羊文学、「繋がり」を感じられたオンラインライブ
羊文学 | 2021.03.19
3月14日、羊文学がオンラインライブ「Tour 2021“Hidden Place”online live」を開催した。昨年はメジャーデビューアルバム『POWERS』を12月に発表したのみならず、塩塚モエカ(Vo/Gt)がASIAN KUNG-FU GENERATIONや蓮沼執太フィルの楽曲に相次いでゲストボーカルとして参加し、次世代のアイコンとしての存在感を増していたが、その印象を決定付けるような、素晴らしいライブだった。
この日のセットリストは基本『POWERS』の曲順通りで、その間に過去作の楽曲が挟まれるというもの。1曲目の「mother」で早速塩塚がファズの効いた太い音色の単音フレーズを弾き、天から降り注ぐようなライティングを含め、サイケデリックな空間が構築される。その後は「Girls」や「コーリング」といったアッパーな楽曲を続け、JAGUARのざらついた音色と空間系のエフェクトのバランスが心地いい塩塚のギターに対し、河西ゆりか(Ba)はSGベースで淡々とリズムを刻みつつ、ときおりファズギターと呼応して歪んだ音色を鳴らし、フクダヒロア(Dr)が細かなハイハットワークを基調としたドラミングで、バンド全体のグルーヴを生み出していく。あくまで「3人の音」にこだわり、磨き続けてきた過不足のないアンサンブルが非常に魅力的だ。
そのオルタナティブな音楽性は、NOT WONKを筆頭に、KiliKiliVillaが全国に種をまいた新たなパンクシーンとも、GEZANが「全感覚祭」で示した新たなアンダーグラウンドシーンとも共鳴するものだが、その上で羊文学をより特別足らしめているのが、やはり塩塚の存在感だ。その見た目や歌声はクールでアンニュイでありながら、ときおり顔をしかめて歌う様子からは、内側でフツフツと燃えるパッションを感じさせる。河西とフクダのテンションも含め、バンド全体が低体温な雰囲気を纏い、どこか神秘的なのも惹かれるが、MCではあどけない部分も感じられ、その「近さ」もとても重要だと思う。
ライブ中盤で印象的だったのは、7曲目に演奏された「おまじない」。淡々とした曲調からジワジワと高揚していき、ラストで轟音が鳴り響く展開にカタルシスが感じられる。羊文学の楽曲の主人公たちはどの曲でも悩み、葛藤を続けているが、<おまじないちょうだい><わたしを許せるわたしになりたい>と歌うこの曲は、「拠り所のない世界におけるお守りのようなアルバム」という『POWERS』の性格を最も体現した1曲だと言える。そして、この「弱さに寄り添う」という姿勢こそが、羊文学のスペシャルな部分でもある。
ライブ中盤からもう1曲、11曲目に披露された「powers」のことにも触れておきたい。シューゲイザー風の浮遊感のあるコードワークと、プログレッシヴな構成を併せ持ち、後半にはディズニーの『リトル・マーメイド』を意識したという華やかなコーラスが加わって、こちらもかなりの高揚感が生まれている。この曲はもともと香港のデモなどをインスピレーション源に書かれていて、つまりは一人ひとりの力が弱かったとしても、それが集まることでパワーが生まれ、未来を変えていく力になり得ることを示している。「power」ではなく「powers」と複数形になっているのも、おそらくそういう意味だろう。
思えばASIAN KUNG-FU GENERATIONも常に「繋がり」を歌ってきたバンドであり、塩塚が参加した「触れたい 確かめたい」はタイトルからしてその象徴のような1曲であった。また、『POWERS』と同タイミングでリリースされたGotchのソロアルバムのタイトルは『Lives By The Sea』で、「Live」ではなく「Lives」となっていたのも、「powers」と同様に、「一人ひとりの集合体としての社会を描く」という視点があったに違いない。蓮沼執太フィルについても、16人という編成自体が「個」を重視した上で、いかに共生し、アンサンブルを紡ぐかの実践であるかのよう。塩塚が彼らの作品に続けて招かれたのは決して偶然ではなく、新たな繋がり方を考える未来志向で共通していたと言える。
そんな未来志向が別の形で表れていたのが、ライブ後半で披露された「人間だった」。「大切な曲」と話して演奏を始めると、クラウトロック的な反復と、中盤のモノローグでの塩塚の真剣なまなざしに心と体が引き込まれる。個人的には同じ3ピースということもあり、「アナログフィッシュ×People In The Box」なんていう連想もしたのだが、より注目すべきはやはり歌詞の世界観。<もっと便利にもっと自由に なにを得て何を失ってきたのだろう><忘れないで 自然は一瞬で全てをぶち壊すよ>と歌うこの曲は、昨年2月に発表された『ざわめき』の収録曲だが、コロナによってあらゆるものに対する意識の変化を余儀なくされ、行き過ぎた人間中心的価値観に歯止めがかかった2020年を予言していたようであり、まさにドラスティックな変化の予兆を、ざわめきを感じさせる1曲であった。
もちろん、これは予言などではなく、すでに兆候が表れていた現実のほころびに対して目配せをし、言葉にしていたことの表れであって、後藤や蓮沼も、もっと言えば、アナログフィッシュの下岡晃やPeople In The Boxの波多野裕文も、近いタイプの作家と言えるかもしれない。彼/彼女たちは決して大上段から「正解」を掲げるのではなく、現実を見つめ、弱さに寄り添い、その先で希望を見出そうとする。「人間だった」に続く「1999」も、クリスマスをテーマにしつつ、そこには大量生産・大量消費に対する問いかけも含まれているが、それを先日亡くなったフィル・スペクター風のウォールオブサウンドと美しいコーラスワークによって、祈りのようなフィーリングへと昇華させているのが素晴らしい。
不確かでも、目には見えなくても、それを信じる想いを綴ったラストナンバー「ghost」のアウトロで鳴らされるフィードバックノイズの余韻に至るまで、非常にシネマティックで、物語性のあるライブだった。オンラインという性質上、同じ場所を共有する一体感こそ感じられなかったものの、画面上のHidden Placeを介して、一人ひとりが心を通わせ合い、繋がることのできる幸福な時間だったのではないかと思う。音楽的には、3ピースとしてのアンサンブルのさらなる進化に期待すると同時に、塩塚の歌と存在感をもってすれば、よりアヴァンギャルドな方向に振り切っても、バンドの軸が揺らがないであろうことも改めて感じられたので、今後はそういった新たな方向性にも期待したい。
【取材・文:金子厚武】
【撮影:川島悠輝】
リリース情報
POWERS
2020年12月09日
F.C.L.S.
02.Girls
03.変身
04.ハロー、ムーン(album mix)
05.ロックスター
06.おまじない
07.花びら
08.砂漠のきみへ
09.powers
10.1999
11.あいまいでいいよ
12.ghost
<DVD online tour”優しさについて”>
-Day 1- Live at 調布Cross, Date aug 2, 2020
01.雨
02.うねり
03.踊らない
――――――――――
-Day 2- Live at 下北沢LIVE HAUS, Date aug 9, 2020
04.エンディング
05.RED
06.Step
――――――――――
-Day 3- Live at BASEMENTBAR, Date aug 16, 2020
07.ミルク
08.祈り
09.優しさについて
セットリスト
羊文学
Tour 2021 “Hidden Place” online live
2021.03.14
- 01.mother
- 02.Girls
- 03.変身
- 04.コーリング
- 05.ハロー、ムーン
- 06.ロックスター
- 07.おまじない
- 08.花びら
- 09.サイレン
- 10.砂漠のきみへ
- 11.powers
- 12.人間だった
- 13.1999
- 14.あいまいでいいよ
- 15.ghost
お知らせ
羊文学 Tour 2021 “Hidden Place”
09/03(金)大阪 梅田CLUB QUATTRO
09/10(金)愛知 名古屋BOTTOM LINE
09/24(金)東京 USEN STUDIO COAST
TOKIO TOKYO ONE WEEK WONDER
03/21(日)東京 渋谷 TOKIO TOKYO
CRAFTROCK CIRCUIT ’21
04/11(日)東京 吉祥寺CLUB SEATA
“here”
04/16(金)東京 恵比寿 LIQUIDROOM
hoshioto’21
05/29(土)岡山 葡萄浪漫館
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。