より自由に、より深く――Ivy to Fraudulent Gameが新作『継ぐ』をリリース。
Ivy to Fraudulent Game | 2017.03.07
やるせなくも激しく、胸苦しささえ甘やかで、狂おしいほどに美しい。約1年ぶりにリリースされるIvy to Fraudulent Gameの2ndミニアルバム『継ぐ』の唯一にして無二の世界観にただ陶然と飲み込まれてしまう。音楽性はより幅広く、綴られる言葉はいっそう深く、そして説得力を増した歌、アンサンブル。彼らという存在の孤高をはっきりと裏付けた今作について、全作詞作曲を手がける福島由也(Dr)と、稀代のフロントマン・寺口宣明(Gt、 Vo)のふたりに聞いた。
- EMTG:前作以上に聴き手の側に踏み込んで、より広く世界を伝えていこう、勝負していこうという気概を感じました。
- 福島由也:それはすごくあります。前作は初めての全国流通盤で言ってみればデビュー作みたいなものだったんですけど、それを持っていろんな場所を回って、お客さんからもいろんな反応をもらって。それを体験しちゃったら、やっぱりもっともっと違う景色を見せたいし、俺たちも見たいって思ったんですよ。そういう意味でも今回は挑戦的な一枚を作れたかなって。
- EMTG:まさに挑戦的という言葉がピッタリです。
- 福島:今までやってこなかったようなアプローチをたくさん取り入れたりしてますしね。自分の聴いてきた音楽を消化して、自分たちの音楽性の幅に昇華できたと思っています。これまででいちばんの作品だっていう自信はかなりあります。
- EMTG:収録されている7曲は今作のために作られたものですか。
- 福島:はい。僕、曲はめちゃくちゃ時間かけて作るんですよ。しかも毎回ストックがなくなっちゃうんで、今回も全曲揃うまでに1年ぐらいかかってますね。つねにみんなを待たせてます(笑)。
- EMTG:ちなみに、いちばん最初に上がった曲ってなんでした?
- 福島:「夢想家」です。
- EMTG:作品のラストを飾っている曲ですね。
- 寺口宣明:「夢想家」は俺たちの色が前面に出た曲だと思うんですよ。サウンドも言葉も、曲の展開にしても、今回でいちばん俺たちらしい曲って意外と「夢想家」かもしれないなって。
- 福島:ああ、意外とね。
- 寺口:俺たちには二面性があって、ギターロック的な側面もあるけど、それと肩を並べるシューゲイザーとかそういう色をすごく引き継いでるなって。ただ、シューゲイザーってわりと何を表現したいのかわからないのがいい、みたいなところがあるじゃないですか。わからないからこそ解釈が自由だし、心地よく聴けるっていう。でもウチの曲にはしっかりメッセージ性があるんですよね。「夢想家」にしても2番のAメロとか、すごく前向きになれる。
- EMTG:サウンドも2番で一気に開けますよね、すごくカタルシスがある。
- 寺口:2番に入った瞬間、いい意味でJポップを聴いてるような前向きさがあるというか。そこがこの曲の肝だと思うし、すごく新鮮だったんですよね。だから歌もコントラストをしっかりつけて歌いたい、表現したいなって。このアルバムの中でいちばん好きな曲かもしれない、俺は。自分のメンタルが落ちてるときもこの曲で救われる感覚になることが多いんです。
- EMTG:福島さんの書く歌詞って救いがないようでいて、どこかに必ず希望を残していませんか。
- 福島:そうですね、わりと意識してますね。
- EMTG:それは聴き手に何かしら明るい余韻を残したいから?
- 福島:っていうのもありますけど、いちばんは自分に言い聞かせてる感じ。自分に向けて書いてるというか。それが結果的に誰かのためになったらいいなって。
- EMTG:「徒労」なんてそれこそやるせなさの塊みたいな1曲じゃないですか。“音楽”というワードがリアルだなと思ったんですけど、今のいい状況でも、こういうふうに思ってしまう瞬間が?
- 福島:もちろんありますね。でも、どんな状況であれ、そう感じることって誰にでもあると思うんですよ。今回、“音楽”っていう具体的なワードを使っちゃいましたけど、音楽に限らず、聴く人によっては自分の仕事だったり、生活の一部に当てはめて考えてもらえる歌詞なんじゃないかなって。わりと普遍性はあると思ってるんです。
- 寺口:俺もその中のひとりですし。もちろん福ちゃんと俺とでは感じ方に差はあると思うんですけど、だからといって福ちゃんの思っていることをそのまま歌うんじゃなくて、俺がこう思うからこう歌おうって……要は自分の思うように歌ってるだけなんですけど。だから表現の仕方はたぶん全然違うと思います。福ちゃん、デモテープに歌まで入れてくるんですけど(笑)、俺が歌うのとはまた全然別の曲だもんね。
- 福島:ノブが歌うことで化けるんですよ、本当に。
- EMTG:福島さんから寺口さんにリクエストしたり、あるいは曲について説明するとか……。
- 福島:一切しないです。歌に関しては、もう、信頼してるんで。僕、曲を作っても自分が感動できないと絶対渡さないんですよ。で、渡すと自分の感動のさらにもうワンランク上になって返ってくるっていう。もう一回感動できるんです。それがすごくうれしいし、自信にもなるし。
- EMTG:寺口さんは福島さんの作る曲や歌詞のどういうところがいちばん響きますか。
- 寺口:あんまり天才っていないと思うんですけど、俺、身近にいる天才はたぶんコイツだと思ってるんです。こういうヤツって曲も歌詞もわかりにくくなりがちじゃないですか。でもコイツはそっちにいかないんですよね。例えば俺はもらった歌詞を自分の生活で感じてきたことに当てはめていくんですけど、そうすると“ああ、この人の書く歌詞は一見難解かもしれないけど、実はこの世の人間のほとんどが感じたことのあるもので、風景を思い起こさせる力がすごいな”って。昨日も運転しながら自分たちの曲を聴いてて思いましたもん、“俺、こんないいバンドで歌わせてもらってるんだな”って。
- 福島:ははははははは! これ読んだ人、引いちゃうんじゃないですか、“なんだ、コイツら”って(笑)。
- EMTG:素敵だと思います(笑)。あと、曲で言うと「E.G.B.A.」がかなり意外で。ここまでゴリゴリのロックチューンってなかったですよね。こんな引き出しも持ってたんだ! って。
- 福島:引き出しというよりは、結構頑張って書いた感じですね、これは(笑)。前作を作ったあとにノブから「ロックな曲をやりたい」ってポロッと言われたのを、思い出して書きました。
- 寺口:前回のツアーのときにそういう曲も求められてる気がしたんですよ。逆に「Utopia」みたいな曲が出来てくるのはなんとなくわかってたので、ロック調の曲もあったほうが面白いんじゃないかなと。そしたらとんでもないものを作ってきたっていう(笑)。
- EMTG:ところでタイトルの『継ぐ』にはどんな意味が込められているのでしょうか。
- 福島:ジャケットも実はヒントになってるんですけど、日本の伝統的な修復技法で“刺し子”ってあるじゃないですか。破れた衣類を継ぎ接ぎするときに縫い目を幾何学模様にすることで別の価値を付加するっていう。本来なら捨てるものにあらたな価値を与えて、また使えるようにするっていう心のあり方がすごく美しいなと思って。
- EMTG:日本人ならではの感性かもしれないです。
- 福島:金継ぎもそうですよね。自分たちの日々の感傷とかうまくいかないなって思うこと、衣類で言ったら“破れ”みたいなものを音楽で修復する、それを刺し子とか金継ぎの手法に例えてみたら、しっくりきたんです。それと未来の音楽シーンを自分たちが継いでいくっていう意気込みとのダブルミーニングで『継ぐ』にしました。
- 寺口:音楽が好きな人に聴いてほしいです。こんな振り幅のあるミニアルバムを作るバンドってほかにあんまりいないと思うし、好みはあるだろうけど、たぶん聴いてもらったら心を掴むはずなので。
- EMTG:ほかにいないっていうのはご自身でも自覚されてますか。
- 福島:きっとみんなもそうだと思うんですけど、僕は自分がいちばんカッコいいと思うことをやりたいようにやってるだけで、シーンの流れとかもよくわかってないんです。結局のところ人間って自分の感覚しかわからないから、それを大事にするしかないんですよね。でも、よくわからないけど、絶対にいいと思ってるっていう。
- EMTG:ぜひ、このまま唯我独尊で突き進んでほしいです。
【取材・文:本間夕子】
リリース情報
継ぐ
2017年03月08日
SPACE SHOWER MUSIC
M1:Utopia
M2:Dear Fate,
M3:E.G.B.A.
M4:!
M5:揺れる
M6:徒労
M7:夢想家
M2:Dear Fate,
M3:E.G.B.A.
M4:!
M5:揺れる
M6:徒労
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※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
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