キュウソネコカミ、“急遽”決定した有人観客ライブツアー「キュウキョネコカミ ~わるあがき~」
キュウソネコカミ | 2020.12.28
「結成10周年で、しかもネズミ年」というアニバーサリーイヤーを全力で駆け抜けるつもりだったのに、予定されていたライブやイベントが次々中止。しかし、キュウソネコカミは2020年を大人しく黙ったまま終わらせなかった。有人観客ライブツアー「キュウキョネコカミ ~わるあがき~」は、タイトルにも表れている通り、“急遽”決定した「わるあがき」の公演。検温チェックやダスキンのスタッフによるこまめな消毒など、徹底的な感染症予防対策がとられていた会場は平時と比べると静かだが、活気に満ちていた。ソーシャルディスタンスを考慮した形で、椅子が整然と並べられているフロアの風景が新鮮。真面目な講演会が始まりそうな空間となっていた。
暗転した会場内に流れたSE。開演の時を迎えた瞬間、聴き慣れない乾いた音がフロア全体から起こった。その正体は、スペシャル応援グッズとして入場者に配布された「臨棒(リンボウ)」。プラスチック製の棒を紐で繋ぎ合わせたヌンチャク状のこの物体を用いて、観客は沸き上がる興奮、感じた幸せを態度で示すのだ。変な生き物が動き回る音みたいで、ちょっと面白い……と思っていたところで、ヤマサキ セイヤ(Vo/Gt)、オカザワ カズマ(Gt)、カワクボ タクロウ(Ba)、ヨコタ シンノスケ(Key/Vo)、ソゴウ タイスケ(Dr)がステージに登場した。そして、「ウィーワーインディーズバンド!!」がスタート。「俺たちの存在は儚い! 2020年、貴重な一歩を楽しんでいこうぜー!」とセイヤが絶叫すると、全力の臨棒の音がステージに向かって届けられた。
制約が少なからずあるにもかかわらず、我々を巻き込むキュウソのパワーはやはり桁外れであった。2曲目の「5RATS」に突入した頃には、すっかり臨棒の扱いに慣れていた観客。メンバー全員で臨棒を手にして踊りまくる場面も盛り込まれていた「MEGA SHAKE IT!」。観客が天井を突き刺すかのような勢いで臨棒を振り上げていた「推しのいる生活」。「免疫力を上げる方法はいろいろあるけど、食べ物から上げていけ!」という力強い言葉と共にスタートした「華麗なる飯」……序盤から熱い場面の連続だった。
最初のMCタイムで、メンバーたちが熱心に語り合っていたのは臨棒の音色。思ったよりも音が大人しくて、「川のせせらぎみたい」とのことだった。「臨棒を使う曲を用意してきたので。みんなで同時に叩くことによって、せせらぎから少しレベルアップして大せせらぎになる。人によっては翌日もしくは2日後に筋肉痛が発生します。臨棒痛と呼んでるので、それをおみやげとして持って帰れるくらい頑張ってくれたらなと思います。でも、限界のきた人に強要するものではありません。叩ける人だけしっかり叩いてください」――セイヤの言葉を経てスタートした「家」は、観客が一丸となった三三七拍子が力強く鳴り響いた。シンプルなリズムのこの曲は、臨棒を叩いて盛り上がるのにぴったり。続いて“アカペラver.”あるいは“アコースティックver.”という表現が適切なのかはよくわからないが……セイヤの歌+臨棒の音のみによる「家」も大盛り上がりとなった。
臨棒を積極的に打ち鳴らして“新しい生活様式”によるライブの形を示した「ビーフorチキン」と「ファントムヴァイブレーション」の後に迎えた小休止。「僕らはとてつもなく空気が読めるので一旦休憩。座ってください。冬のいい曲があるんですけど、アレンジを変えて、さらに名曲に仕上げました」――セイヤが語り、「冬幻狂」が披露された。シンノスケのピアノを活かしたアレンジが心地よい。美しいメロディが鮮やかに響き渡っていた。続いて「怪獣のバラード」も届けられて、うっとりと耳を傾けていた観客。歌詞はなかなかどうかしている曲だが、「キュウソは美メロの宝庫である」ということを再認識させられた。
和テイストのメロディが流れる中、「なかなかやらない曲やるぞ!」と宣言したセイヤ。そしてスタートした「伝統芸能」は、堂珍嘉邦のパートをセイヤ、川畑要のパートをシンノスケが担当しつつCHEMISTRYの「PIECES OF A DREAM」を熱唱・演奏するという驚愕の展開が待っていた。歌い終えてから「気持ちよかったあ!」と満足げに言ったセイヤに対して、打ち鳴らされた鐘は「カーン」と1回のみ……コントのような要素も盛り込まれていて観客は大爆笑。<感じる>の<る>のファルセットが非常に難しいことを、セイヤがやたらと強調していたのも印象深い。シンノスケの表現を借りるならば「口がダサい」と言う他ない微妙な表情をしながら声を発するのがコツらしい。
都市伝説レベルの間違った情報を見事に粉砕してみせた「ポカリ伝説」。観客が飛び跳ねつつ臨棒を連打したことによって、会場全体がすさまじいエネルギーで包まれた「ビビった」。世界中で続いているモヤモヤした状況の中で聴くと、込められている想いが一際狂おしく迫ってきた「越えていけ」。「一番必要なのは命。でも、ライブも必要だよな?」というセイヤの叫びと共にクライマックスへと雪崩れ込む様が雄々しかった「The band」……絶頂を更新し続けていた終盤戦。観客のものすごい興奮状態が、周囲のムードから伝わってきた。演奏を終えると、すがすがしい表情でステージを後にしたメンバーたち。彼らを讃える手拍子、臨棒の音が激しく鳴り響いた。
「なんとか開催できました。やれてよかったです。次にみなさんと会えるのがいつになるのかわからない状況なので、今日を大成功させて、まっすぐお家に帰ってください。3月ぐらいから全ライブが中止になって、夏頃から少しずつライブができるようになりました。みなさんの協力のおかげと、関係各所のものすごい努力の上に成り立っています。夏から培ってきた諸々を総動員して、なんとか開催に至りました。何が正解なのかしっかりとは言えないんですが、お互いに努力して、次に繋いでいきましょう!」(セイヤ)。「ついに東京に帰ってきました。やっとやれて嬉しいです。俺たちも東京でやりたかったよ。来れなかった人もいるけど、そういう人たちが来れるように。東京でまたライブがやれる日が来ると思うので、その時はよろしくお願いします!」(シンノスケ)――2人の言葉が届けられてから始まったアンコール。披露された「ハッピーポンコツ」は、ステージから押し寄せてくるサウンドと、臨棒の激しい動きが一体となる様が美しかった。「ライブができている!」という喜びがメラメラと燃え上がっていたあのムードは、まさしく「完全燃焼」。実に爽やかな熱気が生まれていた。
モッシュもダイブもなく、かめはめ波もなかったライブだが、「キュウソネコカミのライブは、やっぱり楽しい!」という実感を強烈に噛み締めることができたのが嬉しい。夢中になって臨棒を叩いた体験は、観客のひとりひとりにとって、良い思い出となっていくのではないだろうか。メンバーたちが手を振りながら去っていく時、年明けの1月13日にリリースされるミニアルバム『モルモットラボ』の1曲目「3minutes」が大音量で流れていた。ライブハウスへの愛情、ライブバンドとしてのプライドが炸裂しているこの曲をたくさんの人々と大合唱できる日は、いつになるのかまだわからない。しかし、キュウソはどんな状況下でも最高であることを、この日のステージは証明していた。お互いに元気でいれば、また大声で叫び合いながらひとつになれる時間を取り戻せるはずだ。
【取材・文:田中 大】
【撮影:Viola Kam (V’z Twinkle Photography)】
リリース情報
モルモットラボ
2021年01月13日
ビクターエンタテインメント
02. おいしい怪獣
03. 御目覚
04. 囚
05. 薄皮
06. シュレディンガー
07. ぬいペニ
08. シャチクズ (2020 ver.)
09. ポカリ伝説
セットリスト
キュウキョネコカミ 〜わるあがき〜
2020.12.15@新木場STUDIO COAST
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- SE -
- 01. ウィーワーインディーズバンド!!
- 02. 5RATS
- 03. MEGA SHAKE IT!
- 04. 推しのいる生活
- 05. 華麗なる飯
- 06. 家
- 07. 家(臨棒)
- 08. ビーフorチキン
- 09. ファントムヴァイブレーション
- 10. 冬幻狂(バラードver.)
- 11. 怪獣のバラード
- 12. 伝統芸能(PIECES OF A DREAM)
- 13. ポカリ伝説
- 14. ビビった
- 15. 越えていけ
- 16. The band 【ENCORE】
- EN-1. ハッピーポンコツ