「フレデリックはまだまだ続きます」――最高の遊び場で遊びきった日本武道館
フレデリック | 2021.03.03
「フレデリック」と書いて「音楽」と読む――表現としてはとても陳腐で申し訳ないのだが、2021年2月23日、フレデリックの初の日本武道館ワンマンは心からそう思えるライブだった。本当に楽しそうに、そして嬉しそうに、フレデリックの4人は音楽で遊んでいた。「この1年、自分たちのことを見つめ直したら、自分たちのなかに宝物がたくさんあった」、三原健司(Vo/Gt)はステージでそう語っていたが、新型コロナウイルスの流行で世の中のあらゆることが激変し、音楽を取り巻く環境もたくさんの困難に直面するなかで、彼らは音楽の、そしてフレデリックというバンドのとても本質的で大事なところに立ち戻っていたのだなと感じて胸がいっぱいになった。
「ASOVIVA」――「遊び場」というのはこの1年、彼らが掲げ続けてきたテーマだ。そのテーマを物語るように子供が積み木で武道館を作って遊ぶオープニングムービーから始まったこの日のライブは、硬軟自在の音楽性と、そこに潜ませた真摯なメッセージ、つまりフレデリックというバンドを形作っているものが、すべてその「ASOVIVA」というテーマに強く結びついているものだということを如実に物語っていた。
「Wake Me Up」で高橋武(Dr)が叩き出す軽快なダンスビートと赤頭隆児(Gt)が弾くギターの軽妙なカッティング、そしてニューウェイブなシンセの音色が武道館をいきなりカラフルに染め上げた冒頭から、ファンキーに繰り出された「シンセンス」という序盤の流れだけで、武道館は一気にフレデリックとファンの遊び場に早変わり。手拍子が軽やかに鳴り響き、三原康司(Ba)もベースを弾きながら軽快にステップを踏む。文字通り音楽の振れ幅と高揚感によって、世界で彼らと僕たちにしか作れない「遊び場」が出来上がっていくのだ。「本日は日本武道館という遊び場を作りました。最後まで楽しんで帰ってね、よろしく」。「KIATKU BEATS」を終えた健司がそう宣言すると、客席からは大きな拍手が巻き起こった。
中盤では「トウメイニンゲン」「リリリピート」をシームレスにつなげてアッパーに突き抜けると、そこから康司がリードボーカルを取る初期の名曲「もう帰る汽船」へ。ダビーなリズムに乗せて切ない心象風景が描かれていく。そしてCGのフラミンゴが公園で遊ぶ映像とピンクのライト、そしてリバーブの効いたギターサウンドが妖しげなムードを演出した「ふしだらフラミンゴ」、「他所のピラニア」を経て康司の弾くシンセがディープに鳴り響くなか2020年の空気に鋭いメッセージを突きつける「正偽」へ。振れ幅の大きな音楽的冒険のなかに、今この国でバンドをやっているというリアリティが滲む。
センターステージで披露されたアコースティックセット「FAB!!」から高橋のドラムソロを経ての「まちがいさがしの国」へという流れもそうだったが、とにかくこの日のフレデリックは持てるすべてを注ぎ込んで、音楽の楽しさ、ライブの楽しさを伝えようとしているようだった。そして「TOGENKYO」で色鮮やかなパーティをぶち上げ、続く「スキライズム」へ。歯切れのいい健司のボーカルと康司が体を揺らしながら奏でるベースライン、高速4つ打ちビート、花道に歩み出て鳴らされた赤頭の華麗なギターソロ。フレデリックの粋を詰め込んだようなパフォーマンスが最終盤に向けてぐっとテンションを高めていく。
終盤、無数の紙吹雪が宙を舞った「オンリーワンダー」を終えると、健司は「この1年、いろんなことがありましたね。どうやったらみんなに楽しんでもらえるのかなってひたすら考えてました」と、この1年のことを振り返り始めた。「昔、うちのお母さんが『あなたは背伸びばっかりして自分を見つめていない。もっと足るを知りなさい』と言ってくれた。フレデリックって自分たちでおもしろくできる要素めちゃめちゃあんねんな。この1年、失ったものとかたくさんあったけど、自分たちのこと見つめ直したら、自分たちのなかに宝物がたくさんあった。ここでやりたいことやれたし、まだまだやれるなってこともすごく感じました」。ちょっと声を詰まらせながら彼はそう語っていた。そんな思いのすべてを注ぎ込んだ「されどBGM」がこの1年間のフレデリックのすべてを象徴するように鳴り響く。スクリーンに、この1年音楽とフレデリックに起きたことをダイジェストした映像を背負った健司からまっすぐに歌われた<たかが人生で されど人生です>という言葉には、改めて勇気づけられるような気持ちになった。
アンコールでは疾走感のあるビッグスケールの新曲「サーチライトランナー」をいきなり披露すると、「聴いてくださいより楽しんでください、楽しんでくださいより『踊ってください』です」と、待ってましたの「オドループ」を投下。フレデリックの始まりであり、今もまったく色褪せることなく彼らのライブの最高潮を刻み続けるこの曲が生まれたときから、彼らは音楽で遊び続けていたんだな、と弾けたように笑いながら楽器を弾いて歌う4人を見ながら思う。そして「フレデリックは日本武道館で遊びきったので帰宅します。ありがとうございました!」。オフマイクで客席にそう語りかけ、メンバー4人はステージをあとにした……これで大団円かと思ったが、まだ終わりではなかった。「ただの思い出にされるのはいやなので、もう1曲新曲をやって帰ります」(健司)とステージに再び戻ってきた4人が披露したのは「名悪役」という楽曲。これが歌詞の内容としても曲調としてもまたしても新しいフレデリックの姿を見せつけるすばらしい曲だった。健司は最後に言った。「フレデリックはまだまだ続きます」。そう、人生がある限り遊びは終わらない。明日からもフレデリックは音楽で遊び続けて最高の未来に僕たちを連れて行ってくれるはずだ。
【撮影:森好弘、渡邉一生】
リリース情報
ASOVIVA
2020年09月22日
A-Sketch
02.されどBGM
03.正偽
04.SENTIMENTAL SUMMER
05.リリリピート (FAB!!) Live at FABO!! 2020
06.ふしだらフラミンゴ (FAB!!) Live at FABO!! 2020
セットリスト
FREDERHYTHM ARENA 2021
~ぼくらのASOVIVA~
2021.02.23@日本武道館
- 01.Wake Me Up
- 02.シンセンス
- 03.逃避行
- 04.KITAKU BEATS
- 05.トウメイニンゲン
- 06.リリリピート
- 07.もう帰る汽船
- 08.ふしだらフラミンゴ
- 09.他所のピラニア
- 10.正偽
- 11.ミッドナイトグライダー (FAB!!)
- 12.うわさのケムリの女の子 (FAB!!)
- 13.まちがいさがしの国
- 14.TOGENKYO
- 15.スキライズム
- 16.オンリーワンダー
- 17.されどBGM
- 18.サーチライトランナー
- 19.オドループ
- 20.名悪役
お知らせ
START UP!!−ロックの春2021−
03/30(火)大阪 インテックス大阪
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。