バンドの始まりである「17」から現在の心情を歌った「22」へ――Hakubiの歩みを総括した「NOISE FROM HERE」第2弾を徹底レポート!
Hakubi | 2020.09.19
京都の3ピースバンド・Hakubiの配信ワンマンライブ「Hakubi Live stream 2020 -NOISE FROM HERE- #2」が、9月12日に東京の渋谷TSUTAYA O-EASTにて行われた。Hakubiにとって3回目となる今回の配信ライブは、最新EP『結 ep』のレコ発の意味合いも込めて行われたもので、昨今の情勢を踏まえて無観客の会場で開催された。「NOISE FROM HERE」を冠するイベントは2回目となるが、通常のスタイルでのライブにアコースティックでの演奏を加えた前回のライブとはまた表情が変わり、バンドの研ぎ澄まされた感性や気迫、そして「生かされ、生きて、前に進んでいくこと」への意志をより強く感じるものだった。
開演時間を過ぎて画面に流れ始めたのは、片桐(Vo/Gt)、ヤスカワアル(Ba)、マツイユウキ(Dr)の3人を真上から捉えた映像と、淡々とした口調で語られるポエトリーリーディング。「大人になればわかると人は言うけれど、本当にわかる日が来るのだろうか?」――そうした大人になることに対する迷いや疑念を歌うHakubiが静かに佇んでいたのは、ステージではなくフロアの上。楽曲と同じく、彼らは私たちと同じ目線に立っていた。
この日のライブの始まりにプレイされたのは「17」。バンドを組む以前から片桐が弾き語りで歌っていた、Hakubiの原点とも言えるこの楽曲からスタートしたことで、この日のライブがバンドにとって大きな意味を持つものだと告げているように感じた。17歳の少女のすがるような想いから生まれた<泣いても消せない夜/どこかに誰かいませんか>という呼びかけに対する答えが、このライブの先にありますように。そう祈っているかのように、美しく、強く響いていた。
そして片桐の「今日という最高の日の始まりに!」というコールからプレイされた「ハジマリ」をきっかけに、雰囲気は一変。ふとしたタイミングで互いにアイコンタクトをとりつつ、歌うこと/鳴らすことに没頭している3人のアクセルが一斉に強く踏み込まれたことが、スピードに乗って伝わってきた。そんな勢いを継承しつつ「夢の続き」へと流れ込み、「今日はメンバーのやりたいことをいろいろと詰め込んだ1日になっています。最後までよろしくお願いします」という短めな挨拶を経て「薄藍」、さらにミラーボールの光が優しく回るなかで「Friday」を奏で始める。
曲が終わったあとには、拍手の音も、歓声も起こらない。人間が発する熱気が絶えず渦巻くライブハウスを知っている者からすれば、その光景は異質なものかもしれない。けれど、3人の音で完結する唯一無二の空間に、彼ら自身が居心地の良さを感じているような雰囲気があった。そう感じさせたのは、彼らが歌い鳴らす音楽に対して「自分たちが生み出した音楽は、誰のものにもならない“分身”である」という揺らがぬ意識があるからなのかもしれない。人の顔色を窺ったり、他人からの他愛もない言葉で傷ついたりすることがある生活のなかで、「Hakubiの音楽」こそが自分を守る唯一無二のシェルターであり、そこであれば自分が思うありのままで表現できる。心の底に沈殿しては重みになっている淀みを吐き出すような、「大人になって気づいたこと」も、まさにそうだ。誰かに届くかどうかは考えず、ただ自分が自分の足で進んでいくために音楽を鳴らしている。それはHakubiの不変的信条なのだろう。
それでも、この日も演奏された「光芒」しかり、リリースを重ねるごとに歌詞の中に「僕たち」という言葉が徐々に現れ出したことからも、彼らが活動していくなかで少しずつ変わってきていることがわかる。音楽を始めたきっかけはひとつだとしても、続ける理由は自然と増えていくもので、それはきっとバンドにとっての強みになっていくものだ。その実感があるからこそ、彼らは「生きていくこと」を真っ先に考えるようになったのだと思っているし、先述した核となる部分は変えないまま、変化に順応していくという歩み方をしているように思う。それは、『結 ep』が本来今年の春頃にリリース予定だったが再録をして9月に出すことになったこと、コロナ禍で抱いた不安や焦り、メンバーに八つ当たりしてしまうような苛立ちがあったことを片桐が告白しながらも、「でも、こうやって一丸となってCDを作って、『おめでとう』って言ってくれる人がいて、支えてくれる人、ライブハウス、(配信ライブを)観てくれる人がいること、CDが人の手に渡って繋がっていくことは素晴らしいことだなと思いました」と語ったことからもわかった。
そして「自分はこの日のために、この曲のために音楽をやってきたんだと思うこともありました。音楽をやってきてよかった! 生まれてきてよかった! みんなと出会えてよかった! そう思える明日を探してる」と熱を込めて語り、「mirror」を熱演。「自分の居場所を確かめる! 今、この場所で!」と自らを鼓舞するように叫び、「ここから私たちの声が聞こえてますか? この姿が見えてますか? 弱い者でも、一歩踏み出そう。大丈夫」とこちらに向けて優しく声をかけた。Hakubiの目の前には、実際に会場にはいなくても私たちが立っているんだということが、続く「辿る」でも強く伝わってきた。
片桐は最後に「この曲は、自分にとって大切な曲です。まだ音楽を始めた5年前と何も変わらない子供のままの自分ですが、仲間と出会って、支えてくれる人に出会って、一歩一歩進んでいるなと日々感じております。これからのHakubiをどうか見逃さないで。背中を見せて行けるように突っ走っていくので、これからもどうかよろしくお願いします」と語ったあと、いよいよ「22」を演奏するという、まさにその直前。彼女は足元を見て、ぽろっと「緊張するな」と言葉を零した。それは新曲を披露するからという意味ももちろんあるのだろうけど、これから「22歳の今の自分」の独白をすることへの緊張感もあったのではないだろうか。自分をさらけ出すことは簡単なことではないし、聴き手が思うような美しさだけで成り立っているものではないのだろう。それでも、音楽にするという誇りと覚悟を持って、曲の中で<僕はずっと歌うから>という誓いを立てたHakubiは、これからきっと、もっと強くなっていくだろう。バンドの始まりである「17」からスタートし、22歳現在の心情を歌った「22」で終わるという、これまでのHakubiの成長を辿り、総括しているかのようなこの日のライブを観て、その予感は確信になった。
彼らは現時点では少なくとも、「自分たちの音楽で誰かを変えたい」とは思っていないだろうし、人はそう簡単には変われないんだということを、身を持って知っているはずだ。そしてその考え方は、卑屈さや絶望から生まれるものでは決してなく、惑ってもつらくても投げ出さず、「死にたい」と嘆くことはあっても生きることを諦めず、己と真っ直ぐ向き合ってきた人間が辿り着くひとつの真理だと思う。だからこそ彼らは、音楽を通じて“支え合う”でも“救う”でもない、「寄り添う」というテーマを掲げているのだろう。そうしたHakubiがHakubiである由縁と、彼らにとっての「不変と変化」が明確になったアクトだった。
【取材・文:峯岸利恵】
【撮影:前野日奈】
セットリスト
Hakubi Live stream 2020
-NOISE FROM HERE- #2
2020.09.12@渋谷TSUTAYA O-EAST
- 01.17
- 02.ハジマリ
- 03.夢の続き
- 04.薄藍
- 05.Friday
- 06.大人になって気づいたこと
- 07.光芒
- 08.mirror
- 09.辿る
- 10.22
お知らせ
Hakubi 1st ONEMAN LIVE
10/22(木)京都 KYOTO MUSE
※YouTubeにて無料同時配信