パノラマパナマタウン、待望の1stフルアルバム『情熱とユーモア』インタビュー!

パノラマパナマタウン | 2019.03.04

 パノラマパナマタウンに初めて取材をしたのは、まだ彼らが20歳の時だった。ナードなヒップホップと古いロックンロールを歪に混ぜ合わせたような泥臭い音を鳴らし、社会や流行に中指を立てる反骨精神を剥き出しにした彼らは、自分たちが何者で、何を表現したいのかを言葉にする術を持っていなかった。が、たしかに心の中に燃え滾る何かを持っていたことをよく覚えている。その「何か」の正体を探る旅に決着をつけて、明快な「肯定のロックンロール」として鳴らすのが、2月13日にリリースされた初のフルアルバム『情熱とユーモア』だ。自分だけが伝えることのできる表現を追及し続けることで、ポップミュージックとしての強度も増した今作について、ボーカル&ギターの岩渕想太に話を聞いた。

EMTG:今回のアルバムには「生きること」へのエネルギーが漲ってますね。
岩渕:「人間らしさを取り戻すぞ」みたいな感じはありますね。それはずっと自分のなかにあったテーマなんです。なんとなくで生きられる世の中だからこそ、なんとなく生きたくない。全部他人に決められちゃうのが空しいから、俺たちは軸をもって生きていくんだ……みたいなことをずっと思ってたけど、いままでは説明する言葉がなかったんですよね。ずっと濁して言ってたというか。「生きてる実感がほしいんですよ、俺は」とか、「毎日面白いことを見ながら生きたいんですよ」みたいな感じで説明してて。それを、今回のアルバムでは「めちゃめちゃ生きてる」っていう曲で言えたのがキーでしたね。
EMTG:「めちゃめちゃ生きてる」っていう言葉は、どうやって出てきたんですか?
岩渕:これはギターの浪越が作った曲なんですけど、なかなか歌詞が思いつかなくて、歌録りの3日ぐらい前まで何もなかったんですよ。で、この曲にはすごい可能性があるから、アルバムのキーにしたいなっていうイメージはあって。ずーっと考えてたら、ふっと「めちゃめちゃ生きてる」って思いついたんですよね。出てきた瞬間に、「この言葉最高だな!」って思ったけど、逆に半分ぐらい、「これ、伝わるかな?」っていう不安もあったんですよ。
EMTG:こんなに明快なのに?
岩渕:自分のなかで濃いものというか、「100点満点です!」っていうものを出したら、メンバーとかスタッフの人に「ちょっとわからない」って言われることがあるから(笑)。こういうときって、浪越が反対するかオッケーするかなんですけど、浪越に「めちゃめちゃ生きてる」でいこうと思うって言ったら、「良いんじゃない?」って言ってて。「フカンショウ」とか「$UJI」みたいな曲と同じように、「めちゃくちゃ生きてる」ってめちゃくちゃ岩渕っぽいから。そこはもう絶対に出したほうがいいっていう話でしたね。
EMTG:この曲は、岩渕くんがバンドを始めてから探し続けてきたことの答えですよね?
岩渕:5年間の結晶ですよね。
EMTG:「めちゃめちゃ生きてる」もですけど、今回のアルバムって曲調で言うと、いままでよりも明るい曲が多くないですか?
岩渕:俺らは自然に作ると暗い曲ができるんですよ。それって浪越と僕がイギリスのロックが好きだから、陰鬱とした感じになっちゃうんです。でも、今回は「希望」を歌いたいなっていうのはあって。中指を立ててばっかりじゃなくて、俺たちは肯定したいんですよね。最終的に人間を肯定したい、生きることを肯定したいと思ったときに、明るい曲を作ろうっていう流れで、浪越が作ってきたデモが「めちゃめちゃ生きてる」だったんです。
EMTG:アルバムのテーマとして、「生きること肯定したい」っていうのを考えるようになったのは、いつ頃からですか?
岩渕:「くだらnation」を出した頃ですかね。ライブをやるなかで感じるようになったのが大きいと思います。
EMTG:前作ミニアルバム『PANORAMADDICTION』をひっさげて回ったツアーは“見たこともない熱狂”がテーマだったけど、それが今作のヒントになってる?
岩渕:ツアーファイナルのワンマンを代官山ユニットでやって、思い切り全部を出すのって気持ちいいなっていう感覚が芽生えたんですよね。タイトルを「熱狂中毒」(=HEAT ADDICTION TOUR)にしたのも、それを求めての流れだったし。いままでは真っ直ぐにモノを言うのがダサいと思ってたけど、それが気持ち良くなったんです。
EMTG:それに対して、お客さんも熱狂で応えるっていう良い循環が生まれたライブでしたね。
岩渕:うん、フィルター越しの話じゃなくなったんですよね。
EMTG:ただ、明るい曲が増えたからといって、本質的にパノラマパナマタウンが歌ってることは変わってないなと思うんですよ。
岩渕:そう、表裏一体だなと思ってるんです。自分が「どうして、こういう枠に捉えてくるんだよ」とか「なんで同じ建物ばっかりなの?」「同じ人ばっかりなの?」って社会を批判するのって、ひっくり返したら人間をすごく信じてるからというか。人間って、みんなバラバラだし、違うことを考えてていいし、それぞれの生き方があっていいんだって。いちばん最初に作詞をした「ロールプレイング」も、今回のアルバムで録り直した「世界最後になる歌は」も、ひっくり返したら肯定だったなって、いまは思いますね。
EMTG:いままでは岩渕くんがほぼ全曲の作詞作曲をしてたけど、今回のアルバムでは浪越くん、タノくんの曲も増えましたね。これは意図してそうなったんですか?
岩渕:まず、「くだらnation」以降、だんだん僕が曲を作れなくなったんですよ。「Top of the Head」と「Who am I ???」は新しく作ったけど。っていうのも、自分のなかで、こうしたい! っていうのがありすぎて、そこに達する曲を作らなきゃって縛ってる部分があったんですよね。っていうときに、浪越とかタノが「曲を作ったから聴いてくれ」ってデモを渡してきて。それがすごく良くて。じゃあ、それでいこうよっていう話になりましたね。
EMTG:タノくんが作曲した「Sick Boy」とか「からの」は明るいですよね。
岩渕:タノって本人は暗いのに、すごい明るい曲ばっかり作るんですよ。
EMTG:タノくんがパノラマパナマタウンに明るさをもたらしてくれたとしたら、浪越くんの曲が増えたことで、何がもたらされたと思いますか?
岩渕:浪越は誰よりも音楽が好きだし、ロックンロールの歴史にも詳しいし、造詣が深いから、バックボーンがしっかりした、音楽的な曲ができるなと思いますね。本人に言ったことがないんですけど、古いロックンロールとかブルースが好きだから、浪越が作る曲がいちばん土臭いんです。だから、僕が人間臭い歌詞を書くのにも合うなと思いますね。
EMTG:あと、個人的に思ったのは、浪越くんの曲が増えたことで、すごくロックバンドらしい作品になったと思うんですよ。
岩渕:ああ、たしかに浪越はバンドが好きですね。
EMTG:もっと言うと、岩渕くんがメインで曲を書いてたら、正直、ヒップホップ色の強いアルバムになってたんじゃないかと思ってて。
岩渕:たしかに(笑)。最近、俺、ヒップホップばかり聴いてるんですよ。
EMTG:でしょ?
岩渕:バンドを全然聴いてないから、曲ができないっていうのもあるんですよね。だから、「Who am I ???」ではトラップ・ビートをやりたかったんです。いまのアメリカのトラップラップを聴いてると、虚しさとか自己破滅を歌う人が多い。それは生(せい)の叫びだなと思うんですよね。正直、いまのバンドよりも生の叫びじゃんって。ケンドリック・ラマーみたいな政治的にメッセージを発信する人がいる一方で、すごくパーソナルなことを歌ってる人もいて。昨日、女を抱いたとか、どれだけドラッグやってるとか。って考えたときに、自分らも虚しさを歌うバンドだし、「自分って何だろう?」っていうことを何回も問い直すバンドだから、ああいうビートのなかでフロウしたいって思ったんです。それに、いちばん衝突したのが浪越でしたね。いまトラップをやるのは流行りに乗っかってる気がするって。
EMTG:言いそうだね(笑)。
岩渕:そう。ヒップホップをやるなら、Run-DMC みたいな80年代にヒップホップが起こったときの流れを汲んだものじゃないとやりたくないって。で、いま俺が言ったようなことをバンドで表現したいんだって説明して、納得してもらったんです。
EMTG:ちなみに、岩渕くんはもっとヒップホップのほうに行きたいとは思わない?
岩渕:ラッパーになりたいとは思わないですね。僕もバンドを信じてるんですよ。打ち込みのビートじゃなくて、メンバー……自分の友だちが作った曲で歌詞を書いて、自分の友だちがドラムを叩いて、ベース、ギターを弾いてるっていう環境でこそ、いちばん人間臭いものが、本来なら出るはずだって信じてるんです。だから、バンドにこだわりたいですね。
EMTG:わかりました。アルバムのタイトル「情熱とユーモア」も良いですよね。
岩渕:これは自分の人生哲学なんです。熱く突っ走っても伝わらない、かと言って、ヘラヘラ面白いことばっかりやってても伝わらない。だから「情熱」と「ユーモア」が両方いるっていうのが。で、俺たちがバンドのことを内々で説明するときに、「情熱とユーモアなんですよ」っていう説明をするようになってたんですね、半年ぐらい前から。
EMTG:じゃあ、わりと早い段階からタイトルは決まってた?
岩渕:いや、タイトルは2ヵ月ぐらい悩みましたね。いろいろなアイディアを出したんですけど、全部しっくりこなくて。最後に、タノかな?……が、「情熱とユーモア」でいいんじゃない? って言ってくれて。「その手があったか!」っていう感じでした。いまのバンドシーンって、「かっこいい幻想」に囚われすぎてる気がしてるんです。かっこいいか、めちゃくちゃ笑えるじゃなきゃダメな感じがある。最近は「ダサかっこいい」みたいな言葉が出てきたけど、俺は「ダサくてかっこいい」がすごいなって思いますね。
EMTG:情熱とユーモアの両方を持ってるアーティストって、誰だと思います?
岩渕:……何だろうな。ナンバーガール。結局、もともと自分が好きなものになっちゃいますね(笑)。あと、RHYMESTERとか、かなあ。
EMTG:アルバムで、私がいちばん情熱とユーモアを感じたのは、「Sick Boy」の《逆から読んでも しんぶんし》のフレーズでした。皮肉たっぷりだけど、クスッと笑えて。
岩渕:そこを突いてもらえたのは、すげえうれしい。フェイクニュースが溢れて、何が正しいかわからなくなってたから、それを言うのは「これじゃん!」と思ったところです。あと、けっこう俺的にグっときたのが、《ショッピングモールコンビニエンスチェーン店/みたいな人間じゃなくて/個別包装の魂をハンドメイド》(「月の裏側」)ですね。ここも「言えた!」って思いました。もともと商店街が好きなんですよ。
EMTG:ええ、「SHINKAICHI」(『SHINKAICHI』収録。現在は廃盤)でも、神戸の商店街を歌ってますね。
岩渕:そう。なんで商店街が好きなのかって言ったら、家の近くにイオンができて、人がそっちに流れちゃったからだなと思ってて。なんで田舎の友だちが面白くなくなったのかなって思ったら、イオンでしかものを買わなくなったからだと思ってるんです。同じものばっかり並んでるショッピングモールとかコンビニに嫌気がさしてる自分がいて。2020年に向かって、どんどん画一された建物ばっかりになっちゃうのが、すごく気持ち悪いんですよね。それもまた人間愛だなと思っていて。これだけ人間が多様なのに、なんで建物が一緒なんだよっていうのがあったから、それを歌詞にできたラインです。
EMTG:地元への想いで言うと、ずっとライブで歌い続けていた「真夜中の虹」が、今回のアルバムで初めて音源化されましたが。
岩渕:これは地元のシャッター街の曲ですけど、歌詞は書き変えました。最初は、ただ煙突とかシャッター街ってかっこいいじゃんっていう曲だったんですよ。「真夜中の虹」はカウリスマキ監督の映画のタイトルなんですけど、その映画の荒廃した敗北者の感じがシャッター街と結びついていて。で、今回、歌詞を書き直すときに、どうして自分がそれを好きなのかを掘り返したんです。その答えが《裸のままで生きてく/この街が好きだ》ですね。別にシャッター街じゃなくてもいいんですけど、人間味あふれる商店街って、人と人の関係で成り立ってて、取り繕うとしてない感じがするんです。やっぱり渋谷とかって、ちょっと良い街に見せようと感じがあるし、オシャレにしないと歩けない空気があるじゃないですか。少し話が逸れるんですけど、大森靖子の「新宿を」っていう曲に、《あのまちをあるく/才能がなかったから/私 新宿がすき》っていう歌詞があるんですね。
EMTG:いい歌詞ですね。
岩渕:そういうことだなと思っていて。俺も新宿も好きなんですよ。歩く才能がいる街、きれいにしなきゃいけない街が苦手なんですよね。でも、俺、自分の地元だったら、寝間着でも歩けるし(笑)、裸のまま生きていいっていうのが好きですね。
EMTG:最後に収録されている「俺ism」はいつ頃できた曲ですか?
岩渕:実は『PANORAMADDICTION』の前からあったんですよ。なかなか入れる機会がなくて。仮タイトルは「ユートピア」だったんですけど。
EMTG:そういう響きが似合う曲ですね。
岩渕:合いますよね。でも、「俺ism」っていうタイトルを思いついちゃって(笑)。浪越には「俺ism」じゃないと思うって反対されましたけど。歌詞を全部書いたら、「めちゃめちゃ生きてる」と同じように、岩渕の濃いものを信じてるって言ってくれて。
EMTG:自分がどういうところで生まれ育って、どういう葛藤があって今に至るのかっていうのを歌ってて、このアルバムの最後を締めくくるのに相応しいですね。
岩渕:レペゼンですよね。バンドってレペゼンがないんですよ。地元の話もしないし、歌ってるやつがどういうやつを全然言わない。で、固有名詞も言わないじゃないですか。なんか、そこにすごく違和感があって。だから、バリバリ地元の話をしたいなと思ったんです。そこに決着をつけてから、次に進みたいなって。
EMTG:レペゼンの曲を作りたいって話は「PPT」(『Hello Chaos!!!!』収録)を作った経緯でも話してましたよね。あれはバンドの自己紹介をしてる曲で。
岩渕:ああ、言ってましたね。「なんでビースティ・ボーイズには自分らのことを歌ってる曲があるのに、バンドにはないんだ」って。でも、俺、本当に不思議でしょうがないんですよね。バンドって誰にでも当てはまるような抽象的なことばっかり言うから。
EMTG:岩渕くんは、むしろ自分にしかわからない景色とか感情を具体的に言葉にすることで、伝わるものがあるし、それこそが届くものだって信じてる?
岩渕:僕の好きな芸術は全部そういうものだなと思います。自分を突き詰め過ぎたら、ポップになったっていうものがすごく好きだから。草間彌生さんみたいな。
EMTG:そう考えると、いまはポップに対するアプローチも変わったんじゃないですか? 『Hello Chaos!!!!』の頃は、より広く届けるためには「ポップにしなきゃ」って考えてた時期もあったけど。
岩渕:うん、たしかにポップの考え方が変わりましたね。それこそ『Hello Chaos!!!!』ときは普遍的に書かなきゃいけないのかな? っていう意識が強かったけど、いまは自分らを突き詰めることがポップになるっていうのはありますね。たぶん「フカンショウ」が届いたのがデカいんですよ。あんなにパーソナルな曲が、ちゃんとみんなの歌になったし、ひとりで思ってた《ほっといてくれ》に共感してくれる人がいたことが自信になって。じゃあ、自分を突き詰めようって思えた。そうやってできたのが『情熱とユーモア』ですね。

【取材・文:秦理絵】

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リリース情報

情熱とユーモア

情熱とユーモア

2019年02月13日

A-Sketch

01. Top of the Head
02. Sick Boy
03. $UJI
04. めちゃめちゃ生きてる
05. 世界最後になる歌は
06. 月の裏側
07. 真夜中の虹
08. distopia
09. くだらnation
10. Waterfront
11. Who am I ???
12. からの
13. 俺ism

お知らせ

■ライブ情報

パナフェス2019
02/17(日)
THE LIVE HOUSE CHICKEN GEORGE / VARIT. / 太陽と虎(全3会場)

PANOPANA PAPARAZZI
03/08(金) タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO

DRAMATIC ALASKA TOUR 2019
03/10(日) 松本ALECX

1st full album "情熱とユーモア" release tour「HUMAN PARTY」
03/21(木・祝)千葉 LOOK
03/28(木)仙台MACANA
03/30(土)札幌 SPIRITUAL LOUNGE
04/05(金)福岡 DRUM SON
04/06(土)広島 CAVE-BE
04/13(土)新潟 CLUB RIVERST
04/20(土)梅田 CLUB QUATTRO
04/21(日)名古屋 CLUB QUATTRO
05/18(土)恵比寿 LIQUID ROOM

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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