ニューEP『Bolbous Bow』はBenthamが抱く“前進の意志”が強く刻まれた作品に
Bentham | 2018.04.03
昨年4月のメジャーデビューから1年。BenthamがリリースするニューEP『Bulbous Bow』は、このタイミングだからこそバンドが抱く“前進の意志”を強く刻む作品になった。Benthamと言えばインディーズ時代からメンバー4人の個性を最大限に生かした曲づくりを大切にしながら、ライブバンドとして熱い支持を集めてきたバンドだ。そんな彼らが、今回のインタビューでは「自分たちにしかできないことは何?って言われたら、まだできてない」(小関)という言葉を口にした。そんな葛藤があったからこそ、『Bulbous Bow』とは、いまのBenthamが「自分たちのやりたいことは何なのか?」をもう一度見つめ直したうえで、いままでにない選択を重ねた作品だという。プロデューサーには初めて野間康介を迎え、楽曲そのものと言うよりも、「聴き心地」の部分で革新的な変化が加わった。もっとたくさんの人に『Bulbous Bow』を聴いてもらうために。今作がBenthamの答えだ。
- EMTG:今回タイトルもかっこいいですよね。『Bulbous Bow』(バルバスバウ)。
- 辻怜次(Ba):みんなで「タイトルをどうする?」って考えたときに、パッと船が思い浮かんだんですよね。それで新しい船出を表せるんじゃないかって。
- 須田原生(Gt):うん。どんどん進むものがいいなって思ってたんですよ。
- 辻:そこから船のパーツを調べてたら、波を打ち消すような作用のものが船主にあるらしい。それが“バルバスバウ”っていう名前だぞ、と。
- 小関:パンチがありますよね(笑)。
- EMTG:っていうことは、このタイミングで、Benthamは「もう一度、前に進むんだ」っていう意志をちゃんと示しておきたかった?
- 小関:うーん……ぼちぼちヤバいかもなっていう空気があったんですよね。メジャーデビューを発表したときは、たくさん「おめでとう」って言ってくれる方がいて、僕らも「いくぞ!」みたいな勢いの時期があったけど、それも過ぎて。「これから、どうしようか?」っていうときに「これからもまだ攻めるぞ」みたいなことを、外に向けてと言うよりも、自分たちに向けて言いたかったんです。だから、『Bulbous Bow』は、いまのBenthamにすごく必要な1枚になったし、いま自分たちのやるべき方向も見えてきたんです。
- EMTG:今回で見えてきた、やるべき方向っていうのは?
- 小関:多くの人に知ってもらいたいっていうのは、メジャーデビューのときからあったんですけど。僕たちって、「自分たちにしかできないことは何?」って言われたら、まだ何もできてないんですよね。もっと若い子が初期衝動を覚えるようなバンドにもなりたいし、音楽通の人にも一聴して「すごいな」と思ってもらえるようなバンドになりたいから。
- EMTG:うん。それはずっとBenthamが目指してることですよね?
- 須田:そうなんですけど、いままでは自信を持って、自分たちの目標として立てられなかったっていう感じなのかな。
- 小関:声を大にして、自信を持って「こうなりたい!」って言えてなかったというか。
- EMTG:客観的に見ると、Benthamが自分たちなりたいものに向かって「何もできてない」とは思わないけどね。確実にBenthamだけのロックを鳴らそうとしてきてたし。タカさんはどう思ってる?
- 鈴木敬(Dr):たぶん僕らって一言で自分たちのことを伝えようとすると、なかなか難しいんですよ。たとえば赤坂ブリッツのツアーファイナルときに、秦さんがライブレポートで「White」のアウトロが良かったって書いてくれたじゃないですか。
- 須田:うんうん、書いてくれてた。
- EMTG:原曲のアレンジを大きく変えて、メンバーの演奏を聴かせた部分ですよね。
- 鈴木:そういうシーンは、僕らとしてはすごくやりたいところなんだけど、お客さんを突き放してる感じもあって。僕らはもっとそこを両立させたいんです。
- EMTG:簡単に言うと、キャッチーでわかりやすい歌もの的なところと、ロックバンドとしてのかっこよさみたいなところ?
- 辻:うん、そのバランスが難しいんですよね。特に最近の邦楽のロックシーンでは、ライブで盛り上がれるアレンジに特化したものが多いから、それを「White」みたいに変えてみたときにポカーンとしちゃう子たちもいる。もちろんそれを「良い!」って言ってくださる方もいるから自信にもなるけど、メンバー内ではそこでけっこう迷走してたんです。
- 小関:でも、それをやってみて思ったのは、やっぱり僕らはやりたいことをやってるときが、いちばんかっこよく見えるんですよね。それに気づいてから、年末以降のライブは良いんですよ。いままでと変わったことはやってないんですけど。なんとなく……手元を見なくなったんですよね。
- 辻:ああ、圧倒的にね。
- 小関:メンバーもずっとお客さんを見てるんですよね。
- EMTG:へぇ、ライブが良くなってるのは『Bulbous Bow』ができてからってこと?
- 小関:できてからですね、そう言えば。
- 辻:今回の(『Bulbous Bow』の)レコーディングで、自分たちがミュージシャンとしてどうしたいかっていうのが明確になったから変われたのかなって思うんですけど。
- 須田:今回のレコーディングではすごく緻密なことをやってるんですよ。どっちかと言うと、ライブとは正反対ぐらいのことをやってて。それが良い方向に働いて、いまはライブと音源の良いところがバランスよくミックスしてる感じなんですよね。
- EMTG:なるほど。ちょっとここまでの話で、理由と結果の流れが逆転しちゃったんだけど。要するに、Benthamがメジャーデビューから1年が経って、バンドとして改めて自分たちを見直すタイミングだった、それは自分たちがかっこいいと思うものが、どこか伝わりづらいのかもしれないっていう感覚もあったからで。
- 小関:はい。
- EMTG:で、それを打開していくために、今回のEPの制作には、初めてプロデューサーに野間さんを迎えることにもなっていったと。
- 小関:いままでインディーズからメジャーデビューするまで、プロデューサーを一貫して同じ人(田上修太郎)でやってきたなかで、サウンド面で違う血を入れることで、さっき言ったようなことを変えていきたいっていう必要性を感じてたんですよね。
- EMTG:野間さんはYUKIとかポルノグラフィティみたいな人気アーティストを手がけてる人ですけど、一緒にやってみていちばん革新的だったことは?
- 鈴木:ライブハウスだけじゃなくて、テレビとかスピーカーからの聴こえ方を意識するっていうことですね。いままではレコーディングスタジオにあるスピーカーなり、自分のいちばん良い環境で聴いて良い思うものを選んでたけど、たとえばお店で流れてくるとき、テレビから流れてくるときでも、ちゃんと良く聴こえることを意識して音を選んだんです。
- 辻:そういう場所だと、ベースとかバスドラみたいな低音楽器の迫力が出ないんですよね。むしろ歌とかギターを重ねたほうが届きやすくなるんですよ。だから、今回は須田のギターで厚みを出してみようっていうのは、いままでやってなかったことですね。
- 鈴木:音源では、「僕が何人もいる」みたいなことになってます(笑)。
- 小関:正直、なんでスマホ、パソコンに合わせるんだよ、クソだせえな! とも思ったんですよ(笑)。でも、音楽的にはかっこいいことをやってるし、そこにちょっとでも耳を傾けてほしいんですよね。それで、こういうチョイスをできたときに、この盤の方向性が決まったのかなっていうのはありますね。
- 辻:とにかく、みんなに知ってもらうことをメインに置きたかったんです。
- EMTG:だから、今回かなり歌が映えるわかりやすい音像になってはいるけど、ロックバンドとしてかっこいいものを作るっていう意味では、何も妥協はしてない。
- 須田:うん、妥協は全くしてないし、むしろ精度は上がってるはずです。
- EMTG:すでに配信でもリリースされてるリード曲「FATEMOTION」はBenthamらしいロックな曲ですね。初のドラマ主題歌(CBCテレビ連続ドラマ『こんなところに運命の人』)にもなってますが。
- 小関:たくさんの人に聴いてもらえるタイミングだと思ったので、僕らにとっていちばん勝負できる曲調ですね。いままでの4つ打ち感を昇華させながら、BPMはいままででいちばん速いやつで攻めてるので。ドラマに寄せて“歌もので”っていうことはないんです。
- 辻:各々のパートのこだわりとかアレンジみたいなところは、いままでの楽曲の比にならないぐらいの細かさがあるので、そこはいままでの曲とは違うと思います。
- EMTG:歌詞で言うと、「運命」という言葉がドラマとリンクしてますけど、何か意識したところはあるんですか?
- 小関:このドラマは主人公と別の人にフォーカスを当てる回もあったので、どのシーンで流れてもハマるように考えてます。けっこうドラマに寄せてますけど、Benthamともリンクさせたかったので……たとえば、Bメロの《僕には出来ない無理だよ》のところは、ドラマに出てくるある男性をイメージしてるんですけど、僕のことでもあるんですよ。みんながアイドルのようなことを期待してるけど、いや、僕にはできない無理だよっていうか。だから、なんとなく恋愛の曲っていうよりも、熱量は高いんです。
- EMTG:なるほど。今回のEPでは小関くん以外のメンバー曲も充実してます。「SAYONARA」は、タカさんの作詞作曲ですね。センチメンタルな春らしい曲。
- 鈴木:これは1年前ぐらいにできた曲で、最初はもっとポップだったんですけど、結果的にはロックに仕上がったんですよね。ここ1年ぐらいで新たな出会いもあったけど、けっこう別れも多かったんですよ。でも、ずっとバンドを続けてたら、また再会することもあったりする。そういうのを歌にしようと思って作りました。
- EMTG:ラストの「memento」は須田くんの曲です。前作『Re:Wonder』に続き、ピアノを入れた軽やかなポップナンバーになりましたが。
- 須田:かなりドラマチックになったかなと思います。前作と同じで、鍵盤の曲が1曲あったほうが面白いんじゃないかっていうので作り始めたんですけど。今回は鍵盤を全開にするというよりも、ピアノがなくても成り立つぐらいのサウンドの構築を目指して作ってます。
- EMTG:歌詞は、小関くんと須田くんの共作ですが、どんなふうに完成させたんですか?
- 小関:これは、最初に須田が歌詞のテーマを作ってたんですけど。学園ものというか。「校舎」とか「門」っていう言葉が入ってて。
- 須田:現役の学生じゃなくて大人になった人も、たとえば校舎の門の前を通ったときに、ふと、そのときを思い出すようなっていうイメージで作ったんですね。
- 小関:でも僕としてはメジャーデビューをして1年経つし、年齢的にも「校舎はどうかな?」と思ってたら、急遽この曲に学園もののタイアップが決まったんですよ。
- EMTG:すごい偶然ですね。
- 小関:そこらへんもすごいなと思いながら。最近、僕、歌詞を担当するうえで、もう禿げるんじゃないか? ぐらい考えるんです(笑)。この曲も、アニメの原作を好きな人にもグっときてほしかったので、かなり悩みながら書きました。「学校」っていう言葉を書かずに、それを連想する歌詞になってます。
- EMTG:もともとBenthamは小関くんが作詞作曲の中心だったけど、今作を聴くと、メンバーがこれだけ良い曲を書いてくるところに、小関くん、脅威を感じません?
- 小関:メンバーが書いてくる曲には、もっと面白い曲がたくさんあるんですよ。だから、それを強みとして持っていければいいけど、そうなると、バンドとしてはブレかねないじゃないですか。そこはけっこうボーカリストとして考える部分なんですよね。
- 辻:歌の雰囲気もバラバラだもんね。
- EMTG:でも今回のEPを聴いた限り、「なんかバラバラだな」とは思わなかったです。
- 小関:良かった。それはメンバーの演奏のおかげですね。
- EMTG:そうかもしれないですね。このメンバーで積み上げてきた歴史があるから、最終的にはBenthamの音に自然と落とし込めるというか。
- 辻:Benthamって各々のパートのアレンジとか演奏は、各々に任すっていう精神が全員にあるんですよね。全員が持ってる個性を出すことで、結果としてBenthamっていうバンドになればいいなって。たぶん自然とメンバーがそういうふうに考えてるんです。
- EMTG:わかります。4年前に初めてBenthamにインタビューしたときから、「全員が主役のバンドになりたい」って言ってたし。そのときの精神がいまも生きてるから、結局、何をやってもBenthamになるし、それは野間さんとやろうが変わらないし。
- 小関:たしかに。そう言われると、いままでやってきたことが間違ってなかったんだなと思います。今回のレコーディングでは、いままでの自分たちを肯定してくれる感じもあったんです。だから、いますごく自信を持って前に進めるような気がしてますね。
- EMTG:最後に『Bulbous Bow』を引っさげた対バンツアーが6月から始まるということで。今回はけっこう細かく全国をまわるんですね。
- 辻:2ヵ月ぐらいかけて。
- 鈴木:今年はライブをたくさんしたいなと思ってるんですよ。
- EMTG:Benthamは毎年かなりの本数ライブをやってるけど(笑)。
- 鈴木:まあね(笑)。でも実は去年ちょっと減った感じもあったんですよ。いまはすごいバンドが良くなってるから、いろいろな人に見てもらいたいんですよね。
- 小関:こういうインタビューの場で、僕らが言えるのは「ライブに来てほしい」っていうことだけです。それでもダメなら、もう来なくていいので。
- EMTG:おお、潔い。
- 辻:こういうところが、ロックバンドっぽいですよね(笑)。
- 小関:それぐらい、いまは自信があるんです。
【取材・文:秦 理絵】
リリース情報
Bulbous Bow
2018年04月04日
KOGA RECORDS
1.Bandwagon
2.Reset
3.FATEMOTION
4.SAYONARA
5.memento
2.Reset
3.FATEMOTION
4.SAYONARA
5.memento
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