進化し続ける唯一無二の世界観!モーモールルギャバン、2年ぶりのニューアルバム完成。
モーモールルギャバン | 2017.05.31
やはりゲイリー・ビッチェ(Dr・Vo)は天才なのか。他の誰にも書くことのできないぶっ飛んだ歌詞で思い切りロックンロールしたかと思えば、次の瞬間にはオトコ30代の哀愁が滲み出た心に沁みるメロディを奏でたりする。そんなゲイリーのソングライターとしての濃厚なエッセンスが投下された約2年ぶりのニューアルバム『ヤンキーとKiss』は、すなわちモーモールルギャバンのオリジナリティが徹底的の追及された作品だ。彼らが意識するライバルミュージシャンはジョン・レノンであり、フレディー・マーキュリーであり、中島みゆきであり、いつか訪れる晩年はピカソのように終わりたいという。すでにバンドの活動から10年を過ぎて、そんなふうに真っすぐに夢を語るロックバンドがかっこ悪いはずがない。
- EMTG:今回のアルバムの楽曲は初めてクラウドファンディングでミュージックビデオを作ることも話題になってますね。(※取材時はMV発表前)
- ユコ=カティ(Key・Vo):けっこう賛否両論はありますけどね。
- ゲイリー・ビッチェ:最近みなさんミュージックビデオが低予算じゃないですか。我々は『CDTV』世代だから、桜井さんが崖の上で熱唱してるのを見て育ってるんですよ。
- EMTG:「Tomorrow never knows」ですね。
- ゲイリー:だから何か大きなことをやりたいんですよね。いまとなってはiPhoneでミュージックビデオを作れるけど、素人が絶対に撮れない90年代J-POP黄金期ぐらいのMVを作りたくて。いまのJ-POPシーンに足りないものはスケール感ですから。AKBかきゃりーぱみゅぱみゅかモーモールルギャバンかぐらいに言われたいです。
- EMTG:楽しみにしてます(笑)。今作『ヤンキーとKiss』を作るにあたっては、どんなことをやりたいと思って作り始めたんですか?
- ゲイリー:今回は作品を出す前にワンマンツアーで新曲をやりたいっていうのがあったんです。たとえばインディーズのときに出した『野口、久津川で爆死』は全曲ライブでやってた曲を収録したんですけど、ああいうのをもう一回作りたくて。結局ワンマンツアーには間に合わなかったんですけどね。ツアーでは1曲目の「AKABANEの屍」だけをやってたし、ファイナルの赤坂ブリッツで「異邦人」と「夢ならば覚めてくれ」を加えた3曲をやったけど、本当はファイナルでは新曲を5~7曲ぐらいやる予定だったんです。
- EMTG:メジャーデビュー以降、そのやり方でCDを作ったことはあったんですか?
- ゲイリー:「LoVe SHouT!」っていうシングルを出したときはツアーでやったあと、シングルで完成させるっていう方法論で作りましたけど、それ以来ですね。
- EMTG:どうしてそれをもう一度試したいと思ったんですか?
- ゲイリー:やっぱり現場でやってきたものって演奏が下手でも説得力があるんですよ。そういうのを出したかったというか。
- ユコ:作品は一生残るわけだから、そこのパフォーマンスが良くないのはプレイヤーとして嫌ですからね。なるべく体に沁み込んだ状態でパッケージしたかったんです。
- ゲイリー:あとお客さんに見られると、自分では引き出せない力が出る。
- ユコ:プレッシャーというか?
- ゲイリー:プレッシャーじゃない。神の手(笑)。
- 全員:あはははは!
- EMTG:お客さんの視線が……。
- ゲイリー:俺の本気を引き出してくれるんです。だから3曲だけでもその状態に持って行けたのは良かったですね。
- EMTG:ライブで熟成させてから完成させるということは、作品自体もライブで盛り上がるような1枚にしたいというような構想はあったんですか?
- ゲイリー:ないです。むしろそこへの興味が年々なくなってるんですよね。ゆくゆくは星野源さんみたいになりたいなと思うんですよ。そこを目指すんだったら、歌であり、歌詞であり、声であり、みたいなことが大事で。それはギャグじゃなく本気で意識してますね。
- EMTG:でも、モーモールルギャバンのライブでは“パンティー”を叫びたいし、お客さんには盛り上がる曲を求められる部分もありますよね?
- ゲイリー:お客さんが求めるものより、いま自分が信じてるものを作らないとダメだと思ってるんです。ライブで盛り上げる発想って昔はメロコアの人しかなかったんですよ。でも気づいたら4つ打ちでモッシュが起きるようになっていて、その状況を引き起こした要因はモーモールルギャバンもあるとは思ってるけど、もう「いち抜けた~!」みたいな感じですね。ただ、それを求めるお客さんも無視はできないと思ってますよ。こないだ「サイケな恋人」をやらないライブをやったんです。そしたら「やっぱりパンティーは言いたい」って言われて。やらないよりはやったほうがいいなと思いましたね。
- EMTG:なるほど。じゃあ、今作はライブでお客さんにパワーをもらうことでプレイヤーとして刺激を受けながら、音源として高いクオリティを求めていったと。
- ゲイリー:そうですね。やっぱり歌なんですよ。POLYSICSのハヤシさんに “最後のおっさん世代”っていう光栄な称号をいただいたんですけど、古い洋楽が好きなんですよね。楽器の音がデカくて、全員がボーカルと同じぐらい存在感がある音楽が。でも日本で売れるんだったら、ちゃんと歌が聴こえる作品を作らなきゃいけない。そのためにドラムの音を小っちゃくするのは許せないので、そこはがんばってやり切りました。ただねえ……。
- EMTG:ただ?
- ゲイリー:たとえば中島みゆきさんと自分の歌詞を比べたときに、「俺、天才」とは思えないですよね。俺はなんて器の小さな人間なんだろうと思ってしまうし、クイーンを聴いたあとに自分の音を聴いたら、「誰だ!? このヘタクソなやつは!」と思うし。今作には100%満足してるけど「『アビイ・ロード』以上の作品ができた」とは口が割けても言えない。
- EMTG:そこと比べるんですか?
- ゲイリー:比べちゃうでしょう。だってジョン・レノンと同業者ですよ。
- EMTG:ゲイリーさんはジョン・レノンになる必要はないと思いますけど。
- ゲイリー:俺は『ONE PIECE』が大好きなんです。あの漫画って王の資質がある人とない人とでは明らかに違うじゃないですか。でも俺は「自分には王の資質がある」って言い聞かせながら生きながらえているタイプなんです。俺の覇気は覇王色だって言い聞かせてる。ただ、ルフィさんとかトラファルガー・ローさんには瞬殺されるんですけど(笑)。そんな俺が自分には覇王色の覇気があると信じながら死ねたらラッキーですよね。
- EMTG:うーん……でも、今作に入ってる「AKABANEの屍」とか「OTOMI」みたいな曲は、ゲイリーさんにしか書けない曲だし、ゲイリーさんも覇王色でいいと思いますよ?
- 全員:あはははは!
- ゲイリー:今年いちばん勇気の出る言葉をありがとうございます(笑)。
- EMTG:他にもリード曲の「ガラスの三十代」は同世代がぐっとくるキラーフレーズが満載だし、光GENJIを連想させるところも含めて最高じゃないですか。
- ゲイリー:まあ、10代よりも30代の男のほうが心はガラスですからね。
- EMTG:あと「ロックミュージック」も超名曲。泣きのバラードにのせて、“My life 難航中”って歌いながら、“それでもスマイルで進みますように”っていうフレーズとか。
- ゲイリー:いまの30代で(人生が)難航してない人はいないと思うんですよね。“転んでも立つよ”って歌ってるのも、生きてたら転ぶのは普通だと思うし、転ばないようにしてたらダメだし、転ぶから転び方を覚えるし、失敗するから失敗の怖さを思い知るし。
- EMTG:そういう人生観も歌える人だから、ゲイリーさんには人と比べてほしくない(笑)。
- ゲイリー:あはは。そう言っていただけるのは喜ばしい話ですけど。「ゲイリーさんは、ゲイリーさんらしく、ゲイリーさんの好きなことをやってほしい」みたいな言葉に甘えると、良いものを生み出せなくなっちゃうので。俺はナルシストで調子にのるタイプだから、常に中島みゆきさんとかジョン・レノンと比べるぐらいがちょうどいいんです。
- EMTG:そういうものなんですね。あと今作もパンク、ニューウェイヴ、グランジ、ファンクと様々なジャンルを縦断してますけど、いままで以上に統一感のある作品にも感じました。
- ゲイリー:それは良くも悪くもゲイリー・ビッチェ感が全開だからだと思います。やっぱり自分の居場所を探るだけで難しいなと思うんですよ、人生って。
- EMTG:モーモールルギャバンは、まだ自分の居場所を探してる途中なんですか?
- ゲイリー:たぶん死ぬまでその作業を続けるから、逆にその作業がなくなっちゃったら、モーモールルギャバンを辞めると思うんですよね。T-マルガリータ(Ba)はここ! ユコ=カティはここ!って定まっちゃったら、もう退化しかないだろうなって思ってます。
- EMTG:モーモールルギャバンって変態だとか個性派だとか異端児だとか、いろんな言われ方をしますけど、いまいちばんしっくり来るのって何なんですかね?
- ゲイリー:そんなのはないですよ。だって、作った本人がわかってないですもん、自分自身が作ってる音楽が何なのかっていうことを。
- ユコ:それを決めないでいこうっていうのが最初に決めたことなんです。決めちゃうとそこから動けなくなるのが息苦しいしっていう話をしたことがあって……覚えてる?
- T-マルガリータ:覚えてない(笑)。
- ユコ:だから何も決めないまま新しいことをやり続けることで、周りが個性を見つけてくれるし、結局は何をやっても3人のサウンドになるねって言われるので。ここまで冒険するような感じでやってきたから、いっぱいケガもしてきましたけどね(笑)。
- EMTG:これからもモーモールルギャバンはそうやって進んでいく?
- ゲイリー:そうですね。ピカソって晩年の作品がいちばん良いんですよ。
- ユコ:ピカソの晩年の言葉知ってる? 「やっと子供のような絵を描けた」って言ったんだよ。大人になると、大人が描くような絵になっちゃうから。
- ゲイリー:その言葉は知らなかったけど。最後はピカソみたいになれたらいいですよね。
【取材・文:秦理絵】
リリース情報
ヤンキーとKISS
2017年05月31日
STANDING THERE,ROCKS
1.AKABANEの屍
2.ガラスの三十代
3.亜熱帯心中
4.GIKKURI
5.ミナロマンス
6.ロックミュージック
7.異邦人
8.贖罪
9.夢ならば覚めてくれ
10.OTOMI
11.彷徨う馬鹿者の全て
2.ガラスの三十代
3.亜熱帯心中
4.GIKKURI
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06/16(金) 渋谷eggman
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