最新アルバム『Rainbow』を聴いて、まず感じるのは、このバンドがもともと持っていた洗練された音楽性が、絶妙なバランスで発揮されているという点だ。ライブで全観客を夢中になって踊らせてしまう圧倒的なダンサブルさを持ちつつも、彼らが奏でるサウンドには、実は多彩なフレーズや音色による絶妙な味付けが施されている。そんな面を存分に噛み締めさせてくれると同時に、メンバーそれぞれのソングライターとしての持ち味も伸び伸びと反映されている今作は、どのようにして生まれたのか？　4人に語ってもらった。

EMTG：どんなアルバムにしたいと思っていました？

首藤義勝（Vo・B）：今回もテーマとかは特になくて、とにかくいい曲を作ることに専念しました。いい曲がたくさんできた結果、実は、一番かっこいいと思ってた曲を今回入れてないんです。それくらい今回はアベレージが高いです。脂がのってる、旬なサンマのような僕らを感じてもらえるんじゃないでしょうか。

八木優樹（Dr・Cho）：みんな脂がノリノリです。僕もみんなとは違うタイプの曲を作ろうと思ってました。

小野武正（G・MC・Cho）：去年の横アリを経てから、曲のデモをみんなで持ち寄って選んだんですけど、新しさと今まで培ってきたものが凝縮されましたね。

寺中友将（Vo・G）：横アリで「ミルクティーは恋の味」をやったんですけど、スクリーンにオリジナルの映像を流したんです。当日の会場でリハーサルをやった時、映像と曲や歌詞が1つになってるのを感じたのが、個人的には曲作りをする上で大きかったです。“こういうのを音楽だけでも表現したいな”と思ってましたから。

EMTG：バンドとしての演奏のかっこよさも、今回、すごく出ていると思いますよ。

小野：ありがとうございます。僕も演奏の良さを出せた手応えを感じてます。

EMTG：“ハイハットの魔術師”と呼ばれている八木さんのプレイも随所で光っていますね。

八木：今回、ハイハットの定位を左に振ってるんです。そのことによってリードギターと被らないようになったんですよね。ハイハットのグルーヴとギターのフレーズがよく聞こえる感じが、曲にいい影響をもたらしてると思います。今回からお願いしたエンジニアさんのアイディアだったんですけど、それがすごくハマりました。

EMTG：巨匠が奏でるコードのおしゃれさも冴えています。

寺中：僕はテンションコードが好きですからね。

EMTG：先行シングルの「ロトカ・ヴォルテラ」もスタイリッシュなサウンドですし、あれが『Rainbow』を予告していた感じもします。

首藤：そうかもしれないですね。「ロトカ・ヴォルテラ」とか、ちょっとダークで、ギララギラもしていて、かっこいい曲がこのアルバムの前半に並んでいますし、それで勢いをつけて始まる感じになってます。

EMTG：KEYTALKは、例えば「MONSTER DANCE」に代表されるような、アッパー系のサウンドも得意ですけど、そういう曲を“真っ昼間”に喩えるなら、今作の曲たちの大半は“夜”っていう感じかも。「ワルシャワの夜に」とか「暁のザナドゥ」は、まさにそういう雰囲気ですし。

首藤：たしかに、夜から昼になっていく感じの曲が多いかもしれないですね。

EMTG：フュージョンとかジャズの要素も発揮されている印象がするんですけど。

小野：そうかもしれないです。やっと無意識に、いろいろなフレーズを組み込めるようになったんですよ。録ったのを聴いて、“こういうのを弾いてたんだ”と自分でも新鮮です。「雨宿り」とかは、特にそういうのを感じてます。

EMTG：“KEYTALK”っていうバンド名自体が、上原ひろみさんの曲のタイトルから来ていますし、みなさんはロック以外のエッセンスも背景にあるバンドなんですよね。

八木：はい。上原ひろみさんとか、めちゃめちゃ影響を受けてます。“ジャズとかファンクをやるぜ！”っていうモードじゃなくても、そういうのはどっかで出ちゃうんです。

小野：KEYTALKもいろんな時期があったんですけど、今はいろんなものをひっくるめて自然に出せるようになってるのかもしれないです。

EMTG：インディーズの初期は、フュージョン感が色濃く出る瞬間もありましたよね？

小野：はい。そういうのを今のやり方で自然と再構築できてるんですかね。今、いろんなことがいい感じでハマってきてる感じがします。

EMTG：自然に醸し出されている多彩さが、最近のKEYTALKにはあるんではないでしょうか。だからこそ、若旦那とセッションをしたり（SO FES.2017）、でんぱ組.incと一緒にイベントに出たり（MTV LIVE MATCH）、加山雄三さんの『ゴー！ゴー！若大将FESTIVAL 2018 in TOKYO』にも誘って頂けるんでしょうね。

小野：そういうのは強みですね。コラボをさせて頂くことがよくあるので。

EMTG：メジャーデビューして3、4年経つと次のステップに進むために悩むバンドが多いですけど、みなさんは積み重ねてきたことがどんどん自然に活かせるようになっている印象が強くします。

寺中：曲を作る上で悩んだり、ライブのやり方をいろいろ考えたりはメンバー個々にあるんですけど、全員で“俺ら、ここからどうする？”って頭を抱えることは特にないんです。なにしろ、リリースもかなりしてきましたから。

小野：シングルに関しては、『ロトカ・ヴォルテラ』は、メジャーでの13枚目ですからね。コンスタントに出せてるのが、新鮮なままでいられることに繋がってるのかも。

EMTG：義勝さん、枯渇しない自分の才能が怖くなることはないんですか？　“こんなにいい曲を書き続けると、誰かに狙われるかも……”とか。

首藤：そんな世界、怖いですね（笑）。

八木：実は僕、義勝の命を狙ってます！

首藤：敵がこんなところにいた！

八木：彼のパソコンを奪って、作った曲を僕が書いたことにしようかなと。

小野：僕も義勝の印鑑を僕のと入れ替えて、著作権を自分のものにしようと狙ってます。

首藤：お前ら、やめろ！（笑）。

EMTG：（笑）今回のアルバム、4人それぞれのソングライターとしての魅力も、いい形で反映されていると思います。例えば「雨宿り」は、義勝さんの新境地じゃないでしょうか。

首藤：そうですね。僕はもともと、こういうシティーポップっぽいのが好きなんです。僕、自分が好きなものを作りたくなって、それを自分で聴きたくなるんです。それが作曲の原動力なんですけど、「雨宿り」も気に入ってます。

EMTG：義勝さんといえば和テイストの曲を生むことが多いですけど、今回、その作風は「セツナユメミシ」くらいですね。

首藤：たしかに、“ザ・和風”っていうのは、あまりないかも。そういうのよりも、泣きのメロディみたいなのを作ってました。

EMTG：「FLOWER」も新鮮です。この曲、子供への愛情のようなものを感じました。

首藤：歌詞は、音に引っ張られてこうなっていったんです。木琴の音を入れて、“ハートウォーミングな感じがするな”と思ってたら、こうなったんですよね。

EMTG：この曲が世に出たら、ネット界隈で“義勝、子供産んだんじゃね？”っていう噂が広まるのが目に浮かびます。

首藤：俺が出産ですか!?

八木：ええっ～！　そうだったの？

寺中：俺がその噂を立てます！

小野：僕も協力します！

首藤：このバンド、どうなってんだよ（笑）。でも、歌詞に関しても、今までになかったテーマを描くことができました。「ワルシャワの夜に」は、実は戦争の曲なんですよ。巨匠はメッセージ性が強い歌詞を書くので、僕はそこでは張り合えないと思ってて。だから僕は物語を描くソングライターでありたいなと。最近、そういう住み分けというか、自分の明確な役割みたいなのを考えるようになってます。

寺中：俺は逆に義勝のファンタジー感みたいなのが出せないので、いつも“すごいなあ！”って思ってます。

EMTG：4人それぞれの作風は、我々リスナーも感じています。例えば、「ミッドナイトハイウェイ」は、巨匠が作った曲だとすぐにわかりましたから。これは道路を走っている様を描写していますけど、車とバイク、どっちですか？

寺中：最初は車のイメージだったんですけど、作ってる途中で“バイクにも当てはまるな”と思って、いろいろ広がっていきました。

EMTG：メロコアっぽい疾走感がある「Rainbow road」や、爽やかなギターロックに仕上がっている「旅立ちのメロディ」も、巨匠節が出ていますね。

寺中：たしかに、これも俺っぽい感じなんでしょうね。

EMTG：アルバムタイトルの『Rainbow』は、「Rainbow road」から来ているんですか？

寺中：はい。でも、アルバムのタイトルに合わせて作ったわけではなくて、曲が全部できて、「Rainbow road」っていうタイトルもついたところで、みんなと話し合って決まったんです。義勝が『Rainbow』っていうワードを引っ張り出してくれて、“今回の揃った曲たちにぴったりのタイトルだね”っていうことになりました。

EMTG：やっぱり曲それぞれに、みなさんの色がありますね。アバンギャルドな急展開を遂げ続ける「nayuta」は、武正さんらしいサウンドですし。

小野：これは前からデモがあって、今回、いい形で仕上げることができました。

EMTG：歌詞は義勝さんが書いていますけど、イメージの断片を乱射する武正さん的なスタイルを義勝さんなりに表現している感じがしました。

小野：義勝にお願いにお願いを重ねて、いい歌詞を書いてもらえました。

首藤：まあ、この取材の時点で、まだ発売されてないんで、彼の出方次第で白紙にすることもできるわけですけど。

小野：やめてくれ！（笑）。

EMTG：（笑）八木さんが作詞作曲をした「テキーラキラー」は、十八番のお酒に関する曲ですね。

八木：はい。酒を飲んでわけがわからなくなって、“人生をまっとうした！”っていう感じになったら最高だなと思ってるんです。気負わず、いい曲を作れました。巨匠と義勝の声を活かした曲を作りたいなと思ってて、上手く形にできました。2人の声が交互に出てくるのが、僕としても聴いていてワクワクするんです。

寺中：八木ちゃんは、俺と義勝の歌を理解してる感じがします。歌詞の歌い分けが一筋縄でいかない感じが、KEYTALK感にあふれてるんですよね。

首藤：歌い分けのさせ方に独特の癖があるんです。「テキーラキラー」も、丁度いいところで歌が入れ替わるんですよ。さすがこのバンドのことをよく知ってるなと思いました。

EMTG：個性豊かな新曲がたくさん並んでいる中、去年、シングルでリリースした「黄昏シンフォニー」とか「セツナユメミシ」も自然に溶け込んでいますね。

首藤：はい。シングル曲が、全体の繋ぎ役としていいポジションになってると思います。

小野：最初からアルバムが出来上がってて、そこから切り取ってシングルで出してた感じになってるよね？

首藤：うん。そうなんだよ。

八木：実はそうだったことにしておきますか。

首藤・八木：計画通り！

EMTG：『DEATH NOTE』の夜神月？

八木：よくご存知で（笑）。つまり、僕ら、死亡フラグが立ったということでしょうか？

首藤：そういうことか！

小野：やばい！（笑）。

EMTG：（笑）今後、全国ツアーも、幕張メッセでのワンマン公演もあるんですから、やめてください。

小野：いろいろ楽しみですね。ライブの本数は年々増えてるんですよ。1ヶ月とかライブが空くことが、ほぼないですから。

寺中：ツアーを回った後に幕張メッセというのは、去年のツアーと横浜アリーナの流れとほぼ一緒なんですけど、よりいいものにしていきたいです。今回のアルバムが、KEYTALKの2018年をいいものにしてくれることは間違いないです。気が早いですけど、来年をさらにいい1年にできるアルバムにもなってるのかなと。実現できるんだったら今年でも出たいですけど、“来年には紅白出場！”っていうくらいの気持ちがあります。

【取材・文：田中 大】