人間椅子 30周年記念盤『新青年』リリース

人間椅子 | 2019.06.05

 聴けば聴くほどに、的を得たアルバム名だ。人間椅子が30周年という大きな節目に放つ21thアルバム『新青年』は、キャリアを重ねてなお攻め続けるバンドの基本姿勢を貫いている。いや、攻め続けているがゆえに今作も"傑作"の名に相応しい作品が出来たと断言したい。例えばアルバムのリード曲「無情のスキャット」を本編ラストに収録したりなど、オープニングを飾る「新青年のまえがき」から最後までゾクゾクしながら聴き終えてしまった。ロックとは青春の発露である。そう、永遠の青春を謳歌し続けているメンバー3人に話を聞いた。

EMTG:今作も素晴しい出来映えですね!まずは作り終えた感想から教えてもらえますか?
和嶋:『新青年』(*1920年から1950年まで続いた雑誌名)というアルバム名がすごくいいと思っているんですよ。逆にアルバム名が良すぎて(笑)、それに相応しい曲が揃うかなという心配はあったんですけど。お陰様で、青春の情熱あり、自分たちがモットーとするヘヴィさもありと、アルバム名に相応しい内容になりました。
鈴木:和嶋君も自分でハードルを上げて練った曲を作っていたし、自分も曲作りに頑張ったから、全体的に楽曲は底上げされた形になったと思います。「月のアペニン山」みたいなバラードも最近は入れてなかったけど、初期はこういう曲を必ず入れてましたからね。だから、今回はハードロックの王道を追求したいいアルバムになりました。
和嶋:ヒストリー本(*初の公式本「椅子の中から 人間椅子30周年記念完全読本」6月26日発売)も出るんですけど、それも大きかったのかなと。昨年から取りかかっていたんですけど、自分たちの歴史を客観的に見つめ直すというか、思い出す作業をやりましたからね。
EMTG:なるほど。ノブさんはいかがですか?
ノブ:制作が終わった後に聴いて、すごく感じたのは和嶋君の曲はより和嶋君らしく、研ちゃん(鈴木)の曲はより研ちゃんらしく・・・リフや8ビートの感じもよりらしく振り切れたなと。表現方法も豊かになったし、それが8ビートにもはっきり出たんじゃないかと。僕は加入して15年というタイミングですけど、8ビートに色気さえ感じますからね。
和嶋:初期の頃から同じような音楽をやってるつもりなんですけど、微妙に上手くなっているんでしょうね(笑)。前よりもアレンジで悩むこともなくなったんですよ。そういう熟練の技が効いているのかもしれませんね。
EMTG:自分たちらしさを楽曲により落とし込むことができたと?
和嶋:青年感はより出せたと思います。CDの帯にも書いているんですけど、「青春の立像には、恍惚と不安と希望が宿っている」と。青春独特な焦燥感、憂鬱さってあるじゃないですか。あえて青春のジリジリした感じを出したくて。ただ、いらずらにそれだけで終わるのではなく、50歳の視点でそれを書いたので、何となく希望も盛り込めたかなと。
EMTG:人間椅子もまた青春の真っただ中にいるんだ、という意味合いもあります?
和嶋:そうですね。僕らは一度も活動休止することなく30周年を迎えましたから。なぜそれだけ続いたかと言えば、青春の気持ちのままやっていたからだと思ってるんですよ。だから、すぐにその気持ちに戻れるんですよね。ロックは青春の表現だと思ってますから。
ノブ:『新青年』というアルバム名は造語としてもいいですよね。青年は新しいものなのに、さらに「新」と付くから、表現の強さが倍になる感じもして。バンドってずっと青春だよね、という話をたまにするんですよ。当時からガムシャラだったし、それがずっと続いてますからね。
EMTG:ええ。今作の5曲目(「巌窟王」)まではヘヴィでダークな質感を持つ曲調が続いて、夜明け前みたいな雰囲気も漂ってますよね。
和嶋:まさしく。前半は青春期の焦燥感を出して、途中から明るめの曲でハードロックの軽快さを出しつつ、「月のアペニン山」で仕切り直して、またヘヴィに戻るという。
EMTG:作品トータルの流れもすごくいいですね。
和嶋:うん、非常にいい流れになったと思います。
EMTG:和嶋さん作詞作曲の「いろはにほへと」は「ドッキン!」、「ズッキン!」という歌詞のフレーズが耳に残り、琴みたいな音色も入れてますよね?
和嶋:和風の雰囲気を取り入れたくて、今回は久々に大正琴を使いました。海外に影響を受けたバンドサウンドですけど、日本人ならではのアイデンティティを入れようと。
EMTG:鈴木さんが作曲した「宇宙のディスクロージャー」はスペーシーな作風ですね。
鈴木:ディスクロージャーという単語は知らなかったんですよ(笑)。和嶋君が読んでる雑誌「月刊ムー」によく出てくる言葉みたいで、宇宙シリーズは時々やっていたから、HAWKWIND好きとしては嬉しいですね。
EMTG:この曲はテルミンを入れてますよね?
和嶋:そう!鈴木くんの曲を聴いたときに、これは宇宙だろうと。だから、スペーシー感を出そうとテルミンやスライド・ギターを入れました。別曲でノブ君はパーカッションも導入しているしね?
ノブ:「月のアペニン山」でやってみたんですけど、それは初の試みです。パーカッションは好きなのでライブでも使っていたけど、活躍できて良かったですね。僕が考えるパーカッションとは違う要求を和嶋君からされて、それが面白かったです。
EMTG:「月のアペニン山」も今作の中で大好きな楽曲です。
和嶋:いままでにない感じだしね。実はギブソンのダブルネック・ギターを買ったことが発端です。その12弦の音があまりにも良くて、とにかくそれを録音してみたくて、うまく録れました。
EMTG:曲調はBLACK SABBATH的な雰囲気が出てますね。
和嶋:バレますよね、「Planet Caravan」です。あの曲のアドリブ感を減らすと、またいい雰囲気が出るんじゃないかと思って。
鈴木:この曲は30年目にして初めて指で弾いてるんですよ。レコーディングでも、どの指で弾けばいいのかなって(笑)。
和嶋:初心者みたいだったもんね。
鈴木:ギーザー(・バトラー)みたいに弾きたかったけど・・・人差し指が一番いい音が出たから、それに気づくまでに1時間かかりました。
和嶋:レコーディングはしごきみたいでしたよ。悪いなあと思いながら、何度も録り直してもらってね。
EMTG:「無情のスキャット」もいままでにない曲調で新鮮でした。
和嶋:大体、アルバムの最後はヘヴィな曲を入れているけど、イントロから叙情的なアルペジオで始めたくて、あそこはGOBLINの「Suspiria」のイメージです。スキャットも多く入れたから、いままでとは違う感じの曲になったと思います。
EMTG:「命売ります」もそうですが、言葉遊び的な歌詞も増えてませんか?
和嶋:そう!「人造人間キカイダー」とかを手がけた作曲家の渡辺宙明さんが、スキャット的なものをよく使ってて、そのセンスがすごくいいなと。この曲は辛い気持ちを出したかったんだけど、人は辛くなると、叫んだり、溜息しか出ないと思うんですよ。サビでスキャットをやると、一抹の聴きやすさも出ますし。
鈴木:随分前にメインリフがあったから、すぐにできるのかなと思ったら、まあ、曲が完成するまでが長くて(笑)。イントロを含めて、和嶋君はすごく考えて作ったんだなと。このデモ・バージョンを聴くと、全然違うからビックリすると思いますよ。
ノブ:演奏している自分も曲の新しい魅力に気づきますからね。で、これがリード曲だね!って。
EMTG:今作のラストを飾るナンバーがリード曲というのも、めちゃくちゃ攻めてますよね。
ノブ:ですよね(笑)?
和嶋:うん、リード曲が最後というのはいままでやったことがない。
ノブ:ここ数年の人間椅子は、ずっと攻めの姿勢でいる感じがいいと思うんですよ。それも『新青年』というアルバム名に繋がるかなと。
EMTG:確かに。「無情のスキャット」をリード曲にした決め手は?
和嶋:リード曲はリフがかっこ良くなきゃダメだし、歌詞のテーマも重さがある方がいいし、そして、キャッチーさも必要ですからね。それがうまいバランスで入れられたかなと。展開もあるので、飽きずに聴けると思います。
EMTG:ボーナス・トラックの「地獄のご馳走」も荒々しくてかっこいい曲ですね。なぜボーナスなのかなって。
鈴木:荒金さんは好きな曲ですよね?NWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)ですから。
EMTG:はははは。TANKとかあの辺のイメージですか?
鈴木:IRON MAIDENだったり、奇しくも今日はTANKのTシャツを着てますけど(笑)、その辺ですね。ほんとは入れない予定だったけど、ボーナスで入れようと。この曲はCDを買わないと聴けないですからね。配信じゃ聴けないから。
ノブ:僕もなぜこの曲を落としたの?って、研ちゃんに言いましたからね。すごくかっこいいですもんね。
和嶋:アレンジが変わって、それで生き返ったんですよ。落として済まなかったなと。
全員:ははははは。
鈴木:落とされたから、よりシンプルにして、後半のソロも和嶋君がガンガン弾きやすくなるコード進行にしました。
EMTG:そして、今作のツアー・ファイナルは過去最大キャパの豊洲PITで行われますけど、それも楽しみにしてます。
和島:新曲をやるのはワクワクするので、お客さんと一緒にワクワクできたらいいですね。
鈴木:全席、椅子があるんですよ。
ノブ:お客さんも席がある方が嬉しいという声を聞くので、是非多くの人に来てほしいですね。

【取材・文:荒金良介】






【無情のスキャット ミュージックビデオ】


【人間椅子 /「新青年」への軌跡】(アルバム「新青年」初回盤DVD)

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リリース情報

新青年

新青年

2019年06月05日

徳間ジャパンコミュニケーションズ

01.新青年まえがき
02.鏡地獄
03.涜神
04.屋根裏の散歩者
05.巌窟王
06.いろはにほへと
07.宇宙のディスクロージャー
08.あなたの知らない世界
09.地獄小僧
10.地獄の申し子
11.月のアペニン山
12.暗夜行路
13.無情のスキャット

※「03.涜神」は異体字を使用しております。

リリース情報

椅子の中から 人間椅子30周年記念完全読本

椅子の中から 人間椅子30周年記念完全読本

2019年06月26日

シンコーミュージック・エンタテイメント

A5判/240ページ

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

三十周年記念オリジナルアルバム『新青年』
リリースワンマンツアー

6/26(水) 千葉LOOK
6/28(金) 神戸 CHICKEN GEORGE
7/1(月) 博多 DRUM Be-1
7/3(水) 京都 KYOTO MUSE
7/5(金) 名古屋 Electric Lady Land
7/7(日) 高松 OLIVE HALL
7/11(木) 山形 SESSION
7/13(土) 青森 Quarter
7/15(祝・月) 仙台CLUB JUNK BOX
7/19(金) 札幌 cube garden
7/23(火) 大阪 umeda TRAD(前AKASO)
7/26(金)東京 豊洲PIT

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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