グッバイフジヤマ、『スイートセブンティーン』のもつ“やるせなさ”の正体とは。

グッバイフジヤマ | 2015.08.26

 2011年の結成以来、すでに数々のオーディションで入賞を果たしている注目の4人組バンド、グッバイフジヤマ。彼らが、9月9日にリリースするミニアルバム『スイートセブンティーン』は、“17歳”という、人生でもっとも多感な時間を切り取った、とてもセンチメンタルなアルバムだ。中山卓哉(Vo・G)が手がけるその歌は、決して激しく感情をぶちまけるわけではないが、やけにヒリヒリとした焦燥感が滲み出た、良質なポップミュージック。以下のインタビューでは、後半で突然エモいモードに突入する中山だが、そこに何かグッバイフジヤマが持つやるせなさの正体が見えた気がした。

EMTG:タイトルトラックの「スイートセブンティーン」をはじめ、17歳をモチーフにした、素敵なアルバムができましたね。
中山卓哉:ありがとうございます。実は、このタイトルにもなっている「スイートセブンティーン」はいちばん最後にできた曲なんです。もともと今回のミニアルバムにはカバー曲を入れたいなと思ってて、やるなら「GOING STEADYをやりたい!」と。実際にプリプロまでやったんです。でも上手くできなくて。やっぱりGOING STEADYはGOING STEADYで、僕らはグッバイフジヤマだから越えられないんですよね。で、その時に一緒に作ったのが「スイートセブンティーン」で、とても良い曲ができたと思って。そのときに、よくよく考えたら今回は17歳がテーマの曲も多いなって気がついて。それがミニアルバムのタイトルにもなっていったんです。
EMTG:リード曲の「やまぐちみかこに騙された」も、10代のころに『グミ・チョコレート・パイン』(大槻ケンヂ著、サブカル男子のバイブルといわれる)を読んで、衝撃を受けた自分のことを書いたもの?
中山:はい。銀杏BOYZの『DOOR』(2005年)っていうアルバムの1曲目にまさに「十七歳」っていう曲があるんです。そのなかに《グミ・チョコレート・パイン》っていう単語が出てきたのがきっかけで、僕は『グミ・チョコレート・パイン』を読んだんですね(山口美甘子はその登場人物)。銀杏BOYZ自体は、それこそ僕が17歳のときに、峯田(和伸)さんが27歳でデビューして。すごく好きになって、音楽にのめり込むようになったんですけど。僕は、一度ふつうに就職して、23歳で会社を辞めて、バンドを始めたんです。その音楽の道へ進むきっかけのひとつが、銀杏BOYZであったり、『グミ・チョコレート・パイン』だったりするので。だから、17歳で道を間違って、こんなふうになってしまったんです(笑)。
EMTG:17歳がひとつ自分の人生を決定づけた瞬間でもあったんですね。
中山:そこで人として真っ直ぐではなくなったのかなと思います(笑)。だから、「やまぐちみかこに騙された」は、僕のそのままなんです。銀杏BOYZって、当時17歳の人たちに与えた影響が測り知れなかったと思うんですよ。それに近いものを、自分なりにできたらいいなと思ったんです。でも、銀杏BOYZと違って、17歳にあてたというよりは、17歳を通り過ぎた人とか、これから通り過ぎていく人に書いた歌たちっていう感じですね。それが自分なりの銀杏BOYZの消化の仕方だったんです。
EMTG:中山くんのルーツは、まずゴイステがあり、次に銀杏があり、他には?
中山:えっと……GOING STEADYが解散したあと、高校時代は19とかを聴いてました。ちょっとアコースティックなほうに寄ってたんですけど。銀杏BOYZからパンクにハマって、どんどん音楽が好きになって。大学時代はフジファブリックが好きでした。バンド自体を始めようと思ったきっかけが、志村(正彦)さんが亡くなったことなんです。自分は仕事をしてて、毎日毎日フジファブリックを聴いてたんですよ。そしたら『CHRONICLE』っていうアルバムのなかで、志村さんが自分との葛藤を歌っていて。この人はこんなにすごい人なのに、自分と向き合っていて、出口がなくて。自分は、やりたくもない仕事をして、毎日モヤモヤしていて。そのときに、♪いやしかし何故に 踏み切れないでいる人よ~(「ダンス2000」)っていう歌詞を聴いて、踏み出すか……と思ったんです。で、次の日に会社を辞めました。
EMTG:それはスゴい。中山くんは、良きリスナー時代が長いぶん、かなり自分のなかで、表現したいことを熟成させて、ここに辿り着いた感じがしますね。
中山:そうかもしれないです。なので、僕らの音楽が結果的にポップなものに向かったのかなって思います。GOING STEADYが解散して、ポップミュージックを聴いた時期が自分のなかでは大きかったんです。GOING STEADYと銀杏BOYZだけだったら、たぶんフジファブリックとか小沢健二さんまで辿り着かなかったかなと思うので。
EMTG:ちなみに、たまにグッバイフジヤマが渋谷系バンドとして紹介されてるのを見ますけど、それはどう捉えてますか?
中山:人にそう言われて、自分でもそうなのかな?と思ってた時期もあったんです。でも、ある人に、いま流行ってるシティポップも、渋谷系も、当時を知る人から見たら、全然違うものだって教えてもらって。いまの渋谷系は、ファッションであり、カルチャーであり、発言力が大きかったっていう、あの時代のものにはなりきれてない。どちらかと言うと、いまの渋谷系って、ミクスチャーに近いんですよね。いろんな音楽を取り入れてる。それが、いまの渋谷系であり、シティポップと言われる考え方だと思うので。であるならば僕らも、いまの渋谷系には近い感覚かなと思ってます。
EMTG:ミニアルバムには、「レノンとマッカートニー」であったり、「はっぴいえんど」であったり、好きな音楽が垣間見られる曲も多いですし。
中山:「はっぴいえんど」は、自分のなかで物語を勝手に作りたかったんですよ。主人公の女の子が、古い音楽、たとえば、はっぴいえんどを聴いてるっていう設定で書いてみたんです。それで、僕はいつも、良いことがたくさんあった代わりに、悪いことが必ずあると思っちゃうから、そのバンド名とかけて、《はっぴいえんどは来ないよ》って歌ってるんです。
EMTG:「はっぴいえんど」もだけど、「HELLO」とか、グッバイフジヤマの音楽は、曲自体は明るいのに、歌詞は悲しいものが多くて、それはどうしてでしょう?
中山:やっぱり良いメロディは好きなんです。聴いてて楽しくなるような。だから、メロディは前向きなんですよね。でも、歌詞は別れとか、後ろ向きな曲が多いんですけど。でも気持ちは前向きなんです。なんだか、わかってもらえるようで、わかりづらい感じなんですけど(笑)。
EMTG:そのねじれ具合がグッバイフジヤマなんですよね。
中山:僕、よく人に訊くんですけど、「生きてる」って、ちゃんと実感してるのかなと思うんですよ。あんまりないじゃないですか。なんて言うか……人は絶対に死ぬから、それは悲しいし、想像するとやり切れなくなるんですけど、毎日のなかで、死ぬことの現実味はないですよね。でも、音楽とか、ライブとか、そういうものって、死に近いものがあると思ってて。それに惹かれるというか。……あれ? 何の話をしてるんだ、俺は(笑)。
EMTG:要するに、中山くんにとって、音楽っていうのは死に近いもので、そこで「生きること」を実感できるんだっていう感覚?
中山:たぶん、そうだと思います。でも、なんか最近……なんで、こんなに自分は感受性が弱くなってるのかなって思うときがあるんです。感情が死んでるのかなって。17、8歳を過ぎてから、悲しくて泣いた涙が1回もないんです。そういうのもあって客観的に見て、自分が現実に向き合えてない感じがやばいなと思うときはあります。
EMTG:うーん、でも、「スイートセブンティーン」は、とてもエモーショナルな作品だと思うし、ちゃんと中山くんが生きて感じた大切なことが入ってるでしょ?
中山:それは確かにそうです。ただ、自分のなかで……自分のなかだけで理解できるものになっちゃってる部分もあるような気がして。
EMTG:今回は17歳っていう過去の自分がテーマだから、そう感じるのかな?
中山:そう、過去なんですよね。本当にあった出来事なのか、もう確かめようがないんです。自分の記憶のなかのことでしかないので。作りながら、そういうことも不思議だなと思ったりしました。自分のなかでは確かにあった出来事だけど、でも、なかった出来事かもしれないっていう可能性もめちゃくちゃあるというか。
EMTG:それも含めた『スイートセブンティーン』でいいと思います。ある意味、中山くんが、なかなか現実と向き合えてない実感から生まれたアルバムとも言える?
中山:ああ、なるほど。
EMTG:と言うより、感情を咀嚼するのに時間がかかるタイプなんじゃない?
中山:そうかもしれません。確かに曲を書いてるとき、歌ってるときにも、17歳の頃を思い出して、泣きそうになったりしました。
EMTG:だから中山くんは37歳になったら27歳の、30手前の男のことを歌い出す(笑)。
中山:あははは!いやだなー。めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないですか(笑)。

【取材・文:秦理絵】

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リリース情報

PASSPORT

PASSPORT

発売日: 2018年12月05日

価格: ¥ 1,481(本体)+税

レーベル: UNCROWN RECORDS

収録曲

1.ドブネズミ
2.変わらないもの
3.信じている
4.心向方向
5.コーヒーとオイル
6.旅立つ夜に
7.愛しき日々よ

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ビデオコメント

リリース情報

スイートセブンティーン

スイートセブンティーン

2015年09月09日

Ladder Records

1.HELLO
2.レノンとマッカートニー
3.やまぐちみかこに騙された
4.はっぴいえんど
5.めんどくさがりな僕とおせっかいな君
6.スイートセブンティーン

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お知らせ

■ライブ情報

「スイートセブンティーン」発売記念ワンマン
“HELLO,goodbye,HELLO”

2015/10/25(日)渋谷CLUB QUATTRO

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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