パスピエ流“玉手箱”感満載のニューアルバム『娑婆ラバ』インタビュー

パスピエ | 2015.09.08

 緻密に構築されたサウンド、独特なトーンを帯びた言葉が、全12曲で活き活きと躍動している3rdフルアルバム『娑婆ラバ』。ライブで欠かせない存在となっている「贅沢ないいわけ」、アニメ『境界のRINNE』エンディングテーマ「トキノワ」、オープニングテーマ「裏の裏」――シングル曲が改めてその魅力を際立たせつつ、パスピエならではの多彩なオリジナリティが発揮されている1枚だ。随所でより色合いを強めている印象がする和的なエッセンス、描かれている世界の新鮮な息吹など、これまでの彼らのアルバムとはまた一味違う趣きも醸し出されている本作。成田ハネダ(Keyboard)と大胡田なつき(Vocal)に、制作の背景を語ってもらった。

EMTG:和テイストがより色濃くなった印象がしたんですけど。
成田:結果的にそうかもしれませんね。シングルの「贅沢ないいわけ」と「トキノワ」で比較的ポップ路線というか、そういう方向のパスピエを見せていたからだと思います。アルバムを出すにあたって、過去のパスピエを引き継いだ何かを反映したくて。それで和テイストが強めになったのかなと。
EMTG:アルバムの全体像に関しては、どんなことを考えていました?
成田:今回は12曲中、3曲がシングル。つまり4分の1がシングルなので、「シングルを聴くためのアルバム」というようなものにはならないように、ということは考えていました。それと、アルバムの曲順で聴いた時にシングルの曲の聞こえ方が変わるようにしたいということも思っていましたね。
大胡田:シングルの3曲とは違う部分も見せたいということを、私は思っていました。だから両極端な部分も出ているアルバムになっていると思います。
EMTG:「トキノワ」や「裏の裏」にも通じることですし、「ハレとケ」とか「ギブとテイク」とか。あと、この世とあの世をイメージさせる要素のコントラストとか。対照的なものの並立が全体に散りばめられていると感じたんですけど。
大胡田:無意識ですけど、もしかしたら「トキノワ」辺りからそういう気分になっていたのかもしれないです。私はもとから「あの世とこの世」みたいな考え方が好きで。今までは曲の中で「あの世」と「この世」のどちらか一方を描く感じだったんですけど、今回は1曲の中にその両方が入っていたりするのかなと。
EMTG:「裏の裏」は、成田さんが入れて欲しいとおっしゃって歌詞に反映された言葉だと以前の取材でお聞きしましたけど、アルバムの曲もそういうのはありました?
成田:一単語みたいなことで言うならば、結構あったよね?
大胡田:うん。「アンサー」とか「蜘蛛の糸」とか。あと、「素顔」の歌詞は2人で書きましたし。「花」もちょっとそうじゃない? モチーフとして花のイメージがあるっていうことを言っていたから。
EMTG:今回、音と歌詞、それぞれが喚起するイメージの融け合い方が、より密接になった感じもしているんですけど。
成田:今までは「大胡田なつきが描く世界が全て」みたいな感じで思っていたんです。それは大胡田の個性が立つという点では良いんですけど、彼女の世界が独立してしまうこともあり得たんですよね。でも、今回は大胡田の歌詞から受けるイメージを僕らが音に反映したり、僕が歌詞のイメージを大胡田に伝えることで、「パスピエの作品」っていうものになったのかもしれないですね。
EMTG:例えば「蜘蛛の糸」は、まさに音と言葉、それぞれが喚起するイメージの融合がすごいです。息苦しいムードが漂うディスコナンバーに仕上がっているという点でも、面白い感触を味わいました。
成田:4つ打ちの曲って、日本独自の解釈のものがすごく広がっている部分もあると思うんですけど、これは洋楽のイメージに近いんでしょうね。
EMTG:「蜘蛛の糸」は久しぶりに回文が発揮されているのも嬉しかったんですけど。《けだるきいちにちいきるだけ》は、見事です。
大胡田:これは母親が教えてくれたんだと思います。パスピエのアルバムのタイトルは、私が考えた回文だったので(1stミニアルバム『わたし開花したわ』、2ndミニアルバム『ONOMIMONO』、1stフルアルバム『演出家出演』)、いろんな回文を私に送ってきた時期があるんですよ(笑)。
EMTG:(笑)「蜘蛛の糸」の関連で言うと、現世で生きる上で感じる息苦しさ、濃霧の中を進むような感覚が、様々な曲で描かれているように感じました。「術中ハック」もそうですし。
大胡田:今回は私が今までによく描いてきた夢物語の世界ではなくて、この世で生きている自分のこととか、バンドの状態をモチーフにしながら比喩みたいものを用いて書いた歌詞が多いんですよね。気づけばそうなっていたんですけど。だから生々しい部分も感じてもらえるアルバムなのかもしれないです。
EMTG:1曲目の「手加減の無い未来」は、「この世」の曲ですね。すごくストレートにメッセージを投げかけてくるところが新鮮でした。
大胡田:今までは、わりと遠回しにいろんなことを言ってきたので、「手加減の無い未来」みたいな感じはなかったのかもしれないですね。
成田:今回、僕は歌詞とか歌から「執着心」みたいなのを感じて。それは生への執着なのか、現在への執着なのかは、いろんな捉え方があるとは思うんですけど。そういう変化みたいなことは表れているんでしょうね。
EMTG:「素顔」の歌詞は、成田さんと大胡田さんの共作ですね。
成田:はい。サビとか大きな流れは僕が考えつつ作っていきました。こういうフレーズを大胡田が歌うことに意味があるなと前々から思っていたので。曲自体はファンタジー的なパレード感があるんですけど、僕はこれをシニカルな曲だと作りながら感じていました。
EMTG:《素顔は見せずに 誰が為の歌を》って、ドキリとしますよ。
成田:僕はそれがショウビズでありエンタテインメントだと思っていて。内側を見せているけど、それが本当に内側かどうかは本人にしか分からない……っていう。そこに自分たちも身を投じているからこその心境みたいなものもあります。でも、これに限らず、どの曲も捉え方はいろいろできるので、何度も聴いて咀嚼して頂けたらと思います。
EMTG:いろいろ読み解く楽しさが広がっているアルバムにもなっていますよね。では、サウンド面のお話へ。今回、より厚みを増した印象です。パスピエって面白いのは、すごく知的な構築をしつつも、ものすごくワイルドな爆発力もあるんですよね。それこそライブだと、ハードロックバンドを観ているような感覚になることもありますし。
成田:ハードロックですか(笑)。でも、バンドとして密度の濃い時期に入ってきている感じはあります。パスピエの色を出すために「鍵盤が前に出なきゃ」って思っていた時期もあるんですけど、5人揃うことでパスピエっていうものが表現されるっていうことに、自ずと気づいてきたんですよね。
EMTG:ハードロックっていう言葉を使っちゃったから言いますけど、「術中ハック」は、すごくハードロックを感じたんですよ。これ、ライブで大胡田さんがカッコいいことになるんだろうなと。
大胡田:そうなんですか?(笑)。でも、CDでしか聴いていなかった人にライブで観て頂いて、驚いて頂きたいですからね。
EMTG:あと、冒頭で言った和テイストっていう点で挙げると、「ハレとケ」。
成田:これは「ハレとケ」っていうワードが出たことよって、サウンド面でも思いっきり振り切れた感覚があります。
大胡田:もともとこういうワードが好きなんですよね。大和言葉というか。でも、パスピエのメロディが独特なので、自ずとそういう言葉を選ぶようになっているところもあるんですよ。
成田:僕も大胡田も80年代のニューウェイヴの音楽が好きなのも大きいのかも。あの頃のアーティストってジャポニズムを踏襲している人たちが多かったですから。
EMTG:ジャポニズムっていうことを言葉にして取材とかで言うようになったのは『演出家出演』の頃からだと以前、おっしゃっていたんですけど、こういう作風って、活動を重ねる中で自ずと色濃くなってきたんですか?
成田:どうなんですかね? 僕が作った曲の和っぽい部分にすごくシンクロした歌詞を大胡田が乗せたり。大胡田が書いた歌詞を僕が見て、和的なテイストを採り入れた曲を作ったり……っていう、お互いに答え合わせをしていく内に道が見えてきた部分は、もしかしたら大きいのかもしれないです。
EMTG:和の趣きは、「花」とか「素顔」みたいな郷愁を誘う作風にも繋がっているようにも思いますが。
成田:文面的には叙情的な歌詞を大胡田なつきという人が歌うことによって生まれる妙ってあると思っていて。「花」はそういう部分が出ていますね。こういうのが視覚芸術ではない、聴覚芸術である音楽の面白いところなのかなと。
大胡田:「花」は、歌い上げることもできる曲なんでしょうけど、こういうものを歌う時、私は声が深刻になり過ぎないようにするところがあります。
EMTG:改めて言うことでもないですけど、大胡田さんの歌声って稀有ですよね。熱量とか生々しさに過剰に行き切らない不思議な漂い方をしますから。
成田:今って歌声にボーカロイド的なエフェクトをかけてリリースする人が増えていますけど、パスピエはもともとそういう声を持っている大胡田がいたという(笑)。そういう大胡田が歌うリアルみたいなところもパスピエにとってキーなのかなと。
EMTG:なるほど。あと、「つくり囃子」が素晴らしいです。この風味、パスピエでしか生まれようがないでしょうね。和でありつつ、サイケデリックなのが堪らないです。
成田:ミックスの段階で「サイケ」っていうことはかなり意識しました。
EMTG:ギターとベースもハジケていますし、パスピエのアンサンブルの威力が冴え渡っている曲だなと。
成田:アルバムのリード曲なので、自ずと全体がこれに引っ張られたところもありますね。
EMTG:《そら化け騒ぎ 娑婆だかなんだか》っていうこの歌詞のフレーズが、アルバムタイトルの『娑婆ラバ』に繋がったんですか?
成田:そうです。
大胡田:今まではもっと浮世っぽいフワッとした感じがあったんですけど、今、自分はもっと現実的なところに立っている感覚があって。そんなところから「娑婆」っていう言葉が出てきたんだと思います。
EMTG:さて。作品全体について語って頂きましたが、手応えるある1枚じゃないですか?
成田:はい。充実のアルバムになったと思っています。でも、『幕の内ISM』の時も達成感がありつつ、出した後に得るものがあって、今回に繋がりましたからね。だから今後、このアルバムの反動から生まれるものもあるでしょうし。まずはツアーでいろいろできたらなと思っています。そして、それがまた次の作品になっていくんでしょうね。
大胡田:また新しい曲、作りたいですね。作っている時は何曲も作って、「ここからまた何か浮かぶのかな?」って思うんですけど、やり始めるといろいろ浮かんでくるので。
成田:大胡田がこういう時にやっておかないと(笑)。

【取材・文:田中 大】




パスピエ - つくり囃子[Official Music Video]

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リリース情報

美しい終末サイクル

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美しい終末サイクル

発売日: 2018年12月05日

価格: ¥ 2,400(本体)+税

レーベル: No Big Deal Records

収録曲

01. from long ago
02. つつ?くいのち
03. Aporia
04. 美しい終末サイクル
05. わたしは死んた?
06. sugoi kawaii JYOCHO
07. family (Re-Rec ver.)
08. my room
09. my rule
10. 太陽と暮らしてきた (Re-Rec ver.)
11. pure circle
12. こわかった

リリース情報

娑婆ラバ(初回限定盤)[CD+DVD]

娑婆ラバ(初回限定盤)[CD+DVD]

2015年09月09日

ワーナーミュージック・ジャパン

[CD]
01. 手加減の無い未来
02. 裏の裏
03. アンサー
04. 蜘蛛の糸
05. 術中ハック
06. 贅沢ないいわけ
07. 花
08. ハレとケ
09. つくり囃子
10. ギブとテイク
11. トキノワ
12. 素顔

[DVD]
パスピエ TOUR 2014 “幕の外ISM” at Zepp DiverCity(TOKYO)
01. - opening -
02. MATATABISTEP
03. トーキョーシティ・アンダーグラウンド
04. 七色の少年
05. - session -
06. チャイナタウン
07. はいからさん
08. 贅沢ないいわけ
09. S.S
10. シネマ

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■マイ検索ワード

●成田ハネダ
エリック・サティ

丁度、エリック・サティの美術展のようなものをやっていまして、この間、行ってきたんです。エリック・サティはフランスの音楽家、作曲家。パスピエの由来であるドビュッシーとも繋がる人物です。あの時代の人たちは「音楽」っていうことにとどまらずに芸術全体として捉えている感じがあるんですけど、それが刺激的なんですよね。

●大胡田なつき
液体磁石

昨日、熱心に調べていたんですよ。動画を観ていたら欲しくなって、アマゾンで欲しいものリストに追加しました(笑)。どう扱ったらいいのかまだ迷っているんですけど、そのうち買うかもしれません。『ターミネーター』に液体みたいな人間が出てくるじゃないですか。磁石を近づけるとあんな感じになるんです。


■ライブ情報

パスピエ TOUR 2015 “娑婆めぐり”
2015/11/04(水)仙台Rensa
2015/11/06(金)新潟LOTS
2015/11/11(水)高松オリーブホール
2015/11/13(金)広島CLUB QUATTRO
2015/11/14(土)福岡DRUM LOGOS
2015/11/16(月)鹿児島CAPARVO HALL
2015/11/21(土)大阪Zepp Namba(OSAKA)
2015/11/22(日)名古屋Zepp Nagoya
2015/11/26(木)札幌PENNY LANE 24

パスピエ 日本武道館単独公演 “GOKURAKU”
2015/12/22(火)東京 日本武道館

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。



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