パノラマパナマタウン、大勢の人たちを“中毒”にする覚悟を詰め込んだミニアルバム 『PANORAMADDICTION』で待望のメジャーデビュー
パノラマパナマタウン | 2017.12.27
2015年に「ロッキング・オン」と「MASH A&R」のオーディションでダブルグランプリを受賞したことで、大学生時代からロックシーンで注目を集めてきたパノラマパナマタウンがいよいよメジャーデビューを果たす。全員が大学を卒業。本拠地・神戸から上京した彼らのメジャーデビューアルバムは『PANORAMADDICTION(パノラマディクション)』。今作には、ガレージロック、グランジ、ブルースやヒップホップなど、様々なジャンルの音楽を好き放題にミックスすることで、自分たちだけのロックを追求し続けてきたパノラマパナマタウンのセンスが全開放されている。不敵に“ほっといてくれ”と連呼するリード曲「フカンショウ」のほか、初のタイアップとなったテレビアニメ『十二大戦』のオープニング曲「ラプチャー」も収録。プロデューサーにはONE OK ROCKなどを手がけるakkinを起用するなど、今作には、いつも “伝わらないもどかしさ”と闘ってきた彼らが、枠からハミ出た自分たちの音楽で、大勢の人たちを中毒にする覚悟が込められている。
- EMTG:新宿LOFTでメジャーデビュー発表のライブも見ましたけど、アンコールで発表するかと思いきや、「MOMO」っていう曲の途中で言っちゃったのがパノラマパナマタウンらしかったです。
- 岩渕想太(Vo&Gt):普通に発表をしたくなかったんですよね。みんなが静かに聞いてるなかで、「俺たちメジャーデビューします」って言う絵は想像がつかなくて。俺らはそんなバンドじゃねえよなって。型破りな発表の仕方のほうがいいなと思ったんです。
- EMTG:うん、パノラマパナマタウンらしかったと思います。MASH A&Rのオーディションで優勝してから激動の1年半だったと思いますけど、どう振り返りますか?
- 岩渕:自分たちのなかでやりたいことは最初からわかってたんですけど、それをどう見せていくかっていうのを考える時間でしたね。俺らの頭のなかにはめちゃめちゃデカい宇宙が広がってるけど、伝え方がわかってなかったんです。
- 田村夢希(Dr):頭のなかにあるっていうのが、いちばんラクな状態なんですよね。それを出すってなったときに、ちゃんと伝わるようなかたちにするのが難しかったというか。
- EMTG:インディーズ時代には3枚ミニアルバムを出したけど、なかでも“伝える”っていうことを念頭に置いて作ったのが、前作の『Hello Chaos!!!! 』でしたよね。
- 岩渕:そうですね。
- EMTG:あの作品ができたことで、自分たちの音楽が伝わるっていう実感は得られましたか?
- 岩渕:半々ですかね。『Hello Chaos!!!! 』に入ってる「リバティーリバティー」っていう曲を聴いて、それこそ「親とか先生に反対されてたけど、自分のいきたいほうに進みました」っていう声をもらったんです。そういう声を聞いたのはバンドをやってて初めてだったんですよね。自分の音楽で心を動かされた人がいるっていう事実が嬉しかったから、“届いた!”っていう実感もあったけど、逆に「リバティーリバティー」みたいな開けた曲を作っても、ここまでしか広がらないんだっていうのも同時に感じましたね。
- EMTG:そこに難しさを感じてるけど、まだ全く諦めてないですよね、届けるってことに。
- 岩渕:うん。そこに無限の可能性があると思うんですよ。僕らがずっと向き合っていかなきゃいけないことだと思うんですよね。あの作品を作ってもまだ終わらずに“届けたい”っていうメンタリティになれたのは良かったですね。
- EMTG:ちなみに、パノラマパナマタウンと同じMASH A&R出身でA-Sketchからメジャーデビューした先輩バンドで言うと、オーラルは武道館も成功させたし、フレデリックは神戸ワールド記念ホールを控えてるじゃないですか。
- 岩渕:うんうん。
- EMTG:これからのロックシーンを引っ張るようなバンドが集まる面白いレーベルだと思いますけど、そこに自分も所属しているということに関しては、どう感じてますか?
- 岩渕:ああ、そうだな……オーラルとかフレデリックは倒したいと思ってます。
- EMTG:お、いいね(笑)。
- 岩渕:そこについていくために事務所に入ったわけじゃないし、自分たちで引っ張っていくぞっていう気持ちですね。そうじゃないと入ってないし。やりたいことをやらせてくれる場所だからこそ、自分たちが良かったら認めてもらえるし、良くなかったら終わるだけだし、全部自分たちの責任なんですよね。
- EMTG:わかりました。そんなメジャーデビューの1歩目となる、『PANORAMADDICTION』ですけど。パノラマパナマタウンがノージャンルであることに開き直った作品だと思いました。
- 岩渕:なるほど(笑)。
- EMTG:ゴチャゴチャに入り混じったルーツを逆手にとって、これが自分たちだ!って言い切ったことですごく良いアルバムになったと思う。
- 岩渕:うん、ゴチャゴチャであることを逆手にとったっていうのは、まさにそうで。開き直れたのは、開き直れる自信がついたからなんですよね。『Hello Chaos!!!!』のときは、自分たちのルーツをちゃんと咀嚼して、どういう音楽かを語れるようにしようっていう気持ちが強かったんですけど、ちょっと整理整頓しすぎたっていう感覚もあったから。
- EMTG:なるほど。
- 岩渕:今回は自分たちがやりたいもの、たとえば、僕がラップをやりたくて、浪越がブルースをやりたくてっていうのを全部詰め込んだんですよ。いろいろな方向に振り切ったけど、これを良い作品だって、ずっと見てくれてる秦さんに言ってもらえて嬉しいです。
- EMTG:前作『Hello Chaos!!!!』が整理し過ぎたっていうのは、いつ頃から思ってたの?
- 浪越:出したころには気づいてますね(笑)。
- 田野明彦(Ba):自分たちが勝手に作った枠にハマッてたなって。
- EMTG:あのときは“ポップ脳で作った”っていう話もしてましたけど。
- 岩渕:言ってた(笑)。あのときは、自分たちは閉じたことをやってるんだから、“届ける”っていうことに対してよっぽど意識してやらないと届かないぞっていう荒療治だったんですよね。ポップで頭を埋め尽くさないといけないっていうか。
- EMTG:でも、一度あそこまで振り切ったからこそ、今回は届けるっていうことと、自分たちのかっこいいものを作るっていうことを両立する作品になりましたね。
- 岩渕:うん。今回はいちばん最初にアルバムの方向性をどうするかって考えるときから、メジャーデビューのタイミングだし、ちゃんと届くものしようっていうのがありましたね。一聴しただけで通り過ぎる人たちを黙らせることができるものにしたくて。
- 田村:もう自分たちのなかでは何がかっこいいかっていう基準があるんですけど、それは相手も良いと思ってくれたときに、初めて“かっこいい”になるんですよね。伝わらない以上は意味がないと思うので。だから、こうやって話をすると“伝えたい”っていうのが強く出てしまうんですけど、あくまでもそれは“かっこいいものを”っていう前提があるんです。
- EMTG:なかでもリード曲の「フカンショウ」は、パノラマパナマタウンはこういうバンドだっていうことを見せつつ、強い訴求力もある。現時点での集大成になったと思います。
- 岩渕:この曲はメジャーデビューのリード曲として名刺代わりなるものを作ろうと思ったんです。いままで培った武器を全部出し切りたかったし、歌詞にも言いたいことを全部詰め込みたかったし。さっき話したようにYouTubeで1曲だけ聴いて判断する人とか、フェスで歩きながら聴いてる人にも、伝えたいと思って作った曲ですね。
- 田村:いま1曲だけで聴く人が多いことに抗うつもりはないんです。そういう環境のなかで勝負していくためのリード曲を作らないとなって思ったので。
- EMTG:この歌はレッテルを貼られることに対して怒りを込めた歌詞ですけど、今回のアルバムでは「ロールプレイング」でも同じようなテーマを歌ってて。
- 岩渕:これは僕がずっと歌ってるテーマなんですよね。
- EMTG:なぜ、それを歌うんですか? それはパノラマパナマタウンが、“ロックなのか、ヒップホップなのか”みたいな枠で語られることに対する怒りなのか、昔から抱いてることなのか。
- 岩渕:昔からかなあ。バンドを組む前からずっとある疑問なんですよ。それこそ高校のときに、「部活に入れ」って先生に怒られたことがあって。入りたい部活はないし、どれかに入ったら、その部活の人にならなきゃいけない気がして。「部活に入りたくない自由を殺すんですか?」って腹が立ったことがあるんですけど。ずっと何かの型にハマることへのイラ立ちがあって。それが、こういうバンドになった理由かなっていうのは思いますね。
- EMTG:枠にハマることへの拒絶感みたいなのはメンバーにも共通してますか?
- 浪越:僕もそうですね。
- 田村:うん、僕もどちらかと言うと、ニッチなほうを選ぶのが好きかなあ。人気色よりは、こっちのほうが目立っていいのかなって(笑)。
- 岩渕:特に田野なんかいちばん腹立ってるんじゃない?
- 田野:そうですね。みんなと同じことするのも嫌いだし、同じ服を着てるのも気持ち悪いと思うし。他の人のマネをしてたら、自分が死ぬなと思います。
- EMTG:そこにパノラマパナマタウンがパノラマパナマタウンである原点があるんでしょうね。
- 岩渕:そのとおりだと思います。
- EMTG:他のアルバム曲の話も聞かせてもらえればと思いますけど、アニメ『十二大戦』のオープニングテーマになっている「ラプチャー」は初めてのバラード?
- 岩渕:ここまで歌を聴かせる曲にしたのは初めてですね。「俺たちはこっちもできる」っていうことを、ちゃんと見せられる曲になったと思います。
- EMTG:一言でバラードと言っても、ダークでヘヴィな感じもあって、一筋縄ではいかないパノラマパナマタウンらしいロックバラードになりましたね。
- 田村:いろいろ試行錯誤をしたんですけど、最終的には、イントロはグランジなんだけど、サビはUKのサイケっぽい感じを組み合わせた感じの曲になりました。
- 岩渕:もともとマイブラ(My Bloody Valentine)みたいな曲にしたいと思って作ってたんですけどね。アニメに書き下ろす曲だからこそ、自分たちがそこにいる必要性みたいなのを詰め込みたかったんです。俺らは言葉とグルーブを大事にしてきたバンドだから、ラップじゃないかたちでも、リズムを大事にしたミクスチャー感覚は入れたいなと思って。音数を減らしたけど、いちばんセンスがあるベースとドラムの絡みを取捨選択して、ボンゴに行き着きました。
- 田村:かなり難産だったよね。
- EMTG:なるほど。逆に「マジカルケミカル」は、かなり音がたくさん詰まった曲で、これも新しいパノラマパナマタウンに出会えた曲でした。
- 浪越:僕はそっちのほうが好きなんですよね。
- 田村:浪越がデモを持ってくる曲は基本そっちだよね。
- 浪越:昔、僕が作った「寝正月」っていう曲と近い感じがしますね。
- EMTG:この曲で食品添加物をテーマにしたのは?
- 岩渕:添加物が怖いんです(笑)。
- EMTG:そこから世のなかにある弊害みたいなものを、着色料とかジャンクフードに喩えて?
- 岩渕:添加物とか広告って当たり前に目にするけど、全部嘘じゃないですか。そう考えたら、自分も添加物を加えて生きてるなって思ったんです。自分をデカく見せて話もするし。そういうのを削ぎ落して、生身で人とコミュニケーションをとりたいって思ったんですよ。
- EMTG:ああ、それで、ちょっと話は戻るけど、「フカンショウ」では、自分が弱い人間であるっていうことも歌うようになったんだ。
- 岩渕:そう、最近そういう弱い自分のことを歌っていいんだって気づいたんですよね。ずっと世の中の疑問とか違和感を歌ってきたけど、「人に何を伝えたいか?」みたいなことは考えたことがなかったんです。そういうことに向き合ったとき、自分が歌えるのは、すぐ人の意見に流されてしまう自分のことだったんです。ネットで「自分たちのバンドはどう思われてるんだろう?」とか調べちゃうから。同じように、いろいろな意見に振り回されちゃう人のために歌えるものがあるっていうことに気づけた。このメッセージなら、自分は歌えるって。そう思って、「フカンショウ」を作ったし、「マジカルケミカル」もそういう曲なんですよね。理論武装してるけど、本音を伝えたいっていう。
- EMTG:で、そこからさらに進んで、「ラプチャー」では、“この歌とともに 生きていこうぜ”っていうふうに、みんなを引き連れていく曲も書けるようになった。
- 岩渕:うん。やっといま人に対して歌える歌ができたなと思いますね。正直、いままで自分がなりたいものに対して全力で努力したことも挫折した経験もあんまりなかったんです。でも、こうやってバンドをやるようになって、そういう経験もできたから。疑問とか説教だけじゃなくて、自分だからこそ書ける表現を見つけられたなと思ってます。
【取材・文:秦 理絵】
リリース情報
PANORAMADDICTION
2017年01月17日
A-Sketch
1.パノラマパナマタウンのテーマ
2.フカンショウ
3.マジカルケミカル
4.ラプチャー
5.街のあかり
6.ロールプレイング
2.フカンショウ
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