Dragon Ashであえて“やらないこと”に挑戦した降谷建志1stアルバム完成。

降谷建志 | 2015.06.16

 配信音源「Swallow Dive」でソロ活動をスタートした降谷建志は、先行シングル「Stairway」で加速。ついにファースト・ソロアルバム『Everything Becomes The Music』をリリースする。このアルバムには降谷の聴いてきた音楽や日常感が強く反映されていて、繊細なサウンドや優しい言葉を聴くことができる。
 僕はこのアルバムの1曲目に置かれている、アルバム・タイトルを冠したインスト曲「Everything Becomes The Music」を聴いて、その美しさに圧倒された。“すべては音楽になる”という意味のこの曲は、磨き抜かれた音色の楽器のアンサンブルで構成されている。それらの楽器は全部、降谷が演奏している。他の曲もすべて彼一人で作り上げたものだ。
 Dragon Ashとは異なるアプローチで自らの音楽を描き始めた降谷に、アルバム制作の詳細を聞いた。初のソロ・インタビューは、超ロングインタビューになった。

EMTG:どうしてこの時期にソロをスタートさせようと思ったんですか?
降谷:1番の理由は、去年(2014年)のツアーが終わったら最低限、制作に時間を確保できるということがあった。2番目は、ツアーをやってる最中に感じてる自信とか、ある種の達成感みたいなのが後押しになったっていうのがありますね。
EMTG:ずっと前から溜めてた曲を仕上げたっていうんじゃないんだね。
降谷:ストックも2曲ぐらいあるけど、基本的にはその制作期間でほぼ作ったかな。俺は毎日スタジオに行って、何のためとか関係なくひたすら曲を作ってるんで、何かオファーをもらった時、対応できるものだったら出すし、Dragon Ashでやれる曲だったらそっちで出すしっていう。だけど人に求められなくても、自分の中から出て来る感性みたいなものがあるじゃないですか。和食屋の人がまかないで和食とか全然作んないのと一緒です。彼らはまかないでは和食を作らないで、フランス料理みたいなの作って食うでしょ(笑)。
EMTG:ソロの制作を始めてみたら、いろんなタイプの曲が湧いてきたっていうこと?
降谷:始めてみたらっていうか、(このタイミングでは)ソロを始めようと思ってやってるから。アルバムに入っている倍ぐらいは曲を作りましたよ。曲作りは、ツアー中からやってた。ツアーを周りながら作ったり、レコーディングしたり、ちょこちょこやってて。何曲かアルバムの軸になるような曲ができた時点で、「アルバム出せる!これはやれるな」と思ってギュッと集中しだした。
EMTG:軸になる曲っていうのは、やっぱり先行シングルの「Stairway」?
降谷:いや、「Stairway」は11曲目に作った。俺、基本的に最新の曲をリードにすることを常に推してるので。「Stairway」は11曲目にできて、12曲目にアルバムの最後に入ってる「For a Little While」を作った。アルバムの最後の曲は、理想として、いちばん最後に作りたいんですよ。
EMTG:自分自身がアルバムを俯瞰できるようになって、最後に何を入れたいかっていう。
降谷:そうそうそう。曲作りでも、歌詞を書くときは必ずAメロの1行目から書いて、最後まで順番に書く。だからサビだけ先に作って入稿とかは、絶対しない。1行目から書いて、2行目書いて、3行目書いて。聴いてる人と同じ時系列になるようにやってるんで。
EMTG:それは全曲?
降谷:全曲っていうか、自分が作ったものは全部そうです。聴いてる人も俺も、同じ順番で聴く。だからアルバム作りでも、最後に「For a Little While」っていう曲のピースがポコンってハマって完成した。その方が体にあってる。俺がそうってことは、人もそうなのかなって。
EMTG:Dragon Ashのときも降谷くん一人でデモテープを作ってるでしょ。だとすると、その作業と今回のソロは、どう違ったんだろうっていうのがいちばん知りたくて。
降谷:そのデモを今回、リリースしてるようなもんですね。ただ楽器を猛練習して、もちろん精度を上げてやってる。Dragon Ashはやっぱバンド自体20年近くやってるし、Dragon Ashでできないことなんてないですよね。できないことなんてないし、それこそみんな演奏もうまいし。強いて言えば、Dragon Ash には“やらないこと”があるっていうことなの。ある程度指針があってさ。そこから大幅に外れるようなことはしたくない。メンバーみんなの共通意識として、Dragon Ashはこうあるべきだって思ってて。でもそれは、やりたいことを我慢するっていう自己犠牲じゃないよ。ロックバンドを長くやってる人って、きっと“男の子論”でやってる部分が強いからさ。
EMTG:それぞれがぶつかり合う“男の子の論理”だね。
降谷:そう。でも、ソロは予定調和。全部自分でやるわけだから、設計図通りのものは作れるし、より自分らしいものが作れる。自分との対話という点に関しては、音楽人生でいちばん、こんなに自分と対話したことはないぐらい対話した。例えばいろんなアーティストとやることによって生じるズレがうねりになる、うねりがグルーヴになるっていうものが、ソロではまったく存在しない。音楽と音楽が、音と音がぶつかりあって化学反応を起こすみたいな、魔法みたいなものも起こらないです。その代わり、何をやってもすげえすっきりしてる。確かにDragon Ashより音数は少ないけど、いい悪いじゃなくて、作り手としての手応えがあるんだよ。
EMTG:そのために楽器の猛特訓をしたんだね。
降谷:もともと俺、ベースで誘われてバンド始めてるから、人一倍練習もするほうだし。でもやっぱり、挫折の連続っていうかさ。どんだけ練習してもフリーみたに弾けないし、KenKenみたいにも弾けない。ギターをどんだけ練習しても、スラッシュみたいに弾けないし。そうやって悔しがりながらどんどんやってるうちに、気がつけばほぼ必要な楽器が全部できるようになってた。プロデュースもするからさ、鍵盤にも触るじゃん。ドラムは前から触ってるし。「あれ? これって自分一人でできるな」って。納得いくようことはできなかったけど、なんとなく全部触れるようになってた。ひとりで全部演奏してアルバム録るのって、いちばん大変なことじゃん。結果的に、それが自分のオリジナリティにつながったなっていうのはめちゃめちゃ嬉しいことですね。
EMTG:楽器を始めてというか、音楽を好きになってからの30年ぐらいのキャリアの上で、このアルバムは成り立ってるわけだね。
降谷:ホントにそうだと思う。練習すれば、誰でもできると思う、このアルバムは。
EMTG:(笑)いや、そうでもないと思うけど。
降谷:いや、できる、できる。
EMTG:曲を書くっていうのは別だからさ。
降谷:まあね、作曲は別かもしれないけど、誰でも演奏はできることですから。単純に時間をかけて全部の楽器を練習すればっていうだけで。
EMTG:昔でいえば、The Policeを抜けたスティングがソロをやってたりするけど、自分との共通点を感じたりする?
降谷:俺はスティングのソロより、The Policeのほうが全然好きなのね。やっぱあのギターとあのドラムが鳴ってて、なんぼだから。特に3ピースバンドだからさ。スティングのソロをそんなに知らないけど、The Policeはガッツリ好きなんで、どう聴いてもThe Policeのほうがいいなと思っちゃう。きっと俺のソロの場合は、「Dragon Ashはちょっと男すぎて、暑苦しくて聴けない」っていう人でも、「ソロに関しては聴けるね」っていう人がいてもいい。逆に、「バンドマンのマッチョイズムが好きだから、力抜いたソロなんて聴きたくない」っていう人がいても、しかるべきだし。どっちも好きっていう人がいてもいいし、どっちも好きじゃないっていう人も絶対いるだろうし。その4パターンが全部いる時点で、少なくともDragon Ashとは違うことをやれてるってことだから。好きなのはソロなのかバンドなのかってことは、俺が決めることじゃないのかなと思う。
EMTG:そうだね。じゃ、歌詞のテーマについてはどうなんだろう。
降谷:俺はDragon Ashではバンドのスポークスマンだし、フロントマン。そこでやってるよりは、すごく些細なこととか、取るに足らない出来事を音楽にしてもいいじゃないですか。Everything Becomes The Musicなので、すべてが音楽になるわけだから。すべての作品に共通するけど、俺はフィクションでは歌詞は書けない。想像力で書いてるんじゃなくて、実体験とか感じたこととか見たことを膨らまして俺は詞にする。単純に実体験だから。俺はよく「歌詞はブログと一緒だ」って言ってるんだけど。
EMTG:歌詞を書くのが?
降谷:うん。ブログとかツイッターとかに書くことって、すげえささいなことじゃないですか。カフェ行きました、映画見ましたとか、なんでもいいからさらすじゃない。で、共感して欲しかったり、単純に理解して欲しかったり、いろんな理由があると思うけど。強迫観念にかられて上げなきゃ上げなきゃっていう人もいると思うけど。多分みんながそういうふうに、ちょっとしたことでつぶやいたりとか、写真撮ったりするタームぐらいで、俺は曲も歌詞も作ってるんで。ソロではそういう感じで表現したいなっていう。
EMTG:それでいうと、Dragon Ashではバンドのスポークスマンなので、歌詞の絞り込みは必要だけど、今回は絞り込まない。なんでもありっていうこと?
降谷:うん、そうそう。些細なことでいいんだよ。
EMTG:たとえば「Stairway」の歌詞は?
降谷:半分ぐらい作って、すごい煮詰まっちゃって。進まねぇなと思ってたら、友達の服のブランドの撮影があったんだ。それでフィッティングに来てって言われて、友達のアパレルの事務所に行ったら、螺旋階段が事務所の中にあって。「あ、これだ! ちょっと帰るわ」って、そっこう帰って“Stairway”=螺旋階段っていうタイトルに変えて、バーって書き上げた。「あちこち旅して回っても、自分からは逃れられない」っていうヘミングウェイの言葉。それを「Stairway」としてとらえた。俺はオケを完全に作り終えてから、詞もメロも載せる。基本的には俺の詞は、オケに対するリアクションなんだよね。だから、そのとき感じてるものと、オケがリンクしたら歌詞になる。
EMTG:最後に、ソロとしてのライブは?
降谷:最初、バンドメンバーは俺以外全員“いい女”みたいな感じで、やろうとしたんですよ、マジで。俺はギター&ボーカルやるんで、ドラム、ピアノ、ギター、ベースの他4人が全員いい女で、真ん中にタトゥーマンがいるみたいな(笑)。
EMTG:(笑)
降谷:男の憧れを体現しようと思ったんだけど、女のバンドマンの友達がいなすぎるっていうので、あっさり断念した。
EMTG:ライブバンドのメンバーが発表になったね。
降谷:ベースの山嵐のタケちゃん(武史)は、飲みに行ったときにタケちゃんから言ってきてくれたのね。「ケンジ、ソロでライブやるんだったら、俺やるよ」って。一個年上で、世間で評価されたのもはるかに山嵐のほうが早くて。ずーっとお兄ちゃんみたいな人なんですよ。俺が17才ぐらいから仲のいい先輩なんで、めちゃめちゃ付き合い長いけど、山嵐には基本敬語なんです。その人が「弾くよ」って言ってくれたんで、「マジっすか」って言って、タケちゃんが最初に決まった。ギターのPABLOもむちゃ近いヤツ。
EMTG:ドラムは?
降谷:最後に決まったのが、サク(桜井誠)だね。最初からサクの名前を入れてたんだけど、サクに言ったのは最後だった。そもそも当初はライブやる予定もなかったんでね。
EMTG:えっ?
降谷:もう1枚作ってからツアーっていう形でやるほうがいいと思ってた。今回のアルバムの曲だけだと、ツアーできないから。だけどライブやることになって、結局、クソほどオルタナ臭がするメンバーになったっていう(笑)。
EMTG:いい女バンドどころか、めちゃ男臭い。
降谷:めちゃくちゃ男臭い。
EMTG:(笑)
降谷:昨日、初リハだったんだけど、初めてその5人でスタジオ入って、すごいよかったですよ。めちゃめちゃカッコイイ。だって、誰も曲の構成を覚えてないのに、めちゃめちゃ頭振ってる。「おいおい、まず、構成覚えようか」って(笑)。俺も含め、みんなノリノリ。でもピアノは渡辺シュンスケくんっていうSchroeder-Headzっていう、ちょっとジャンル違いのバンドの人で。ピアノって、俺の仲間のバンドにいないからね。the HIATUSとかthe telephonesぐらい。で、シュンスケくんを紹介してもらったんだけど、演奏がすげえカッコよかった。シュンスケくんも、ディストーション・ギターの中で演奏するってそんなにないから「すげえ楽しい」って言ってくれて。めちゃめちゃ良かったんだけど、俺がサウンドチェックのときに、Rage Against The Machineの「Bombtrack」を弾き出したの。“バンドマンあるある”で、誰かが弾きだしたら、100%みんな入ってくる(笑)。パってシュンスケくん見たら、鍵盤触ってなかった。俺は、長年バンドやってて、「Bombtrack」やって入ってこなかったミュージシャン初めて見た(笑)。
EMTG:(笑)
降谷:「え、なに? どうなってんの?」みたいな。そんだけ人種が違うっていうことなんですよ。
EMTG:でもシュンスケくんだけは構成を覚えてきてたでしょ?
降谷:いや、なんつうの? 譜面に起こして来てて。だから、何書いてあるかわかんない。暗号。
EMTG:いいメンバーだあ(笑)。
降谷:(笑)
EMTG:ありがとう。ライブ、楽しみにしてます。

【取材・文:平山雄一】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル 降谷建志 Dragon Ash

リリース情報

LAMP IN TERREN「[配信]花と詩人」

LAMP IN TERREN「[配信]花と詩人」

発売日: 2018年01月19日

価格: ¥ 250(本体)+税

レーベル: A-Sketch

収録曲

01.花と詩人

リリース情報

Everything Becomes The Music(初回限定)[CD+DVD]

Everything Becomes The Music(初回限定)[CD+DVD]

2015年06月17日

ビクターエンタテインメント

[CD]
1.Everything Becomes The Music
2.Angel Falls
3.Swallow Dive
4.Stairway
5.Colors
6.P Board
7.Good Shepherd
8.Wish List
9.Fabulous Town
10.Dances With Wolves
11.One Voice
12.For a Little While

[DVD]
ミュージックビデオ2作「Swallow Dive」「Stairway」(監督:神山健治)を収録

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お知らせ

■ライブ情報

ツタロック×Kenji Furuya Presents
「Dances With Wolves」

2015/07/20(月・祝)ZEPP TOKYO
出演:降谷 建志 / 金子 ノブアキ / Schroeder-Headz / WHITE ASH

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015
2015/08/01(土)茨城県 国営ひたち海浜公園
(※DA出演日:8月9日)

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in EZO
2015/08/15(土)北海道 石狩湾新港樽川ふ頭横 野外特設ステージ

MONSTER baSH 2015
2015/08/23(日)香川県 国営讃岐まんのう公園

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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