日食なつこ、5枚目となるミニアルバム『鸚鵡』は、最新にして最高、そして最強の作品に。

日食なつこ | 2017.09.25

 今年1月にミニアルバム『逆鱗マニア』を発表し、そのソングライティングのクオリティーと圧倒的な存在感でシーンをザワつかせた日食なつこ。その作品を携えて行われたツアーは全公演がSOLD OUTとなり、今年の夏は、全国の大型野外フェスやライブイベントへの出演も果たしている。そんな彼女が、早くも5枚目となるミニアルバム『鸚鵡』をリリース。最新にして最高、そして最強の作品であることは言うまでもないが、インタビューの最後に彼女はサラリとこう付け加えた。
「『鸚鵡』は全力の通過点。この先がちゃんとあるから見ていてください」
もうすぐ始まるワンマンツアーも、絶対に見逃せない。

EMTG:本作の制作はいつ頃から始めたんですか?
日食なつこ:前作の『逆鱗マニア』をリリースして半年くらい経ってからです。「関ジャム 完全燃SHOW」というテレビ番組で取り上げていただいたこともあって、『逆鱗マニア』の前後1年くらいは本当にたくさんの方と出会ったんですね。第一線で活躍している人のほとんどは、桁が違うような制作活動をしている怪物みたいな方ばかり。「かっこいい曲書いてるつもりだったけど、自分はまだまだ全然足りないな」と思い知らされていた頃で。
EMTG:桁が違うって、たとえば仕事量とか人間力とか?
日食:そうですね。ひとつ例を挙げると、今年RADWIMPSとフェスで一緒になったんですが、トリのステージを終えた野田(洋次郎)さんに駄目元でCDを持って挨拶しに行ったら、ものすごく丁寧に対応してくださったんです。野田さんは紅白にも出られていて、私はそれを実家で見ていたような立場じゃないですか。それなのに、さっきまでステージで何万人という人たちを魅了していた人とは思えないくらいの謙虚さで「お名前は存じ上げております」と。こんなにも人間が出来ていて、書く曲が素晴らしくて、ステージではめちゃくちゃかっこいい。「なんだこの人、完璧じゃないか!」と思ったらもうなんだか悔しくて嫉妬して、楽屋に戻った途端に号泣だったんです。音楽も人間としてもレベルが全然違う。怪物だなあって。
EMTG:そんなことがあったんですか。
日食:たぶん野田さんもいろんなことを感じて乗り越えて来たから今があるんでしょうけど、私はなんで今頃こういうことを思い知ってるんだろう。もう、全部遅いなと。(今作6曲目の)「LAO」に<眩しい光にやられる時は 落ちる影を捕まえるのさ>とあるんですが、尊敬し憧れる人に照らされると、ゴミみたいな自分の姿が影になって見えるんですよ。でもその影、つまりダサいところをちゃんと見ないと成長はないなと思ったし、ごまかしてどうでもいい曲ばかり書くようになる気がしたんですよね。
EMTG:なるほど。
日食:自分はまだまだそういう怪物みたいな人たちには追いつけないけど、それでもやっと、飛び方くらいは理解し始めた。ひとまず今は「鸚鵡」と名乗って、いつか怪物になってやるんだっていう思いもありました。
EMTG:しかし「鸚鵡」って、すごいところに目を付けましたね。
日食:誕生日のプレゼントとして、姉からフルカラーの鳥図鑑をもらったんですよ。名前の由来が面白い鳥とかたくさんいて、その中でも、オーストラリアにいるアカサカオウムに目が止まったんです。超かっこいい見た目、しかも学名を見たらギャングギャングコッカトゥー(Gang-gang cockatoo)。漢字の「鸚鵡」もそうだけど、なんだかすごいパワー・ワード感があるからいつか使いたいなと思ってたんですよね。
EMTG:それで1曲目が「ギャングギャング」。
日食:あわよくばこの鳥になりたいと思うくらい、完璧なフォルムがかっこいいんです。だけど憧れて真似るのもいいけど、お前の中身は付いていっているのか?鸚鵡返しや、鸚鵡のような真似っこばかりでお前はいいのか?そういう自分自身への問い、そしてたまに東京で見かけるそういう人へのディスりみたいな曲で幕を開けます(笑)。
EMTG:東京って、そのあたりの感覚がうやむやになりがちですよね。ファッションだって、誰かの真似してるだけなのに自分の個性だと思い込めるというか。
日食:そうそう。「それで自信持って実家に帰れるの!?」みたいな人、いますよね(笑)。服装に限らず、だったらもっと中身を伴ったオリジナルで生きて行けよってことを歌ってます。
EMTG:「レーテンシー」の<味見のような人生を繰り返す奴は連れていけないよ>という歌詞にハッとする人も多いと思いますよ。
日食:お試しみたいなことばっかりやってたら、いつまでも辿り着けない場所があるなって。それは自分にも思うし、他人に対しても思うことです。この「レーテンシー」って時差とかタイムラグっていう意味なんですけど、レコーディングとかしていると結構使う言葉なんです。たとえば何かのスイッチを押してランプがつくまでに起きてしまうような、悪いタイムラグ。それを、自分の中でもすごく感じてしまったんです。例えば、これを曲にしたいと思ってから実際に曲にするまでとか、思いついたアイデアを提案するまでとか。それはたぶん『逆鱗マニア』の評判が良かったこととか、「関ジャム」で「水流のロック」を取り上げていただいたりしたことによる余裕が、悪く出ちゃったのかなと思うんです。そんな余裕こいてるんじゃないぞっていう曲でもありますね。
EMTG:「座礁人魚」と「2099年」は、大きな意味でのラブソングですね。
日食:正直、最後まで入れるかどうか迷った曲です。あの『逆鱗マニア』というアルバムを作れたこと、それをいい感じで受け取っていただけたことはやはり大きかったと思うので、この先1年が勝負というか、日食なつこはまさに今が攻め時かなと思っているんですね。攻めなきゃいけない時にこういう優しい曲を増やすのはどうなのかなと。
EMTG:個人的には全く逆に捉えていました。すごく意志があるというか、あえてここで歌う自信みたいなものを感じたというか。今回、日食さんの声そのものにものすごく強さを感じていたんです。今言われた攻めの姿勢とか気迫みたいなものが、どの曲にもにじみ出ているなと。
日食:歌は、かなりトレーニングしたんです。自分が書いている曲に、自分の声がそろそろ追いつかないなと思ってきたんですよ。2年ぐらい前からなんとなく誤魔化しながら歌ってきたけど、もうダメだと。だからたしかに、声は強くしましたね。でも上手く歌おうとかではなく、狙いを定めて歌う感が強くなったというか。なので、そう言ってもらえてすごく良かったです。
EMTG:「廊下を走るな」には、前作に続いてBLACK BOTTOM BRASS BANDが参加されてますね。
日食:私はピアノソロのイメージだったんですが、プロデューサーがこの曲は絶対にBLACK BOTTOM BRASS BANDを入れてノスタルジーにした方がいいと。最初は正直ピンと来てなかったんですが、一発目の音を聴いた瞬間にすべてがハマった気がしました。
EMTG:前作に収められた「あのデパート」もそうですが、日食さんの作る音楽には<ノスタルジー>も大事な要素なのかなと思います。
日食:そうですね。なんだろうな?東京に出てきて暮らしていると、どうしても対比として(地元の)岩手という場所が浮かんできて。岩手に残してきた思い出とか培ってきたものが、ノスタルジーとなって顔を出してると思うんですよね。そこはたぶん、これからもそうなんだろうなと思います。
EMTG:そしてラストの「ハッカシロップ」は、現在日食さんが暮らしている東京の部屋から見ている夕焼けの景色で。
日食:やっぱり景色が見えてこない歌はダメだと思っていて。夕焼けってちゃんと見ていると、名前を付けられない色が何段もあるんですね。そういうところまで聴いている人がちゃんと思い浮かぶ表現ってなんだろうと思って、<熟したピーチほとばしるライム>など、これしかない!っていうピンポイントのワードを意識して埋め込みました。ちなみに前回のインタビューで防音効果の高い部屋を探しているって話をしたんですが、今の部屋に引っ越してから曲がすごく書けるようになったんですよ(笑)。
EMTG:あ、検索ワードの(笑)。
日食:面白いですよね。その時その時、自分にとってのリアルが常に埋め込まれていくって。
EMTG:たしかに。じゃあ逆に、日食さんにとってのフィクションってどういうものですか?
日食:なんだろう?遊び場かな?夢の中じゃないけど、自分が出来ないことをやれる場所。フィクションの中だったら空が飛べるし、海も泳げるし、言い方は悪いですけど人も殺せてしまう。でも曲の中で「これはフィクションなのか?ガチなのか?」をうやむやにしてお客さんを翻弄するというのは、割とやってますね。「こんな体験したんですか!ヤバいですね」って言われることもあるけど、それも私と聴いてくださる方とのコミュニケーションの一種だと思うし、きっと、そういう遊びを好き好んでくれてるんじゃないかなと思ってます(笑)。

【取材・文:山田邦子】

tag一覧 ミニアルバム 女性ボーカル 日食なつこ

リリース情報

鸚鵡(おうむ)

鸚鵡(おうむ)

2017年09月27日

LD&K

1.ギャングギャング
2.レーテンシー
3.座礁人魚
4.2099年
5.廊下を走るな
6.LAO
7.ハッカシロップ

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犬面人
人の顔した犬の「人面犬」ならぬ「犬面人」がどうしても見たくなって、画像検索をしました(笑)。実家でパグを飼い始めたんですが、パグって暗闇で見ると人面犬みたいだよねって話から、その逆はどんな感じだろうと思ったのがきっかけ。でも全然いい画像はありませんでした(笑)。


■ライブ情報

J-WAVE SONAR MUSIC LIVE VOL.2
10/01(日) 赤坂BLITZ

MINAMI WHEEL2017
10/09(月) 大阪ミナミエリア

INACA FES CAMP 2017
10/15(日) 岩手県花巻市 宮沢賢治童話村

猪苗代野外音楽堂 音仕舞い2017
10/29(日) 猪苗代野外音楽堂 ドッグランステージ

日食なつこワンマンツアー
「時差呆け矯正ツアー」

11/04(土) 横浜BayHall
11/15(水) 京都 磔磔
11/16(木) 名古屋ボトムライン
11/24(金) 広島Live juke
11/26(日) 高松SPEAK LOW
12/02(土) サンピアザ劇場
12/03(日) 札幌くう
12/07(木) 仙台Darwin
12/08(金) 新潟GIOIA MIA
12/17(日) 福岡Gate’s7
[2018]
01/08(月祝) 日本橋三井ホール
01/14(日) なんばHatch
01/20(土) 盛岡club CHANGE WAVE

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