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SOMETIME’S、ダイレクトに熱気を伝えた初の有観客ワンマン

SOMETIME’S | 2021.03.03

 昨年10月リリースの1stEP「TOBARI」のリリースイベントとしてはようやく有観客での開催となった今回。急遽、配信ライブとなり、アコースティック・アレンジでじっくりと曲の滋味を堪能できた前回と打って変わって、生身のSOMETIME’S、しかもホーン3管を加えた9人編成でのオンステージで、バンド・アンサンブルをダイレクトに楽しむことができた。

 ステージ後方のレッドカーテンと赤いライティングがジャズバーのようなムードを醸し出す開演前。様々な音源がコラージュされたSEが流れると自然とクラップが起こり、暗転するとTAKKI(Gt)とサポートメンバー7人が登場。そして冒頭から声を発して、自ずとファンも立ち上がるようなアッパーな空気を作り出すSOTA(Vo)。2階席からでも彼の笑顔ははっきり分かるぐらいだ。TAKKIの小気味いいカッティングに乗せてホーンが滑り込んでくる「シンデレラストーリー」でスタート。体を揺らす人、思い切り踊る人、客席も待ち望んでいた時間を全身で表現している。フルメンバーを揃えたこの日、グルーヴに彩りと楽しさを加味していたパーカッションのぬましょうの存在感が冒頭から光る。SOTAが「よく来たね! 声は出せないけど好きなようにしてください!」と、楽しさがはみ出るMCをする中、横乗りをキープしつつ「Get in me」へ。佐々木恵太郎(Ba)のシンセベースや抑えの効いた乾いた音色で屋台骨を締める冨田洋之進(Omoinotake/Dr)のドラミングがグッとモダンな感覚だ。

 ダンスが止まらないナンバーが続きつつ、往年のソウル/ファンクを継承した楽曲や、エレクトロニックな聴感の楽曲など、多彩なサウンドとアレンジで曲を繰り出してくるのもフックになっていて、1曲ごとに新鮮な気持ちになれるのもいい。ピアノリフがファットでウォームな印象の「Take a chance on yourself」も2Aでは冨田が細かい拍子を刻んだり、SOTAのボーカルもラップ調に言葉を畳みかけてくるのが楽しい。さらに音源よりハード目の永田こーせー(Sax)のソロのブロウも痛快。間髪入れず、シンセのSEと四つ打ちのキックが鳴り、ホーン隊はいったん捌ける。ダンスチューンのバリエーションの多さが楽しく、曲ごとに違うタイプの乗り物でドライブするような楽しさがある。間奏でTAKKIのソロとぬましょうのパーカッションが際立つところは、さらにフィジカルに訴えかけてくる感じだ。SOTAの高音もスムーズで気持ち良い。

 冒頭のブロックですっかり温まったところで、SOTAが「いやいやいや、皆さまご無沙汰しました。もう久しぶりか初めましてなのか。こういうご時世ですけど、来てくださってありがとうございます」と笑顔なのと対照的に、TAKKIは「昨夜、緊張しすぎて夜中に動悸が止まらなくなって」と、繊細なところを見せる。初期からライブを見ている人は2人のこうしたキャラクターの魅力も含めてファンなのだと思うが、飾らないやりとりを見ていると、奇跡的に出会った2人なのだなと思う。お互いに自分にない部分に魅力や可能性を感じるからこそ、SOMETIME’Sの芯の部分にサポートメンバーも楽しんで乗ってくるんじゃないだろうか。冨田に言われてこの日が「TOBARI」リリース後、初めて観客と生で対面するライブということに気づいたというSOTAのMCも、バンドメンバーの親密さを窺わせた。

 続くブロックは主に歌を聴かせるタイプの楽曲が続いた。まず1月に配信リリースした新曲「HORIZON」。TAKKIがフルアコースティックギターに持ちかえ、柔らかい音色を奏で、そこに清野雄翔(Key)の温かいエレピが重なり歌が映える。音色も歌詞も心を解いていく。しっとりしたムードの中に力強さも感じさせながら、続いたのはファルセットの歌始まりの「I Still」。ごく自然にエモーショナルに歌うSOTAの声質がスモーキーかつウォームなことで、不思議な安堵感を生む。ジェンダーレスなボーカルが多い最近のR&Bやネオソウル界隈の中で、彼の温かみのある声は大きな武器だ。

 一転、雷のSEと閃光のようなライティングから始まった「Raindrop」の演出も情景をスピーディーに転換して起伏に富んだセットリストを支えていた。ストリングスとエレクトロニックなSEをはじめ、モダンなR&Bの潮流を汲んだアレンジのクールな質感が孤独感をより明確に伝える。アウトロに向かって咆哮をあげるギターソロやピアノリフで開放的になっていく演奏もいい。さらにEDMポップス的な「Never let me」も生音で消化するバンドの演奏が楽しく、ミニマムな音像だからこそセンスが問われるTAKKIのオブリも繊細に楽曲を彩っていた。

 あっという間の9曲の後はSOTAがメンバー紹介。冨田を「Omoinotkeから来た人もいるでしょ?」と客席に聞いたり、超多忙なパーカッショニストぬましょうを「文化人枠」と紹介したり、声を出すなと言われても笑ってしまう場面も。正しくは寺谷光( Calmera /Tb)、大泊久栄(Tp)、永田こーせーで、どうやら永田氏はベテランならではのムードメーカーだと踏んだ。

 バンドのいいバイブスを感じさせた後はTAKKIが真面目に重大発表へ。「我々2人で細々とやってきまして、デジタルシングルとEPをリリースしてきましたが、5月に出すアルバムはIRORI Recordsからリリースします」と言うとSOTAがTAKKIの隣に並びに行き、ナイスコンビぶりを発揮していた。さらにTAKKIが、「誰ももう知らないことでしょうけど、最初に『Slow Dance』って曲を作って、それを持ってライブハウスに(出演交渉に)行ってたんです。その曲で“行きましょう”ってことになって、こんなに嬉しいことないです」と、ニューEPへの収録が決まった経緯を話してくれた。さらに5月のEPリリースに伴う東京・大阪でのライブも発表し、この日一番のお祝いムードに場内が満たされた。

 MCに続いてこれからの一歩でもあり、原点でもある「Slow Dance」を披露してくれた彼ら。いわゆるサーフロックやアメリカンロック的な爽快感から、サビで踊れるリズムに変わっていく構成は大きな会場が見えるような普遍的なポップさを備えていた。個人的にとっさに頭に浮かんだのはゴダイゴのロックな部分とEW&Fのポップなファンクネスだったのだが、聴く人の世代によって様々なリンクが起こりそうな楽曲だと思う。

 そしてメンバーのソロ回しも盛り込んだ「Stand by me」でもう一山盛り上げて、「また会える日を願って、最後の曲です」と始まったのは穏やかなムードの「Morning」。目の前が開けていくような明るいホーン・アンサンブル、懐かしいモータウンソウルにも通じるポップで温かいメロディ、足取りも軽くなりそうなビート。暮らしの中に息づき、根を張っていく、そんなグルーヴミュージック。洗練されていつつ、生活から切り離されたオシャレなだけの音楽ではない。多分そういう志向をこの2人だからこそ持てたんじゃないだろうか。そんなことを思いつつ、本編が終了。

 動員に制限があり、しかもホール公演であるにもかかわらず、熱気が充満。アンコールを求める拍手に応えてSOTAとTAKKIが登場。SOTAがメンバーを呼び込み、「メンバーなるべくいっぱいでやっていきたいんで、頑張って行きますよ!」と素直な本音を明るく言って、応援したくなるのもやはり人柄からか。もちろん音楽的に充実したライブを見せたい気持ちからだろうが、パーマネントなバンドに負けず劣らずの息の合ったプレイが楽しくてしょうがないのだろう。楽しくもスリリングな恋の歌である「Honeys」で、金曜日の夜の開放感を彩って、ライブは終了した。

 まだまだライブに気軽に行ける状況への道のりは長いかもしれないが、SOMETIME’Sのライブを体験してみると、海外ドラマなどで同僚が仕事帰りにベニューに繰り出して、明日への活力にしているシーンを思い出したりした。熱狂的なファンだけじゃなく、広くミュージックラバーの日常に流れる音楽。そんな場所と日々を想像している。

【取材・文:石角友香】
【撮影:後藤壮太郎】

リリース情報

HORIZON

HORIZON

2021年02月10日

SOMETIME’S

01.HORIZON

リリース情報

TOBARI

TOBARI

2020年10月21日

SOMETIME’S

01.Get in me
02.Honeys
03.Take a chance on yourself
04.Simple
05.I Still
06.Morning

セットリスト

SOMETIME’S
TOBARI Release Event「TO”N”ARI」
2021.02.26@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

  1. 01. シンデレラストーリー
  2. 02. Get in me
  3. 03. Take a chance on yourself
  4. 04. Simple
  5. 05. HORIZON
  6. 06. I Still
  7. 07. Raindrop
  8. 08. Never let me
  9. 09. Slow Dance
  10. 10. Stand by me
  11. 11. Morning
  12. 【ENCORE】
  13. EN01. Honeys

お知らせ

■ライブ情報

SOMETIME’S New EP Release Tour
2021.06.06(日)東京 ShibuyaWWW
2021.06.11(金)大阪 阿倍野ROCKTOWN

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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