明確に「いま」をテーマに定め、ストレートにメッセージを刻んだPELICAN FANCLUB 3rd mini Album『OK BALLADE』
PELICAN FANCLUB | 2016.06.03
昨年11月に渋谷WWWでのワンマンライブを成功させるなど、いまライブハウスシーンで注目を集めているPELICAN FANCLUB。海外のインディーロックやドリームポップなどに影響を受けたサウンドと、エンドウアンリ(Vo・G)が描くシニカルな歌詞がミステリアスな魅力を持つ4人組バンドだ。そんな彼らが6月8日にリリースする3枚目のミニアルバム『OK BALLADE』は、かつてないほどストレートにメッセージを刻んだ変化作。これまで抽象的な歌詞で想いを覆い隠して、謎めいた表現を好んできたPELICAN FANCLUBが、意を決して丸裸になった理由は何なのか? 明確に「いま」をテーマに定めた今作を読み解くべく、エンドウとカミヤマリョウタツ(B)のふたりに話を訊いた。
- EMTG:3枚目にして、またPELICAN FANCLUBの作品が変化したなと感じました。
- エンドウ:バンドの意識として変える意識はあんまりないんですけどね。ただ、僕個人としては変わっていくバンドが好きなんですよ。いろんなバンドでも「1stが良かった」とかよく言われるけど、それを越えて良い作品を作っていくバンドはいっぱいいますし。音楽を追求していく姿勢に惹かれるものがあるんです。
- EMTG:変える意識がないのは意外ですね。これまで1枚目の『ANALOG』がUK/USインディーの影響を感じるものだったり、2枚目の『PELICAN FANCLUB』ではドリームポップに踏み込んだりしてきた。そういう変化はあんまり自覚してないっていうこと?
- エンドウ:バンドとしての変化は、曲じゃなくて精神的なものだと思ってるんです。その曲を入れることで、自分たちがどういうふうに見られたいか?をずっと考えて。4人のなかで完結させて見せてきたんですね。たとえば、『ANALOG』のころはポップな見せ方というか、「すごく明るいバンドだぞ」と(笑)。それを繕ってる感じはしてたんです。で、2枚目ではセルフタイトルっていうのを掲げて、自分たちが本当にこれをやりたいって思えるものを名刺代わりとして出したいと思ってた。そこまでは、誰かに聴いてもらえるっていう意識がそんなに強くなかったんですよね。
- カミヤマ:いま思うと、セルフタイトルのころは、かっこつけたかったんだと思います。美しいものを作る、芸術作品を作りたいっていう感覚というか。
- エンドウ:うん、結果としてそうだったのかもしれないね。それが、今回は「人に聴いてもらいたい」っていう気持ちのほうが強くなったんです。
- EMTG:「人に聴いてもらいたい」と思うようになったのは、どうしてですか?
- カミヤマ:『PELICAN FANCLUB』を出したときに、初めて行く場所もツアーで回ったんです。それで、まったく行ったことのない土地で、まったく自分たちを知らない人たちがCDを買って、ライブに来てくれることが嬉しかったんです。そこについて考える機会があったから、次に作る作品はもっと聴かせたいなと思うようになったんです。
- EMTG:なるほど。精神的に変化していったからこそ、今回の『OK BALLADE』は、より直観的に伝わりやすい作品に変化していったと?
- カミヤマ:そうですね。だから、かっこつけ方のベクトルが変わったんですよね。セルフタイトルは、どんどん層を増やしてくみたいな感じで作ったんですけど、今作は無駄をそぎ落とすみたいな。リバーブも切って。極端に歪ませるところはガンガン歪ませるけど、ここはコード感を大事にしたいっていうところは歪みも抑えたりとか。
- EMTG:たとえば、「アンナとバーネット」はすごくボーカルも歪ませてるけど、逆に「youth」とかはコードで聴かせるような曲になってる。
- エンドウ:そう、リバーブじゃなくて、1音でハッとさせたいっていう。だから曲全体を聴き終えたときに、「あ、こんな雰囲気なんだ」っていうのが前作だとしたら、今作は雰囲気で終わらせたくないっていうのは、作る段階でメンバーとも話し合ったんです。
- EMTG:PELICAN FANCLUBの楽曲は、作品ごとに変化しながら、変わらず音楽の匂いが濃いなと思うんですね。その時々で聴いてたものが反映されるんですか?
- エンドウ:作るときに聴いているものが反映するというより、高校時代に聴いていたものとかを、「あれやってみたくない?」みたいな感じで、いまさら作ってみる感じなんです。
- EMTG:今回は、自分たちのどこの引き出しから引っ張り出した感じですか?
- エンドウ:僕は作詞によって音の影響を受けてるんですけど。今回は自分の過去だったり、黒歴史だったり、恥ずかしいことをありのまま書きたいなっていうふうに、書き方が少し変わったんですね。それで、そのときに聴いていて、キュンとしたものを音に反映したいなっていうのは思ってて。それが、レッティング・アップ・ディスパイト・グレイト・フォールツなんです。他にも前作から引き続き、ビーチ・フォッシルズとかですね。
- カミヤマ:僕が制作期間によく聴いてたのは、ハイム、あとはバトルスのライブを見て、バトルス熱が再燃したり。アンド・ソー・アイ・ウォッチ・ユー・フロム・アファーっていうポストロック的なバンドが来日したときも、けっこう影響されました。もともと好きだったのが、ライブを見て「あ、やっぱり好きだわ」っていうのを感じてましたね。
- EMTG:そうやって、それぞれ4人が好きだった音楽が作品に反映されてる?
- エンドウ:それも今作からお互いの趣味を持ち寄るっていうのが多かったんですよ。前作までは、「僕はこういうイメージがあるから、こういうコードをつけて、こういう雰囲気にして」みたいな感じだったんですけど。今回は、4人みんなが「俺はこういうのが好きだから」っていうのを、ぶつけ合った感じなんです。
- EMTG:それで、今回は「説明」みたいな、いままでのPELICAN FANCLUBにはないミクスチャー系の曲にもチャレンジすることになった?
- エンドウ:僕がビースティ・ボーイズを好きで、ライブ映像を見て、そういう感じのやつをやりたかったんですよね。それをメンバーに提案したら、それにレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかリンプ・ビズキットみたいなものをかけたら面白いんじゃないかって。
- カミヤマ:僕が高校のときからレイジが好きで。エンドウが提案してきたものにサウンドのイメージが近いなと思って、かけあわせたら上手くいったパターンですね。
- エンドウ:そういうので全曲ができあがっていくニュアンスなんです。
- EMTG:では、アルバムのテーマについて訊かせてください。1曲目が「記憶について」という曲で、ラストが「今歌うこの声が」で。聴けば、「いま」をテーマにしてることが明確にわかると思うんですけど、なぜそういうテーマになったんですか?
- エンドウ:僕は10代の終わりぐらいから、時間の経過が怖くて仕方がなかったんです。夜、寝る前に、過去のことを考え込んでしまったり、未来のことが不安で……誰かが亡くなってしまう変な妄想をしたりして、泣いちゃうことがあったり。だから、そこから逃れるために、今作は「いま」を考えようと思ったんです。時間の恐怖心から逃れるためには、いまを大事にしなきゃいけないんだと思ったんですよね。
- EMTG:なるほど。
- エンドウ:あとは、目の前のお客さんがライブで聴いてくれてる。それも、「いま」しか共有できてないものじゃないですか。それで「今歌この声が」ができたんです。この曲が、今回『OK BALLADE』のなかで核になる曲だったんですね。いろんなことが繋がって、アルバム8曲ができあがったんです。この曲には《今耳を傾けて》っていう歌詞があるんですけど、そりゃ、音楽が流れてるのは聴こえてるからわかるじゃないですか。でも、それをあえて「いまだけでいいから、耳を傾けて」って歌われたらハッとするというか。「あ、大事なのはいまなんだ」って気づかせる曲にしたかったんです。
- EMTG:そこに明確なメッセージがありますよね。でも、PELICAN FANCLUB は、あえて歌詞を直接的に歌わない美学もあると思うんです。
- エンドウ:それもあったんですけど、それよりも、いまは「聴いてもらいたい」っていう意識が強くなったことによって、その美意識みたいなものは、このタイミングではいらないと思ったんです。だから、この2曲のタイトルも最初すごく躊躇してたんですよ。どっちも、もっとわかりづらい仮タイトルがあって。「記憶について」は「CULT」(崇拝)っていうタイトルだったんです。この曲で歌ってることが、僕らは記憶というものによって動いていて、それを信仰してるんだっていうことだから……って、メンバーに説明をしたんですけど、「わかりづらいよね」って言われて(苦笑)。
- EMTG:歌詞としては、《自分は今しか生きてない》っていうフレーズもあるとおり、すごくピュアでわかりやすいものだけど、たしかに「CULT」は少し抽象的かもしれない。
- エンドウ:さすがに怖いし、良くないって言われてしまったんです。じゃあ、「「記憶について」でどうだろう?」っ言ってたら、「いいじゃないか!」って言われて。結果として、6月から回るツアーのタイトルが「" CULT "URE OF PELICAN FANCLUB」なんですけど、そこにCULTを残してるんですね。そういう経緯もあって、今回の曲に関してはタイトルに種と仕掛けがないんですよ。そこが前作とは大きく違うと思います。
- EMTG:いま聞いてて思ったんですけど、エンドウくんは歌詞の意味をちゃんとメンバーに説明してるんですね。
- エンドウ:これも前作まではしなかったことですね。今まではちゃんとドレスを着せた状態で歌詞も見せてたんです。でも今回はそうする前の丸裸な状態も見せたりして。
- カミヤマ:実際に丸裸のほうが良いなと思う曲もあったんですよね。「記憶について」は、お客さんに一発で伝わる感じがほしかったから、サウンドも削ぎ落としてたので。歌詞もそういう感じが良いってエンドウにお願いをしてたんです。
- EMTG:でも最初に「CULT」ってタイトルにしてたってことは、やっぱりエンドウくんひとりでは服を脱ぎ切れなくて、メンバーも手伝ってあげたってことですよね?
- エンドウ:本当にそうなんですよ。けっこう苦悩してたんですよね。「これが自分だから見てくれ」って、メンバーに見せるんですけど、「いままでと同じで、わかんない」って、率直に言ってくれるんですよ。それで、いっそのこと上着一枚だけ脱いだ状態で見せたら、「まあ良くなったぞ」って言われるようになって。「記憶について」も、最初はキラキラのドレスを着飾ってたんですけど、メンバーにめちゃくちゃダメ出しされたんです(笑)。それで、最終的に丸裸になったのがこれなんです。
- カミヤマ:感覚的には、(エンドウが)裸になるのは恥ずかしい感じだったから、「じゃあ、俺も一緒に脱ぐわ。俺の話もしよう」みたいな感じでしたね。
- エンドウ:そうやって背中を押してくれたことによって、自分が許されたような気がしたんです。「これ、今後もできるぞ」っていう自信にもなりました。
- カミヤマ:だから、今回は僕ら全員全裸なんです(笑)。
- EMTG:良いバンドですね(笑)。でも、全部が服を脱いだ曲というわけではないので、あいかわらず今作にも解説が必要な曲もあるんですよね。
- エンドウ:そうですね。だから、五分五分ぐらいかもしれないです。
- EMTG:そのなかで「アンナとバーネット」という曲は、バーネット・ニューマンという画家が描いた「アンナの光」という作品がモチーフ?
- エンドウ:歌詞に《新しい男》って出てくるんですけど、それがニューマンなんです。この曲はかなり前からあったので、書き方は前のタイプですね。「アンナの光」は、バーネット・ニューマンの母親が亡くなったときに描いた真っ赤な絵なんです。それを自分に置き換えたとき、母親の死というものがこういう表現になるのか、と。それが僕のなかでは、ショックだったんですよね。いままで僕の短い人生のなかで、小説とか映画で親族の死を見てきましたけど、それとはまったく別の衝撃だったんですよ。
- EMTG:前作にもダリとかキリコとか画家が出てきますけど、それはなぜですか?
- エンドウ:まず、正直すごく好きだからなんですけど(笑)。僕たちは耳で聴かせることをしてるけど、彼らは絵っていう説明のないもので見せてるじゃないですか。僕は、そこを補いたいっていうのがあるんです。絵を耳で補いたいみたいな気持ちですね。
- EMTG:表現方法の違う芸術だからこそ、なんですね。あとは、「for elite」は、かっこいいロックサウンドですけど、歌詞が《ディア サンタクロース》という意味深なフレーズで。
- エンドウ:この曲は僕の過去の歌なんです。中学時代に「エンドウ、あれ持って来いよ」とか「エンドウ、金くれよ」とか言われてて……。
- EMTG:それ、イジメじゃない?
- エンドウ:まあ……(笑)、それで、「俺、サンタクロースじゃん」と思って。歌詞の《ディア サンタクロース/プレゼントくれないと/取り返しのつかないイタズラをする》って、不良に言われてる言葉なんですよね。だから不良に対する皮肉として、もし自分が王様だったら、《目があっただけで殴る人なんていない》っていう理想世界を描いたんです。
- カミヤマ:(エンドウとは)中学校も一緒なんですけど。ハチャメチャな学校だったんですよ。僕も朝来たら机が2階から1階に落とされたりして(笑)。それが日常茶飯事だったんです。だから「for elite」の歌詞を見て、「なるほどな」と思いました。
- EMTG:では、最後に『OK BALLADE』という作品のタイトルはどうやって決めたんですか?曲調としては、バラードばかりのアルバムではないですけど。
- エンドウ:これは、さっきも話したとおり、「今歌うこの声が」が今回の作品を作るにあたって核になったんですけど、その曲の仮タイトルが、「BALLADE」だったんですよ。アルバムのタイトルには、自分たちのなかでしかわからなくてもメッセージ性を持たせたくて。4人だけの共通意識という意味で「BALLADE」という単語を使いたかったんです。
- EMTG:レディオヘッドの『OK コンピューター』のオマージュではではない?
- エンドウ:まあ、……ぶっちゃけそれも意識しましたけど。作品自体のオマージュというわけではないですね。でも、わかる人には、そういう遊び心にも気づいてほしいです。他にもいろいろあるじゃないですか。「OK牧場」かな?とか(笑)。
【取材・文:秦 理絵】
ビデオコメント
リリース情報
OK BALLADE
2016年06月08日
DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT inc.
1. 記憶について
2. アンナとバーネット
3. for elite
4. Ophelia
5. M.U.T.E
6. 説明
7. youth
8. 今歌うこの声が
2. アンナとバーネット
3. for elite
4. Ophelia
5. M.U.T.E
6. 説明
7. youth
8. 今歌うこの声が
お知らせ
■ライブ情報
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PELICAN FANCLUB 『OK BALLADE』
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※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
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