水曜日のカンパネラ ラップの曲はほとんどナシ、新しい要素が満載のニューEP

水曜日のカンパネラ | 2018.06.22

 自分たちが生まれ育った環境、文化を表現したい。『ガラパゴス』と名付けられた新作(8曲入りEP)で水曜日のカンパネラは、日本という国の風土、精神性、カルチャーを描き出した。「ピカソ」(NHKワールドTV「J-MELO」エンディングテーマ)、「メロス」(JRA第84回ダービー(G1)タイアップ曲)、「キイロのうた」(映画「猫は抱くもの」劇中歌)などを収録した本作は、オーガニックなチルアウト系のトラック、表情豊かな表現をたたえたボーカルなど(ラップの曲はほとんどナシ!)、新しい要素もたっぷり。「“チルアウト"“スピリチュアル"“オーガニックサウンド"がテーマ」(ケンモチ)という『ガラパゴス』について、メンバーのコムアイ、ケンモチが語ってくれた。

EMTG:新作のタイトル『ガラパゴス』は、音楽を含めた、いまの日本のメタファーだとか。
コムアイ:自分の育った環境や文化にいちばん適した言葉だなと思ったんですよね。フェスなどで海外に行く機会が増えて「すごいところで育ったんだな」と思うことも多いんですが、いまの日本、東京を言い表すのが『ガラパゴス』かなと。このタイトルを決めるかなり前なんだけど、インスタに「日本の国に好きじゃないところはいっぱいある。でも、この島が好き」と英語で書いたことがあって。そういうことも今回のEPには詰まっていると思います。CDのデザインはいままででいちばんシンプル。この1年における精神的、肉体的な変化が影響している気がします。
ケンモチ:『安眠豆腐』『トライアスロン』『UMA』に続く4枚目のEPなんですが、EPを作るときは、いままでとは違うことにチャレンジするというテーマがあって。今回は“チルアウト"“スピリチュアル"“オーガニックサウンド"がテーマになっています。いまコムアイが「心境の変化があった」みたいなことを言いましたけど、確かにそうで。武道館でのライブ(2017年3月)は“全テクノロジーてんこ盛り"みたいな演出だったんですが、その後のツアーやフェスをやるなかで、心の澱が流れるような感じがあって。そのこともあってチルアウト的な志向になったという経緯があります。
EMTG:すごく大きな変化だと思います。ラップの曲もないですからね。
コムアイ:それはたまたまですね。気づいたら「ラップの曲がないね」って。
ケンモチ:自分たちのムードとしても、ラップの曲は作れない感じがあって。BPMも遅いですからね。最初はもっと踊れるEPにしようという話もあったんだけど…。
コムアイ:え、私はいままででいちばん踊れると思ってるんだけど(笑)。フェスとかに遊びに行っても、ゆったりしたBPMがいいなって思うし。そういえば、制作に入る前にケンモチさんにSpotifyで作ったプレイリストを渡したんですよ。“最近こういう曲が好きです"って。アフリカの音楽だったり、アフロ・キューバンだったり。
ケンモチ:クラブミュージックを通過したトライバルな音楽というか。
コムアイ:そうそう。それも今回のEPには反映されていると思います。
EMTG:楽曲についても聞かせてください。まずは1曲目の「かぐや姫」。
ケンモチ:こういうスローテンポの曲をリードにしたことがなかったので、良かったと思います。イントロはストリングから始まるんですけど、CDジャケットのデザインを見ときに「すごい! ピッタリやん!」って思いました(笑)。歌詞はコムアイですね。
コムアイ:市川崑監督の「竹取物語」という映画があって、“かぐや姫は宇宙人だった"という設定のSFなんですね。この歌詞も地球だけの話ではないというか、地球のなかで螺旋状につながっている命が、青い竹のように伸びていってほしいと願うような気持ちで書きました。その先にはAIがいてもおもしろいと思うんです。人間がいなくなって、AIだけになるという話もありますが、それも連鎖だと思うので。
EMTG:「ピカソ」はまさにトライバル感とオーガニック感が融合したトラックだなと。
ケンモチ:最初は4つ打ちのトラックを作ったんですが、コムアイに「また4つ打ちですか?」と言われて、急遽作り直しました(笑)。これはNHKの「J-MELO」のエンディングテーマで「世界中の人にアンケートして、その答えをもとに曲を作る」というお題があったんです。「異性を口説くときの言葉を教えてください」という質問をして、その答えをグーグル翻訳の音声で出したものをBメロに使ってます。「ピカソ」が生み出したキュビズムは、いろんな視点を1枚の絵のなかに並べる手法。それを恋多きピカソと重ねて「同時期にたくさんの女性と付き合うとカドが立つよね」という歌詞になってますね。
EMTG:ドキュメンタリー映像にあったコムアイさんの「三股をかけてた」という話が気になってるんですが……。
コムアイ:(笑)。人生で実験できることは全部やろうと思って。全部状況を話したうえで、同時に(付き合う)ということですね。それが上手くいくこともあってビックリなんですけど、悲しみを感じることもあるし、自分が傷つくのはどうなのかなと思って。いまはやってません。
EMTG:良かったです(笑)。最後の「キイロのうた」は、コムアイさんが出演している映画「猫は抱くもの」劇中歌。コムアイさんも作詞・作曲に参加しています。
コムアイ:しばらく曲を書いていなかったので「またやりたいな」と思ってたんですよね。ケンモチさんのようにキャッチ―な曲は作れないし、「自分を素直に表現するには、映画の曲がいいんじゃないか」と思っていたら、犬童一心監督から「音楽と挿入歌もお願いしたいです」と言っていただいて。この曲を作ったことは、自分の成長を助けてくれたと思っています。去年は人間関係でいろんなことがあって、恋愛に限らず、お互いに愛していても離れなくちゃいけないことが何度もあったんですよ。そんなときに、高校のときに聞いた「人は惑星みたいなものだ」という考え方を思い出して。人も惑星と同じように決まった軌道を動いていて、出会いというのは、それがクロスする瞬間だと。離れたとしても、きっとまた会えるっていう。「また違う姿で 違う匂いで/気付かなくとも」という歌詞はまさにそういうことですね。何かに固執してしまって、なかなか手離せないものがあるときにこの曲を聴いてもらえれば、デトックスみたいになるかなって思います。
EMTG:表現の幅も大きく広がった作品だと思います。この後はどんなことをやりたいと思っていますか?
コムアイ:去年の武道館ライブの後、車線変更をした感じがあったんですよね。どう見られるかも気にしなくなったし、前のめりに歌うんじゃなくて、そこにいてポーンと声を出すような歌い方を目指していて。いま興味があるのは、アジアの伝統的な歌い方。タイトの東北部の歌の上手いおばあさんに習ったりしたいです。
ケンモチ:ふだん音楽を聴かない人が、水曜日のカンパネラを入口にいろんなジャンルの音楽を聴くようになったらいいなと思います。僕自身もポップスや歌謡曲から入って、テクノ、ドラムンベースを聴くようになって、民族音楽、宗教音楽などにも興味を持つようになって。僕らが音楽と音楽をつなぐハブになれたら嬉しいですね。

【構成・文:森 朋之】

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リリース情報

ガラパゴス

ガラパゴス

2018年06月27日

WARNER MUSIC JAPAN

1.かぐや姫
2.南方熊楠
3.ピカソ
4.メロス
5.マトリョーシカ
6.見ざる聞かざる言わざる
7.愛しいものたちへ
8.キイロのうた

お知らせ

■ライブ情報

水曜日のカンパネラ・円形劇場公演
06/30(土)河口湖ステラシアター 野外音楽堂
07/01(日) 河口湖ステラシアター 野外音楽堂

CORONA SUNSETS FESTIVAL 2018
07/15(日)美らSUNビーチ野外音楽特設ステージ

OFF FESTIVAL 2018
08/03(金)~05(日)
カトヴィツェ、ポーランド

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO
08/10(金)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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