バンドの進化の歴史を総括する、フレデリック初のフルアルバム『フレデリズム』

フレデリック | 2016.10.17

 長らくブレイク目前と言われ続けてきたバンドがいよいよ化けた。きっかけのひとつは今年の春に開催されたスペースシャワー主催の「列伝ツアー」だったが、そこで改めてバンドのオリジナリティを見つめ直したことで完成した快作「オンリーワンダー」や、今夏のフェスシーズンを経たバンドの広がりは、ついにフレデリックの時代がきたと喝采を送りたい躍進だった。そんな絶好調のなかでリリースされるのが、バンドの進化の歴史を総括する初のフルアルバム『フレデリズム』だ。ある意味、セルフタイトルにも近いニュアンスが込められた今作には、ロック、ファンク、ダンスミュージック、歌謡曲を自由に行き来するフレデリックの音楽愛が存分に詰まっている。シングルでもミニアルバムでもなく、全15曲が共鳴しながら引き立て合うアルバムでこそ、フレデリックは真価を発揮する。

EMTG:ファーストフルアルバムにして、ベストアルバムというような作品になりました。まず今作はどんな作品にしたいと思いましたか?
康司:「フレデリズム」っていう言葉が初めからあったんです。デビューした頃、「中毒性があるね」っていろんな人に言われたときに、「フレデリズム現象だ」って、自分たちのなかでは話してたんですね。そしたら、その言葉が広がって。その頃からフルアルバムを作るなら、『フレデリズム』っていうタイトルにしたいねっていうのは決まってたんです。
EMTG:タイトルありきって珍しいですね。
康司:実際アルバムのタイトルをつけるときは、もっと悩むかと思ったんですけどね。
健司:普段はタイトルって、曲が完全にできあがってからつけることが多いんですけど。今回は最初に『フレデリズム』にすることが決まってたので、このタイトルをつけたら、どんな曲を入れても、フレデリックのリズムやなと思ったんです。ファーストフルアルバムだし、自分たちのなかで制限もないし、コンセプトもない。どれを入れてもフレデリズムになるから、そこでタイトル勝ちしてるなっていう自信もあるんです。
EMTG:たしかに“制限がない”っていうのは聴けばよくわかります。15曲っていうボリュームにいろんなリズムが詰め込まれてますね。
隆児:この量を録るのも初めてだったんですけど。やっぱり制作時期が長いし、少しずつズレるから、時期によって聴いている音楽が変わることで違いが出てるんだと思います。あのころはアレを聴いとったな、とか。たとえば「KITAKU BEATS」と「リリリピート」と「音楽という名前の服」は同時期に録ったんですよ。だから、そのころはちょっと音が丸めになってるとか。そのあとに録ったのはちょっと尖らせたな、とかありますね。
EMTG:今回はアルバムを作る段階で「オンリーワンダー」とか「オドループ」、「オワラセナイト」みたいなバンドの代表曲が入ることは決まってたんですか?
健司:必要不可欠だったんですよ。「オドループ」とか「オワラセナイト」にしても、「ハローグッバイ」にしても。そういう自分たちの歴史も含めて、フレデリズムを構築しているので。だから「バジルの宴」とか「ふしだらフラミンゴ」みたいなインディーズ時代の曲も今回は再録で入れてるんです。自分たちの進化も含めて楽しんでほしいなと思います。
EMTG:バンドの歴史とか進化を見せることが『フレデリズム』のテーマだった?
康司:そうだと思います。僕、古着がすごい好きなんです。ヴィンテージっぽい服とかも買うんですけど、そこに勝手に愛着があるように感じるんですよね。どんな人が前に着てたかっていうストーリーを知らなくても、勝手に愛情を感じるんです。それが今回のアルバムにも出てるなと思ってて。僕らのインディーズ時代をまったく知らない人でも、勝手に愛情が見えるような温かみは必ずあると思います。
EMTG:再録された「バジルの宴」とか「ふしだらフラミンゴ」は、当時のものに近づけようとしたんですか? それともまったく違うものを作ろうとしたんですか?
康司:なるべくいまの感じでやろうとはしましたね。
健司:と言うか、そういうのに比較されない対象にしたかったんですよ。当時の音を知ってる人たちもいるだろうし、その人たちが聴いたら思い出補正とかもあるから、昔のほうが良かったとかも思われるかもしれないけど。いまはいまで良い、昔は昔で良いよねって言われるようにしたかったんです。どっちも自分たちの曲なので。
隆児:だから新曲ぐらいの感じでアレンジをガラッと変えてます。「バジルの宴」は、昔はギターソロっぽくないギターソロだったんですけど、今回はすごくギターソロっぽいし。
健司:ギターソロのぶん、尺も伸びたしな。
隆児:「ふしだらフラミンゴ」も昔はホーンがまったく入ってなかったので。
健司:2曲目とも印象は変わったかなと思いますね。
EMTG:そこに新曲が加わっていくわけですけど。「リリリピート」あたりを聴くと、フレデリックにとって音楽がいかに大切かが伝わってきます。
康司:今回、自分は歌詞を書くなかで、やっぱり音楽が好きだなっていうのは思いました。「リリリピート」は音楽愛を歌ってる曲だし、「音楽という名前の服」もそれがすごく出た曲だと思うんです。言葉だけじゃなくて、いろんな音楽に挑戦したいバンドだし、自分たちが好きなビート感を大切にしてるバンドだってことも感じてほしいですね。
EMTG:ファンク、ロックンロール、歌謡曲とか、いろんな時代の音楽が消化されてますけど、この曲の振り幅とか濃さって、90年代のJ-POPっぽいザ・アルバムなんですよね。
隆児:ああ、そうですよね。
康司:それを感じとってくれたのは嬉しいです。僕らは90年ぐらいのアーティストのCDがやっぱり好きなんですよ。アルバムのなかに動物園があったり、水族館があったりするような感じがするじゃないですか。それにずっと憧れてたんです。
康司:だから自分たちの好きなことが自然とできたんだと思います。
隆児:曲調とかはもっと自分の好みのほうに偏るんじゃないかと思ってたんですよ。ちょっと前だともっと苦戦してたかもしれないと思うんですけど、こういうのを全部楽しんでできたのは良かったです。やっぱり(音楽が)好きなんかなって思いましたね。
EMTG:健司くんは、これだけ幅広い曲を歌うのはボーカリストとしてチャレンジが多かったんじゃないですか?
健司:このアルバムを通じて、改めて音楽のなかにある歌の大事さというか。自分はボーカリストとして、歌が好きだなって実感するタイミングが結構あったんですよ。それを意識させてくれる楽曲が多かったなと、改めて思いましたね。たとえば「スピカの住み処」はメロディを生かすためには、歌が立たなきゃいけない曲だと思って振り切ったし。「ナイトステップ」とかは、意外ボーカルが遊びながら、引っ張ったほうがいい曲だったりして。そこはニュアンスを変えて歌ってるんです。ある意味プレッシャーというか、課題としてくれてるのかなと思いましたね。
EMTG:では、何曲か収録曲について訊かせてください。「POOLSIDE DOG」はポストロック的な感じの曲調で、いままでにないフレデリックですね。
康司:これは学生時代にプールサイドで熱中症で倒れて、蜃気楼のゆらゆら感というか、自分がそこにいないような状態になったんですけど。その光景を音楽にしたら、すごくポストロックな表現になりました。そういう揺れてる音のニュアンスですよね。
隆児:最初に「じりじりする感じ」っていうイメージがあって、できていった感じはありますね。作りながら「これは、ちょっと涼しすぎるね」とか言いながら。抽象的な会話やったよな。他の人が聞いたら「はあ?」っていう感じだと思います。
健司:それが僕らのいつも通りの作り方なんですよ。康司は結構夏の終わりの曲を書くことが多いんです。8月末とか……もう海に行く人が少なくなってくる頃ですよね。『oddloop』に収録されてる「砂利道」だったり、『OTOTUNE』に出てくる「トライアングルサマー」だったり。そういうのを大事にしたいなと思ってるときに、「じりじりした感じ」っていうのを出してきたら、その季節感がすごくわかったんです。
康司:ここまでミニアルバムを何回も出していくなかで、お互いがわかり合えた部分もあったので、そのなかで進んでいくところもあったと思います。
EMTG:あとは「レプリカパプリカ」なんかはファンクな要素が入っていて、いわゆる初期のフレデリックっぽい新曲ですね。
康司:サウンド感はニューウェイヴ・パンクっぽい感じを目指しました。歌詞では「ドナドナ」みたいな曲を書きたかったんですよ。子牛が荷馬車に揺られて、そのまま売りに出されるっていう。でも牛には選択権がなくて人間に選ばれて食べられるけど、人間には選択権があるから、まったく同じではないわけで。自分たちが進む道は、自分たちで決めて動くことが大切だなと思うから、それをパプリカに喩えて曲にしたんです。イメージとしては、終電にサラリーマンが乗っていて、みんな同じ色のスーツを着てるんですけど、そのなかにはどこかのライブハウスですげえかっこいいギターを弾いたり、トランペットを吹いてる人がいるかもしれない、っていうところですよね。
EMTG:最後にアルバムのラストに収録されている出会いと別れの曲「ハローグッバイ」について。もともとはメンバーが脱退したときに作った曲ですけど……。
健司:はい、そうですね。
EMTG:いまはまた別の意味合いも出てきたんじゃないかと思うんです。この曲でアルバムを締め括ったのはどんな想いがあったんですか?
康司:出会いや別れっていろんな場面でありますけど、音楽は絶対に離れないと思うんです。僕らは全国ツアーでいろんな人に会いに行くし、そのなかにハローもグッバイはあるんですよね。でも、ずっと側にいられる距離感にいたいんです。今回、アルバムのジャケット写真(通常盤)はドミノになってるんですけど。ドミノって1.5倍のものまで倒せるんですよ。だから、どんどん増やしていくとビルぐらいの高さでも倒せるようになる。そういう意味で、僕らもひとつひとつのステップを大事にしながらやっていくことで、大きな結果に繋げていきたい。そのなかで自分たちと一緒に良い景色を見てくれる人がいてほしいなと思うんですよ。いまは「ハローグッバイ」はそういう曲になったと思います。
EMTG:健司くんはどうですか?ライブではこの曲を歌う前には、フロントマンとしてその時々の想いを熱く語りかけてますよね。
健司:語ってる内容が変わっていってるなっていうのは自分でも意識してます。「フレデリズムツアー2015」のときには、数の話を出して(メンバーが脱退しても、お客さんがいるから4-1は3ではなく4のままという話)。そのときの「ハローグッバイ」は、(メンバーが抜けても)自分たちは前に進むんだっていう決意表明としてやってたんです。で、今年の「フレデリズムツアー2016」では、声の話をしたと思うんです。自分の声に対していろんな捉え方をされるけど、自分にはこの声しかないし、この声で世界を変えてやるぞっていう気持ちをぶつけて、そこからの「ハローグッバイ」だったんですよ。
EMTG:それ、よく覚えてます。
健司:でも、たぶん僕が言いたいことは変わってないんだと思います。前に進みたいんですよ。グッバイは「さよなら」じゃなくて、「またね」なんです。「またね」の間にもっと大きくなるよ、大きくなった自分と「ハロー」したいねっていう、そういう曲になってきたなっていうのは思います。だからこのアルバムの最後も「ハローグッバイ」でいったん別れるけど、また返ってくるよ、進化していくよっていうのを表せたかなと思ってます。
EMTG:わかりました。今作を引っさげた全国ツアーが11月からスタートします。どんなものなりそうですか?
康司:本当にこのアルバム『フレデリズム』が楽しいと思えるのは、やっぱりライブだと思うんですよね。だからこそ、これをちゃんと完成させて、自分たちでも楽しいって思えるように、しっかり準備してやっていきたいと思います。
EMTG:アルバムを作るとき、ライブでの再現性は考えながら作ってるんですか?
隆児:いや、考えてないんですよ(笑)。
康司:ライブアレンジはすごく変わるんです。それもすごく楽しみではありますね。
EMTG:ファイナルの東京公演は初の新木場スタジオコーストですけど。普通のライブハウスとは違ったダンスホールっぽい場所だから、フレデリックに似合いそう。
健司:自分たちが初めて東京でライブをしたのがコーストなんですよ。
EMTG:あ、そうだったんだ。
健司:でも、ちゃんとメインステージに立ったことがないんです。そのときは専門学校が企画したイベントだったんですけど、外のトラックのステージだったから。初めて東京でライブをしたっていう思い入れの場所ですね。
康司:やっと常設のステージに立てます!(笑)

【取材・文:秦 理絵】



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リリース情報

フレデリズム(初回限定盤)

フレデリズム(初回限定盤)

2016年10月19日

A-Sketch

M1. オンリーワンダー
M2. リリリピート
M3. レプリカパプリカ
M4. KITAKU BEATS
M5. サービスナーバス
M6. スピカの住み処
M7. バジルの宴
M8. ナイトステップ
M9. POOLSIDE DOG
M10. オドループ
M11. CYNICALTURE
M12. ふしだらフラミンゴ
M13. 音楽という名前の服
M14. オワラセナイト
M15. ハローグッバイ

■初回限定盤DVD収録曲
1. DNAです
2. ひっくりかえす
3. FUTURE ICE CREAM
4. トライアングルサマー
5. WARP
6. FOR YOU UFO
7. ディスコプール
8. オドループ
9. オンリーワンダー

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お知らせ

■ライブ情報

フレデリズムツアー2016
2016/11/12(土)仙台 CLUB JUNK BOX
2016/11/19(土)高松 MONSTER
2016/11/20(日)岡山 IMAGE
2016/12/03(土)新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
2016/12/04(日)金沢 vanvan V4
2016/12/11(日)札幌 Sound lab mole
2016/12/17(土)福岡 BEAT STATION
2016/12/18(日)広島 SECOND CRUTCH
2016/01/08(日)大阪 なんばHatch
2016/01/09(月・祝) 名古屋 DIAMOND HALL
2016/01/22(日)東京 新木場STUDIO COAST

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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