『共鳴howRING』のコンセプトを具現化させた「Novel Wonderland tour」、STUDIO COAST公演を観た!
WOMCADOLE | 2021.04.13
2020年はWOMCADOLEにとって環境の変化が多い年だった。コロナ禍という未曽有の事態のなかでの様々な決断はもちろん、2019年11月に2ndフルアルバム『黎明プルメリア』でメジャーデビュー、オリジナルメンバーの脱退と新メンバーの加入、それを経ての楽曲制作など、まさに激動だったのではないかと推測する。
そのなかできっと彼らは振り落とされぬよう、目の前に起こる出来事一つひとつに向き合い、心と頭を振り絞って答えを出してきたのだろう。有観客での東名阪ツアーファイナルには、この1年間とバンドの本質が狼煙のように立ち上っていた。
暗闇のステージを、真っ赤なライトが照らす。最新作『共鳴howRING』のイントロダクション「0」のSEとともに、4人がその場に現れた。音が止まるやいなや安田吉希(Dr/Cho)のドラムカウントが響き、1曲目は「応答セヨ」。そのあとも「綴リ」「YOU KNOW?」「レイテンシー」と2020年以降に発表したロックナンバーを、間髪入れずにスマートにつないでいく。その姿はご自慢の一張羅を身に纏い、誇らしげに闊歩する少年のようだ。現在の自分たちへの大いなる自信を感じさせる。
白線で等間隔に区切られたフロアを一つひとつ歩いたという樋口侑希(Vo/Gt)は、笑顔を浮かべて「今日ここはひとつの船だと思ってます。感情で、心だけで突っ込んできてください」と観客に呼びかける。「Noah’s」の歌唱も、自分の目の前に観客が存在するという状況がうれしくて仕方がないといった様子で、楽器隊3人も、樋口の思想をより鮮やかにするべく音を重ねていく。「再生」の歌詞にある<必ず会える/そう信じて/何度も誓うよ/この胸刻む>という約束を果たせた喜びが、アグレッシブな音像で波しぶきのように煌めいていた。
だが「DANGER」で場の空気は一転。樋口の胸の内にある黒ずんだ血のような感情が表れた音像に、彼の内面が露わになる感覚があった。スロウでヘビーな楽曲は、近年のWOMCADOLEの変化の一片として語られることが多いが、これは恐らく樋口侑希という人間が元来持ち合わせていた要素だ。彼の心の中で表に出られる日を今か今かと待ち構えていて、それを音へと昇華する精度はこの数年で常に上がり続けている。
音と化したその感情は、牙をむき出しにする蛇のように、フロアにいる我々の身体を纏わりついてゆく。その毒牙が喰らいついてきたのがライブの定番曲でもある「人間なんです」。情熱が濃厚でありながらもフレッシュに迸り、それが非常にスリリングで心地いい。目の前にいる人間の深部目がけて突き刺していく。
「ヒカリナキセカイ」では、曲作りをしていた時の心情を思い出すように言葉を噛みしめながら歌う樋口の姿が印象的だった。マツムラユウスケ(Gt/Cho)のギターは激しさの中に透明感を放ち、黒野滉大(Ba)のしなやかな低音はドラマチックに楽曲をドライブする。樋口いわく「ドラゴンボールの元気玉みたい」という、ミラーボールに高速で光を反射させる演出も、楽曲に込められた精神性を明確に表現していた。
去年ツアーを中止したときのことを「去年の春がいちばん寒かった」と思い返す樋口は、会いたいのに会えない歯がゆさや、様々な思いを感じたと語る。「それをポケットにしまっておいて、大事に今日まで持ってきました。俺たちの前にいてくれてありがとう」という言葉のあとに演奏された「kate」は集中力から生まれる緊迫感のあるサウンドスケープで魅せる。そのアウトロのマツムラの幻想的なギターに樋口のバッキングギターが重なり「kamo river」へ。人懐っこい音色のドラムが、夕方6時のやわらかな夜の帳のようだった。
洒落たジャズ風のアレンジが施された「doubt」で、ハンドマイクになった樋口はほろ苦い甘さを孕んだボーカルで聴き手の意識を引き付ける一方、両足を開いて腰を落とし、両手を大きく振ってフロアへクラップを促したり、最終的にはギターを背面弾きするなど、思いのままに振る舞う。取り繕わない素直な彼の人間性がよく表れていて、自然と笑みがこぼれた。
「俺の大事な人は、いつも目の前にいるあなたたちです。会えないところで俺たちのロックを聴いてくれるのもめちゃくちゃうれしいけど、会えていない人にはすぐ会いにいきたい」「規制が多くても、こうして会えていることが素晴らしいと言いたい」「この先もまた、目の前にいてください。目の前で俺たちの音楽を聴いてください。僕はその旅をあなたとしたいです」――樋口のその言葉のあとに演奏された新曲「ペングイン」は、未来という大海に船をゆっくりと漕ぎ出すような雄大な曲だった。あなたと会えることが何よりも大切で、どんなに不安なことがあっても、あなたがいれば、この心があれば大丈夫だと信じている。そんな肩肘張らない逞しさは、優しさに満ちていた。
「軌跡」のあと、静寂の中で樋口がおもむろにギターを爪弾き、「馬鹿なくせして」へ。歌詞の一言一言を、メロディの一つひとつを、感触を確かめながら撫でるように歌っていた樋口は、マツムラのギターソロが入ると、その想いを彼に手渡すかのようにマイクから遠ざかった。この3人と音楽が鳴らせていることをじっくりと噛みしめるように演奏する彼の背中は、バンドの充実を何よりも物語っていたように思う。次曲「アオキハルヘ」とともに、今この瞬間に沸き上がる彼の心情がダイレクトに飛び込んできたセクションだった。
その勢いのまま「唄う」で観客の歓喜の心の声を颯爽と引き出すと、樋口は「みんなとなら大丈夫な気がする。この“気がする”という感覚と目の前のロックを信じて、共に歩いていきましょう」と語り、「またね」で本編を締めくくる。樋口は前々から、大事な人に宛てて「会いたい」という想いを曲にすることが多かった。愛するただひとりの人だったそれが、現在はまだ会えない遠くの誰かにまで広がっている。それは人生の年輪の証だ。また会うために旅に出る――彼らの進む道を示すような、晴れやかで風通しのいいサウンドスケープがSTUDIO COASTを包み込んだ。
アンコールは「ライター」と「ワンダー」。「本当に声出せるようになったらいいね。とりあえず今できる範囲で楽しんで、その時が来たら共に爆発しよう」という言葉どおり、ポジティブなエネルギーで溢れた演奏を届けた。この1年で、WOMCADOLEは多くの新たな気付きを手にしていた。それは彼らが今までどおり、目の前の物事に愚直に、誠実に向き合い続けてきたからこそ得られた変化だ。未来はどうなるかわからないけれど、あなたと交わした約束があるから生きていける。4人の作り出した方舟がどこに進もうと、そこには優しさの火が灯り続けるだろう。
【撮影:ハライタチ】
リリース情報
ノベル・コンセプトアルバム『共鳴howRING』
2021年01月20日
UNIVERSAL MUSIC
02.再生
03.Noah’s
04.DANGER
05.レイテンシー
06.kate
07.綴リ
08.軌跡
09.またね
<初回限定盤DVD収録内容>
「ヒカリナキセカイ」「軌跡」「応答セヨ」Music Video+撮影オフショット映像
セットリスト
Novel Wonderland tour
2021.04.08@USEN STUDIO COAST
- SE.0
- 01.応答セヨ
- 02.綴リ
- 03.YOU KNOW?
- 04.レイテンシー
- 05.Noah’s
- 06.再生
- 07.DANGER
- 08.人間なんです
- 09.ヒカリナキセカイ
- 10.kate
- 11.kamo river
- 12.doubt
- 13.ペングイン(新曲)
- 14.軌跡
- 15.馬鹿なくせして
- 16.アオキハルヘ
- 17.唄う
- 18.またね
- EN1.ライター
- EN2.ワンダー
お知らせ
BIGCAT presents
SPECIAL 2MAN LIVE「crossroad」
04/15(木)大阪 BIGCAT
w/ Halo at 四畳半
B-FLAT pre. 最果てからvol.6
04/25(日)滋賀 B-FLAT
w/ セックスマシーン!!
VIVA LA ROCK 2021
05/01(土)~05/05(水・祝)埼玉 さいたまスーパーアリーナ
※WOMCADOLEは05/02(日)に出演
SHINGO KANEHIRO「はじまりのうたとおしまいのうた」レコ発ツアー
05/04(火・祝)愛知 名古屋ell.SIZE
w/ SHINGO KANEHIRO(グッドモーニングアメリカ/Asuralbert?) / わたなべだいすけ(D.W.ニコルズ)
※樋口弾き語り公演
TWIN PEAKS
05/09(日)京都 ROOTER×2
w/ ISATO&Daiki(LOCAL CONNECT)
※樋口弾き語り公演
FM802 Rockin’Radio! -OSAKA JO YAON-
05/16(日)大阪 大阪城音楽堂
w/ Age Factory / Suspended 4th / ズーカラデル / GLIM SPANKY / Tempalay / ハンブレッダーズ
MC:飯室大吾・土井コマキ(FM802 DJ)
BACK LIFT pre.
少年少女秘密基地FESTIVAL2021
05/23(日)愛知 名古屋DIAMOND HALL / APOLLO BASE
w/ BACK LIFT / Five State Drive / kobore / Maki / Northern19 / Track’s / ヒステリックパニック / 裂固
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。