中で、彼はあくまでリアルなライブ映像にこだわった。ここに、秋田ひろむにとってライブがいかに特別な空間かということが、見出すことが出来るのではないだろうか。
amazarashiという音楽そのものが、秋田ひろむにとっての信念なのだ。どれだけ世の中が変わっても、そこは変わらない――そう宣言したようなオンラインライブだった。
【取材・文:伊藤亜希】
リリース情報
令和二年、雨天決行
2020年12月16日
SMAR
02.世界の解像度
03.太陽の羽化
04.馬鹿騒ぎはもう終わり
05.曇天
セットリスト
amazarashi Online Live
末法独唱 雨天決行
2020.12.12
- 01.夏を待っていました
- 02.未来になれなかったあの夜に
- 03.あんたへ
- 04.さよならごっこ
- 05.季節は次々死んでいく
- 06.無題
- 07.積み木
- 08.ワンルーム叙事詩
- 09.拒否オロジー
- 10.とどめを刺して
- 11.クリスマス
- 12.曇天
- 13.令和二年
- 14.馬鹿騒ぎはもう終わり
- 15.夕立旅立ち
- 16.真っ白な世界
- 17.スターライト