a flood of circle、バンドの固定概念や限界をぶち壊したニューアルバム!
a flood of circle | 2017.01.17
a flood of circleが約2年ぶりにリリースするニューアルバム『NEW TRIBE』は、いつの間にか築き上げたバンドの固定観念や、無意識に決めていた限界をすべてぶち壊すことで完成した作品だ。今作に大きな影響を与えたのは、世界有数のエンジニア、ザビエル・ステーブンソン(以下、愛称ザブ/リアーナ、NE-YO、ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインらを手がける)の存在。昨年リリースされた先行シングル「BLUE」「Flyer’s Waltz」を共にロンドンで録り終えたあと、フラッドに惚れたザブがバンドからのオファーを快諾して、日本でのレコーディングにも参加することになったという。今回、佐々木亮介(Vo,G)と渡邊一丘(Dr)に訊いたインタビューでは、そんなサブの音楽への貪欲なチャレンジ精神や旺盛な好奇心が語られるが、その影響も受けてか、今回のアルバムには10年を超えたバンドとは思えないほどの衝動とワクワクが詰まっている。
- EMTG:去年10周年イヤーも終えて、いまはもう前しか向いてないっていうアルバムですね。
- 渡邊:ここに来ていちばんテンションが高い、勢いのある、元気が良いアルバムができました。いままで10年間で積み上げてきたことが、まさかこういうかたちで曲になるとは思ってなかった。苦労とか辛かったことが前向きに昇華できるとは思ってなかったから。そういう意味でめっちゃ棚ぼたな感じはしてますね(笑)。
- 佐々木:(「New Tribe」の)歌詞にも書いたけど、いままで「俺たちはこうだ」みたいな枠組みを作らないようにしてたつもりだったけど、実は10年間でそういう枠組みをたくさん作ってたんですよね。だから、このアルバムはその枠組みを壊すためのアルバムだったなっていう気がしてます。枠のかたちは目に見えないから、自分たちでどんなかたちかわからなかったけど、その輪郭をザブが教えてくれたんです。
- EMTG:ザブが教えてくれたフラッドの枠組みってどういうものだったんですか?いままでもフラッドはロックンロールを軸に自由に試行錯誤してきたバンドだと思うけど。
- 佐々木:そこが難しいところだったんですよ。スタイルがないとブレてしまうけど、自分たちのスタイルに固執しすぎると広がらない、そこに永遠のジレンマを感じてて、いつの間にか、そのスタイルが閉じちゃってたんです。本当はどこの国の人が聴いてもかっこいいと思える音楽を作らなくちゃいけなかったのに、どこかで日本人だからっていう諦めがあった。「自分たちはこんなもんでしょ」っていうか。もちろん「こんなもんでしょ」なんて微塵も思ってないんだけど、無意識にそうなっちゃってたことに、ザブがやってくれるまで気づかなかったんですよね。それは悔しい部分でもあったんですけど。
- 渡邊:壊れてみて、その壁がこんなだったと知ったんです。
- EMTG:なるほど。そもそもロックンロールを掲げてバンドをやってると、なかなかメインストリームにはなり切れないし、それで余計に頑固になってしまうというか。
- 佐々木:そういう外的要因のせいにしてたんですよね。だからこそ、ザブみたいな、バンドじゃない音楽もやってる人のアイディアがすごく大事だった。バンド音楽じゃないものがバンド音楽に影響を受けて、時代が変わってきて、バンドがチャートからいなくなった。これと立ち向かうには、バンドじゃない音楽の面白さを自由に取り入れるべきだなっていうのは改めて思いました。だから、7曲目の「El Dorado」は、ちょっと前にやってたら、ふつうにミクスチャーロックみたいな感じになってたかもしれないけど、いまのリズム&ブルースとかヒップホップを経たあとのバンド音楽の感覚で、ラップっぽいことをやるっていう。それもラップとはまた違うことをやってるつもりなんですけど、そうやって表現を進化させようっていうのはロンドンに行ったことで変わったところではありますね。
- EMTG:たしかに「El Dorado」は、アルバムを聴いてても、今回の制作の過程でかなり意味がある1曲だったんじゃないかって感じる曲なんですよね。
- 佐々木:そう、俺のなかで、ナベちゃんのドラミングが開眼した曲なんですよ。レコーディングが超楽しそうだったし、音も最高だし。
- 渡邊:この曲はザブに「めちゃくちゃデカい音で叩け」って言われたんです。でも、力を入れると……たとえば、ボールを投げるとき、「自分が投げられる最速で投げてください」っていうのと、「軽く力を抜いて投げてください」っていうのだと、たぶん力を抜いたほうがコントロールしやすいんですよ。ドラムも一緒で。めっちゃ力を入れて速く叩こうとすると、リズムが揺れたりするんです。いままでの俺の感覚だと、レコーディングでは揺れないで叩いたほうが良いと思ってたんですね。
- 佐々木:それは俺も同じで、剛速球だったらコントロールは無理とか、コントロールが良かったら剛速球は投げられないって、俺も思ってたんです。でも、ザブに「剛速球でコントロールの良い球を投げるのがいちばん良いんだから、それを目指せよ」って言われてる気がしたんです。どっちかを選ぶんじゃなくて、どっちも狙う。それがザブのすごいところだし、本人もエンジニアリングのなかでこだわってるんですよね。ちゃんとポップスなんだけど、すごく実験的なこともして、音楽を進化させようとしてるんです。
- EMTG:一言で「剛速球でコントロールの良い球」なんて言うけども、相当難しい作業だったんじゃないですか?
- 渡邊:大リーガー的なことですからね(笑)。
- 佐々木:イチローを目指そうっていうことだったよね。
- EMTG:アルバム制作のために来日してくれたザブとは、かなり親しくなったみたいですね。
- 渡邊:友だちになって面白かったのが、ザブはイギリス人代表みたいな気持ちで来てくれてるというか。ちゃんと日本の文化を知ろうとしてくれるんです。だから俺らも日本代表みたいな感じで彼と接するところもあって、一緒に浅草に行ったりしたんです。
- 佐々木:ナベちゃんと和太鼓のパフォーマンスを見に行ったことがあって、レコーディングに取り入れられるものは全部取り入れるっていう感じがあったから、「和太鼓も入れようぜ」って言ってきたりしたよね。お碗をパーカッションとして叩いてみたり。
- 渡邊:床叩くとか箱叩くとか。パーカッションは大体全曲に入ってたりするし。
- 佐々木:あるもの全てを試して、この場の空気を全部パッケージしようとするんですよ。ザブはスーパーピュアなんですよね。いまを超楽しんで、いましかできない音を作ろう。それって、ある意味、バンドを始めたときに思うようなことじゃないですか。それを変わらずフレッシュにやってる、そのマインド自体がすごいなと思いましたね。
- EMTG:いま、パーカションが全曲に入ってるっていう話が出たけど、今回のアルバムはアコースティックな感じ、生っぽい手触り、人間の温かみをなんとなく感じたんですよ。
- 佐々木:その生っぽい手触りは、ロンドンでパーカッションを重ねることを学んで、面白さを自覚したんです。クリックに対してきっちり入れたドラムに、ポリリズムに聴こえるの複雑なパーカッションを重ねると、そのちょっとしたズレが温かみになるっていう。あと、今回はいままででいちばんアコギとコーラスが多いんです。クリックに対して音をハメていくっていうレコーディングをずっとやってきたのに対して、それとまったく違う、人間のノリでしか出せないものを混ぜるっていうのをやりましたね。
- EMTG:世界的にもヒップホップのシーンでは、そういうことが自然に行われてて。
- 佐々木:そう、去年、ケンドリック・ラマーとか新しいなと思ったんですよ。デスクトップで作ってる音楽をバンドで再現するっていうラリーが10年前だと考えられないぐらい複雑になってんですよね。エレキっぽいものとデジタルっぽいもののミックスが混ざってすごいことになってる。で、バンドがこれをできてないのはすげぇ悔しいっていう意識はあったんです。でも、ザブはもっとその先にいってたんです。
- EMTG:そういうことをフラッドのロックンロールとして完成させたことは大きいですね。
- 佐々木:そう、その状態をフラッドのロックンロールと呼ぶ。いままでやってたロックンロールじゃないんですよ、どこにもなかったことをやろうと思ったんです。
- EMTG:では少し収録曲について聞ければ思いますけど、「ジュテームアデューベルジャンブルース」。これはベルギーでテロがあったことがきっかけですか?
- 佐々木:あの事件があったときに、いろいろ書いたところから始まってます。これが前のアルバムだったら入れてないかもなっていうぐらい、あまりにパーソナルな歌なんですけど。ロンドンに行ったことで、(歌う内容が自分の)パーソナルであればあるほど意味があるような気がしたんです。だから、今回は全部の曲に「この人に向けて書いてる」っていうのが明確なんですけど、そのトライの最初だったかもしれない。
- EMTG:じゃあ、本当に昔住んでたベルギーの友人にあてた歌?
- 佐々木:そうですね。当時、サッカーチームに入ってたんですけど、曲に出てくるROBっていうのは、ロホンっていう同年代の男の子と、ボブさんっていう監督の名前を混ぜてるんです。だから、ふたりに向けてっていうことですね。これは……たまたまなんですけど、ロンドンに行ったあとに、UKのEU離脱問題があって。民族とか宗教とか、いろんなものが分かれて、殺し合ってる緊張状態が昔よりひどいように見えたんです。俺がベルギーにいたころは攻撃も局地的なものだったけど、いろんなところに飛び火してて、俺が知ってる街の空港まで爆破されてるとか。これは、このアルバムタイトルにもつながってるくるんですよね。“NEW TRIBE”=新しい民族として、そういう壁とか枠を少しでも取り払いたいんですよ。押しつけがましいかもしれないけど、もっとこの世の中の人がわかり合えたら良いなと思ったので、その気持ちが素直に出たんです。
- EMTG:なるほど。
- 佐々木:俺はそういう子どもみたいなことをずっと考えてるんです。「みんなが手をつなげれば、戦争がなくなるだろう」っていうことを、いまでも思っちゃってるんですよ。でも世界中の人に会おうと思ったら、何百年かかるみたいな計算もあるぐらい、それは難しい。でも1回すげぇでかい曲を書けたら、その3分間を大勢の人が聴くかもしれないっていう、祈りみたいな気持ちもあって。それぐらい荒唐無稽なことを言ってもいいんじゃないっていうのも、ザブに言われた気がしたんです。トライして無理なら、もう1回次の曲を書けばいい。そういう気持ちで書いてたんです。
- EMTG:あと「The Greatest Day」はライブハウスに集まった人のために書いたのかなと思ったけど、これも人に向けて書いたんですか?
- 佐々木:また時事ネタになっちゃうんですけど、熊本で地震があったときに、その何日か後に鹿児島のライブがあったんです。で、そのライブが終わって会場を出たら、益城町の女の子が来てて、「ロックンロールを見ないと、明日からがんばれないと思った」って言うんですよ。それが「勇気をもらいました~!」みたいな感じじゃなくて、すごく毅然としてて。俺らは、いつも崖っぷちみたいな気持ちの歌が多かったけど、その子は明日からがんばるためにロックンロールを見に来てるんだと思って。窮地に追い込まれたときに、こんなに強く音楽を欲しがってくれる人がいるんだっていうことを思ったら、《歌うぜ 何度でも》っていう言葉が自然と出てきたんですよね。
- EMTG:いま、「崖っぷちを歌ってきた」って言ったけど、そうやって10年歌い続けるフラッドの生き様を見ることで、その益城の女の子と同じように、明日もがんばれると感じる人は多いと思う。そこにバンドが背負う役割とか使命感みたいなのは感じたりしますか?
- 佐々木:役割かあ……俺は、「みんなの何かを背負うぜ」とは思ってない。またイチローの話になるけど、たぶん、イチローは誰かのためとかじゃなくて、本当にすげぇこと成し遂げるために努力してるだけだと思うんですよ。それをこっちが勝手に感動してるだけ。だから、フラッドのことも勝手に何かを感じてくれてる。俺は、その自由さが良いなと思ってるんです。そこにもやっぱり枠を設けたくないから。音楽で誰かの気持ちを代弁してあげよう、みたいな偉そうな気持ちは全然ないですね。
- 渡邊:でも、もしも、俺らの音楽を聴いたり、ライブを見ることで「明日からがんばれる」とか思ってくれてる人がいるんだとしたら、これは俺自身の経験なんですけど、今回のアルバムは、いまの苦しい状態から落ちないように我慢すれば、いつか楽しいことが起きますよっていうことを体現したアルバムだと思うんですよ。苦労が何かのかたちで実るっていうのは、このアルバムを聴いて感じてほしいです。
【取材・文:秦理絵】
リリース情報
NEW TRIBE
2017年01月18日
Imperial Records
01 New Tribe
02 Dirty Pretty Carnival Night
03 Flyer’s Waltz
04 BLUE
05 ジュテームアデューベルジャンブルース
06 Rock’N’Roll New School
07 El Dorado
08 Rex Girl
09 Rude Boy’s Last Call
10 The Greatest Day
11 Wolf Gang La La La
12 Honey Moon Song
02 Dirty Pretty Carnival Night
03 Flyer’s Waltz
04 BLUE
05 ジュテームアデューベルジャンブルース
06 Rock’N’Roll New School
07 El Dorado
08 Rex Girl
09 Rude Boy’s Last Call
10 The Greatest Day
11 Wolf Gang La La La
12 Honey Moon Song
お知らせ
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■ライブ情報
a flood of circle ワンマンツアー
”NEW TRIBE-新・民族大移動-”
-2017-
3/2(木)千葉LOOK
3/4(土)横浜Club Lizard
3/10(金)水戸LIGHT HOUSE
3/11(土)熊谷HEAVEN’S ROCK VJ-1
3/17(金)神戸太陽と虎
3/23(木)大分club SPOT
3/24(金)長崎Studio Do!
3/26(日)京都MUSE
4/6(木)盛岡the five morioka
4/7(金)仙台CLUB JUNK BOX
4/9(日)郡山HIP SHOT JAPAN
4/11(火)八戸ROXX
4/13(木)旭川CASINO DRIVE
4/14(金)札幌BESSIE HALL
4/16(日)函館club COCOA
4/21(金)金沢vanvan V4
4/22(土)長野J
5/14(日)四日市CLUB CHAOS
5/19(金)高松DIME
5/20(土)松山SALONKITTY
5/26(金)広島SECOND CRUTCH
5/28(日)岡山PEPPERLAND
6/2(金)大阪AKASO
6/4(日)福岡CB
6/9(金)名古屋BOTTOM LINE
6/11(日)東京Zepp DiverCity Tokyo -FINAL-
”NEW TRIBE-新・民族大移動-”〜Extra Tour
6/17(土)沖縄Output
6/18(日)沖縄Output
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
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