世界水準レベルのラッパーAKLO、幅広い層のリスナーに届けるメジャーデビュー作をインタビュー。

AKLO | 2016.06.21

 日本のヒップホップシーンにおいて、数少ない世界水準のレベルを満たしているラッパー――。 同業者もリスナーも彼、AKLOをそのように評価しているし、またAKLO自身も作品をリリースする度にそのスキルを鮮やかに更新してみせる。 メキシコ人の父と日本人の母をもつ孤高のトリリンガルラッパーが約2年ぶりにリリースする3rdアルバム『Outside the Frame』はトイズファクトリーからリリースされる。 つまり、表向きにはメジャーデビューとなるわけだが、当然のようにAKLOのラップはより濃密にその表現性を高めているだけではなく、新たなフロウの体得に成功している。 ぜひ幅広いリスナーにすごみに満ちたAKLOのヒップホップに触れてほしいと願う。

EMTG:またさらにラップのアプローチを更新しましたね。相当な手応えがあるんじゃないですか?
AKLO:今回は投球フォームを変えたピッチャー並みにフロウを変えて。最初のほうは苦戦してたんですけど、途中から新しいフロウをモノにしていって、いい感じの仕上がりになったと思います。
EMTG:フロウを変えようと思ったのは?
AKLO:基本的にUSのヒップホップリスナーではあるので。アメリカのヒップホップシーンが大きく変化しているから、そこに追いつきたいという思いが強いんですよね。分かりやすい所で言うとYoung ThugとかMigosとか、あとはRae Sremmurdとか、そう言う彼らの新しいスタイルに触発されて。スケボーで言うところの新しいトリックが開発されていて。それを俺もモノにしたいと思ったんです。それはこれまで俺が培ってきたスキルやリズム感とはまた違うトリックで。想像以上に難しかったんですけど、だからこそモノにした手応えがありますね。
EMTG:それもつねにフレッシュな息吹を自分のスキルにもたらそうと思っているからですよね。
AKLO:自分の役割として、勝手に責任感を持っているところがあって。俺が好きなUSメインストリームと呼ばれるようなヒップホップのスタイルを消化して日本語でやるという。
EMTG:今春には舞台(『KREVAの新しい音楽劇 最高はひとつじゃない2016 「SAKURA」』)にも出演しましたが、経験としてどうでしたか?
AKLO:このアルバムのレコーディングが終わって、制作が自分的にかなり濃かった分、フレッシュな経験をしたいなと思っていたところにいいタイミングでオファーをもらって。『やります』って言ったら周りがビックリしてましたけどね(笑)。でも、すごくいい経験になりました。俺はソロアーティストだし、一匹狼的なスタンスで活動していて、ラップの内容も孤独な世界観なので。そういう意味では大勢の出演者と2ヶ月間ほぼ毎日会って、新しいことにトライしたのはハードだったけど、どこか学生時代を思い出すような感覚もありました。学生時代ってクラスにめっちゃおもしろいやつが1人はいるじゃないですか。出演者がその集合体みたいな感じで、濃い人がめっちゃ多くて。
EMTG:パフォーマンス面での学びはありましたか?
AKLO:たとえば役者が変なところでセリフを切ったりすると、その言葉に宿った感情の変化が余計に伝わったり、そういう言葉をデリバリーするテクニックが役者にはいっぱいあるなと思って。それはラップにも取り入れられるなと。
EMTG:話をアルバムに戻すと、フロウの変化はありつつも、強い緊張感をたたえたトラックにセルフボースティング(自己自慢)するラップを乗せるスタイルは今作でも不変です。トラックに関してサウンドプロデューサーのO.Y.W.M.にどんなリクエストをしましたか?
AKLO:制作過程で先にリリックが上がってたり、ビートができるスピードを追い越してしまうこともあって。そういうときは、人の曲のインストをゲットして、そこにラップを当てるんです。いわゆるビートジャックですよね。ビートジャックしたトラックのフィーリングをプロデューサーに渡して、向こうがそれに影響されてトラックを作るパターンもありましたね。
EMTG:そのなかで、幻想的なムードのトラックが印象的な「Your Party feat. JAY’ED」は、リリックの内容も異質で、ドラマティックかつドキッとさせられる。
AKLO:最後のラインまで聞かないとわからない感じですね。
EMTG:そうですね。ただ、最後のラインを迎えるまでは、生々しいラブストーリーとしてリリックを描いている。
AKLO:そう。最後まで明かさずにラブストーリーとして語るみたいな。この曲はあんまりインターネットしなくなった時期に書きました。俺は個人的にいまのインターネットの空気感に不満があって。昔、よく『インターネットは巨大なパーティーだから、そこでいい音楽をシェアしようぜ』って言ってたんですね。この巨大なパーティーは鳴り止まないと思ってたし、自分はそもそもフリーのミックステープをインターネットでリリースして、そこから本格的に活動が広がっていったので。だから、余計にインターネットに対する思いは強いんです。そんな自分が、インターネットに違和感を感じて離れたいみたいな感情になったんですよね。今後、若者が成長する過程で通っていく道として、インターネット離れが出てくるんじゃないかなと思って。
EMTG:なるほど。
AKLO:俺たちは中高生のころからインターネットに触れてきたけど、いまの子たちは生まれたときからすでにインターネットが存在してるから、途中で現れたフレッシュな存在ではないんですよね。それを思ったときにいち早くインターネット離れのフィーリングを組み込んだ曲を作りたいと思ったんです。だから、この曲は『インターネット依存は危ねえぞ』ってことを言いたいのではなく、『インターネット離れという新しいフィーリングがあるよね』ということを言いたくて。前もKREVAさんとL-VOKALと「マカー」という曲を作ったことがありましたけど。
EMTG:あの曲はMacintosh讃歌でしたね。
AKLO:そうですね。
EMTG:パソコンの画面のフレームがあって、そこから飛び出していくという視点は『Outside the Frame』というアルバムタイトルにも直結する視点だと思います。
AKLO:まさに。インターネットをフレームとして捉えたときにアルバム全体につながる話だなって。最初は「Outside the Frame」という1曲の歌詞が、だんだんアルバム全体の主張にも波及していって。
EMTG:話題はまた作品から逸れますが、ここ1、2年のフリースタイルバトルの盛り上がりを端緒に、いま日本のヒップホップシーンに注目が集まっているじゃないですか。その状況をどのように見てますか?
AKLO:すごくいいと思ってます。アジアのなかでも日本は特にヒップホップが流行ってなかったから。どんな形でもいいから、とにかくもっとポピュラリティのあるジャンルになってほしいとずっと思ってるので。フリースタイルはヒップホップのコアでリアルな部分だし、とてもいい入口だと思います。たとえば変なアイドルグループがヒップホップを取り入れて売れるより絶対にいいし、フリースタイルを入口にヒップホップにハマる人もいれば、ハマらない人もいっぱいいて、だからこそバトル好きはバトルにしか興味がないって問題視している人もいるんだろうけど、そんなことより間口が広がること自体がいいことだから。フリースタイルバトルを目指す若者が増えても、そいつらはいずれ音源制作という壁にぶち当たるだろうし。とにかく人口が増えることはホントにうれしいです。ステレオタイプなラッパー像からかけ離れていて、見た目が全然ラッパーっぽくない、『実は童貞で』みたいなやつもいるし、そうやっていろんなキャラクターのラッパーが増えることもいいことだと思います。イカついギャングスターだけをラッパーの象徴にするのは日本のカルチャーにおいては限界があると思うし。
EMTG:フリースタイルバトルの外側でも、AKLO氏と同じく、USの最新フロウを体現しているKOHH氏が国内外から脚光を浴びているのも刺激的な事象だと思います。
AKLO:そうですね。いままで日本語のリリックのまま世界でバズを作ることって考えられなかったから、KOHHの動きは刺激になりますよね。KOHHは昔から俺の曲のリミックスに参加してもらったりして、イコール、めちゃくちゃ応援していたし、KOHHがバズったのは素直にうれしいです。
EMTG:たとえば2014年のフジロックでDamon Albarnのステージにゲスト出演したAKLO氏も世界にアピールする切符を確かに持っていると思います。
AKLO:ありがとうございます。あれも本番の4日くらい前にオファーをもらって。Damon Albarnとは面識はなかったんですけど、インターネットで「RED PILL」のMVを観て反応してくれたみたいで。Gorillazは大好きだったし、うれしかったですね。
EMTG:次のフェイズに向けてすでに向き合いたいトピックは思い浮かんでますか?
AKLO:はい、もう次に向けて動き出していて。フィーチャリングのオファーもあって、休むタイミングがないので、このまま動き続けようかなと。制作ペースを上げるのは課題でもあるので、次はもっと早いスパンでリリースできるかもしれないです。

【取材・文:三宅正一】

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ビデオコメント

リリース情報

Outside the Frame

Outside the Frame

2016年06月22日

TOY’S FACTORY

01. Fly Like a Dragon
02. Good Morning
03. 247365
04. Outside the Frame
05. サーフィン feat. JAY?ED
06. Bob Dylan
07. Me Myself and I
08. McLaren
09. Sometimes
10. Your Party feat. JAY?ED
11. We Go On feat. SALU (Album Version)
12. 3D Print Your Mind

お知らせ

■ライブ情報

AKLO Outside the Frame Tour
2016/08/03(水) 東京・赤坂 BLITZ
2016/08/06(土) 大阪・Shangri-La

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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