KREVAのニューAL『嘘と煩悩』インタビュー!遊び心が感動にまで突き抜けた作品。
KREVA | 2017.02.09
KREVAについて語ろうとすると、多彩な面にていねいにスポットを当てないと正確さを欠く印象になるのが面白い。彼は“深いメッセージ性”“センスが良いサウンド”“鋭いビート感覚”というような骨太な魅力のほか、“粋な言葉遊び”“意表を衝くアイデア”“茶目っ気たっぷりの切り口”というような飄々とした要素も存分に持っているアーティストだ。つまり、シリアスな面ばかりを浮き彫りにして彼を紹介するとどこかズレている結果となるし、遊び心を強調し過ぎるのも見当外れということになる。約4年ぶりにリリースされたアルバム『嘘と煩悩』は、まさしくそういう姿が反映されている一枚だ。制作の背景や今作に込めた想いを、本人に語ってもらった。
- EMTG:やっぱり“ミスター向上心”ですね(2015年にリリースされたシングル「Under The Moon」の2曲目に収録されている「これでよければいくらでも」の一節)。
- KREVA:“向上心を入れてやろう”っていうのはなかったですけど、自然に出てくるんでしょうね。例えば「居場所」のように。結局、俺の根底にあるんだと思います。
- EMTG:「あえてそこ(攻め込む)」や「想い出の向こう側 feat. AKLO」も可能性を探す姿が描かれていますし、様々な曲で向上心が滲み出まくりですよ。
- KREVA:たしかに(笑)。今回のアルバム、いつ出すかとか何も決まってない時期が長かったんですけど、最初のうちは「FRESH MODE」みたいなトーンのものにしようかなと漠然と思ってたんです。あの曲は最近のヒップホップ、R&Bの流れの音ですから。でも、レーベルの移籍が決まってから、前からアイデアとしては持ってた『嘘と煩悩』っていうタイトルにしようと思って、「嘘と煩悩」っていう曲も作りました。そこからは全体のトーンとかは考えず、1曲1曲に集中して作っていった感じですね。
- EMTG:僕、「タビカサナル」が異様なまでに好きなんですが。
- KREVA:うれしいですね。ライブでやってみて、自分としてもいちばん「うわっ!」ってなってる曲です。トラックの原形はすごく前に出来てて。でも、なかなか歌詞が書けなかったんです。
- EMTG:野性や本能に訴えかけるトライバル感というか。心の奥底に迫って来る質感がある曲だと思います。
- KREVA:“楽しい!”とか“すごいー!”とか“好きー!”とかだけじゃなくて、その裏に潜む悲しみだったり、つらさだとかも歌ってこその音楽だなと、結構前から考えるようになってるんです。そういうのが「タビカサナル」に関して言ってくれたようなことに繋がってるのかも。
- EMTG:KREVAさんの歴史を振り返ると、1stアルバムの『新人クレバ』は、“俺ってすげえ!”とか“モテたい!”っていうものがすごく出ていた一枚でしたよね。
- KREVA:ほんとそう(笑)。“俺、ここにいます!”っていう。でも、2ndアルバムの『愛・自分博』で、“10年経っても歌えるものを作ろう”ってなったんです。で、実際そうなったんですよ。あの辺りから変わってったのかな? あとアルバム『GO』は2011年の震災を経てのものだったから、あそこ以降の変化もあるのかも。やっぱり、チャラついたことを言ってる場合じゃないなっていう気持ちになったので。
- EMTG:とはいえ、遊び心は一貫して持ち続けていますよね。ちょっと前の曲から挙げるならば、「挑め(2011年2月発売のシングル曲)」は歌詞で“3って言わない”という制約を設けて遊びつつも、生き様が刻まれた曲になっていたじゃないですか。“深いテーマ”と“遊び心”を両立させてしまうのが、KREVAさんだなと。
- KREVA:ちなみに「タビカサナル」は、“1日4食ご飯を食べちゃう”とか“旅あるある”をひたすら言って、旅行会社のCMソングにならないかなっていうくらいの気持ちで作ってたんです。でも、そうならなかった。ということは、今回は遊びの要素は少なかったんですかね?(笑)
- EMTG:でも、『嘘と煩悩』っていうタイトルがとんでもない遊びじゃないですか(嘘八百と煩悩の数と言われている108。両方の数字を足すと“クレバ”を示す“908”になる)。
- KREVA:たしかに(笑)。タイトルで遊びができたっていうのは良かったですね。
- EMTG:“やられた!”という感じでした。
- KREVA:成長できましたかね?(笑)。とはいえ、まだまだですよ。もちろん、そういう部分を評価してくれる人はいるんですけど、流行ってるものを中心に聴いてる人とかに届いてる感じはまだないと思うので。
- EMTG:ラップはライミングや言い回しで面白がらせる表現としての面も色濃く持っているじゃないですか。でも、本当にすごいラップって“遊び”や“笑い”で終わらせずに、“感動”まで突き抜けるんですよね。KREVAさんは、そういう醍醐味を伝えられる存在だと思うんです。
- KREVA:たしかに、そういうことも伝えられたらいいですね。
- EMTG:最近「フリースタイルダンジョン」とかでラップに注目が集まっていますし、あの番組は面白いし、それは良いことだと思うんです。でも、流行っているだけに、逆にラップの面白さがちゃんと伝わりきってないような歯がゆさがあるんですよ。瞬間的なバトルの面ばかりが語られるようになっている気がするので。
- KREVA:例えばサッカーもリフティングが“フリースタイル”っていう別の競技になってますけど、あれと同じですよね。リフティングの世界チャンピオンのチームでもサッカーをやったことがないリフティングだけの人もいたりするんです。別モノになってるんですよ。だから“フリースタイルがいい=いい音楽ができる”っていうのは俺もちょっと違う気がします。
- EMTG:だから変なことを言うようですけど、KREVAさんは紛れもなくラッパーでありつつ、本質は“すごく音楽をやってる人”ですよね?
- KREVA:うん。幼い頃から楽器に慣れ親しんだ人間ではないですけど、つねに音楽をしてないとダメな感覚も自分の中でありますし。今回のアルバムは4年ぶりですけど、リリースと関係なく曲はつねに作っていましたから。「宣伝的に4年ぶりって言うほうが良かったんだな」っていうくらいの捉え方をしてもらえればなと思ってます(笑)。
- EMTG:(笑)。「曲を作るのはテレビゲームをするくらいの感覚の楽しい日常の要素」というようなこと、ずっと言っていますもんね。
- KREVA:そうなんです。まあ、ここまで前作からあいたのは、バンドとライブをやるようになったこともあるのかなと思うんですけど。バンドとやるようになると、マシンミュージックならではの良さにも気づいたりするんですよ。“機械で作る音楽”って言うとネガティブに捉える人もいますけど、むしろ俺からすると逆。その良さにすごくこだわったのも『嘘と煩悩』ですね。“こうしたらバンドでできるかな?”っていうことを考えて作ったんだったら、もっと派手な音のものになってたと思います。今回はストイックな面がありますから。
- EMTG:“機械を使った音楽=無機質”って思われがちですけど、“機械を使うからこそ生まれる生々しさ”っていうのもありますよね。
- KREVA:たしかに。例えばスマホとかで手軽に写真を撮れるようになりましたけど、お気に入りはプリントするじゃないですか。そうすると“ここにモノとして現れた感”が生まれますよね。それを再びデジタル化して戻すみたいな作り方を俺はしているんです。デジタルだからいいとかアナログだからいいってことじゃなくて、両方を使って濃いものにしているんです。
- EMTG:パソコンで作った音をMPC(サンプラー)に通す作業も、そういうことですよね?
- KREVA:はい、まさにです。ジャーを持ってるのに土鍋でご飯を炊く感じというか。土鍋がいいなと思うところは土鍋で炊くし、ジャーがいいなと思うところはジャーで炊くっていうような……って、土鍋の話はいいんですけど(笑)。
- EMTG:土鍋のご飯、僕も好きです。
- KREVA:今回のアルバム『嘘と土鍋』とか『米と土鍋』だったら、もっと話しますが(笑)。
- EMTG:音楽の話に戻りましょう(笑)。歌詞に関しては先ほど、時間がかかったっておっしゃっていましたね。
- KREVA:そうなんです。例えば「タビカサナル」は、“度重なる”と“旅重なる”というのを思いついて「これだ!」ってなったんですけど、そこから先が進まなくて。これだけでもう俺の中で言いたいことを言えてしまっていて、ストーリーが完結しちゃってる感覚があったからなんですけど。ほかの曲もそうやっていろいろ考えながら書いたから、今回、ライトな感じではないのかも。でも、ライトなものも必要だと思ってるので、次は桜の曲かなと。そして、その次は結婚の曲ですよ。
- EMTG:ということは、そのまた次は遠距離恋愛がテーマとか?
- KREVA:それですね。
- EMTG:話半分に聞いておきます。
- KREVA:はい(笑)。
- EMTG:(笑)「ってかもう」や「もう逢いたくて」とか、ファンへの気持ちが、いろんな曲に表れているのも印象的だったんですけど。
- KREVA:それはこのアルバムを作ってる途中から裏テーマみたいになってきてました。「もう逢いたくて」を作ってるときに思いついたんです。これも作りながら“逢いたくて”って聞こえてきたから、“今ライブ観てるとこだけど、次も観てえ!”ってものにしたいなと。そういう要素はほかにも入ってますね。
- EMTG:あと、音楽への向き合い方も、様々な曲で描かれている感じがしました。そういう曲は過去に「音色(2004年9月発売のシングル曲)」がありましたけど、「FRESH MODE」とか「
君に夢中」って、音楽への強い想いが表現されているように感じられたんですよ。 - KREVA:うん、そうですね。“君”っていうような対象がいる歌は、絶対に音楽のことが入ってるかな。今までの曲も多分そうだと思う。
- EMTG:柔らかな聴き心地の「Sanzan feat. 増田有華」も、込められているものは哲学的な思索だと感じました。
- KREVA:「Sanzan~」は、人生の歌っていう感じですから。「これ“で”いい」じゃなくて「これ“が”いい」って言えるようになりたいっていう。どれにする? っていうときに「これ“で”いい」って言うのと「これ“が”いい」って言うのとでは、全然違うと思うから。
- EMTG:今日、お話をしながら思いましたけど、『嘘と煩悩』は“生きる”ということに関して深いところまで潜り込めていますね。
- KREVA:いろいろ考えてやってるから、神の領域に入れる瞬間があるのかも。クリエイターは、“今日はスラスラいくなあ”っていうことがあると思うから。ある人に今回のアルバムを聴いてもらって、全曲の感想をもらったんですけど、「神の領域」に関して「クリエイターならみんな頷く。年に一度の神モードの日だね」って書いてました。AKLOも同じようなことを言ってましたよ。
- EMTG:「神の領域」は高度なスキルが全開で、“ラップってすげえ!”という刺激の塊でもあるのが堪らないですよ。
- KREVA:やっぱり、こういうのが必要だとも思ってますし、好きなんです。今までも「基準(2011年9月発売アルバム『GO』収録曲)」とかをやって、俺をあんまり知らないような人から歓声が上がるっていうのを、いろんなフェスとかで体感してきましたから。さっき、「FRESH MODE」みたいな淡いトーンのアルバムを作ろうとしてたって言ったじゃないですか。それでも「神の領域」みたいな曲が出来るっていうのは、こういうのが好きだし、必要だと感じてる自分がいるんだと思います。
- EMTG:“感動”って一般的にシリアスなテーマのみに結びつけて捉えられがちですけど、圧倒的なスキルの誇示や、“上手い言い方するなあ”っていうウィットも人の心を動かすと思うんです。その両方が絶妙に滲み出ているのがKREVAさんであり、『嘘と煩悩』もそういう作品だと言えるのではないでしょうか?
- KREVA:そう感じてもらえたんなら良かった。ニヤニヤして「これ面白くない?へへえ~」って感じじゃないです。真剣に遊べてますから。
- EMTG:この先の活動に関しては何か見据えていることはあります?
- KREVA:まずはツアーですね。『嘘と煩悩』の曲は、ライブではより濃いアレンジでやれると思うから、ぜひ触れてほしいです。そして、それ以外の活動も2017年はしっかりやっていきたいです。音を自分で作って、録って、ラップしてっていう人が減ってきてるんですよ。昔は普通にいたんですけど。だからそういうのも、きちんと続けていきたいと思います。
【取材・文:田中 大】
リリース情報
嘘と煩悩
2017年02月01日
ビクターエンタテインメント
01. 嘘と煩悩
02. 神の領域
03. 居場所
04. 想い出の向こう側 feat. AKLO
05. FRESH MODE
06. Sanzan feat. 増田有華
07. ってかもう
08. あえてそこ (攻め込む)
09. タビカサナル
10. もう逢いたくて
<Bonus Track>
11. 君に夢中
02. 神の領域
03. 居場所
04. 想い出の向こう側 feat. AKLO
05. FRESH MODE
06. Sanzan feat. 増田有華
07. ってかもう
08. あえてそこ (攻め込む)
09. タビカサナル
10. もう逢いたくて
<Bonus Track>
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「フライングゲット」って言うじゃないですか。「フラゲしました!」っていう報告がいっぱい来る時期がありますけど、その後パタってやむんですよね。でも、盛り上げなきゃいけないのは、本当はそのあとの時期。だったらフライングゲットの反対をどう言えばいいのかな? と。それで見つけたのが陸上競技の“フライングスタート”の逆、“レイトスタート”でした。だから“フライングゲット”の反対は“レイトゲット”なのかなと。略すと“レイトゲ”。この言葉を推奨していこうかなと。「レイトゲしました!」って言ってください(笑)。
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