LAMP IN TERREN、約1年8カ月ぶりのニューアルバム『The Naked Blues』

LAMP IN TERREN | 2018.12.05

 LAMP IN TERRENが12月5日にニューアルバム『The Naked Blues』をリリースする。以下のインタビューを終えたあと、とある場所で、ボーカル松本大の弾き語りライブを見に行ったら、今回のアルバムについて「自分で言うのは初めてなんだけど……最高傑作です」と言っていた。本当にそのとおりだ。前作アルバム『fantasia』(2017年作品)をリリースしたあとに抱いた違和感、その迷いをありのままに綴った「New Clothes」や「花と詩人」(いずれもライブ会場/配信限定リリース)といった楽曲を経て、剥き出しの自分自身を曝け出して完成させたのが『The Naked Blues』という1枚だ。今作に至るまでには、ボーカル松本大の声帯ポリープ切除手術のため、4ヵ月間の活動休止と日比谷野音での復活ライブもあった。精神的にも、肉体的にも、バンドが生まれ変わる契機となった激動の2018年はLAMP IN TERRENに何をもたらしたのか。メンバー全員に話を訊いた。

EMTG:率直に、日比谷野音のワンマンにはどんな手応えを感じましたか?
松本大(Vo/Gt):野音は活動再開の場ではあったけど、そこで一度いままでの自分が死んだというか、「すべてが終わったな」っていう印象があったんです。正直、あの日は、そんなに良いライブはできなかった。むしろ、あれ以降で自分が変わったんですよね。僕らがやろうとしてきたことって、「ライブ」って言っておきながら、「ショー」を作ろうとした印象があるんですよ。作られている雰囲気のうえで、最大限に演奏をする。そういう「ショー」を全うしようとしすぎて、「あれをやらなきゃいけない、これをやらなきゃいけない」で、頭が真っ白になって、歌詞を飛ばしてるっていうような感じだったんです。でも、野音のライブ以降は頭のネジがぶっ飛んでるというか。ちゃんと「ライブ」になってましたね。
EMTG:「ショー」よりも「ライブ」っていうふうに、バンドとして生々しいものを求めていきたっていう想いが、今作『The Naked Blues』にもつながってますよね?
松本:去年『fantasia』っていうアルバムを作ったころには幻想の世界に連れていく、理想の世界のなかで生きるっていうことを考えてたんですよ。でも、今回、『The Naked Blues』で裸になれたことで、自分のなかの違和感が解消されたような感じがしますね。
EMTG:いま松本くんが話してくれたような違和感は、メンバーも感じていたんですか?
大屋真太郎(Gt):たしかに『fantasia』のツアーのときは、「ショーをやりたい」って言ってましたからね。それぞれの曲の世界観が強くて、それに成り切ろうとしてた。ただ、そのあとに「花と詩人」とか「New Clothes」っていう曲できて、『The Naked Blues』が完成していくなかで、自分たちの答えが見えてきた気がするんです。
中原:今回、ありのままなものが出来上がってみて、「あ、これが自分のやりたかったことかな」と思えたんですよね。
川口大喜(Dr):過去のその瞬間はそれで必死なので違和感にも気づいてなかったんですよ。みんな経験があると思いますけど、すげえがんばってやってたけど、違うことをやったら、「よく昔あれをやってたな」みたいな。あの感覚に近いものがありますね。
松本:単純にこのアルバムを、みんな好きなんですよね。
川口:うん、シンプルにそこですね。
松本:前の曲も必死だったし、良い曲だと思うものもいっぱいあるから、『The Naked Blues』ができたことで、あの時期の曲たちも輝くだろうなっていうのもあって。いままでも「これ、売れるんじゃねえ?」みたいな話はしてたことはあるんですけど、売れるとかじゃなくて、今回は単純に自分たちが気に入っているものを作れたんです。
EMTG:そこに辿り着けたのは、自然にそうなったと言うよりは、「変わりたい」っていう明確な意思があったからじゃないですか?
松本:僕はずっと「変わりたい」って言ってますからね(笑)。基本的に、逆サイドのことを極端にやっていかなきゃ前に進めない人間なんですよ。「理想の世界を作りたい」と思ったら、作ったあとにまた別の世界に行きたくなる。天邪鬼なんですよね。
EMTG:いま言ってたような“理想を求めすぎて壊れた”というのは、「New Clothes」でも歌ってて。端から見ていると、この「New Clothes」を今年の4月にリリースできたことが、ひとつバンドが変わっていくきっかけなのかな?と思ってるんですけど。
松本:「New Clothes」だとまだボヤッとしてた部分がありますね。同じぐらいの時期に、「オーバフロー」とか「凡人ダグ」ができて同じような手応えはあったんですけど。僕が見たまんまを出したのにちゃんと届くというか。それまでは見たまんまじゃなくて、自分から浮かんできたものに対して、「これじゃダメだ」って、言葉を変換してたんですよね。でも、これは自分だけにしかわからないだろうっていう言葉を使ってみたりして、思い切り素っ裸になって、自分のなかに深く潜れば潜るほど、結果、誰かに届く曲になるっていうことを発見したんです。
EMTG:それ、不思議な気分ですよね?
松本:恥ずかしさと喜びが共存したカオスな感じでしたね(笑)。これを、この先も体感していかなきゃいけないんだったら、すごい大変だなあと思いました。いままでは後ろめたさとか不安があって、それを振り切るために言葉選びをしてた部分があるんですけど、いまは自信があるからなのか裸の自分は恥ずかしいんですけど、ちゃんとひとりの人間として言葉を発してる感覚があるので。結果的に、ここがいちばん正しい場所だったというか。この場所に辿り着くまでに、25年間生きてきたんだなと思います。
EMTG:話を訊いてると、今回のアルバムって、ひとりの男が自分を取り戻していくドキュメンタリーみたいな作品なんですよね。「オーバーフロー」もしかり。
松本:ああ、たしかに。「オーバーフロー」を書いたきっかけは、活動休止期間中に歌えなくなったことですしね。その瞬間に、俺は本当に音楽をやりたいんだなと思って書いた曲なんですよ。もともと『LIFE PROBE』(2015年作品)のときから、曲とタイトルはあったんですけど歌詞がつかなくて。あのころはオーバーフローできてなかったんだなって気づきました。いまのほうが溢れるものがあるなあって。
EMTG:メンバーは松本くんが書くものが変化していくことは、どう感じていますか?
大屋:純粋に俺は嬉しかったです。
中原:うん、嬉しい。
松本:ね、メンバーはこう言うんですよ? わけわからないですよ(笑)。
EMTG:いや、その気持ち、わかりますよ。
大屋:いままで隠してきたものをパッと取っ払ってきてくれたのが、純粋に嬉しいんです。
中原:大自身の本音がわかりやすく書いてあるのが共感できたし、いろんな人に聴いてもらうってなったときに、俺自身も「これ、すげえ良いんだよ」って言いやすいというか。「聴いてよ、聴いてよ」ってなるんです。
EMTG:「オーバーフロー」なんて、“君に愛されたい!”って歌ってますからね。いままでの松本くんは絶対に歌わないようなストレート歌詞で。
中原:そういう人、大好きなんですよね(笑)。
EMTG:川口くんは?
川口:嬉しい気持ちもあるんですけど純粋に曲作りも楽しめましたね。僕らは言葉を大事にしてきたバンドなので、ようやく自分も大が言いたいことにのっかれた感じがしました。やっぱり大の気持ちを理解してるかしてないかで演奏も全然違いますね。
松本:そのせいか、今回はいちばんスムーズにいろいろなことが運んでいったところはありますね。言いたいことと、鳴らしたい音さえあればいい、みたいな感じだったので。そのぶん、いろいろな思考に時間を費やせた感じがあったんですよ。結局、前までやってたのは、「自分隠しだったな」っていう答えに辿り着いたんです。世のバンドマン全員に教えたいんですね、こういうやり方をすればスムーズにいくんだよって(笑)。
EMTG:(笑)。松本くん、インタビューの発言も変わりましたね。言葉が尖ってる……。
松本:いま、俺、今世紀でいちばん尖ってると思います(笑)。
中原:それだけ自信があるっていうことでしょ?
松本:うん。
EMTG:リード曲の「BABY STEP」は、いつ頃できたんですか?
松本:これは野音のあとですね。その前からアルバムを作ってたんですけど、リード曲がなかったんですよ。野音のあとに何を思うんだろう?って感じてから作りたくて。
EMTG:そこで思ったことが、“僕が僕として生きることこそが 偉大な一歩目だから”という歌詞に集約されてますよね。
松本:そういう言い方をしましたね。もうちょっと違う結末を考えたかったんですけど。
中原:あ、そう?
松本:俺っぽい結末になってしまいました。
中原:それでいいじゃん(笑)。
松本:もっと「オーバーフロー」で歌ってるような“君に愛されたい!”みたいな、バシャンッとくるやつがほしいなと思ったんですけど。
EMTG:そこで悩むのが松本くんらしいけど(笑)。でも、野音を終えて、このフレーズが出てきたのであれば、それが正解なんだと思いますけどね。
松本:うん、いまいちばん言いたいことではありますね。あと、「BABY STEP」は、「緑閃光」に対抗する曲を作ってみたかったというか。いままで意図的に「緑閃光」っぽい曲をリリースしてこなかったんです。「緑閃光」=僕たちみたいに思われるのが嫌で。「innocence」とか「heartbeat」「地球儀」みたいな曲を作ったりしたんですけど。
EMTG:「緑閃光」に真っ向勝負できたのも、自分に決着をつけられたから?
松本:そうだと思います。「緑閃光」の良さって、少ない音数のなかで、俺の歌がいちばん映えるところなんですよね。すごく小さいことを歌ってるけど、それが、どこまでも大きく響いていくっていうオアシスみたいな音楽なんですよ。それが俺らの強みかなと思うから、あえてオアシスになろうとしたし、「緑閃光」に真っ向勝負をしようと思ったんです。
EMTG:へえ、個人的には「こういうテレンの曲を待ってたな」とは思ったけど、「緑閃光」の二番煎じだとはまったく思わなかったけどね。
松本:うん、やっぱり自分が思ってるほどには伝わらないんですよね。良くも、悪くも。
大屋:そう言えば、この曲作るときにデモがなかったんですよ。
松本:久々にバンドのセッションで作ったんです。
大屋:サビのメロディだけあったんだけど、もっといろいろなメロディを聴いてみたいっていうのがあって。
松本:スタジオでメロディオーディションがあったんです。
川口:大が考えるメロディはいつも良いんですけど、「もうひと越え!もうひと越え!」みたいな感じで、たくさんメロディを作ってもらって。
中原:「悪くないんだけど、それだったら、さっきのほうが良かったかなあ」みたいな。
EMTG:なかなかジャッジが厳しいメンバーですね(笑)。
松本:50パターンぐらい作ったんですよ。
EMTG:それはヤバい(笑)。久々にセッションで作りたいと思った理由はあります?
松本:自分が(野音で)覚醒したあとだと思ったので、いまだったらみんなで作っても自分でいられるかなと思ったんですよね。ずっと自分に自信がない状態で作ってきたので。初めて自信をもって作った作品ではあると思います。
EMTG:「初めて自信をもって作った曲」ですか。衝撃です、その発言。
中原:どちらかと言えば自信家に見えましたよね。
EMTG:うん(笑)。
松本:全然。俺は、超後ろめたい気持ちでやってましたから。こんな自分でいてはいけないって、自分の理想の化身をまとって生きていたから。演技派なんですよ(笑)。でも、ゼロからイチにする作業の人は演技をしてちゃいけないんですよね。作ったものを演技していくぶんにはいいんですけど、作品を作る者としては裸の自分で生きていくべきだから。
EMTG:あとサウンドで言うと、今回のアルバムは全体的に暗いというか重たいですよね。
松本:俺、本質的には重たい人間なんですよ。でも……これ、誠実すぎると逆に作品をダメにしそうな気がするから、どこまで誠実に話してどこまで茶化していけばいいのか、考えあぐねてるんですけど。正直に言うと、ところどころ(自分の暗さを)面白がって作ってたところもあるんです。だから、けっこう重たい空気ではあるんですけど、重たい空気で作ったわけではないというか。俺は茶目っ気のある重たい人間なんです(笑)。
EMTG:わかります(笑)。その松本くんが持っている人間としての雰囲気を、歌詞だけじゃなくて、サウンドとして貫いたことも今作にとって意味があると思うんです。
川口:それも自然でしたね。
松本:1曲目(「I aroused」)のピアノのジャーン! とか、すごく暗いですよね(笑)。懺悔みたいな気持ちなんですよ。
EMTG:いままで本当の自分を隠していたことに対して?
松本:そう。いままでの自分とは全然違う人間であるっていうのを宣言しなくちゃいけないなと思ったんです。僕は、あんまり言葉が上手じゃないので、それよりも声にならない文字じゃないものを扱うのが好きなんですよ。それを、今回のアルバムではより明確に表現できるようになったところはあると思います。わざわざ唯一無二になろうとしなくても、こういう作業を繰り返していくことで唯一無二になれるんだなっていう。
EMTG:本当にそのとおりだと思います。懺悔から始まるアルバムだけど、最後に収録している「月のこどもたち」では、光のあるほうへ進もうとしてて。
松本:これはいちばん自分のことを書いた曲ですね。自分のなかで諦めがついたというか。
EMTG:“僕はお日様じゃないの わかるから”というフレーズですね。
松本:うん。無条件にすべての人を照らしてあげることはできないけど、俺もまた誰かから光をもらって、夜闇を少しでも照らせるぐらいの存在にはなれるかもなっていうことを曲にしてもいいのかな? って思いながら書きましたね。
EMTG:「月のこどもたち」というタイトルもいいですね。テレンらしい。
松本:最初は「Moon Child」っていうタイトルだったんですよ。その言葉でタトゥーを掘ったんですよ(左腕のタトゥーを見せながら)。右腕のほうが多いんですけど……(右腕のタトゥーを見せながら)。星の王子様の歌詞と、フランスのジャン・コクトーっていう詩人の言葉ですね。「詩人は未来を回想する」っていう、自分のなかでずっと大切な言葉だから入れてしまいました。これは鎖だと思って。自分に呪いをかけてるんです。
EMTG:もう消せないもんね。
松本:そう。最近のバンドでは入れる人も少ないですよね。
EMTG:そういう意味では、この曲も自分のなかでは鎖のひとつ?
松本:大切にしたいことですね。この気持ちは絶対に一生変わらないというか。ちゃんと月を好きになって、「キレイだよね」って言えることがいいなと思うんです。
EMTG:今作を聴いて、テレンは本当に光に憧れ続けるバンドなんだなと思いました。バンド名もそうだけど(LAMP IN TERRENは「この世の微かな光」という意味)。
松本:めちゃめちゃ「光」っていう言葉が出てきてますよね。途中で「書き直したほうがいいかな?」とも思ったんですけど、「もう、いっか」と思って。次回でどうなるか、自分でもわからないですけど(笑)。もうちょっと自分と世の中の接合面を探すというか、普遍的なものを作っていきたいなとは思ってます。そのために自分になる必要があったのが今作だと思うので。
EMTG:これ、アルバムがリリースされるタイミングで言うべきことじゃないんだけど、もう次のアルバムを聴きたくなってます。
松本:俺らもバーストしてますね。いつもはアルバムが完成したら、もう曲を書きたくないって感じになるんですけど、もう5曲ぐらいできてるんですよ。
中原:昨日もスタジオで新しい曲を作ったしね。
松本:本当に音楽を楽しんでますね、最近。

【取材・文:秦理絵】

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リリース情報

The Naked Blues

The Naked Blues

2018年12月05日

A-Sketch

01.I aroused
02.New Clothes
03.オーバーフロー
04.BABY STEP
05.花と詩人
06.凡人ダグ
07.亡霊と影
08.Dreams
09. Beautiful
10.おまじない
11.Water Lily
12.月のこどもたち

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

TOUR 2019 “BABY STEP”
2/16(土)福岡BEAT STATION [福岡]
2/17(日)岡山IMAGE [岡山]
2/23(土)大阪BIGCAT [大阪]
2/24(日)名古屋SPADE BOX[愛知]
3/01(金)仙台Hook [宮城]
3/02(土)新潟CLUB RIVERST [新潟]
3/10(日)札幌COLONY [北海道]
3/16(土)恵比寿LIQUIDROOM [東京]

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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