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ドミコ、曲・サウンド・演出が三位一体となった「VOO DOO TOUR ? -EXTRA-」

ドミコ | 2021.02.15

 影の努力を表に出さないバンドではあるが、これだけ自粛期間が長きにわたり、2~3ヵ月もライブ期間が開くにも関わらず、毎回クリティカルショットを放つということは、二人がこの期間をどう過ごしているのか暗黙の了解だろう、ということを証明するようなライブだった。

 昨年、ミニ・アルバム『VOO DOO?』に伴う全国6ヵ所を巡るツアーを行い、ファイナルとなった11月のTSUTAYA O-EAST以来となる今回。前回は全編にわたる映像演出が新鮮で、もちろん久々の有観客ライブということもあり、久々の再会の感動と相まって、チアフルなムードも漂ったが、今回は同ツアーの追加公演。早くもコロナ禍の中で2度目の有観客ライブを経験したファンも多かっただろう。観客の演奏への集中力が伝わり、ステージ上といいエモーションの交換ができていたように感じた。

 開場BGMにオーストラリアのサイケデリックかつメタルロック要素もあるKing Gizzard & The Lizard Wizardのアルバム『I’m in Your Mind Fuzz』がずっと流れている時点でワクワクする。一昨年のフジロックにも出演した彼ら。ドミコと対バンしたらさぞ痛快だろう。そんな妄想から別の妄想にスイッチさせられるように、場内暗転と共におなじみのロゴのネオン管が点灯し、センターに君臨するギターアンプの両脇のピンクのライトが妖しく光る。どこかアメリカの田舎のライブハウスにでも来たようなムードだ。そこへ長谷川啓太(Dr)、少し遅れて、さかしたひかる(Vo/Gt)が拍手に迎えられて登場。サイケかつブルージーな短いセッションから「まどろまない」へ突入。キックの圧に脊髄が振動する。そう、これこそリキッドルームの音圧だ、とニヤつきが止まらない。長めにリアレンジしたイントロ、さらにソリッドになったドラミング、太くなったベースライン。そしてスタッカート気味のさかしたのボーカルがパッシブだ。なんと珍しく、2曲目に入る前、「行くぜ、よろしく! ドミコです」とシャウト気味に挨拶したのだ。そしてオーディエンスの体を揺らす「ぺーパーロールスター」。ストレートに何かを伝えるメッセージはないはずなのに<ハロー あたしは 怖がりもしない>という歌詞が不意に涙腺を直撃した。見えない不安もむかつくこの国のシステムも、このナマの体感や個人の楽しみを邪魔はできない。そんな大袈裟なものじゃないかもしれないが、歌詞通り<ようは全然どうでもいい>という感じ。ザクザク刻まれるリフがドライブする「噛むほど苦い」でも、グッとタイトになった分、手数が増えてもシュアにツボをぶっ刺してくる長谷川のドラムと相乗効果でさかしたのインプロも冗長に聴こえない。
前回以上に二人の真剣勝負の色合いが増したのは間違いない。

 抜き差しのスリルからちょっとルーズに踊らせる「マカロニグラタン」ではラストにフロアの上部にも付けられたライティングがダンスフロアのムードを高める。いちいち演出が憎い。ループステーションによるリフの重ねが整理された感じの「My Body is Dead」は改めて曲展開の気持ちよさを堪能。ラスサビ前のコードチェンジももったいぶったところがなく、ブレイクも決まる。もうこうなってくるとフロア全体を一つのグルーヴで束ねられていく。じわじわループするリフで攻める「アーノルド・フランク&ブラウニー」は間奏でのさかしたの単音フレーズの音の良さに瞠目。この日、とにかくライブPAのメリハリが素晴らしく、ドミコのダンスミュージック、ハードロック、エクスペリメンタル、各々の側面が融合しながらリアルに届いたのだ。コードカッティングするさかしたの意思やセンス、一打の強弱を決める長谷川の瞬発力、そうしたものが明快に伝わる、メンバー、PAが一つの生き物のような認識の共有。まさにライブの醍醐味。

 酩酊しそうなエフェクティブなサウンドとフレージングの「さなぎのそと」。映像がなくても十分酔える。続けて『VOO DOO?』からの「問題発生です」もループするフレーズがどこかエキゾチック。長谷川のフィルインやタムの使い方に少々、ジャズ的な自由度も窺えて、柔軟にライブ・アレンジが成長していく曲であることを確信した。BPM遅めの楽曲で新たに生まれたドラムの打音も“音”である感覚。この深化は楽しい。エンディングでさかしたがギターを高く掲げ、大きな拍手が起こる中、フロアもライトで照らされた。またしても心憎い演出だ。

 シンプルな編成なのに曲ごとに違う世界に入っては出てくる感覚はこれまでもあったが、今回、それが映画級に没入できるほどの深さを持ち得たのは、アレンジをさらに研ぎ澄まし、一時期、どの曲も比較的エンディングのインスト部分を長くしていたことを曲によってはやめたことも大きいのかもしれない。

 前半で演奏のソリッドさにやられた後、中盤以降、ドミコの持ち味であり、独特な夏や海を想起させるブロックが出現。さかしたのファルセットがセンシュアルで重なっていくフレーズが白昼夢のような「ロースト・ビーチ・ベイベー」。これまで聴いたことがないほど、キックの圧が、たゆたうようなイメージを持っていた「くじらの巣」に、よりエクスペリメンタルな要素が加味される。ボイスエフェクトをかませた部分から、重層的なギターサウンドで渦に巻かれる気分に。溺れるような苦しさと快感紙一重のところで最後に放たれる<息がしたい 止めたくない>の一行が、また今の状況と瞬間的にリンクして、感情を揺さぶるのだった。全くそんなことを意識して書かれていない歌詞が一瞬、リアルな邂逅を果たす、そんな場面がこの日は多い。そして深いエコーとディレイが架空の夏を漂白していくような「WHAT’S UP SUMMER」。架空だったのは去年、夏らしいことをできなかった記憶も重なるのだが、基本的に明るく小気味いいカッティングの隙間にトラップで用いられる三連リフのようなバグの感覚を得られたのも、架空のムードに拍車をかけたのかもしれない。

 夏の空気から一転、太くイーブルなサウンドでニール・ヤングの「Hey Hey,My My」のフレージングに移行。前回は<Hey hey,my my Rock and roll can never die>までしか歌わなかったのが、この日は続く<There’s more to the picture Than meets the eye. Hey hey,my my.>までを歌ったさかしたの心情は如何なるものだったのか。それは明らかではないけれども、この曲からつなぐ「深海旅行にて」が、徐々に熱を帯び、真っ赤なライトに照らされる中で、さかしたと長谷川の決闘めいた、もしくは技のかけ合いのようなスリリングなセッションへ突入していったことから、この日最も息を飲む演奏のハイライトになっていたのは間違いない。

 どこか熱狂的な不穏を携えたステージ上、天井あたりを雲の中で雷が光るようなライティングが素晴らしい。そこへアルペジエーターが生む、もはやギターかシンセか、なんなら楽器で聴いたことのない不可思議な音が侵入し、インストの「おばけ」、そして「化けよ」へ。長谷川の長いスパンのキックとスネア、その間に挟まれるジャングルビート的な鋭いフレーズが研ぎ澄まされている。初披露以来、新境地を感じさせたこの曲もすっかりライブのレパートリーとして定着し、必要以上にアウトロを長引かせることなく、「びりびりしびれる」へ。オチサビの幻影めいたメロディから、ソリッドにエンディングのフレーズを決めて、本編はフィニッシュ。曲、サウンド、演出の三位一体感がシンプルなステージングでも、いや、むしろシンプルだからこそ、ドミコの無二の個性を際立たせた。

 一際大きな声で「センキュー!」と一言さかしたが声を発し、ステージをはけた二人に起こるアンコールは当たり前のものではなく、一瞬、魂が抜かれたオーディエンスが我に返って拍手をはじめた感じだ。程なく長谷川が再登場し、「アンコールありがとうございます。もう何曲かやります」というと、後から出てきたさかしたも結果的に同じことを言って、笑いが起こった。

 新作のラストナンバーで温かみのあるサウンドの「地動説」。モノクーロムなライティングが繊細でいい。SE的なギターエフェクトも極まった感じだ。途切れそうなその音の儚さを蹴飛ばすように、ラストスパートはロックンロール・パーティ。ロックで踊ることのかけがいのない楽しさを各々の場所で味わい尽くす「united pancake」と「こんなのおかしくない?」で、約100分の旅は終わった。

 トレンドや本邦のロックバンドとは違う発想で表現を続けるドミコだが、ライブでここまで曲の良さを明確に表現できるようになると、もはや先入観のない今のリスナーにはどんどんリーチしていくんじゃないだろうか。世界的にもロンドンでギターがガンガン鳴っているバンドたちが数多く存在するレーベル“Speedy Wunderground”あたりのセンスとも共振しているようにも感じる。世界もきっとドミコを待っているんじゃないか。そんな予感すらした一夜だった。

【取材・文:石角友香】
【撮影:小杉歩】

tag一覧 J-POP ライブ 男性ボーカル ドミコ

リリース情報

VOO DOO?

VOO DOO?

2020年04月15日

EMI Records

01.おばけ
02.化けよ
03.びりびりしびれる
04.噛むほど苦い
05.問題発生です
06.さなぎのそと
07.地動説
*タワーレコード&FLAKE RECORDS 専売商品

セットリスト

VOO DOO TOUR ? -EXTRA-
2021.02.09@恵比寿LIQUID ROOM

  1. 01.まどろまない
  2. 02.ペーパーロールスター
  3. 03.噛むほど苦い
  4. 04.マカロニグラタン
  5. 05.My Body is Dead
  6. 06.アーノルド・フランク&ブラウニー
  7. 07.さなぎのそと
  8. 08.問題発生です
  9. 09.ロースト・ビーチ・ベイベー
  10. 10.くじらの巣
  11. 11.WHAT’S UP SUMMER
  12. 12.深海旅行にて
  13. 13.おばけ
  14. 14.化けよ
  15. 15.びりびりしびれる
【ENCORE】
  1. EN1.地動説
  2. EN2.united pancake
  3. EN3.こんなのおかしくない?

お知らせ

■ライブ情報

ABOUT MUSIC Presents
"THINGS WE SAY SPECIAL" ドミコ × DENIMS - wish you were here EXTRA -

02/28(日)福岡 BEAT STATION

東名阪 Split 2man tour
“wish you were here” vol.2

03/20(土)東京 渋谷CLUB QUATTRO
03/26(金)愛知 名古屋CLUB QUATTRO
03/27(土)大阪 梅田CLUB QUATTRO

RUSH BALL☆R
05/15(日)大阪 大阪城音楽堂

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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