PELICAN FANCLUB、バンドの魅力を最大限に引き出した初のフルアルバム『Home Electronics』
PELICAN FANCLUB | 2017.05.10
海外インディーロックの影響を受けた『ANALOG』、ドリームポップな雰囲気の『PELICAN FANCLUB』、そして、肉体的なロック感を強く打ち出した『OK BALLADE』。これまで3枚のミニアルバムをリリースするたびに、次々に表情を変えてきたPELICAN FANCLUBが、5月10日にリリースする初のフルアルバム『Home Electronics』は、そのすべての過程を咀嚼したからこそ完成できた、奥深く、音楽的な冒険に富んだ作品になった。ハイセンスなアレンジスキルを駆使して、それぞれにユニークな世界を持つ楽曲たち。その音作りの指針になったのが、エンドウアンリ(Vo・Gt)が手がける歌詞だった。メンバー同士が何度も話し合い、全員の共通認識のもとで完成した楽曲たちは、ここにきてPELICAN FANCLUBというバンドの持つ魅力を最大限に引き出すものになった。
- EMTG:過去3枚のミニアルバムの集大成のような最高のアルバムができましたね。
- エンドウ:本当にそういう作品になったと思います。今回は作るのも楽しかったんです。それぞれ役割分担をしながら進めていけたので。メンバーの魅力を再発見できましたね。
- EMTG:役割分担というのは?
- エンドウ:歌詞のテーマに対して、どういうドラムを入れるか、ギターのリフを付けるか、ベースのコード進行を付けるかっていうのを、それぞれが曲に向き合って入れることができたというか。前回の『OK BALLADE』では、1曲に対して個々のルーツを反映してたから、1曲1曲で影響を受けた曲がはっきりわかったと思うんですけど、今回は、12曲それぞれに4人全員のルーツを入れたので、前回よりも統一感が出たと思います。
- カミヤマリョウタツ(Ba):こういう作り方ができたのも、『OK BALLADE』でコツを掴んで、この4人で曲を作ることに慣れてきたからなんですよ。
- クルマダヤスフミ(Gt):いままでみたいにスタジオで、みんなで作るやり方もあるし、それぞれが役割を決めて作った曲もあるので、それによって新たな一面を見せられたかなと思いますね。
- EMTG:よりバンドとして、一体感をもって曲作りに臨めたんですね。
- シミズヒロフミ(Dr):だから、普通フルアルバムって言うと、過去に出したEPとかミニアルバムから、リード曲も入れたりもするじゃないですか。でも、今回は良い曲がめっちゃできたから、「全部新しい曲でいいじゃん」っていう感じでしたね。
- EMTG:アルバムの候補になる曲も多かったんですか?
- エンドウ:70曲ぐらいですね。
- EMTG:多いですね!そこから、どうやって絞り込んだんですか?
- エンドウ:アルバムのなかで、その曲がどういう役割を果たすのかを大事にしていました。1曲目だったら、こういう曲。最後の曲だったら、こういう曲。リード曲を立てるために、こういう曲が入ってたらいい。アルバムをまとめるのは、この曲で、とか。
- EMTG:手当たり次第じゃなくて、アルバムの全体像を見ながら作っていった。
- エンドウ:そうですね。それは詞も同じなんです。いままで、詞はバラバラになりがちだったので、それをまとめたくて。ひとつ軸を作るようにしたんです。
- EMTG:軸というのは?
- エンドウ:“君と僕”をテーマにして、聴き手が主人公になるように心がけてましたね。いままでみたいに、僕、エンドウが主人公というよりは、みんなに共通する部分を探したというか。だから、今回は物語テイストの曲が多くなったんです。
- EMTG:そういうふうに歌詞をガラッと変えようと思った理由は?
- エンドウ:聴く人に寄り添いたいというか、僕だけの歌詞にしたくなかったんですよね。もちろん僕だけの観点で書くのも好きなんですけど。僕自身はそれを選ばなかった。もっと僕らにはバンドとしての魅力があるはずなので。それをどう見せられるかっていうのを考えたときに、ちゃんとバンドの詞にしたかったんです。
- EMTG:ひとりよがりになりたくなかったんですね。
- エンドウ:そう。たとえば歌詞に“空”が出てきたら、「これは、どういう空に感じるのか?」みたいなことをメンバーに質問したんです。明るく感じるのか、切なく感じるのか。切ない意図で使った単語だったのに、クルマダくんが明るく捉えてたら、明るいイントロがついちゃうから。そういうチグハグな部分をなくしたくて、何回も歌詞を書き直しました。
- EMTG:そのやり方をとることで、メンバーも違いを感じましたか?
- シミズ:レコーディングのときも、気持ちの入り方が違いましたね。頭の中に入ってる映像がみんな一緒だから、歌詞の内容に沿った強弱も出せるんです。そこは人間なので。機械ではないから、絶対に違ってくる。そうやってレコーディングをした音を聴いてみると、いままでとは違うなっていうのは肌で感じましたね。
- エンドウ:そうだね。
- カミヤマ:僕らはレコーディングの前に、自分たちでプリプロ音源を作って、ある程度決め込んでから、レコーディングに臨むんですけど。実際に録ってみると、決め事どおりにいかないというか、「やっぱりこっちのほうが良いな」みたいなことも発生して。レコーディングマジックですよね。今回は、そういう空気感も大事にできたと思います。
- シミズ:特に「Night Diver」はすごかったよね。
- EMTG:疾走感のあるリード曲ですね。
- エンドウ:うん。「Night Diver」は鳥肌が止まらなかった。初めて1回目のテイクでOKが出て、これは絶対にリードだなって確信したんです。それも結局、みんなのイメージを統一できてるからだなって思いましたね。やっぱり目立ちたいじゃないですか。僕自身も、自分のエゴを出したくなるんです。でも、バンドのやりたいことを反映していくなかで、みんなの良さを引き出す。それで、カチッとハマることが多かったですね。
- EMTG:さっきの話だと、いまのペリカンの開放的なムードを象徴する役割がリード曲の「Night Diver」にあるとしたら、それを立たせる役割が1曲目の「深呼吸」ですよね。
- エンドウ:そうですね。アルバムの1曲目でイメージするのは何?っていうのを、みんなで考えたときに、大草原とかスタジアムみたいな広い場所で、風が吹いてて、みたいなことを話してたんです。だから、詞もそういうものをイメージして書いていきました。
- クルマダ:この曲はイントロを何パターンも出して、レコーディング直前で変わったんです。最初のパターンも良かったんですけど、もっと開放感を表現できるなって、みんなで話をして。その結果、いまのイントロが出てきて。
- エンドウ:で、それを重ねたんだよね。前のイントロも聴こえるかどうかわからないぐらいに入ってて。それで「深呼吸」らしい壮大な世界観が出たんです。そうやって、みんなで話し合いながら作るのは化学の実験みたいな感じでしたね。
- EMTG:最初に、「今回は楽しかった」って言ってましたもんね
- エンドウ:そう。「これやってみて?」って試してみたことが、最終的に「これ、すごく良いね」ってなっていくから。そうなったら、気持ちはスタンディングオベーション(笑)。
- EMTG:アルバムの冒頭は、壮大なロックナンバーで始まるけど、アルバムが進むにつれて、どんどんジャンルが雑多になっていって。
- エンドウ:そうなんですよね
- EMTG:「Black Beauty」はプログレっぽい曲ですけど、どういう役割の曲ですか?
- エンドウ:混乱を表現したいなと思ったんです。それこそ思春期に感じる反抗というか、そういうモヤモヤみたいなのを伝えたいなと思って。
- クルマダ:この曲の印象的なリフは、シミくんが持ってきたんですよ。
- シミズ:自分なりに怒りとか混乱をイメージしてみたくて。1回(エンドウが作ったものを)全部バラバラにして、組み立て直して。さらに、エンドウが手を加えて完成しました。
- エンドウ:この曲も怒りをぶつけるっていうところで、全員が気持ちを一つにして演奏しましたね。あとは、歌い方を2番のAメロで変えたりして、さっきまで怒ってた人がいきなり豹変する。それも混乱の表現のひとつになればいいなと思ってます。
- EMTG:8曲目の「許されない冗談」も構造は似てますね。
- エンドウ:実は、この曲と「Black Beauty」は、去年の夏ごろに一緒に持っていったんですよ。怒りっていう似たようなニュアンスがあって。これはクルマダくんが「すごく良い!」って言ってくれて、アレンジしてくれたら化けて。そこから詞を完成させました。
- クルマダ:デモは曲のイメージを伝えるために作ってきてくれたやつだったんですけど、なんか頭に残ってて。勝手にいろいろ楽器をつけて、みんなに聴かせたんです。
- カミヤマ:最初は空間系で歪ませて、途中はリフで攻めるっていうコントラストがあって。前作の「説明」とか「for elite」ができたことによって広がった曲ですね。
- EMTG:「Black Beauty」と「許されない冗談」の2曲が同じ時期にあったということは、エンドウくんのなかに怒りとか混乱の気持ちが溜まってたんですか?
- カミヤマ:………ああ、えっと。
- シミズ:青春がありましたね。
- 全員:あはははは!
- EMTG:なるほど(笑)。
- エンドウ:「You’re my sunshine」とかもあったから、怒りだけではないんですけど。いちばん混乱してた時期ではあったんですよね。
- カミヤマ:だから、いろんな感情が作品に反映されたんだと思います。
- EMTG:バラード曲の「花束」もアルバムには欠かせない曲だと思いますが。
- エンドウ:この曲は、結成1年目ぐらい……シミくんが加入する前にライブでやってた曲なんです。いちばん古くからあったんですけど、自分たちのなかでも消化しきれてなかったんですよね。それが今回、自分たちの想像以上に納得のいくものになりました。
- EMTG:大切な人に向けたバラードなんだけど、途中で“復讐”っていう意味を持つアザミの花が出てきて、ちょっと怖い曲でもあるように感じましたけど……?
- エンドウ:これ、当初は……怒りの感情から生まれた曲なんです。だから、その名残というか。でも、アザミの花には“愛情”っていう意味もあるので。いまとなっては、愛を込めてっていう気持ちも強くなってて。もともとシャウトしてた曲なんですけど、歌い方で(意味を)左右されないように、ちゃんとメロディもつけたんです。
- クルマダ:聴く人によって、花言葉の意味も変わるっていうことも話してくれて、そういう話し合いを経て、このアレンジにまとまったのは良かったなと思います。
- EMTG:ラストは「Esper」ですけど、こういう朗らかな曲調で終わるのは意外ですね。
- エンドウ:聴く人には「朝の次へ」で、いったん終わると思わせておいて、でも本当は、あと1曲あって。そこではヘラヘラした感じで終わらせたかったんです。
- EMTG:今作は、物語の歌詞って言ってたけど、“バカバカしい妄想は 僕にしかできないよ”っていうのは、なんとなくエンドウくん自身が主人公の歌なのかなと思いましたけど?
- エンドウ:ああ……でも、やっぱり、この曲も委ねてるところはありますね。たとえば、誰かに気持ちを伝えたいけど、伝えられない。いざ伝えたい人を前にすると、喋ることすらできないっていう状況で、家でイメージトレーニングをする人への応援歌みたいな曲ですね(笑)。最後はみんなで歌ってるので、締めとしていいなと思ってます。
- EMTG:アルバムを作り終えてみて、ここまでバラエティ豊かになると思ってました?
- エンドウ:その想像は超えてきましたね。もっとシュッとした感じになるのかなと思ってました。でも実際に作ってみると、僕らにとってはメジャー感がある作品というか。
- カミヤマ:自分たちがやりたいことに対するハードルが、ちょっと下がったんですよね。とりあえず、やってみる。フルアルバムだから12曲のうち1曲は、こういう曲があってもいいよね、みたいな気持ちで力を抜いて持っていったネタが、どんどん良くなったりしたので。4人いるから、何が起こるかわからない。そういうのが面白かったんです。
- シミズ:どんなジャンルかっていうのもなくて、1枚のアルバムにまとめたときに、ちゃんとPELICAN FANCLUBらしい統一感が出たと思います。
- EMTG:その統一感、作品としての調和のとれた美しさっていうのは、アルバムの全体像を意識してたのも大きいと思うし、あと、PELICAN FANCLUBって、初期の作品では「芸術作品を作りたい」っていう想いもあったバンドだから、その意識がいまも続いてるからな?と思ったんですけど。
- エンドウ:ああ、でも……その意識はいまはないんですよね。今回はPELICAN FANCLUBっていうバンドの魅力を最大限に伝えたいなと思ってるから。そのために、メンバーが共通イメージを持とうとしたんです。だから、そう思ってもらえるとしたら、目指していたというよりも、結果、作品としての美しさになった、というのが正しくて。セルフタイトルのころは、雰囲気を作りたいっていう気持ちが強かったんですけど、いまは雰囲気を作りたいとは思ってない。「結果、こういう雰囲気でした」みたいな感じですね。
【取材・文:秦 理絵】
リリース情報
Home Electronics
2017年05月10日
DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT inc.
1.深呼吸
2.Night Diver
3.Luna Lunatic
4.Black Beauty
5.You’re my sunshine
6.夜の高速
7.ダダガー・ダンダント
8.許されない冗談
9.Trash Trace
10.花束
11.朝の次へ
12.Esper
2.Night Diver
3.Luna Lunatic
4.Black Beauty
5.You’re my sunshine
6.夜の高速
7.ダダガー・ダンダント
8.許されない冗談
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