「世界が明日もつづくなら」を発表後、2011年に自主レーベル「Rap＋Entertainment」を立ち上げたGAKU-MCは、アコースティックギターを片手に全国各地へ精力的に出向き、多くの人へ音楽を届ける月日を過ごしてきた。日本中を旅する中で出会えた人たち。そこに行かなければ見ることができなかった景色。そして、家族や仲間の大切さ。彼の中に生まれた様々な思いがニューアルバム『ついてない1日の終わりに』に収録した12曲に刻まれている。再びメジャーでの活動が始まったGAKU-MCに、新しいアルバムのこと、そして、2013年に桜井和寿と組んだユニット・ウカスカジーの約2年ぶりのアルバム『Tシャツと私たち』の話を聞いた。

EMTG：アルバム『ついてない1日の終わりに』は、GAKU-MCにとって約3年ぶりのオリジナルアルバムであり、メジャーからのリリースは約5年ぶりとなる作品になります。もともとGAKUさんがなぜ自主レーベルを立ち上げたのか、その理由をあらためて聞かせてください。

GAKU-MC：2011年3月11日に震災が起こったあと、僕はap bank Fund for Japanの一員として、すぐに石巻に行って、3週間近くテントに泊まりながらボランティアをさせてもらいました。その時、いつかやりたいと思っていたことが、地震や津波でできなくなってしまったたくさんの方たちの姿を目の当たりにして、自分もやりたいことをやらないのはいけないんだと思ったんです。で、以前から自主レーベルをやりたいという思いはおぼろげにあったこともあって、とにかく1からやってみよう、と。そこでまずキャンドルと音楽で心を繋げていくイベント「アカリトライブ」をすぐにスタートさせました。

EMTG：GAKUさんはRAPで世界を変えたいという思いを持ち続けて音楽をやってきたからこそ、再びメジャーに戻ってきた？

GAKU-MC：自主レーベルでやっていることを10倍の規模でやれたら、もっと多くの人をハッピーにできると思ったんです。僕はサッカーが好きで、試合の時はセンターフォワードをやってるんですけど、自主レーベルではフォワード以外にキーパーもサイドバックも、なんなら監督もグラウンド整備も自分でやらなきゃいけない。音楽をみんなに届けるためにやらなくてはいけないTO DOリストは10や20じゃないから、全部1人でやるのはとても大変でしたけど、自主レーベルを立ち上げてからの約5年間は判断の早さという筋肉がついたし、メールの返信がめちゃ早くなりました（笑）。

EMTG：今作に収録した12曲は自主レーベルで出した曲以外は、今年に入ってから書いた曲だそうですね。

GAKU-MC：やりたいことがあふれ出てくる5年間だったし、年間何十本もライブした中で浮かんできた言葉や思いを忘れないように、まず自分にメールして、次の朝に曲のテーマがいっぱい入っているフォルダーを見ながら曲を書いてました。そういう意味では、日記や瓦版みたいな曲ばかりですね。僕は決して器用なタイプではないので、12曲収録のアルバムを作るために50曲作ることができなくて、12曲しか作れないんです。でも、その12曲を作るために毎日アコギを片手に曲を作っている日々がすごく楽しくて。

EMTG：GAKU-MCがラッパーであることに変わりはないけれど、RAPが入っていない曲もあるし、バンドサウンドやウクレレが入った曲もあります。

GAKU-MC：誰かが“変わらないために変わり続ける”と言っていたのを聞いたことがあるんですけど、僕自身が変わらずにラッパーでいるためにはいろんなことに挑戦して、筋肉にしていかなくちゃいけないと思っていて。

EMTG：まさに8曲目「自己ベスト」に書いた“自己ベストの更新”ですね。

GAKU-MC：ええ。僕は今46歳ですけど、70歳まではイメージできてるんです。そこまで音楽をやるイメージがある中で、その歳でしか歌えない年相応の歌があって、僕はそれを日々更新していきたい。僕の歌を聞いた人が明日のためにハッピーになれるような音楽を常に送り出していきたいです。

EMTG：「rap love song」ではMONGOL800のキヨサクさんがウクレレで参加しています。

GAKU-MC：とてもいいレコーディングでしたねぇ。僕はラブソングがあまり得意ではなくて、きっと照れくさいんでしょうね。でも、キヨサク君のウクレレとだったら、“好き”って言えるなぁって。この曲がきっかけでウクレレが好きになって、Myウクレレを買っちゃいました。今、めちゃくちゃ練習してます。ちなみに、10年前、桜井和寿君（Mr.Children）とのユニットでリリースしたシングル「手を出すな！」の発売日に僕は初めてギターを買って、そこから僕はギターで曲を作るようになったんです。新しい楽器を手にすると新しい扉が開いちゃうんですよね。

EMTG：「家族日和」や「シアワセの昼ビール」にはGAKUさんの娘さんたちの声が入っていますね。

GAKU-MC：「シアワセの昼ビール」は、ある日僕が昼ビールを飲んでいる隣で、白黒の写真を見た小2の長女が“パパの子供の頃って色なかったんだね”って言ったことがきっかけになって生まれた曲です。で、その言葉をそのまま彼女に言ってもらいました。次女の声も入れておかないと、将来、なんでおねえちゃんばっかり～って言われそうなんで、「家族日和」のオープニングにもうすぐ2歳になる次女の声を入れたんですよ（笑）

EMTG：アルバムジャケットのGAKUさんは鼻血が出てます（笑）。

GAKU-MC：でもね、アルバムをパカッと開けると、あれ？　あの赤いのは鼻血じゃないの！？ってなって、次の写真を見ると、あ、やっぱり鼻血だったのか！ってなってるんですよ。この撮影はゲラゲラ笑いながら撮りました（笑）。今日はマジでついてなかったなぁっていう1日の終わりに、もしかしたらボインのおねえちゃんが目の前に現れるかもしれないじゃないですか（笑）。いろんなことがあっても、1日の終わりに笑顔になれたら最高だなっていう思いから、このジャケットにしました。

EMTG：ウカスカジー（GAKU-MCと桜井和寿のユニット）ニューアルバム『Tシャツと私たち』のタイトルとジャケットも笑っちゃいました。

GAKU-MC：でしょう？『Tシャツと私たち』なのにTシャツ着ないで着ぐるみかよ～って、そりゃ笑っちゃいますよね（笑）。ちなみに、“ミファンダ”（MIFA公式キャラクター）の着ぐるみを作りたいといったのは僕ですけど、着たいと言い出したのはもう一人のあの人ですから（笑）。　なんかね、みんなが笑顔になれるようなおめでたいタイトルにしたくて。で、「Tシャツと私たち」にしようと決めたその翌日に、桜井君からドーンとデモが送られてきたので、デモを聞きながら僕はどんなRAPにしようかなって考えていたのに、桜井君に「あ、GAKUくんは歌だから」って、ボーカルレッスンを予約されてました（笑）

EMTG：ウカスカジーの「はじめてのツアー HAPPY HOUR」はどんなライブになりそうですか？

GAKU-MC：笑顔になれる楽しい時間が過ごせると思いますし、結構なヴォリュームになると思います。僕自身、『ついてない1日の終わりに』を作り終えてから、とにかく今まで以上にライブがしたいという気持ちが膨れ上がってますね。みなさんにもっともっとハッピーになってほしいし、もっともっと笑顔になってもらいたいです。

【取材・文：松浦靖恵】