東京カランコロン、完結。無観客生配信で届けられた笑顔と涙の解散ライブ「ラストのワンマ ん」徹底レポート!
東京カランコロン | 2021.01.02
現メンバーになってから11年、その前を加えれば結成からは13年である。長い歩みの果てに、東京カランコロンがついに最後の日を迎えた。本来であれば2020年5月から6月にかけてツアーを行うはずだったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で中止になり、その代わりとして、こうして配信での解散ライブが決定した。その時々に、バンドの今の姿を伝え続けてきた「ワンマ ん」の集大成。いつもどおりカラフルでひねくれた音楽と、この特別な日ならではの言葉の数々。リアルじゃないからどこか実感を持てないまま観ていたが、それでも彼らがやってきたこと、そして生み出してきた音楽のすばらしさは充分すぎるほど伝わってきたし、何よりもメンバー自身がどこまでも楽しそうに演奏しているのを見て、本当によかったなと思えた。
恵比寿リキッドルームにいつものSEが流れ、いちろー(Vo/Gt)、せんせい(Vo/Key)、おいたん(Gt/Cho)、佐藤全部(Ba)、かみむー氏(Dr)のメンバー5人が現れる。佐藤はタキシード姿の正装だ。そしてせんせいのキーボードに乗せてボーカルふたりがユニゾンする「いっせーの、せ!」からライブは始まった。メジャーデビューアルバムの1曲目を飾った、聴くたびに始まりの予感にわくわくするこの曲をメンバー全員笑顔で演奏し終えると、おいたんのギターリフに乗せていちろーが「皆さんこんばんは、東京カランコロンです。今日は最後の最後まで思いっきり楽しんでいきましょう、よろしく!」と挨拶し、カオシレーターを手に飛び跳ねだす。そう、「恋のマシンガン」だ。
ラストということで、初期から最近までディスコグラフィーを総ざらいするようなセットリストが組まれていたこの日のライブ。続けて披露されたのは初の全国リリース盤『東京カランコロンe.t』に収録されていた初期の代表曲「マリメッコとにらめっこ」である。ツインボーカルの織り成すサビのハーモニー、おいたんのテクニカルなギター、かみむー氏のドラムとポテトチップスおじさんこと佐藤(アンプの上には安定のカルビーうすしお)のベースが生み出す緩急自在のグルーヴ。どこまでも個性的なアンサンブルが、このバンドにしか生み出せない空気を作っていく。
「手汗がヤバい」と無観客ライブ独特の緊張感をいちろーが口にしつつ、かみむー氏のスネア連打から始まったのは「ユートピア」。ポップなメロディとともに<やめちゃうのもいい やめなくたっていい/巻き戻せないから、日々は愛おしい>と歌うこの曲が、改めて大きな意味をもって響いてくる。クールな照明の下で披露された「ビビディバビディ」、せんせいのリードボーカル曲ではやっぱり個人的にベストだと思う「泣き虫ファイター」、東京カランコロン流EDMだったんだなあと改めて思う「フォークダンスが踊れない」(いちろーとせんせいのダンスももちろん披露)。バリエーションという意味ではこれほど振れ幅のあるバンドもいないだろうという楽曲たちが次々繰り出されていく。そんな流れのなかで超絶コンビネーションとポップなサビメロの変態的なコントラストを堪能できる「三毒」を投入するところも彼ららしい。
10ヵ月以上ぶりのライブとなった今日。「それが解散ライブって……」と笑いながら話すいちろー。「じいさんとかになったときにさ、『あんときさ、円になってやったよ』って」と佐藤が笑えば、おいたんはいちろーから電話をもらって初めて一緒にスタジオに入った13年前の思い出を語り、そこから5人はバンドのこれまでを振り返り始める。ライブハウスの店員としてカランコロンのライブを観ていた佐藤は「こんないいバンドいるんだって思ったよ」と当時の印象を語り、むー氏も加入前にスタジオで音を合わせたときのことを振り返る(「気に入られようと思って」全曲完璧に覚えていったらしい)。まるで楽屋みたいに思い出話に花が咲いている。メンバー変遷を繰り返し、紆余曲折を経て今日に至った東京カランコロンの歴史。いちろーは「恵まれたよね、よかった」と結論づける。それにしても、こんなにもまともなことを喋っている全ちゃんをライブで観るのは珍しい。シュールだったり、個性的だったり、人によっていろいろなカランコロンのイメージがあるだろうが、何よりもまっすぐに音楽とバンドを愛して進んできた人たちなんだな、と本当に改めて思う。
「ちょっとセンチメンタルな曲を」と披露された「サヨナラ バイバイ マルチーズ」や、スケールの大きなコーラスが感動的な「カラフルカラフル」のような泣かせるバラードも、ミラーボールがきらめくなかグルーヴィーに奏でられた「ALL OVER」も、おいたんのギターといちろーのシャウトが炸裂するロックナンバー「笑うドッペルゲンガー」も。相変わらず多彩な楽曲が繰り広げられるなか、ふたたびMCへ。しゃべるのが苦手だったため、ステージ上でジャンケンで負けた人がMCをすることにしていたという初期のエピソードや5人だけで回ったツアーの思い出を語り始める。予定していた解散ツアーができず、こうして配信ライブになってしまったことは残念だが、お客さんがいないからこそこういうぶっちゃけたトークが聞けているのかもしれないと思うと、これはこれでよかったのかもしれない、と複雑な気持ちになる。
そしてせんせいが切なく歌い上げる「指でキスをしよう」、そしていちろーの伸びやかなボーカルがいかんなく発揮された「×ゲーム」を経て、ライブ会場限定でリリースされていた「ギブミー」へ。ファンへの、そして自身を取り巻く人たちへの愛を素直なロックアレンジと歌詞で表現したいちろーの歌詞が、ひときわダイレクトに伝わってくる。「どういたしまして」の力強く前向きなメロディが、いよいよ迫っているグランドフィナーレを予感させつつも、僕たちの心をさらに高揚させていく。この曲とか、次に披露された「トーキョーダイブ」もそうだし、この日演奏されたなかでいえば「ビビディバビディ」や「リトルミスサンシャイン」もそうだが、“再起動”以降のカランコロンの楽曲はとにかくストレートで正直で最高だ。いろいろなものを吹っ切って、すごく純粋になったバンドの姿がどの曲にも刻まれている。そんな最近の曲を経て、いちろーのファンキーなパフォーマンスもこれで見納めとなる「true!true!true!」に「少女ジャンプ」とカランコロンのライブを支えてきたキラーチューンを連発し、いちろーの衝動のすべてを注ぎ込んだ「16のbeat」をテンション高く繰り出す。おいたんのギターソロ、かみむー氏の刻むハイハット、佐藤のゴリゴリのベースライン、せんせいのシンセ、すべてがひとつに重なってリズムを刻む。
息を切らしたいちろーが「全然最後って感じしないね」と言うと、おいたんも「そうね」と応える。「まあ、また歳を取って、気が向いたらやりましょう」とメンバーに声をかけると、せんせいも「せやね、ちいっちゃいところでやろう」と同意。そして笑顔のなかで最後に鳴らされたのは、やっぱりこれだよな、という「ラブ・ミー・テンダー」。男女ツインボーカル、ツインギター、ちょっと変わったベーシストと最年長の生真面目ドラマー。感極まって涙を流しながら歌ういちろー。それをやさしく見つめるせんせいの目にも涙が浮かんでいる。名残惜しそうに続く長い長いアウトロ。ライブ終了後の画面にはせんせいが書いたバンドからのメッセージが表示された。「直接会ってさよならが出来なくてごめんなさい。本当に、今まで東京カランコロンを愛してくれてありがとうございました!!!!!」。こうして、東京カランコロンは最後のライブを終えた。
「よう10年続いたなって思うよね」。老化でメンバーと目が合わないなどの話題で盛り上がった最後のMCでいちろーはそう口にしていた。おいたんは「改めて、いびつなバンドだと思う。めちゃくちゃ偏ってる5人が合わさったら、なんとかなったね。このあとの人生、こんなことはないと思う」とカランコロンの本質をずばりと言い当てた。まさにいびつで、いびつだからこそポップに輝いた不思議なバンド、東京カランコロン。そんな、当たり前に紆余曲折ありながらも駆け抜けてきた10年あまりの日々をまとめるなら、せんせいの「みんな健康でよかった」という言葉になるのだろう。ひとつの季節を終え、人生の次の季節へとダイブする5人に心からのエールを。<だって、出会った。/それは消せない。>。みんな、引き続き健康で。また会える日を楽しみにしたい。
【取材・文:小川智宏】
【撮影:酒井ダイスケ】
セットリスト
ラストのワンマ ん
2020.12.23@恵比寿LIQUIDROOM
- 01.いっせーの、せ!
- 02.恋のマシンガン
- 03.マリメッコとにらめっこ
- 04.ユートピア
- 05.ビビディバビディ
- 06.泣き虫ファイター
- 07.フォークダンスが踊れない
- 08.三毒
- 09.サヨナラ バイバイ マルチーズ
- 10.スパイス
- 11.カラフルカラフル
- 12.MUUDY
- 13.ALL OVER
- 14.笑うドッペルゲンガー
- 15.指でキスしよう
- 16.×ゲーム
- 17.ギブミー
- 18.どういたしまして
- 19.トーキョーダイブ
- 20.リトルミスサンシャイン
- 21.true!true!true!
- 22.少女ジャンプ
- 23.16のbeat
- 24.ラブ・ミー・テンダー