関西発の「物語音楽」バンド・シナリオアート、夜明けのアルバムでデビュー!
シナリオアート | 2014.01.17
- EMTG:まず、改めてシナリオアートがどう始まって、どう今に至ったのかということを教えてもらえればと思うんですけれども。今の編成になったのはいつごろ?
- ハヤシコウスケ(G・Vo):2011年くらいです。
- ハットリクミコ(Dr・Vo):ほぼ3年くらい前ですね。もともとあった前身バンドが3人になって始まったバンドなんです。だから出来ることが限られていて。もともといたリードギターの分を穴埋めしようと思って3人で頑張って。歌も歌うし、同期とかも足して、そこで団結力みたいなものがすごく強くなったんですよね。3人でもやっていける感じになった。それまでは絶望的でしたけど(笑)。
- EMTG:シナリオアートというバンド名はいつ頃から?
- ハットリ:それは最初からずっと変わらないです。
- EMTG:こういう風に名乗ったってことは、物語的な音楽をやろうというイメージが最初からあった?
- ハヤシ:いや、全くなかったですね。
- EMTG:バンド名が先だったんだ。
- ハットリ:うん。まさに。その言葉に引っ張られて音楽や歌詞が変わってきたという感じです。
- EMTG:シナリオアートの音楽って、それぞれの曲が物語として作られているわけですよね。そういう感覚ってどんな感じで育っていったんでしょうか。
- ヤマシタタカヒサ(B):単純に伝わりやすいというか、入り込みやすいのが物語だったという感じですね。
- EMTG:たとえば歌ったり演奏しているときに、曲の持つ物語の登場人物を演じてるような感覚になったりします?
- ハットリ:はい。します。最初は歌詞の意味を知らずに歌っていたりしていたんですけど、やっていくうちにお客さんに伝えるのは自分がちゃんと意味を知って伝えなきゃあかんなと思って。それ以来、ライブ中もその人物を演じているような気持ちでやるようになりました。
- ヤマシタ:「ハジメマシテ」っていう曲を大体最後の方に演奏してるんですけど、中盤とか(気持ちが)高ぶってくると泣きそうになる瞬間もあります。
- ハヤシ:その「ハジメマシテ」は男性からの視点と女性からの視点が分かれていて。ドラムのクミコちゃんと分けて歌う時に作りながら「あぁこれいいな」と思いました。
- ハットリ:この曲は3人になって初めて書いた曲で、初めてそうやって振り分けして歌った歌やったと思います。
- ハヤシ:記憶とか気持ちとかがあやふやなこと、だんだん変わっていくみたいなことを言っていて、その儚さみたいなものを表現したかったんですね。
- EMTG:今に至るまでの2、3年間で、手応えを掴んできた機会はありました?
- ハットリ:わたしの印象としては「世界観がすごい」っていろんな人に言われるようになって。自分たちの中ではあまり意識はなかったんですけど、その「世界観」というものを意識してやるようになってきた。たぶんそこが一番強いところなのかなっていうのは思っていて。
- EMTG:観客に教えられたみたいな感じだ。
- ハットリ:そうです。お客さんの反応を見て自分らも変わっていったところがありますね。「世界観」というか、3人が作る雰囲気、空気感とか、情景、音世界みたいな景色を見せられるのはいいところだと思いますね。そういうところを伸ばしていきたいなぁと思いつつやってきましたね。
- ヤマシタ:あとは、ライブのスタイルもいろいろ変えてきたんです。歌と言葉がまず届かないとと思って、上手にドラム、下手にギターボーカルにして、歌がちゃんと伝わるような立ち位置にした。それは今年からなんですけど、そこからライブの手応えや感触がよくなっていった感じがあります。
- EMTG:アルバムは今言ってくれたようなシナリオアートのバンドの強さ、コンセプトが、バッチリまとまっている一枚だと思っていて。
- 全員:ありがとうございます。
- EMTG:まず、タイトルの『night walking』は、どういうところから生まれた言葉なんでしょうか?
- ハヤシ:どういうタイトルにするかを3人で意見を出しあっていて、シナリオアートの曲に合う情景は夜だなっていうのは、共通の意見としてあったので。そこから出てきた言葉の中で『night walking』が一番いいなって思って。言葉の響きも、夜を歩くっていうスピード感もすごくよくて。最後「アサノシズク」って曲になるんですけど、夜を歩いて朝に向かうっていう、ゆっくり時間が過ぎていく感覚とか、そういうのを全て含めて『night walking』がいいなって思いました。
- EMTG:アルバムは時計の針の音からイントロが始まって、最後の曲も同じ時計の針の音で終わっていますよね。ということは、夜が始まって終わるまでのアルバムになっている。そういう「夜」が似合う感覚はどういうところなんでしょう。
- ハヤシ:歌詞とか曲を書く時って、夜なんですよね。夜は自分と向き合う時間で。3人ともそうなんですよ。
- EMTG:曲とか歌詞とかが生まれるのも夜のことが多い?
- ハヤシ:そうですね。孤独と対峙したときに一番言葉が出てきたり、旋律が出てきたりすることが多いので。
- EMTG:1曲目の「ブレーメンドリームオーケストラ」は自己紹介のような曲になっていますけど、これはアルバムのオープニングを意識して作っていったもの?
- ハヤシ:そうですね。このアルバムのために作った、入り口になるための曲ですね。『night walking』が夜の寝たあとの夢の中の話だとしたら、アルバムは眠りの深さ、ファンタジーの深さみたいなものを時系列で書いていて。「ブレーメン?」から「ホワイトレインコートマン」までのところに深い空想の世界があって、そこからだんだん浅くなっていって、現実になっていって、「アサノシズク」で朝に戻るというそういう流れがあって。
- EMTG:「ブレーメンの音楽隊」の童話のイメージを借りたのは?
- ハヤシ:自分らは不器用で弱いし、あの童話とすごくマッチするなって自分では思っていて。虐げられた動物というか。そこで「ダメダメだけど3人で力を合わせたら何かを成し遂げられる」みたいな無敵感があって。ブレーメンの音楽隊は4匹だけど、聴いてくれる人と一緒に行こうという意味合いがありますね。
- EMTG:「ホワイトレインコートマン」はどういうきっかけで出来た曲なんでしょうか。
- ハヤシ:震災があったときくらいに歌詞が出来たんですけど、その時の日本の雰囲気みたいなものがすごく歪だと思って、その瞬間のことを忘れんように歌い続けたいなという。いいことばかりじゃないというか、ダメなところもちゃんと気づいて、忘れんようにしようみたいなイメージがあります。
- EMTG:カタフトロスのような破滅的なイメージっていうのはこの曲だけではなく、いろんなタイミングで思い浮かんだりします?
- ハヤシ:そうですね。最悪のこと、底辺から上を見たりするのはあります。
- EMTG:そういう空想をすることで、最終的に音楽が救いになるようなところはあります?
- ハヤシ:そうですね。あります。他の曲でも、悲しい、嘆いている主人公ばかりで。不幸というか、ダメなところを見せることで聴く人が安心してほしいというか。最弱のヒーローみたいな、そういう意識ではありますね。そういう意味で、寄り添う感じの音楽ではあると思うんですけどね。
- ハットリ:自分自身、聴いてくれている人たちとかけ離れた存在とかではなくて、ほんまに近い存在だと思うし。私たちは近くにいるし、こんなに弱い人たちもいるんだよって歌いながら伝えている感覚です。
- EMTG:「ポートレイトボヤケル」とか「ハジメマシテ」のように、何かが失われてしまうということについて歌った曲も多い。こういうイメージはどこから生まれるんでしょう?
- ハヤシ:たとえば恋愛のことだとしたら、昨日の夜まですごく愛しているって言っていたのに、朝になったら全然その感情がなくなったりすることもあるし。人間の細胞が毎日毎日に入れ替わって昨日の自分じゃない自分がそこにいるみたいなことも考えるし、そういうことってすごく儚いなという意識はあって。「死んでしまうから命が大切」とか、「終わるからその瞬間が大切」とか、終わりとかなくなってしまうことを意識するのはすごく大切なことだと思うんですよね。
- EMTG:そして最後の「アサノシズク」という曲ですが、これは先程言っていただいたようにこの8曲の最後に置く曲ですよね。朝に向かうっていうこの終わり方にしたのはなぜなのでしょうか。
- ハヤシ:夜が暗い感じの気分やったら、朝になったら明るいという単純なところから来ているんですけど。いろんな人がいて、朝が来るのが嫌な人もいるし、夜に始まって苦悩をしていくけど、最終的には朝でちゃんと生きていかないといかんなってことを言いたくて。自分も音楽に救われたみたいなところがあって、そういう気持ちを渡していきたい、繋げていきたいというか。そういう思いはありますね。
- ヤマシタ:アルバムとしては終わりの曲なんですけど始まりの曲でもあって。『night walking』で一緒に夢を歩いて、朝が始まったり現実が始まったということなんですよね。「アサノシズク」で出口があるんですけど、その出口の先にはちゃんと道がないと出ていけないと思うので。
- EMTG:わかりました。では最後に、シナリオアートっていうバンドがこの先どういうことをやってみたいか、成し遂げてみたいかとか、そういう話を改めて聞きたいんですけども。自分たちの音楽をどういう風に膨らませていきたいと思っていますか?
- ヤマシタ:僕らにしかできないこと、より自分たちらしさが確立していくためにはどうしたらいいか、まだまだこれから考えていきたいと思ってますね。
- ハットリ:なくてはならない存在になりたくて。夜に不安になる人とか、ちょっとマイナスな気持ちになる人って絶対いると思っていて、どんな元気な人でもそういう瞬間みたいなものがある。そういうところに入り込む、誰のところにでも入り込める。そこに音楽、シナリオアートという音楽が入らせてもらえるところがあると思っていて、誰にとっても必要な音楽になればいいなと思います。
- ハヤシ:ゆくゆくは世界を変えられるくらいの音楽を作っていけたらいいなと思っていて、音楽の可能性みたいなものを知りたいですね、シナリオアートで。
アルバム『night walking』でメジャーデビューを果たす関西発の「物語音楽」バンド、シナリオアート。ファンタジーやお伽話のような世界をドラマティックに描く3人組だ。男女ツインボーカルによる透明感あるメロディ、ストリングスやシンセを多用したドリーミィな楽曲で「ここではない、どこか」の情景を歌う彼ら。アルバムのストーリーは「夜」が一つのキーワードになっている。その理由、そして空想の力で現実を塗り替えようとするバンドの意志を語ってもらった。
【取材・文:柴那典】
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