なぜ、Rhythmic Toy Worldは3枚目のフルアルバムにして、改めてバンドの尊さに立ち返ったのか?
Rhythmic Toy World | 2017.09.05
「このメンバーと一緒にバンドをやれていることが、俺のいちばんの才能だよなと思った」。ニューアルバム『TALENT』(=才能)のタイトルの意味を聞いたとき、ボーカルの内田直孝(Vo・Gt)が答えた言葉だ。そのタイトルをメンバーもまた「腑に落ちる」と言う。なぜ、Rhythmic Toy Worldは3枚目のフルアルバムにして、改めてバンドの尊さに立ち返ったのか。そして、これまで以上に“歌の良さ”に重きを置いた作品でありながら、決してボーカルの独りよがりではない1枚を作ることができたのか。その答えが以下のメンバー全員インタビューに詰まっていると思う。衝動と遊び心、リスナーに寄り添うメッセージというリズミックらしさはそのままに、初めて内田を中心にしたメンバー主導のサウンドプロデュースに踏み切った今作は、この4人の誰が欠けても完成することはできなかっただろう。
- EMTG:前作『「HEY!」』から1年ぶりのフルアルバムですけども、また全く違う雰囲気の作品になったと思います。ひとことで言うと、歌が沁みるというか。
- 内田:そう、今回は歌が沁みるように作ったんですよ。逆に言うと、いままでそういうことは考えてなかった。もっとドラムの音がデカかったり、楽曲先行みたいなところがあって。それが「もったいないんじゃないか」みたいなことを話してたんです。声と歌詞とメロディがいちばん印象に残るほうが、自分たちのバンド的には良いはずだから。そのためのビジョンを描きながら作ったので、ここにきて“改めて歌が良いね”って言ってもらえるように、正直仕向けたっていうところですね。
- EMTG:まんまと仕向けた罠にハマりました(笑)。
- 磯村貴宏(Dr):だから今回は録るときに、内田が全部の楽器のレコーディングに立ち会ったんですよ。そういうことをやったのは初めてだよね。
- 内田:僕、いままで何もしなかったので……。
- 須藤憲太郎(Ba):いや、何もしなかったわけではないけど。
- EMTG:作詞と作曲以外のところはメンバーにお任せしてましたよね。
- 内田:もう僕は曲と歌詞だけでいいと思ってたんです。うちのプロデューサーもバンドの大先輩だし、僕には知識がないから、それまでずっと助けてもらってた。でも枚数を出していくなかで、自分の好みがわかってきたところもあって。もっと自分の頭のなかで鳴っているものを再現してみたいなと思うようになったんです。
- EMTG:それで今回は内田くんを中心にした、メンバーのセルフプロデュースになったと。
- 内田:いままでは僕らはずっと同じエンジニアさんにお願いをしていたんですけど、その人が「Rhythmic Toy Worldはどうすればかっこよくなるだろう?」っていうことをすごく考えてくれるプロデューサー的な感じだったんですね。でも、今回はいままでとは違うものにしたかったから、「自分たちでやってみたら」って任せてもらったんです。
- EMTG:そもそも改めて歌を伝えたいと思ったのは、なぜだったんですか?
- 須藤:最近、みんなで先輩のバンドのライブを見に行ったりもするんですけど、それが「そういう人たちと闘うための自分らの武器は何だろう」っていうことを改めて見直すきっかけになったんです。「俺らの足りないところはどこだろう?」「ブラッシュアップできることは何だろう?」っていうのを話し合っていくうちに“歌”に帰結したというか。
- 内田:原点に帰ったという感じですよね。「このバンドは何をきっかけにできたんだろう?」っていうのを考えたときに、僕がいて、僕の歌に惚れてくれた須藤くんがいて、きっちゃんがいて、磯くんがいて始まってるから。そこを中心にして、みんなで手に入れてきた感性を合わせたら、最初と考え方は一緒でも違う作品になるだろうなって。
- 岸 明平(Gt):僕らは常に歌がメインではあったんですよ。でも、それが今回はいままで以上に爆発してるんです。
- EMTG:なるほど。いまの話を聞いて、わたしも腹を括れるところがあって。リズミックは歌が良いのはわかってるけど、それだけじゃない遊び心もあるし、演奏にもこだわってる。ある意味、器用なバンドでもあるぶん、逆にどこを伝えるたらリズミックが魅力的に伝わるかなって、いま正直に言うと、迷いはあったんですね。
- 内田:なるほど。
- EMTG:でも、今回のアルバムは迷いなく「リズミックの歌を聴いてくれ」って言える。
- 内田:そういう方向に振り切ってもいいと思えたのは、『「HEY!」』を経たからですね。今回は歌を意識しつつも、ライブをイメージできない曲は絶対に作らないようにしたんですよ。それをやり過ぎると、マニアックな作品になっちゃうから。バンドって作ろうと思えば、どこまでも自分勝手なものを作れる立場だと思うけど、でも絶対に僕らはそうはなっちゃいけない。作品としても鋭いものを感じてもらいつつ、ちゃんとライブチューンとして存在できるような歌というか、そのギリギリのせめぎ合いではあったと思いますね。
- EMTG:バンドのセルフプロデュースになって、全パートのレコーディングに内田くんが立ち会ったというのは、実際どうだったんですか?
- 磯村:新鮮でしたね。いつもベードラはふたりだけで作ってるので。もちろん(内田は)ドラムに関してはわからない部分も多いから、「これを使ったらどうなる?」って聞いてくるし、それに対して「より響くようになるよ」とか「デジタルみたいな感じにしたいなら、こっちかな」とか教えながら。そういうことも初めて話せたから、最終的にはいままでにない音になったと思います。とくに2曲目の「JIGOKU」とか。
- 岸:いままでと全然違ったよね。
- 須藤:ベースの場合は音色を決めていくために、お互い意見を出し合ったんですけど、(内田は)すげえ良い感性を持ってるなと思いました。自分のなかで新しかったのは「フラッシュバック」なんですけど。僕が“こう聴かせたい”っていうベースのフレーズが上手く目立つように考えてくれる部分もあって。そういうのがすごいなと思いましたね。
- 内田:いままでよりベースのレコーディングに関しては早かったよね。
- 須藤:そうだね。
- 内田:そのエンジニアさんがベーシストだから、人一倍ベースには厳しいんですよ。
- 須藤:僕は独学だから、いろいろと学ぶところがあって。
- 内田:それが、僕がギター録りに入ったときぐらいに、「須藤くん、上手くなったよね」みたいなことを言ってくれたんです。でも、それを本人に言わないっていう(笑)。
- 須藤:あはははは!
- 内田:僕が伝えておくことなのかなと思って、言いましたけどね。
- EMTG:嬉しい話じゃないですか。
- 内田:そう、今回、僕はエンジニアさんと戦わなきゃいけないと思ってたんですよね。だから、そこで自分のメンバーの成長を認めてもらえたり、それぐらいメンバーがすげえ力を発揮してるのは勇気になったというか。絶対に良いものを完成させようっていう気合いが入ったし、そのぶん独りよがりにならないように意識して進めていった感じですよね。
- EMTG:岸くん、ギターに関してはどうでしたか?
- 岸:ちょうどリードギターを入れてるあいだに、(内田は)家で歌詞を書いてたので、僕の場合は立ち会いはなかったんですけど。でも、毎曲「これでどう?」ってデータを送るんです。そうしたら「ここが違う。こうして」みたいな電話がかかってきて。
- 内田:すごいビジネスマンみたいな感じがした(笑)。一個あったよね、イントロとアウトロにエフェクトをかけたいっていうので……。
- 岸:「JIGOKU」?
- 内田:そうそう、僕がどうしてもファミコンみたいな音を入れたかったんですよ。
- 岸:そのやりとりは面白かった。最終的にはポップな音として完成させてはいるけど、最初は本当にタイトルのとおり「地獄!」みたいな音を入れてたんです(笑)。
- EMTG:じゃあ、そうやって1曲ずつ内田くんの頭にある音のイメージに向かって、メンバー全員で近づけていくような作業だったと。
- 磯村:いままで最終確認でやっていたことを、レコーディング中もずっと一緒にやってた感じですね。気になったらその場で変えるっていう。すごく面白かったです。
- EMTG:1曲目の「未来ワンダー」ではイントロのシンセのフレーズが新鮮でしたけど、これはどんなふうに作っていったんですか?
- 内田:もともとはこういうスペイシーな楽曲を作るつもりはなかったんですよ。
- 岸:DTMで曲を作っていくなかで、シンセのソフトを導入したんだよね。
- 内田:そうそう。それで新しいゲームを買ったみたいに、ずーっと夜中に遊んでて。「この音やべえ!」って、1個ずつ「これは何々っぽい音」とか紙に書き出して、自分の好みの音リストみたいなのを作って(笑)。最初はひとりで楽しんでたんですけど、それをもともと作ってた「未来ワンダー」に合わせてみて、メンバーに送ったんですよ。
- 磯村:最初はスタジオで合わせて作ってた曲だったんですけどね。
- 内田:この曲ができて、すげえ興奮したもん。僕らみたいな、ライブで汗をかいて、フロアとの距離感もなく、「柵なんて目に見えてるだけで、ないようなもんだ」みたいな世界観でライブをやってるやつらが、こういう音を合わせるのって、ありそうでないと思うんです。音的にはオシャレでも暑苦しさがあるというか。
- 岸:冒険したよね。でも大好きな曲になったし、新しい扉が開いた気がする。
- 内田:素直に嬉しいのが、これをメンバーも喜んでくれたことなんですよ。みんなすげえ音楽を聴くんです。熱心な音楽家。でも僕は趣味が凝り固まってるから、みんなに教えてもらって、いろいろな音楽を知っていくんですね。それが心地好くて。末っ子だし(笑)。でも、そんな僕が面白いと思ったものを、みんなも面白がってくれたんですよ。
- EMTG:それは結局、新しいことをやったのに、良い意味でリズミックの枠からはみ出さなかったからだと思います。
- 内田:そう、その枠から出ちゃったら、やっぱり嫌悪感が生まれるんですよね。
- 岸:結局、どんなに同期が鳴っていようが、直孝の歌とメロディがのったらリズミックになるんです。そのなかで「未来ワンダー」は新しいものになってるなと思いました。
- EMTG:そういう新しいチャレンジの曲があるなかで、特にアルバムの後半にかけては歌をしっかり聴かせますね。「涙の使い道」とか「ポエトロジーライド」とか……。
- 内田:「大丈夫」とかね。この曲は須藤くんがすごく好きなんですよね。
- 須藤:メロディ、歌詞がどんぴしゃなんです。すごく泣きそうになりました、久しぶりに。学校帰りだったり、会社帰りだったり、何かのあとに聴いたら、きっと「明日もがんばれそう」みたいに感じると思うんですよね。疲れてたんですかね、僕(笑)。
- 内田:そういうのを言ってくれるのが嬉しいですよね。みんな疲れてるもん。これは僕が僕に向けて書いたんですよ。事務所で歌詞を書いてたんですけど、全然書けなくて。「どうしよう?どうしよう?」と思ってたから……。
- EMTG:それで“今日はもう帰ろうか”って出てきた?
- 内田:だから、そのまんまなんです。あと僕らは人の背中を押すような曲を作ってきたけど、その気持ちに新しい角度がほしかった。背中の押し方って、前に進むだけじゃないというか。「別に無理することないから」みたいな感じがあってもいいと思ったんです。たぶん僕がそれを20歳のときにやってても、あんまり響かなかったと思うんですけど。この年齢になったからこそ言える。「今日はもういいじゃん、帰ろう」みたいな。
- EMTG:わかります。『「HEY!」』のときは、それを許さない背中の押し方ですもんね。
- 内田:ケツを叩くみたいな感じでしたよね(笑)。
- EMTG:アルバムのタイトルを“才能”という言葉にしたのは?
- 内田:これはレコーディングをする前から考えてました。“才能”なんて言うと、パッと聞いたら、「すごいものができました」って感じるかもしれないんですけど、僕は曲を作れば作るほど、自分の得意不得意が嫌というほどわかってくるんです。でも、不得意なところはメンバーが助けてくれるんですよね。それがバンドだから。僕の得意なところ、才能と言われるものがあるとしたら、それもこの3人がいるからこそだと思うんですよ。人の才能は誰かがいてこそ発揮される。っていうことを、このタイミングでサウンドプロデュースを任せてもらえたことで感じたんですよね。メンバーも「やれることはやるから何でも言って」って言ってくれたし。「これだよな」と思ったんです。この人たちと一緒にやれたことが、俺のいちばんの才能だよなって。
- EMTG:内田くんがこのタイトルを持ってきたとき、メンバーはどう思いましたか?
- 磯村:ニヤけちゃう感じだったよね、いまみたいな話を聞いて。「お?おぉ」みたいな(笑)。
- 岸:僕、「ユメイロ」のサビの歌詞がすごく好きなんですよ。“才能なんて無くたっていいんだって 自分に言い聞かすよ”のところ。そこを直孝がすごく伝えたいところっていうのはわかったので、このタイトルがきたときも「これしかないな」と思いました。
- EMTG:なるほど。いま作り終えて、エンジニアさんとの戦いには勝てたと思いますか?
- 内田:圧勝でしたね(笑)。正直、しんどかった部分もあったけど、やっぱりまたみんなで作りたいなと思えたので。みんなが甘えさせてくれるところは、もっと力を借りて、もっともっと……メンバーが「音楽をやってて楽しい」って思ってくれるような曲を作りたいです。今回、きっちゃんは作り終わったあと、もぬけの殻みたいな感じだったんですよ。
- 岸:39℃の熱が出たんです……。
- 磯村:知恵熱が出た(笑)。
- 岸:「この先、これ以上のものができるのかな?」って怖くなるぐらいやり切ったんです。3日経ったら、またすぐに新しいのを作りたくなったから、大丈夫だったんですけど。
- EMTG:なんだか話を聞いてると、今回は初めてのアルバムを作ったみたい。
- 岸:あ、そうですね。
- 内田:本当に楽しかったんですよ。なんか……応援してくれる人の顔が浮かぶと、そう簡単に右左を決められないところもあるんですけど。自分たちがやりたいことをやったうえで、「最高じゃん」って言ってもらえるような作品を作るっていうところでは、絶対に譲る気がないというか。絶対に満足させる、納得させる、想像以上のものをライブで届けるっていう覚悟があるので。うん。マジで良い作品ができたなって感じです。
【取材・文:秦 理絵】
リリース情報
TALENT
2017年09月06日
STROKE RECORDS
1.未来ワンダー
2.JIGOKU
3.フラッシュバック
4.ミュージックマン
5.大丈夫
6.ポエトロジーライド
7.バベル
8.ドンシンフィー
9.メインアクト
10.涙の使い道
11.いつか (TALENT Ver.)
12.ユメイロ (TALENT Ver.)
2.JIGOKU
3.フラッシュバック
4.ミュージックマン
5.大丈夫
6.ポエトロジーライド
7.バベル
8.ドンシンフィー
9.メインアクト
10.涙の使い道
11.いつか (TALENT Ver.)
12.ユメイロ (TALENT Ver.)
お知らせ
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■ライブ情報
Rhythmic Toy World「TALENT」リリース記念インストアライブ
09/08(金) 名古屋パルコ店西館一階エントランス
09/09(土) タワーレコード梅田NU茶屋町店 店内イベントスペース
09/18(月) タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
Rhythmic Toy World Release Tour
『転生?なにそれ美味しいの?ツアー』
[2017年]
09/21(木) 千葉 LOOK
09/28(木) 金沢 LIVE HOUSE vanvanV4
09/30(土) 富山 Soul Power
10/03(火) 神戸 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
10/04(水) 岡山 CRAZYMAMA 2ndRoom
10/06(金) 福岡 LIVE HOUSE Queblick
10/15(日) 四日市 Club Chaos
10/18(水) 札幌 COLONY
10/27(金) 静岡 Live House UMBER
10/31(火) 高松 DIME
11/02(木) 名古屋 CLUB QUATTRO
11/04(土) 大阪 Music Club JANUS
11/17(金) 前橋 DYVER
11/18(土) 郡山 CLUB #9
11/24(金) HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2
12/07(木) 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd
12/15(金) 水戸 LIGHT HOUSE
[2018年]
01/26(金) 東京 TSUTAYA O-EAST
小田原イズム 2017
09/16(土) 小田原アリーナ
ヒステリックパニック主催 DEAD or ALIVE TOUR 2017
09/17(日) 山梨KAZOO HALL
09/24(日) the five morioka
KNOCK OUT MONKEY TOUR 2017 "HELIX"
10/14(土) 豊橋 club KNOT
岐阜薬科大学三田洞キャンパス 薬大祭2017
10/20(金) 岐阜薬科大学三田洞キャンパス
近畿大学工学部 広島キャンパス 学園祭「うめのべ祭」
10/29(日) 近畿大学工学部 広島キャンパス 多目的ホール
八王子天狗祭2017
11/11(土) エスフォルタアリーナ八王子
忘れらんねえよ主催 ツレ伝ツアー 2017
12/01(金) 新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
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