エレファントカシマシ3年半ぶりの新作『RAINBOW』に宮本浩次が込めた思い

エレファントカシマシ | 2015.11.19

 エレファントカシマシが3年半ぶりの新作『RAINBOW』をリリースする。シングル「ズレてる方がいい」「あなたへ」「Destiny」「愛すべき今日」を経ての待望の新作だ。それらシングル曲はもちろん、一段と力の入った新曲を揃えた『RAINBOW』でエレファントカシマシは新たな地平に立つ。地元の赤羽で撮ったジャケットを宮本浩次は「いいなと思う。ただオジサンが4人立ってる。こういう音が4人で出せたらいいんじゃないか」。変わらぬ情熱と共に熟味が伝わる22作目だ。

EMTG:やっぱり、3年半ぶりということで力が入って?
宮本:今回、なんでそんなに時間がかかっちゃったのか不思議なぐらいなんですけど、11時に寝て6時には絶対目がさめるみたいな、体にいいというか、いい習慣というか、ちゃんと午前中から曲を作ったり練習したりして、夜には家に帰ってという習慣ができて。「雨の日も風の日も」じゃありませんけど、本当に普通に通勤じゃないですけど、そうやって曲作って。あと考える時間であったりとか、その合間に年頭の武道館があったりとか。そういう中でやってるから、むしろいい力の抜け具合というかですかね、スタートの「あなたへ」に比べるとだんだん力が抜けてきて、「RAINBOW」が最後だったんですけど、歌詞が本当に日常のことを、そのままストレートに歌詞にして、けっこう丁寧にできました。シングルが4枚出てたんで、カップリングとか全部足しちゃうと10何曲になって。それでアルバムとして成立することができたんですよ。でもやっぱり久しぶりのアルバムだから、新しい曲を、ファンの人たちにも聴いてもらうっていうアルバムにしたくて…。(デビュー25周年の)さいたまスーパーアリーナってもう2年近く前になっちゃいましたけど、あそこをスタートぐらいにして、今に至るまでの流れを自分で、ちゃんと作ったものにしたいっていう、アルバムで。新録の曲をけっこう入れました。だからいいドキュメントというか、結果的に力作にできました。
EMTG:今回の収録曲で一番最初にリリースされたのは、2012年の「ズレてる方がいい」ですが、ここが起点というのではなくて?
宮本:ああ、「ズレてる方がいい」の時は、この後に自分が入院したりとかしたんですね。夏の間に一生懸命プロモーションしたりとか、ライジングサン・ロック・フェスティバルに朝すごく張り切ってやったりとか、そういういい時期ではあったんです。いいシングルもできたし。ただ頑張りすぎちゃって、夏場に10kmマラソンしたり、それでご飯も食べなかったりとか、変なサイクルになってて。で、体を壊してしまいまして。それで、「ズレてる方がいい」でスタートしてるはずだったんですが、1回こう、途切れてるんですよね。だから、「ズレてる方がいい」を改めてアルバムに入れられるというのは、すごく意義深いというか、我々にとってはスタートの曲といってもいいんで。あと、亀田(誠治)さんのアレンジのグレードというか、今聞くとすごいですよね、音の良さとか緻密さ。でもあれバンドで一発録りなんですよ。今だとかえって客観的に聴けるという。「あなたへ」と「Destiny」。アルバムのクライマックスに向けての2曲、亀田さんとやってるんですけど、すごいですね。改めて感じました。
EMTG:一方、最新シングルにも入っていた「TEKUMAKUMAYAKON」は村山☆潤さんという新しい方のアレンジですね。
宮本:そうなんです。一番新しい「RAINBOW」これも一発録りなんですが、「永遠の旅人」も。プロデューサーは村山☆潤さんという若い方なんですけど、ピアノの上手な、男気のある、いい男なんです。「TEKUMAKUMAYAKON」は、バンド・サウンドでロックっぽくしたかった。シングルの「愛すべき今日」は蔦谷好位置さんとやってるし、丁寧な作りなんで、対照的にしたくて。それで、レコード会社の人に、新しいサウンドをやりたいから、僕らが会ったことないような、若くて真面目で音楽が大好きな人って言ったら、村山さんを紹介されて。最初は普通のアレンジだったんですけど、村山さんにもっと思い切り振り切っちゃってくださいって。そしたら僕から見たら5年前のアニメ主題歌みたいなのが返ってきたんですよ。これは僕が今まで経験したことのない、それこそ求めていたものだったのかもしれない。バンドは僕ら精一杯やってて、でももっと違う次元に行きたいし、僕は歌を違う角度で見せることができないかって、常に思ってて。それで村山さんから返ってきたものから更に新しいメロディや歌詞を入れて、完成させました。
EMTG:「なからん」を初めて聞いたのは2年前の日比谷野音でしたが、宮本さん自身のアレンジでの録音ですね。
宮本:これはねえ、金原千恵子さんたちにストリングスやって欲しくて。年頭の武道館では耳コピしてもらったんです。「昨日よ」「雨の日も風の日も」も自分でこうやりたいなあってものを、エンジニアの平沼さんとコツコツやったんです。「なからん」は結構丁寧に時間をかけて、2年間かけてます。「昨日へ」も武道館でやったんですが、これは山下さんという人が監督で、やたら僕が怒ってるドキュメンタリー映画があるんですけど、それに練習してる風景が入ってるから、3,4年前から練習してた曲で。
EMTG:「RAINBOW」もそうですけど、「昨日よ」「愛すべき今日」と、過去現在未来を、それぞれ宮本さんが見ている感じの曲が多いですね。
宮本:そうですね。未来を見ると同時に、俺の人生をもう1回振り返ることが、だいぶ増えてきた気がして。バンドもそうですよね。「愛すべき今日」でも、星の下で振り返ってみると同じ場所にいただけだった、駆け抜けてきた気がしたけど。「RAINBOW」も、ヒーローになって駆け抜けてきた気がしたけど、たくさんに追い抜かれてるような感覚もあって。そういう曲の中で、もがいてる感じがすごく、落ち着いて描けているなぁと。結果的にですけど。
EMTG:それでも歩み続けるということがテーマなのかと思います。
宮本:「RAINBOW」を作った時に、太宰治の「晩年」という初期の作品集に入っている「彼は昔の彼ならず」という大好きな短編があって。主人公の男の人は、適当なことやって大人になって白けちゃってる人なんですよ。森鴎外の「青年」という小説のモデルになったことがあるんだ、って言ってるんですけど、太宰治って早熟っていうか20代でそんなこと言ってて。「ファイティングマン」で正義を気取って駆け抜けていたヒーローが、年齢を重ねた今も同じ人間なんだけど、みんながどんどん駆け抜けていって、僕は立ち尽くしていて。でも月光が俺を照らしてる。「月の夜」よって歌ってた20代の月かもしれないし、「今宵の月のように」の月かもしれない。「永遠の旅人」もそうなんですけど、自分を客観的に見るようになったのは、病気のおかげかと思う。10代20代とは違う、49歳の男が目の前の男なんです。4人ともね。ということを受け入れた上での、「昨日よ」であり「なからん」であり「RAINBOW」であり、ってことだと思う。だから歩いていくってことも、行くぜ行くぜってどこに行くのかわかんないけど、でも行くんですよね。
EMTG:宮本さんの思うヒーローはどんな存在ですか?
宮本:僕わりと最近まで思ってました。ヒーローになりたい。頭も良くて喧嘩も強くて、言葉もいっぱい喋れて、オシャレでレストランも一杯知ってて、車もカッコいいの乗ってて。でもそのために本を一杯買って家の中がとっちらかって、喋り方もとっちらかって、いつまでたってもこれで、同じ場所でただ一人、愛すべき人よって。
EMTG:もっと身近な、「私にとってのヒーロー」みたいなことでなくて?
宮本:…そうですね、ヒーローになりたいですね。いい歌うたって、みんなに喜んでもらって。こんな嬉しいことないですね。だから野音とか、本当に楽しかったです。集中力って自分たちだけじゃ出せません。やっぱりお客さんとか、まあロケーションもそうだけど、本当にみんながエレファントカシマシの演奏とかステージ、そこに自分も参加しているから、僕らも精一杯の曲を用意して、精一杯のパフォーマンスで応えられるっていう環境がある。ああいう場にいられる、それはすごいことかもしれないですね。
EMTG:そういう空間を作れる人はヒーローなんじゃないかと思います。
宮本:いやー、ありがとうございます。アルバム・ジャケットの自分たちの写真を見て実は影響されましてね。突っ立ってるだけなんだけど、ちゃんとなんか、いいなっていう雰囲気。赤羽なんですけど、これ。ただおじさんが4人立ってるっていう。こういう音が4人で出せたらいいんじゃないか。僕はいっつも背伸びして、さっきのヒーローの話じゃないですけど、読めもしない量の本を買い込んで、なんかいつも憧れで先走った、そういうのばっか目指してきたんだけど、それがようやく本当の意味で、自分のペースに。それは全然ネガティヴな意味じゃなくて、この4人で出せる音っていうこと。この『RAINBOW』を作ったことで、改めていい精神状態にこられた、4人ともね。

【取材・文:今井智子】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル エレファントカシマシ

リリース情報

Hybrid

Hybrid

発売日: 2019年10月23日

価格: ¥ 2,000(本体)+税

レーベル: 日本コロムビア

収録曲

1. ホシゾラニ・キミヲオモフ
2. Calling
3. Bitter Sweet Session
4. ざくろ
5. Promising myself
6. Sympathy
7. ハナミズキ

ビデオコメント

リリース情報

RAINBOW(初回限定盤)[CD+DVD]

RAINBOW(初回限定盤)[CD+DVD]

2015年11月18日

ユニバーサル シグマ

[CD]
1. 3、2、1、0(読み:サンニーイチゼロ)
2. RAINBOW
3. ズレてる方がいい
4. 愛すべき今日
5. 昨日よ
6. TEKUMAKUMAYAKON
7. なからん
8. シナリオどおり
9. 永遠の旅人
10. あなたへ
11. Destiny
12. Under the sky
13. 雨の日も風の日も

[DVD]
「26年目の野音の1日」
2015.9.27日比谷野外大音楽堂公演の貴重なドキュメンタリー映像を収録

お知らせ

■ライブ情報

RAINBOW TOUR 2015
2015/11/19(木)豊洲PIT
2015/11/26(木)なんばHatch
2015/12/04(金)サンポートホール高松
2015/12/10(木)わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)
2015/12/12(土)仙台イズミティ21
2015/12/18(金)名古屋 日本特殊陶業市民会館フォレストホール
2015/12/20(日)福岡サンパレス
2015/12/22(火)広島アステールプラザ 大ホール
2015/12/23(水・祝)なら100年会館
2015/12/26(土)金沢・本多の森ホール

新春ライブ 2016
2016/01/04(月) 東京国際フォーラム ホールA
2016/01/05(火) 東京国際フォーラム ホールA
2016/01/10(日) 大阪フェスティバルホール
2016/01/11(月・祝) 大阪フェスティバルホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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