障害物やアゲインストなどものともせず2011年のthe pillowsは進んで行く

the pillows | 2011.01.26

2010年、山中さわおは、ソロ作品のリリース・THE PREDATORSの活動を行いながらも、ライヴやレコーディングにと、the pillowsの活動を行ってきた。

そんな多忙な中、完成させたthe pillowsのニューアルバム『HORN AGAIN』は、バンドの原初にある、アンプ直結の音を中心に作られた、耳にも優しい、どこか温かい音色性を擁したロックンロールナンバーが立ち並んだ作品。これまでのオルタナ色の強い作風に比べ、勢いと、軽快さ、そしてポップ感を携えた全10曲だ。

さわおの、ソロ活動・THE PREDATORSと、the pillowsの活動の棲み分けについて

EMTG : 2010年を振り返っていかがでした?傍から見るとかなり慌ただしかった1年のような印象があるのですが。
山中さわお : 僕は勝手に色々と忙しくはしていたけど、the pillowsとしては大体毎度同じような活動だったかな。
真鍋吉明 : そうそう。ツアーして、レコーディングして、それを引っ提げてまたツアー行って。毎度のスタンスでしたよ。
山中さわお : ややもすればthe pillowsとしては、今までで最もゆっくりしてたのかも。その隙を縫って、自分のソロを作ったり、THE PREDATORSをやったりしてたぐらいだから。
EMTG : さわおさん的には、かなり精力的でしたよね。the pillows、ソロ作品のリリース、THE PREDATORSの活動と、3種の活動を1年の間にしていたわけで。
山中さわお : とにかくスタジオにずいぶんいたなぁ。今年の夏はかなり暑かったらいしけど、ずっとスタジオにこもってたんで、ほとんど体感してないという(笑)。
EMTG : それぞれタイプも違うのに、よくキチンとチャンネルを使い分けられますね。
山中さわお : みんなが思うほど、実は使い分けの強い意志が、そこにあったわけではないんですよ。THE PREDATORSは、あれはもう、楽しくコピーバンドを演っている感覚なんで、音楽的にthe pillowsに反映することはないし。ソロに関しては、the pillowsとは違うドラムと違うベース、しかも、ギターも自分一人で、あまりにも違った環境でしたからね。そう考えると交じりようがないし。
アンプ直結の歪みで、出来るだけコード感を損なわないように、広いレンジを持って録りたかった

EMTG : 今回のthe pillowsのレコーディングは、ソロ作品制作後から行われたんですか?
山中さわお : 曲作りに関しては、けっこうまちまちだけど、レコーディングに関しては、ソロよりもTHE PREDATORSよりも後でしたね。今回も「EMERALD CITY」や「Lily,, my sun」みたいに、メロディ自体は5~6年前から存在していた曲もあるし。もちろん歌詞は最近書いたものばかりだけど。あと、サウンドに関しては、オーディオ的なマイブームがあって。その辺りは多少影響されたかな。
EMTG : そのマイサウンド・ブームとは?
山中さわお : ギターバンド的なハイファイサウンドとでもいうか。まっ、それもずっと以前から言ってきたことですけど(笑)。それに関して、「今回はこんな道筋を通ってみました」って感じかな。
EMTG : その筋道というのは?
山中さわお : あまり足元のエフェクター類に頼らず、わりとアンプ直結の歪みで、出来るだけコード感を損なわないように、広いレンジを持って録りたいなと。そういったものが似合う曲が揃ってたし。
EMTG : 今回はわりとロックンロールな曲が多いですもんね?
山中さわお : そう。長くやってきたけど、これだけエフェクターを使わなかったレコーディングも記憶にないな(笑)。
真鍋吉明 : 普通のバンドは初期に通る道なんだろうけど(笑)、それらをここにきて改めてやってというか。遠回りしてようやくたどり着いたというか。今回、レコーディング前に、山中から「THE PREDATORSやソロではアンプ直で録った」って聞いてたんで。面白そうなので私も今回、それにトライしてみたと。面白いチャレンジを見つけ、それ乗ったって感じかな(笑)。ここまで何十枚もアルバムを作ってくると、少しは新しいテーマやチャレンジがないと面白味もないですからね(笑)。
EMTG : 今作ってヘッドフォンで聴いていて、ふくよかな厚みや温かさがあって全然耳に痛くない印象を受けたんですが、それが理由の一つだったんですね。全体的にドライヴ感がありつつ、心地良いんですよ、今作って。
真鍋吉明 : 特にこだわったわけじゃないけど、全体的に自分でも真空管のアンプのような音質の作品が出来た気はしますね。
EMTG : それらを基に3人でディスカッションを?
佐藤シンイチロウ : いや、都度現場判断で。「この曲はこういった感じにしたい」とか、「こういった手触りにしたい」等、今回はスタジオに入って演ってみて、「これが好き」「これが嫌い」「だったらここをこう変えて演ってみますか?」と。とは言え、ドラムに関しては、それもなかったかな(笑)。細かい部分よりは、<地味じゃなきゃいい>ぐらいで(笑)。

一番最初に「Movement」が出来たことで創作モードに再びスイッチが入った

EMTG : 前作は15年ぶりのセルフ・プロデュース作品で、今回もセルフ・プロデュースのようですが、実際のレコーディングはいかがでした?
真鍋吉明 : 苦戦したのは「Movement」ぐらいで、あとは特になかったかな。この曲は、着地点をどこに置くかを色々と考えながら作ったし。あとは、1曲目の「Limp tomorrow」が上手く録り上がった時点で、今回のアルバムは比較的上手くいく確信が持てましたから。
佐藤シンイチロウ : 特別なことは何もしてないですよ。元来バンドなんで、普通に演ればバンドサウンドになるんで、それに基づいて叩いただけ。だけど、ノリ一発で録った曲はないかな。わりと緻密で、ちょっとしたことを何度も何度も試行錯誤したし。それこそ「Limp tomorrow」なんて1ヵ月ぐらい録ってた。
EMTG : 理想と着地に関してはいかがでした?
山中さわお : 今までよりは一番しっくりきたかな。ソロの「Deep Story」って曲の最後が奇跡的に気に入った音になって。それをthe pillowsにも組み込みたいっていうのはあったかな。
EMTG : で、それを上手く取り込めたと。
山中さわお : というよりは、逆に今回はその音のこだわりよりは、作品の全体感や聴き終えた後の印象や、楽曲のフレーズの方を重点を置いたかな。もちろん音作りにはかなりこだわったけど、"そこを聴いてくれ!!"というよりは、逆に作品全体や楽曲全体を聴いて、その中から印象的なところを拾って欲しいって感じ。昔の音の1フレーズ1フレーズにこだわっていた頃とは逆なんだけど(笑)。
EMTG : このアルバムでのキモとなるのはやはり「Movement」ですか?
山中さわお : それはあるかな。前作がthe pillowsの中でも比較的オルタナだったことと、ソロが細かいデリケートなアプローチのギタースタイルで納得出来るものが出来たんで、もう少しバンドっぽいものになったら良いなと僕は思っていて。実は前作アルバム『OOPARTS』が自分では素晴らしいアルバムだと自負してて。"あれ以上のものは出来ないんじゃないか?"と思っていた矢先。そのツアーでのホテルで曲を書いていた時に、この曲が生まれたんです。歌詞も曲も一晩でほとんど出来て。それがとても良い予感がして。あと、歌詞内容もその気にさせる内容だったし。それが出来て凄くホッとして。あとはもう名曲が書けなくても、60点ぐらいの曲を書いて、バンドで100点にすれば良いとさえ思いましたから(笑)。やっぱりアルバム中1曲は、名曲と思える楽曲がなくちゃダメですからね。そこからはかなり気が楽になって。創作意欲に改めてスイッチが入ったんです。

2011年のthe pillowsは障害物などものともせず力強く真っ直ぐ進んで行く

EMTG : 歌詞に関しては、わりと内省的な楽曲が並んだ印象を受けましたが、さわおさん自身的にはいかがですか?
山中さわお : 正直、自己分析してないし、出来ないんで、それには何とも言えないけど、何か一つのまとまった方向やコンセプトは一切ないですね。2ヵ月で集中して歌詞をガ―ッと書けば、その都度のモードが歌詞にも表れるんだろうけど、僕の場合は、わりと普段から書きためているものを当てはめていることが多いんで。
EMTG : ちなみに今回のアルバムタイトルの『HORN AGAIN』とは?
山中さわお : そのまんまですよ。いわゆる『ツノよ再び』みたいな。僕らの場合、アルバムのタイトルは、その時期のキャッチコピーみたいなもので。なので、2011年のthe pillowsは『HORN AGAIN』って感じで。とにかく僕は戦闘的で(笑)。まっ、行きたいところに向かうまでに障害物やアゲインストなものがあっとても、ケガなどものともせず、自分の目標に向けて突き進む。その為にはツノは必要だろうと。ようするに<2011年のthe pillowsは力強く真っ直ぐ進んで行くよ!!>って意志表明なんです。
EMTG : 2月からは今作と共に過去最大規模の全国ツアー『HORN AGAIN TOUR』が行われますが、その意気込みを。
山中さわお : まだ全くこのアルバムからの曲をライヴでプレイしていないんで、演れるのが非常に楽しみです。
真鍋吉明 : ライヴ映えする楽曲が多いからね、今回は。ライヴでそれを体感し、喜んでもらえるんじゃないかなと。自分たちでもワクワクしています。
佐藤シンイチロウ : お客さんも自分も楽しければいいなと。
山中さわお : (シンイチロウに向け)ツアー中、死なないで下さいよ(笑)。毎晩寝るのが恐怖ですよ。このまま、この人、起きないんじゃないかって(笑)。

【 取材・文:池田スカオ和宏 】

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リリース情報

HORN AGAIN

HORN AGAIN

2011年01月26日

avex trax

1. Limp tomorrow
2. Give me up!
3. Movement
4. Lily, my sun
5. Biography
6. Sad Fad Love
7. Nobody Knows What Blooms
8. EMERALD CITY
9. Brilliant Crown
10. Doggie Howl

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