初の全国流通盤となるセカンドアルバム『WHO』を完成させた電波少女を直撃

電波少女 | 2015.06.29

 ネットラップ界から現れた金髪色白な侵略者。2013年に自主制作したファーストアルバム『BIOS』が早耳のラップファンに高評価された電波少女(でんぱがーる)が、初の全国流通盤となるセカンドアルバム『WHO』を完成させた。メンバー脱退を乗り越えて作られた本作は、全曲にネットラップ発のゲストをフィーチャー。NIHA-CやJinmenusagiといったフィジカル作でも注目を浴びるアーティストから、現在もネットを主戦場にしているラッパーまでが集結、新奇な才能の見本市ともいえる意欲作になっている。EMTG初登場となる今回は彼らのプロフィールからおさらい。アルバム制作の苦労話やネットラップ云々と言われることへの思いまで、たっぷり語ってもらった。

EMTG:まずネットラップを始めたキッカケから教えてください。
ハシシ:2008年頃ですね。ラップは高校生の頃から始めてたんですけど、現場特有の縦社会とかしがらみがしんどくなって辞めてたんです。そんなときにネットラップを見て、自由そうだなと思ったのと、雰囲気がオタク文化とヒップホップのハイブリッドだなって勘違いしちゃって(笑)。それで投稿するようになりました。
EMTG:投稿は地元の宮崎にいるときに始めたんですか?
ハシシ:そうです。(現場のしがらみは)地方のほうが、むしろある気がしますね。当時はナメられたくなくて、ゴリゴリっぽい感じでやってたんですけど、そういうのに疲れちゃって。言ったら、悪いことをさせられたりとかもあるから。二十歳超えてそんなのもういいなと思って。
EMTG:それで上京したと。
ハシシ:投稿し始めて1年くらいして、東京の方が楽しそうだなと思って。そのシーンのライブをやってるのは東京だけだったんで、上京しようと。
EMTG:ナイス(nicecream)くんは高校の同級生だそうですが、一緒のタイミングで上京したんですか?
nicecream:僕は先に東京に出てきてました。僕も似てるんですけど、宮崎でダンスをやってる先輩を見ていて何か違うなと思って、東京に出ようって。
EMTG:2011年にナイスくんを迎えた理由は?
ハシシ:このシーン特有というか、現場で結構あることなんですけど、ライブ当日、共演者に「適当にボタン押してDJやってくんない?」みたいに毎回お願いするのがしんどくて。自分たちのタイミングもあるし、ライブを作り込んでいきたいなと思っていて。で、コイツ(nicecream)は地元が一緒だったし、一応機材も触れて、ダンスもできるっていうので入れたんですけど……全然クオリティは上がってないです(笑)。もうね、全然良いタイミングでボタンを押してくんないっす。
nicecream:自分では良いタイミングだと思ってるんですけどね(笑)。
EMTG:2人はもともとどんなアーティストをよく聞いてたんですか?
ハシシ:中学の頃とかギター少年で、その頃はフォークデュオとか好きでした。19とかゆずとか。
nicecream:僕も中学生の頃はギターをやってて、パンクですね。ブルーハーツとか当時流行ってたモンパチ(MONGOL 800)とか。
ハシシ:中3の終わりくらいからヒップホップを聴くヤツが周りに出てきて、最初は洋楽を聴いてたんですけど、すぐ日本語ラップのほうが好きになって。ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンドにどハマリして、そこから「さんピン」世代のほうに遡っていったんです。
EMTG:いちばんガツンと来た人は?
ハシシ:TWIGYがいちばん好きでした。学生時代は声が高いラッパーが好きで、ヒップホップってわからずに音楽を聴いてた頃はリップスライムのPESが好きだったんです。日本語ラップにハマってからはTWIGYとか、餓鬼レンジャーのポチョムキンとかSUIKENとかMACKA-CHINとか、あの辺が好きでした。
EMTG:今回は2年ぶりのアルバムになりますが、どんなものを作ろうと考えていたんですか?
ハシシ:今回はメンバー脱退が重なってイチから考え直したんです。それでアルバムをどういうふうに完成まで持っていくかっていうところで結構苦戦して。前回は9割がサンプリングトラックだったんですけど、今回は全部打ち込みにしようと思って。でも、自分の周りに打ち込みができる人がほぼいなくて、好みのカッコイイ打ち込みができる人を探すのに苦戦したんですよ。結果、偶然に近い出会いが多くて、最終的には楽しかったんですけど。
EMTG:全曲コラボにした理由は?
ハシシ:元メンバーと作ってた曲が何曲かあって、やり直すのがしんどいなって(笑)。あと作って行く途中でサードアルバムまでを視野に入れて、ファーストからサードまででひとまとめになるようにしたいなと思ったんです。元メンバーと作ったファースト、メンバーが脱退してフィーチャリングだらけのセカンド。で、完全にMCが俺だけの3枚目っていう流れが作れたらなと。
EMTG:作って行く上で大変だったことは?
ハシシ:打ち込みへの移行と、新しいこと……それは時代的に新しいことじゃなくて、自分の中で新しいことをやるっていう部分ですね。あと、ゲストがたくさんいるんで人付き合いが大変っていう(笑)。
EMTG:自分的にもっとも新境地を開拓できたと思う曲は?
ハシシ:最初に作った「INVADER feat. RAq」です。こういうブリブリの音に乗ることはなかったんで。そういうのもできるよっていうところを見せつつ、今までのスタイルも崩しすぎずっていうところのバランスが難しかったですね。今まで聴いてくれてたお客さんを手放さずに新しいところを開拓したいなっていうところがあったんで。
EMTG:「INVADER」はどんな思いを書いた曲なんですか?
ハシシ:ネット上でコピペされている「コミュニティの一生」っていう有名な文章をテーマに作りたくて。自分たちはコミュニティに途中から入ってきた人たちだけど、途中からでも面白いことができるヤツはいるとか価値観を変えたいとか、そういう思いで書きました。
EMTG:歌詞に出てくる「村社会」というのはネットラップ界を指しているの?
ハシシ:自分はネットラップとか日本語ラップを思い描いて書きましたけど、もっと大きく言えば音楽シーン全体だったりもするし、聴く人に合わせて自由に捉えて欲しいなと思ってます。自分が住んでるところだったり、会社だったり、学校だったり。こういうふうに感じてる人はいるだろうと思うので。
EMTG:もうひとつのリード曲「MO feat. NIHA-C」は、未練タラタラなラブソングですね。
ハシシ:別れた彼女に対して、すごい自己中なことを言ってる曲ですね。きれいごとを言わずに、ワガママで性格悪い感じのことを言おうと思って。
EMTG:ヒップホップには男らしさやタフネスが美学のひとつにあるけど、この主人公はそうじゃない。そこは敢えて、ですか?
ハシシ:そうです。女々しい感じ。普通、男だったら言わずに胸にしまっておくようなことを言いたいなって。なんか普通のラブソングを書いても気持ち悪いな、だったらもっと気持ち悪くしてやろうと思って(笑)。あとラブソングっていうカテゴリーがもうキツくないですか、ヒップホップは。
EMTG:キツいというのは?
ハシシ:否定的な意見が多いと感じるんです。ヒップホップのラブソングのクラシックはいっぱいありますけど、ラブソングばっかり歌ってるラッパーはバカにされがちっていうか。で、今まではリード曲にラブソングを持ってくることは絶対なかったんです。見た目はこんなんだし、それで軟弱なテーマを歌ってたら、メロディックなフロウも相俟って、チャラいとか見られるのは嫌だったんですよね。けど、全部“敢えて”でやりたかったんですよ。敢えてラブソングで、敢えてリード曲で、敢えてもっと気持ち悪くみたいな。
EMTG:唯一、女性が参加している「idler stella feat. near_K, ぼくのりりっくのぼうよみ, 野崎りこん」は、主宰するidler recordsの面々が参加したナンバーですね。
ハシシ:これは自分たちを星に見立てたセルフボースト曲ですね。一等星じゃないかもしれないけど、他の星よりは輝こうみたいな。時間が経てばもっと輝くだろうとか、今でも輝いてるぜ、みたいな部分もあります。
EMTG:和風でスペイシーな曲調も本作で異彩を放っているなと思いました。
ハシシ:作った中村リュウノスケは、5曲目の「This world is クソゲー」に参加してるSHAKABOOZのことなんです。彼のトラックメイカー名義。普段もアブストラクトっぽい音を作ったりしてるヤツで。
EMTG:これまでハシシくんばかりと話しているので、ナイスくんにも質問を(笑)。
nicecream:ありがとうございます(笑)。
EMTG:ナイスくんが本作で個人的に好きな曲は?
nicecream:「Earphone feat. Jinmenusagi」と「FRI-END」ですね。どちらも、高校のときに聴いてたヒップホップを感じるというか。僕が好きだった70年代、80年代のヒップホップのノリを直感的に感じるんです。
EMTG:今作が初めての全国流通盤になりますが、今後はどのような活動、どんなグループになっていきたいと考えているんですか?
ハシシ:ヒップホップをベースに、ジャンルに囚われない、いろんなことができるアーティスト……ずるいアーティストになりたいなと思ってます。言ったら、めちゃくちゃ売れたいです。
EMTG:自分たちのことを「ネットラップうんぬん」と言われることについてはどう思っていますか?
ハシシ:一時期すごい嫌で、言わないで欲しかった時期もあるんです。別にネットに限定して活動してるわけでもないし、今は現場の人もネット使いまくりだし。でも、今は逆に、だったらネットラップの中でカッコイイ存在を極めればいいじゃんって思うようになりましたね。
EMTG:7月20日に行うアルバムのリリースパーティではどんなライブを見せたいと思っていますか?
ハシシ:ネットラップって言われてる界隈のヤツらで、ワンマンをやるのは俺らが初めてだと思うので、すごいなって思わせたいですね。今回は小箱ですけど、もっと上をめざしてやっていきたいし、シーンに風穴を開けていきたいです。
EMTG:ナイスくんもリリパへの意気込みをお願いします。
nicecream:より良いタイミングでボタン押します!(笑)
EMTG:そうだ、最後に『WHO』というアルバムタイトルの意味を教えてください。
ハシシ:メンバー脱退で人がいなくなったりとか、全曲フィーチャリングとか、いろんな意味で「誰?」っていう。誰が入ってるの?とか、誰が抜けたの?とか、そういう意味で『WHO』と付けたんです。
EMTG:電波少女って一体何者?みたいな。侵略者にあるミステリアス感とか正体不明感も打ち出したかったのかなと想像したんですが。
ハシシ:それもありますね。あと、全曲できたあとにタイトルを考えたんですけど、アルバム一枚作って疲れたんで「ふぅ・・・」っていう。賢者タイムですね(笑)。

【取材・文:猪又 孝(DO THE MONKEY)】

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ビデオコメント

リリース情報

WHO

WHO

2015年07月08日

redrec / sputniklab inc.

1:OUTRO
2:MO feat.NIHA-C
3:HIPHOPLIFE3 feat.抹 a.k.a ナンブヒトシ,NOBY
4:LIAR GAME Remix feat.TWOFACE
5:This world is クソゲー feat.SHAKABOOZ
6:SKIT
7:FRI_END feat.PA220 a.k.a mcgundam
8:Earphone feat.Jinmenusagi
9:NAVY BLUE feat.コカツ・テスタロッサ
10:idler stella feat.nera_K,ぼくのりりっくのぼうよみ,野崎りこん
11:オルタネートエラー feat.トップハムハット狂
12:INTRO
13:INVADER feat.RAq

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お知らせ

■ライブ情報

電波少女presents “THAT GIRL”~2nd Album“WHO” Release Party featuring Oneman LIVE~
2015/07/20(祝・月)Shibuya Milkyway
出演:電波少女(feat. コカツ・テスタロッサ, Jinmenusagi, トップハムハット狂, NIHA-C, NOBY, 抹 a.k.a ナンブヒトシ, RAq and more...)

電波少女『WHO』発売記念ミニライブ&特典引換会
2015/07/10(金)タワーレコード渋谷店 4Fイベントスペース(インストアLIVE)

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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