KAKASHI、ノンフィクションの歌詞が胸を刺す『PASSPORT』リリース
KAKASHI | 2018.12.03
迷い、悩みながらも精一杯、毎日を生きていることを思わせる言葉と無骨なロック・サウンドが少しずつ支持されてきた群馬県出身のロック・バンド、KAKASHI。12年8月の結成以来、4枚のミニ・アルバムを自主リリースするという地道な活動は、結成7年目にしてついに実現した全国流通盤『ONE BY ONE』のリリースをきっかけに、さらなる広がりを見せ始めた。地元・群馬のライブハウスに活気づける16年から彼らが開催しているサーキット・イベント「灯火祭」も年々、規模が拡大。3回目となる今年は前年の3会場が5会場に増え、KAKASHIのメンバーたちが全国各地を回りながら知り合った40組が出演した。そんな活動は、12月5日にリリースするミニ・アルバム『PASSPORT』からさらに勢いを増していくに違いない――。そう思い、メンバー全員にインタビューしたところ、シビアなまでのリアリズムと、“いつかは終わるものだとわかっているからこそ、行けるところまで行きたい”と精一杯、バンド活動に取り組むKAKASHIならではのバンド哲学だった。
- EMTG:まず、KAKASHIがどんなふうに始まったのか教えてもらってもいいでしょうか? 結成は12年だそうですね。
- 堀越颯太(Vo&Gt):はい。高校時代、それぞれにバンドを組んで、群馬県の高崎のライブハウスに出演していたんです。マサ(齊藤雅弘/Gt)と中屋敷(智裕/Ba)とは、そこで知り合いました。僕は元々、埼玉の熊谷の人間なんですけど、チケットのノルマが安いから高崎のライブハウスに出ていたんです。その後、高校卒業のタイミングで、それぞれのバンドが解散したり、活動休止したりしたんですけど、専門学校に入ったら、マサと中屋敷がいたんですよ。偶然。最初は、友だちがいて、心強いぐらいに思ってたらバンドが始まって、マサが“一緒にやってたドラムがいるから”ってユウスケ(関佑介)を連れてきて。元々、マサがバンドをやりたいって誘ってくれたんですよね。僕は専門学校に行ったら、バンドをやる気はなかったから、「卒業したらやめるから」って言ってたんですけど、マサには謎の自信があったみたいで、「いや、お前はやるよ」って。で、結果、まだ続けてます(笑)。
- 中屋敷智裕(Ba):俺もそんなに続けるつもりはなかったです。
- 堀越:むしろ就職するべきだと思ってました。
- 齊藤雅弘:俺も就職するつもりでいたよ。
- 堀越:ウソツケ!(笑)
- 齊藤:専門学校が音楽の裏方だったんですよ。学校、めっちゃ真面目に行ってたんですけど、半年ぐらいしたら、やっぱりバンドやりたいと思って(笑)。
- EMTG:そこで、なぜ堀越さんと中屋敷さんを誘ったんですか?
- 齊藤:元々知り合いだったから(笑)。
- EMTG:それだけ?(笑)
- 堀越:専門学校に行ってからも、僕は熊谷のライブハウスで弾き語りをやらせてもらってたんですけど、マサがバンドに誘ってくれた時に、都内からわざわざ見に来てくれたんですよ。そこで、「やっぱおまえとやりたい」って言ったことを言ってくれないかなって、今、思ってました(笑)。
- EMTG:それを言わなきゃ!(笑)
- 堀越:割とドラマチックなことがあったのに、なんで言わないかな(笑)。
- EMTG:じゃあ、最初に集まった時はこんなバンドをやりたいとか、こんな音楽性でやりたいとかっていうのはなかったわけですか?
- 堀越:コピバンやろうぐらいの感じで集まってたんですけど、1回目のスタジオから曲作りを始めたよね。バンドをやめてからも僕は曲を作ってたんで、それを持っていって、試しに作ってみて。それがいまだに続いていますね。
- EMTG:好きな音楽や聴いてきた音楽は似ているんですか?
- 齊藤:似ていると言えば、似ているけど、高校時代やっていた音楽はバラバラですね。
- 中屋敷:僕は9mm Parabellum Bulletが好きで。それっぽいオリジナルやってました。
- 堀越:マサとユウスケは歌もの。
- 齊藤:BUMP OF CHICKENみたいな(笑)。その前は激情ハードコアって、ハードコアのエモ・ヴァージョンみたいなバンドやってました。
- 堀越:僕は青春パンク。上裸でハーフパンツみたいな(笑)。
- EMTG:じゃあ、オリジナルを作りながら徐々に現在のようなサウンドになっていった、と。その中で、自分たちはこういう音楽が得意なんじゃないかとかっていうのは見えてきたんですか?
- 堀越:僕個人は言葉を前面に出せるバンドでいたいという欲が出てきました。
- EMTG:なぜ言葉だったんですか?
- 堀越:周りがそう言ってくれたんです。「颯太の言葉は、他の人にはないよね」とか。
- 中屋敷:うん、颯太と言えば、言葉っていうところはあります。
- EMTG:自分の歌詞が独特だという自覚はあったんですか?
- 堀越:それは全然なかったです。ただ、僕、思いっきり文系の人間で、小論文や作文が得意なんですよ。だから、人に何かを伝えると言うよりは、筋道を立てて説明するのが得意なんだとは思ってました。ただ、それだけじゃダメだなと最近思い始めて、ちゃんと自分の言いたい形で、本質をどれだけ伝えられるか。そこをもっと高めていかなきゃいけないんだと自覚するようになりましたね。
- EMTG:これまでの6年間の活動は、振り返ってみていかがですか?
- 堀越:語弊があるかもしれないけど、正直、「流れ」という言葉が一番、的確かな。専門学校在学中にツアーを1本回って、そのファイナルで、地元のライブハウスに人をいっぱい入れて、少し本気になったんですけど、その後もやめたくなったり、本気になったりっていう波がずっとありました。やめるタイミングを、自分の本気が消して、その本気を、やめたいっていう気持ちが消して。6年間来てしまったなっていう感覚が僕はあります。だから、そんなにドラマチックなものでもなかったと言うか。
- EMTG:他の3人はいかがですか?
- 関:進むスピードは遅いのかな。このバンド、一言で終わるバンドだと思うんですよ。
- 堀越:ああ。誰かが決心しちゃえば、ね。今、いろいろな選択肢がある中で4人が4人ともバンドを選んでるからこの形が成り立っている。でも、違う方向に決心が向いてしまえば、それで終わるところはあるんだろうなと思います。
- 関:でも、それをわかっていて、今、バンドを続けてるってことは、やっぱ自分的にはまだバンドでがんばりたいんですよ。メンバーもそうだと思います。
- EMTG:でも、バンドの状況は一歩ずつ良くはなっていますよね。
- 齊藤:まだまだ満足はしてないです。もちろん、いい方向に持っていこうとはしていますけど、そんなに簡単じゃないんで、ここからは。今年の1月に『OEN BY ONE』という全国流通盤を1枚出して、そこまでは自分たちで来ることができた自信はあるんですけど、ここから先どう行けばいいか考えているところです。
- EMTG:その『OEN BY ONE』では、どんな手応えがありましたか?
- 齊藤:ここまで持ってこられたという自信にはつながりましたね。17年の3月に(堀越の喉のポリープの治療のための)活動休止から復活したんですけど、そこから1年以内にリリースが決まらなかったらやめようと思ってたんで、がむしゃらにそこまで持っていこうとがんばったという意味では一つ成果を残せたとは思います。
- EMTG:じゃあ、今回の『PASSPORT』はバンドの活動がここからどうなるのか、それを占うきっかけになる作品というわけですね。
- 堀越:そうですね。リリース後のツアーファイナルはまだ発表していないんですけど、自主企画最大キャパになると思うんですよ。そこは全員で話し合ったんですけど、ユウスケと俺は着実に進みたい。でも、マサは挑戦したいというふうに意見が分かれたんです。でも、“挑戦することに意味があるんじゃないの?”とマサに言われて、“確かに”と思ったので、自分たちが達成できるマックスよりもちょっと上を狙うことにしました。だから、『PASSPORT』をリリースして、ツアー・ファイナルをちゃんと埋めたい。それを達成したとき、また“ここから”が見えるのかな。
- EMTG:『PASSPORT』を作るにあたっては、どんなところから取り組んでいったんですか?
- 堀越:言ってしまえば、できた曲を形にしていって、そこから選んだだけで…って言っちゃうと、アーティスティックではないかもしれないですけど(笑)、それがリアルと言うか。この間、マサが言ってくれたんですけど、「前作を出してから今作までの颯太の変わっていく気持ちや大事にしたいと思ったものが全部、曲になってるよね」って。テーマはないと言えば、ないんですけど、敢えて言うとしたら僕のこの1年(笑)。
- EMTG:改めて、どんな作品になったという手応えがありますか?
- 堀越:自分たちがCDで出したい理想の音に近づけたと思います。
- EMTG:作詞・作曲は堀越さんですが、このバンドは堀越さんが作った曲をどんなふうに形にしていくんですか?
- 堀越:今、僕だけ東京で、3人は群馬に戻ったからなんですけど、僕がDTMでベーシックのアレンジをざっくりとまとめたデモをLINEで投げるという今までとは全然、違うやり方で作りました。だから、今までよりも僕の理想に近いものにはなりました。
- 中屋敷:颯太の求める形に近いんであれば、そういう作り方をした意味はあるんじゃないかな。
- EMTG:言葉を大事にしているバンドではあるんですけど、演奏はかなりゴツゴツしている印象がありますが。
- 堀越:僕は青春パンクやメロディック(・パンク)出身なので、ゴツゴツしているほうがかっこいい。あまり柔らかくされると、しゃばいしゃばい(=冴えない、弱い)って。
- 中屋敷:僕も荒めのほうが好きなんで。
- 齊藤:ライブで迫力があるサウンドがいいですね。細かいことはせずに、ほんとに勢いだけになっちゃダメなんですけど、勢いだけで行けるような考え方のアレンジですね。
- EMTG:そういう演奏も聴きどころだという意識はあるわけですね?
- 関:ドラムの音も今回は自分のエゴは出していないです。前作と比べて、ドラムの立ち位置を考えるようになって、歌に合わせて、スネアもシンバルもハマる音を選んだんです。そこは自分の中で一番成長できたと思います。
- EMTG:歌詞はどうですか? 本質を伝えることを意識していかなければいけないと思っているとおっしゃっていましたが。
- 堀越:これまで歌詞は、あまり悩まずに書きながらメロディーも一緒に考えてたんですけど、「これを歌われたとき、わかるのかな」ってファースト・インプレッションでどれだけ伝わるのかはかなり気にしました。それでも、関係者に聞いてもらったら、“わからない”と言われるんですよ。
- EMTG:それはたとえば?
- 堀越:5曲目の「コーヒーとオイル」の《デミタスコーヒー》って、なんでデミタスなのって。
- EMTG:その後の《悲しみで満たす》という歌詞と掛かっているからですよね?
- 堀越:もちろん、そこで韻を踏みたいというのもあるんですけど、《悲しみで満たす》があって、《デミタスコーヒー》になったわけではなくて、《デミタスコーヒー》があって、《悲しみで満たす》になったんです。この曲は僕の両親の歌なんですよ。僕の両親は10年前、僕が13歳の時に2人とも亡くなったんですけど、母がデミタスコーヒーが大好きで、父が車の整備士だったので、エンジンオイルが出てくる。それは説明しなきゃわからないじゃないですか。だから、逆にそういうワードでひっかかりを作ってしまったなって。
- EMTG:でも、具体的なワードだからこそ、なんで《デミタスコーヒー》なんだろうって調べる人もいるんじゃないでしょうか?
- 堀越:だから、インタビューしてもらう機会があったら絶対、この話はしようと思ってました。そういうところでディグってもらえたらって。
- EMTG:それを言ったら、「愛しき日々よ」は……。
- 堀越:これも実話なんです。高校時代、ライブハウスでほぼ毎週会っていた一個上の先輩がいて、卒業後、新聞奨学生として、専門学校に通っていたんですけど、ある夜、歌っているとおり首を吊ったんです。なぜ死んだのか理由はわからないままなんですけど、忘れたくない夜なんですよね。「愛しき日々よ」の歌詞は全部、そういうことを並べていて、それっぽい歌詞みたいに聴こえるかもしれないですけど、一節一節、ちゃんと意味があるんです。そこまで読み取ることは不可能だと思うんですけど、歌うとき、歌詞の背景にある一つ一つの情景を思い浮かべるからこそ出せる味や雰囲気があると思ってます。
- EMTG:それは「愛しき日々よ」や「コーヒーとオイル」に限らずどの曲にも言えるわけですよね?
- 堀越:そうです。ほとんどがノンフィクション。実体験、自分の心境なんです。みんなに聴いて欲しいけど、ある意味、誰にもわかられてたまるかって気持ちもあって(笑)。でも、ちゃんと伝えるのがヴォーカルだしっていう、いろいろなせめぎ合いの末にできたものなんです。
- EMTG:いつかは終わることを自覚していることを思わせるフレーズが多々、出てきますが。
- 堀越:それも意識してないんですよ(笑)。心の底で、そう思っているから、そういう言葉が出るんでしょうね。でも、漠然と終わっちゃうと思っているのではなくて、絶対、終わるからこそどうする? っていう一歩先の話ができていると僕は思っているんです。
【取材・文:山口智男】
リリース情報
PASSPORT
2018年12月05日
UNCROWN RECORDS
1.ドブネズミ
2.変わらないもの
3.信じている
4.心向方向
5.コーヒーとオイル
6.旅立つ夜に
7.愛しき日々よ
2.変わらないもの
3.信じている
4.心向方向
5.コーヒーとオイル
6.旅立つ夜に
7.愛しき日々よ
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