0.8秒と衝撃。唯一無二の音楽性の背景と『破壊POP』リリースツアーへの意気込み

0.8秒と衝撃。 | 2015.09.09

 8月にリリースされた5thアルバム『破壊POP』が、とても素晴らしい。緻密なサウンド構築を発揮しつつ、メランコリックなメロディを豊かに香らせる1枚だ。今年の夏の音楽フェスティバルでも収録曲の数々が存在感を発揮していたが、今作を引っ提げた全国ツアーが、いよいよ9月19日の東京・下北沢シェルターからスタートする。これまでの0.8秒と衝撃。のライブとはまた趣きの異なる風景を生み出しそうな今回のツアーへの意気込みとは? また、彼らの唯一無二の音楽性の背景にあるものについても、塔山忠臣(最高少年。)とJ.M.(唄とラウド。)に語ってもらった。

EMTG:ユニークな作風のバンドですよね。今更な話ではあるんですけど、どういう過程を経て確立されたのかなと。
塔山:まずは曲を作りたくて1人でやり始めたんですよね。自分がメインで歌うこともあまりイメージしていなくて。そんな中で女性ボーカル、あるいは外人を探していたんですが。
J.M.:外人?
塔山:うん(笑)。「歌」っていうよりも、ケミカル・ブラザーズ(イギリスの音楽ユニット。ビッグビートの立役者)とかがトラックにちょっと声を入れているようなことをイメージしていたんですよね。そんな時に友だちのアマチュアカメラマンみたいなことをやっている人に紹介されたのがJ.M.。会ってみたら声が印象的だったので、俺のトラックに歌を入れてもらったんですけど、この人はメロディを追ってもらうような感じの方が合っているのかなと。そういうのが結成のきっかけってことなんですかね。少しずついろんなことが進んでいったんですよ。いろいろ曲をレコーディングしたから「1回、人に聴いてもらおうか」ってレーベルに送ったら、音源リリースの話が来たり。だから最初の頃、ライブがめっちゃ嫌でした(笑)。
EMTG:今となっては信じられない話ですが(笑)。
塔山:はい(笑)。プレイヤー指向じゃなくて、曲を作りたかったので。「こんな家でコソコソやるのが好きな人間が、フェスとか出ていいの?」って(笑)。
J.M.:最初の頃はバンドっていう感じじゃなかったよね?
塔山:うん。
EMTG:宅録指向ユニット?
塔山:それですね。そういう感じでした。
J.M.:私も音楽を作ることがすごく好きで。そういう感覚がライブ活動と繋がることがなかなかなかったんですけど、最近はどんどん繋がってきていて。バンドっていうものに対する愛情が日増しに大きくなっているんですよね。
EMTG:宅録指向な雰囲気って、今もありますよね。緻密に音響とか空間を作り上げる作風を感じますから。打ち込み的なカッチリしたノリと生演奏や歌の熱量が絶妙な融合をしている音楽だなと。だから70年代末、80年代辺りのポストパンク、ニューウェイヴの香りがするし。その上で、他のあらゆる音楽に対しても公平に開かれているバンドだなと。
塔山:嬉しいですね。今の言葉、全部載せておいてください。
EMTG:すみません、喋り過ぎました(笑)。
塔山:とんでもない(笑)。ニューウェイヴとか大好きですからね。そういうのが俺の根本の趣味です。
EMTG:ハチゲキ(0.8秒と衝撃。の略称)の音楽ってすごく盛り上がれますけど、インナーというか、内省的なものを感じる理由は、そこなのかなと。ザ・スミス(80年代に活動していたイギリスのロックバンド)、好きなんですよね?
塔山:好きですねえ。
EMTG:ジョイ・ディヴィジョン(70年代に活動していたイギリスのロックバンド。ボーカルのイアン・カーティスが自殺した後、ニュー・オーダーとなる)やスーサイド(70年代から活動しているアメリカのロックバンド。シンセサイザーやドラムマシンを使用した音楽の先駆者の1つ)的な翳と昂揚感も感じるし。あと、デペッシュ・モード(80年代から活動しているイギリスのバンド)とか?
塔山:今挙げたの全部好き(笑)。スーサイド、最近聴きまくっていました。8月に出した『破壊POP』のメランコリックな部分に関しては、デペッシュ・モード的な感じを入れたかったからです。デペッシュ・モードの7枚目『Violator』(1990年リリース)的なイメージ。ああいう世界観をギターを使ってやってみたっていうのが『破壊POP』っていう感じはありますね。
EMTG:そういうサウンドでありつつ、哀愁のメロディを思いっきり際立たせているのが『破壊POP』の醍醐味だなと。
J.M.:今作は歌を大事にしているところも楽しいです。テンションで持っていくのとはまた違う楽しさがあります。
塔山:このアルバムの曲を作っていた頃に、フォールズの2ndアルバム(2010年にリリースされた『Total Life Forever』。フォールズは、2000年代半ばから活動しているイギリスのロックバンド)もよく聴いていたんですけど、あれは暗い雰囲気で。あのジャケットは多分CGとかじゃないと思うんですけど、メンバーたちが海の中で手を繋いでいるのを海底から撮っている写真でして。なんか深海に落ちて行っている感じなんですよ。そういう良い意味でのダークさって、今回作る上でイメージとしてありました。
EMTG:音楽の「暗い」って不思議なんですよね。ダークな曲って大人しいわけではなくて、逆にすごく爆発的なエネルギーを湛えていることが多いから。
塔山:その通りですね。エモーショナルな感じって、そのいわゆる「暗さ」みたいなところにあるんだと思います。俺たちが聴いてきた洋楽もそういう部分がありますから。フェスとかでお客さんが求めるものって多幸感ですけど、それを自分たちがやりたいサウンドとどう繋げていくか? それが挑戦しているところですし、そういう2つの方向性の良い距離感を見つけることの闘いでもあるんです。自分の根本にあるものは忘れたくない。音楽を嫌いになりたくないですから。「食える」っていうことのためにやる音楽を変えるんだったら、もっと他に商売があると思うんです。美味しいハンバーガーを作るとか(笑)。
EMTG:なるほど(笑)。あと、『破壊POP』は、歌ものとしてもすごく魅力的です。ツインボーカルのコンビネーションがスリリングなんですよね。
塔山:俺、さっきも言った通り、歌うのも人前に出るのも本来は好きじゃないんです(笑)。でも、せっかくこの編成なんだから、男女のツインボーカルの「普通だったらこういう絡み方はしないだろうな」っていうのをやっているんですよね。PVを作った「虹色の言葉」も、普通じゃないことやっているんですよ。言葉を変なところで止めて、歌の連携をし歌ったりしていますから。
EMTG:「虹色の言葉」のPV、ワクワクしました。ブルーハーツのTシャツを着る形でブルハへのオマージュになっているところも粋だなと。
塔山:洋楽が好きなんですけど、日本のミュージシャンは姿勢が好きな人が多くて。ブルーハーツもまさにそうで。でも、だからこそブルーハーツみたいな音を出すのはやめようと、この人(J.M.)に言ったことがあります。セックス・ピストルズに影響されてイアン・カーティスがジョイ・ディヴィジョンみたいな暗いものをやったという感じの方が、パンクっぽさを感じましたから。ところで、余談ですがあのPVで着たTシャツ、知り合いのレコード屋が閉店する時に、倉庫を掃除して出てきたやつなんです。ブルーハーツの1stか何かについていた特典らしく。「メルダック」(ブルーハーツがデビュー時に所属していたレコード会社)って書かれていますよ。「お前、何年間、ここで眠ってたんだ?」と。
EMTG:J.M.さんが着用している狐のお面は、BABY METALへのオマージュ?
J.M.:それ、言われたんですけど、BABY METALが着けていることを知らなかったんです。
塔山:BABY MEATALは、上田さん(AA=の上田剛士)が曲を手がけた人たちでしょ?
J.M.:そうだよ。
塔山:だから狐のお面で繋がったんだよ。(AA=×JM-0.8名義の「→MIRAI→ (ポストミライ)」は、AA=とJ.M.のコラボレーション)
J.M.:結果、そういうことだね(笑)。
EMTG:(笑)『破壊POP』の曲は「The Killing Moon」とか「虹色の言葉」とか「KAGEROU」とかを夏フェスでやっていましたが、どんな感触がありました?
塔山:面白い感じでしたよ。新しい曲はサビではガツッ!と行きますけど、それまでの過程で「抜き」というか、聴かせる部分がありますから。悪ノリでLIVEメンバーの名前を入れた「野菜くん体操2015」は、従来通りの頭から派手に行く盛り上がり方ですけど(笑)。
J.M.:今、お話を聴きながら新しい曲たちをどうやってライブで表現していこうか考えていたんですけど、「フォールズのジャケみたいな深海の青い感じでこの曲たちを表現していくのがベストなのかな」ということを思いました。ちゃんと歌の表現をもっと磨かなきゃなと思っています。
EMTG:既に歌っているアルバムの曲で、何か感じたことはあります?
J.M.:歌っていて楽しいのは「J.M.は太陽」ですね。《私は太陽》とか、普段言えないじゃないですか(笑)。
塔山:曲って普通、メロディとか歌詞から書くじゃないですか。でも、この曲に関しては俺、踊りの振り付けから書いたんですよ。この前、大阪のライブのMCで説明したんですけど。「サビのダンスをお前らに見せるから、踊りたかったら俺についてきて踊れ! でも、俺を1人ぼっちにして楽しみたいなら、そっちで楽しめ!」と。結局、みんな一緒に踊ってくれました(笑)。そういう曲だから、この曲は珍しく、サビで俺が歌わないんです。なぜならサビで踊ろうと思っていたから。これをツアーで全国に広めるのが俺の役目です。
EMTG:『破壊POP』リリースツアーの大きな目的の1つはそれ?
塔山:そうです(笑)。
EMTG:(笑)ツアーへの意気込みはいかがでしょう?
塔山:やり切りたいというのがまずあります。遠慮なしに、まず自分の全部を出し切るというか。今までもそれをやってきたんですけど、いろんなライブを通じて出し切り方が分かってきた部分もあって。そういうのを踏まえた上でやり切りたいです。
J.M.:私は今日いろいろお話をして明確になりました。先ほどお話ししたように、フォールズの2ndアルバムのジャケットみたいな、青い深い海みたいなサウンドを再現したいです。それができたら、今回のツアーの正解なんだなと。
塔山:そうだね。だからサウンド感は、結構ストイックにいきたいです。新しい曲は「引き」の部分もあるので、そこで空間が生まれるんですよ。その空間をライブで音の数で誤魔化して埋めるのではなく、その空間すらも曲の一部としてお客さんに伝えたいです。
J.M.:うん。それを目指したいね。新しい曲は今までの5倍くらいしっかり向き合わないと、目指している音は届けられないと思うので。どの曲もバラードを歌うくらいのテンションと集中力で向き合います。
塔山:今までは「ここで動き回ってお客さんを」とか話していたんですけど、今回は違いますからね。言葉は汚いですけど、「声で殺してくれ」と。「感情が高まったら高まった分だけメロウに歌ってくれ」と。
EMTG:「Killing me softly」ということですね。(「Killing me softly」はロバータ・フラックの73年の大ヒット曲)
塔山:上手いこと言いますね……なんで最後、美味しいとこ持って行くんですか!
J.M.:ハハハハハ!
EMTG:また喋り過ぎました(笑)。結びの言葉をどうぞ。
塔山:いいんです。もう満足しました(笑)。

【取材・文:田中大】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル 0.8秒と衝撃。

ビデオコメント

リリース情報

破壊POP

破壊POP

2015年08月05日

HAGATA

1.The Killing Moon
2.虹色の言葉
3.昨日より若く
4.白昼夢
5.KAGEROU
6.J.M.は太陽
7.Fuck&Loud
8.千のナイフ
9.野菜くん体操2015
10.ジャスミンの恋人

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■マイ検索ワード

●塔山忠臣
河鍋暁斎

今、三菱一号館美術館で彼に関する展覧会をやっていまして。暁斎は日本での評価はそうでもないんですけど、外国での評価がすごくて。「一生分のお金をあげるから描いてくれ」とかいう話がいっぱい来たらしいんですけど、自分がやりたいと思ったことしかやらなかったそうです。考え方にクセのある人だったみたいなんですけど、その1本筋が通っているところがカッコいいんですよね。そういうのをラジオで話しているのを聴いて、気になって検索しました。

●J.M.
クワズイモ

TVの取材で、MCの方がライブにいらっしゃった時に頂きました。私は植物が好きなんですよ。頂いたクワズイモ、どんどん葉っぱが大きくなっています。毎日愛でています。今日は雨なので、根元の芋が腐らないように軒下に移動しました。でも、すごく生命力が強いらしいです。芋の部分が腐ったら、葉の部分を切って乾燥させると良いみたいで。それを植えたらまた葉っぱが出てくるそうです。


■ライブ情報

0.8秒と衝撃。「破壊POP」リリースツアー
「透きとおるための青」

2015/09/19(土)下北沢SHELTER
w/ VOLA & THE ORIENTAL MACHINE
2015/09/23(水祝)福岡Queblick
w/ deronderonderon
2015/09/25(金)高松DIME
w/ deronderonderon/夜の本気ダンス
2015/09/26(土)岡山CRAZYMAMA 2nd Room
w/ 夜の本気ダンス
2015/10/2(金)仙台MACANA
w/ THE NOVEMBERS
2015/10/3(土)新潟 CLUB RIVERST
w/ MONICA URANGLASS
2015/10/11(日)札幌COLONY
w/ The coridras
2015/10/23(金)心斎橋JANUS
w/ 愛はズボーン/他
2015/10/24(土)Live House 名古屋栄R.A.D
w/ 鳴ル銅鑼
2015/10/30(金)渋谷CLUB QUATTRO(ワンマン)

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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