パノラマパナマタウン、オリジナリティを探求する冒険の果てに完成した『Hello Chaos!!!!』
パノラマパナマタウン | 2017.06.07
パノラマパナマタウンが6月7日にリリースした新作ミニアルバム『Hello Chaos!!!!』の制作はバンドが自分たちのオリジナリティを探求する冒険の時間だった。2015年にMASH A&Rのオーディションでグランプリを獲得して以降、『SHINKAICHI』と『PROPOSE』という2枚のミニアルバムをリリースしてきたが彼らは、当時を振り返り「ただやりたことをやっていただけだった」という。バンドが求めたのは「自分たちは何なのか?」という問いに対する明確な答えだ。今年4月には初の東名阪ワンマンツアーを開催して、東京・下北沢シェルターでのライブも成功させるなど少しずつ確実にバンドの地力をあげている4人に、今作にいたるまでの意識の変化と今作で掴んだ覚醒の予兆について話を聞いた。
- EMTG:最近ライブの意識がだいぶ変わってきたんじゃないですか? 見ていて前よりもお客さんに寄り添うような感じがするなあと思うのですが。
- 岩渕想太(Vo&G):明確にお客さんに届けたいっていう意識がついてきたなと思ってます。いままでは自分が言いたいことだけ言っていれば届くと思っていたんですけど。ちゃんと届けようとしないと届かないし、別に音楽シーンも変わらないっていうことに前作の『PROPOSE』を出した後ぐらいから気が付いたんですよね。
- EMTG:そういう話はメンバーともしたんですか?
- 岩渕:死ぬほどしたなあ(笑)。
- 田村夢希(Dr):自分たちがかっこいいと思うことだけをやってても伝わってないんだっていうのはお客さんを見てるとわかりますからね。みんなで意識的に変えていったんです。
- EMTG:自分たちでは絶対にかっこいいと思うことをやってるわけだから意識を変えるのは嫌じゃなかったですか?
- 岩渕:葛藤はなかったと思います。『PROPOSE』を作り終わって「なんか伝わらないな」とか「いままでどおりじゃダメなのかな」っていう気持ちがあって。より伝わるようにっていう考えは自然でした。気負って変えてやろうっていう感覚はないですね。
- 田村:マイナスなことじゃないから自分のなかの負い目とかもないんです。
- 田野明彦(B):その変化がライブだけじゃなくて、今回の音源にも繋がっていきましたね。
- EMTG:わかります。『Hello Chaos!!!!』はいままで以上に聴きやすい作品になってます。
- 岩渕:最高傑作ができたなっていう自負はありますね。
- EMTG:前作『PROPOSE』のインタビューでは岩渕くんが「今作は前置きです」って言ってたんですけど、今作を聴いたときにあの発言が腑に落ちたんですよ。
- 岩渕:あのときは今作のことは何も考えてなかったですけどね。全く予測不能なものができたんですけど……なんとなく『PROPOSE』を作ったときに、自分たちのオリジナリティを掴めそうな感じがあったんです。『PROPOSE』までは過去の曲をアレンジし直して入れる作業が多かったんですけど、今回は5曲ともアルバムのために作った曲で。意図してアルバムを作ることで自分たちのオリジナリティを考えようとしたのが、いままでとは全然違うんです。『Hello Chaos!!!!』は自分たちの歴史のなかでオリジナリティを築いていく入り口というか、取っ掛かりのアルバムになった気がしてますね。
- EMTG:オリジナリティの模索が今回のテーマだったんですか?
- 田村:そうですね。それは1枚目、2枚目の時からずっと4人で考えてたんですけど。
- EMTG:それは意外かも。パノパナの音楽はヒップホップとガレージロックの融合で、歌詞は尖ってて、みたいなのを自分たちのオリジナリティとして自覚してると思ってました。
- 岩渕:僕らは他とは違うことがしたいっていう共通認識でバンドを組み始めたし、それでいまあるシーンをひっくり返したいっていうのはあったんですけど、意図してパノラマパナマタウンの音楽はこれだ!っていうのを出してたわけじゃないんです。だから『PROPOSE』を出して、次のアルバムを作りたいと思ったときに「自分たちはどんなバンドなんだろう?」っていうのが自分たちでもわからなくなっちゃったんです。
- EMTG:人と違うっていうことだけじゃなくて、もっと明確な何かがほしかったんだ。
- 岩渕:いままでは他と違うっていう原動力だけで突っ走ってきましたからね。
- 浪越康平(G):いま、歌詞にオリジナリティがあるって言われて、「そう言えばそうだ」ってハッとしたんですけど。たぶん僕らは自分たちの好きなロックなサウンドだけを求めてて、それでオリジナリティがどこにあるのかわからなかったんです。歌詞は(岩渕に)ほとんど任せっきりだったというか。でも今回は曲とかバンドの方向性の話をしてるときに、こういう歌詞にしようと思ってるみたいなのがきて、そこから逆にサウンドが決まったりもしたんですね。特に最後の「odyssey」とか内面を表現する曲はそうだったと思います。
- EMTG:歌詞とサウンドの相互作用で曲ができていったんですね。
- 岩渕:歌詞の内容もいままではチラシの殴り書きというか、自分のなかで完結している私小説みたいな感じだったんですけど、このアルバムではちゃんと歌詞を届ける必要性を意識したので、それは自分ひとりの力じゃどうにもならないんですよね。みんなでリリックを立たせるサウンドにしていって。前以上に言葉を慎重にセレクトするようになったし、「果たしてこれで届くか」みたいなことを一語一句吟味するようになりましたね。
- EMTG:なるほど。生活の環境としてはメンバー全員が大学を卒業して、東京に拠点を移すようになったそうですけど。それは作品にも影響を与えましたか?
- 岩渕:それは歌詞に出てます。特に「リバティーリバティー」っていう曲は、周りが就活をして自分の進路を決めていくなかで、自分たちは就職を諦めて、あくまでバンドをやることにこだわってて……そういう自分を肯定する曲を作りたかったっていうのもあるんです。あとは親から決められたエスカレーターに乗って、なんとなく会社に入ったり、そもそも何になりたいかが決まってなくて悩んでる人もいっぱいいるのを見てて感じたことは、音楽をやることを選んだ自分らにしか歌えないものになると思ったんですよね。
- EMTG:“君が選ぶ未来だけに身をゆだねろ”とか“1から10まですべて自分が決めてやる”とか強い言葉が出てくるけど、それもいまだからこそ書けた歌詞だったんですね。
- 田村:そうですね。ライブでも何回かやってた曲なんですけど、途中で歌詞が変わり、それを受けて曲も変わり、だいぶ変化していった曲なんです。
- EMTG:ライブで聴いててもこの曲はサビのグルーヴが気持ち良くて、いままでのパノパナの曲のなかでいちばん訴求力が強いなと思ってます。
- 田村:実はこの曲は『PROPOSE』のときからあったんですけど、扱いきれてなかったんです。ポップ過ぎてダサいなぐらいに思ってたんですよ。
- 岩渕:『PROPOSE』を作ったときは自分たちの音楽をやり抜けば、聴き手を射止められると思ってたけど、ちゃんと間口が広いもの、明るいもの、誰でも聴けるものを作らないと聴いてもらえないっていうのを考えたときに、急にこの曲が恋しくなったんです(笑)。
- EMTG:心境の変化が「リバティーリバティー」の魅力を受け入れられるようになったんですね。
- 田村:ちゃんと納得のできるアレンジができるようになったのも大きいですよね。
- 岩渕:だからこの曲は射止めるというよりも、自分から(聴き手の心を)こじ開けに行くようになったっていう感覚が近いかな。
- EMTG:アルバムの他の曲の話も聞かせていただくと、まず1曲目「PPT」が自己紹介ソング。
- 岩渕:ビースティ・ボーイズとかヒップホップの人って上から目線でメンバーのことを「相当クレイジーなやつ」みたいなことを平然と言うじゃないですか。そのニュアンスはロックにはないなと思ってやってみたんです。そんなにお行儀良くなくてもいいなと思って。
- EMTG:この曲は岩渕くんから見たメンバーの歌詞が面白いです。
- 岩渕:1日で書けました(笑)。
- 浪越:この曲は4人のことを歌詞で歌ってるんですけど、ギターのフレーズでも4人の雰囲気を意識して弾いてるんです。夢希だったら体がデカいから6弦の太いところで弾いてみたりとか、そういう面白いのがありますね。
- 岩渕:ボーカルの紹介のところでは声を通るようにしたり、ギターの紹介のときにはギターの音が出たりとか音量も変えてるんです。
- EMTG:3曲目の「エンターテイネント」はパノパナ流のスカですね。
- 田野:これはサビとリズムから作っていきました。今回は伝えたいっていうコンセプトがあったから、ポップでキャッチーで楽しいものを作ろうと思ったんです。そのなかで急にダブっぽくなったり、ドラムのパターンを変えたりして尖った部分も残しつつ。
- 田村:パノラマパナマタウンのスカにしたかったんですよね。スカをやるパノラマパナマタウンじゃなくて。だからスカの上積みだけをとるんじゃなくて、みんなでいろいろなスカを聴いて、ちゃんと自分たちのフィルターを通して作りました。ふだんやらないジャンルだからこそ、自分たちらしく表現したいなっていうのは強かったです。
- 岩渕:歌詞に関しては『PROPOSE』までのアルバムでは書けないぐらいマジのことを言ってるんですよ。
- EMTG:既存のエンターテイメントに対してうんざりしてるっていうことですね。
- 岩渕:いままでみたいなエッジの効いた曲にこういう歌詞をのせちゃうと普通の表現になっちゃうんですけど、陽気で楽しそうな曲だからこそ、こういうことをのせても痛すぎないだろうと思ったんです。この曲は僕の本音だし、なんとかしたいことですね。
- EMTG:いま話を聞きながら、パノパナのインタビューでメンバーの口からポップとかキャッチーっていうワードが出てくるのが事件だなと思ってます(笑)。
- 岩渕:そうですね(笑)。同じ部屋で同じ人が喋ってるのに。いま僕は完全にポップ脳になってるんですよ。この『Hello Chaos!!!!』以降も新曲はできてるんですけど、ポップなものを作る感じのモードになってるから。それは自然な流れなんですよね。
- 田野:それも「リバティーリバティー」ができたことがだいぶ自信になったよね。あの曲でパノラマパナマタウンを確立したなというのがあったんです。
- EMTG:もしかしたら『Hello Chaos!!!!』を1作目としてパノパナに出会っていたら、バンドの印象が全然違うと思うんですよ。1枚目、2枚目でバンドのルーツを尖ったまま剥き出しにしてきたからこそ、3枚目の流れにも意味があると思うんですよね。
- 岩渕:たしかにそうかも。
- 浪越:いまルーツを出してきたって言ってくれましたけど、前のアルバムを出したとき、いろいろな人に「ルーツがない」って言われてしまったんです。それがすごく悔しくて。
- 岩渕:掴みどころがないって言われたよね。
- 浪越:そのへんのバンドより俺らのほうが絶対に音楽が好きやし、いっぱい音楽を聴いてるのに、「ルーツがない」なんて言われてめちゃくちゃ悔しかった。
- 岩渕:それは当たり前っちゃ当たり前だったんですよ。いままでの2枚はやりたいようにやって出したから、「これをやりいたい」っていう軸しかなかったんですよね。
- EMTG:ルーツはあるんだけど、全部がミックスし過ぎててわかりづらかったんですよね。
- 岩渕:いままではメンバーが聴いてきたものがバラバラだったから、4人それぞれが持ってきたものを意図せずミックスしてたんです。でも今回は自分らが聴いてきたものを整理して、じゃあ、これとこれを入れようみたいなことをロジカルに考えるようにしたんですよね。
- 田村:喩えるなら、いままでは食材を持ち寄って鍋に入れただけだったから。
- EMTG:闇鍋状態だったんですね(笑)。
- 田村:そうそう。でも今回はチゲ鍋を作りたいなっていうのを最初に決めて、そのために自分らが持ってる食材のなかから必要なものを考えて持ってきたりとか。
- 浪越:僕のギターも誰々さんの畑で採れた食材しか使ってないみたいな感じです(笑)。
- 岩渕:言ったらレシピがある闇鍋じゃない?美味しい闇鍋というか(笑)。最終的にはやっぱり整え切れてないからチゲ鍋にもなってないです。
- 田村:そう考えると(1枚目の)『SHINKAICHI』はスゴイよな。完全に闇鍋だった。少々の不具合というか、予定不調和はほっといて作ったから。
- 岩渕:パンクアルバムやったな。
- 田村:あれはあれで良いよね。
- EMTG:だから本人たちは意図してないけど、ここまでの『SHINKAICHI』『PROPOSE』『Hello Chaos!!!!』は3部作だと思いますよ。全部聴くことでパノパナを知れる。
- 岩渕:トータルで知ってほしい。
- EMTG:今回でバンドのオリジナリティの手がかりを掴んだとなると、またすぐに次を作りたくなってるんじゃないですか?
- 岩渕:そうですね。自分たちのなかではやり切ったし、最高傑作っていう想いもあるんですけど、「あとちょっと」っていう感じもあるんですよね。ここを掘り進めればパノラマパナマタウンに出会える。そういうアルバムになったなと思ってます。
- 田野:そこで見えてきた僕らのオリジナリティは“混沌”なんですよね。だから『Hello Chaos!!!!』っていうタイトルなんですけど。まだまだ自分たちには可能性があるなと思ったし、それを4人でできるっていう自信もついたので、これからどんどん最高傑作ができていくんだろうなって楽しみですね。
【取材・文:秦理絵】
リリース情報
Hello Chaos!!!!
2017年06月07日
MASH A&R
1. PPT
2. リバティーリバティー
3. エンターテイネント
4. パン屋の帰り
5. odyssey
2. リバティーリバティー
3. エンターテイネント
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