PELICAN FANCLUB メジャー第2弾リリース「Whitenoise e.p.」インタビュー
PELICAN FANCLUB | 2019.06.27
昨年11月にミニアルバム『Boys just want to be culture』でメジャーデビューしたPELICAN FANCLUB。シューゲイザーやポストパンクなどといったトガったロックを土台に、エンドウアンリ(Vo&Gt)の文学性と哲学が見える日本語詞をのせた独自の音楽を生みだす、期待の逸材だ。このたびリリースされるEP「Whitenoise e.p.」は、そんな彼ららしさが、より明確に表れた一枚となった。ひらけたメロディやキャッチーな表現で入り口を広くしながらも、徹底的に音楽や人間の「本質」を突き詰めた今作について、エンドウに訊いた。
- EMTG:「Whitenoise e.p.」を制作するうえで、考えていたことはありますか?
- エンドウ:自分の中で軸になったのは、精神性です。前作を出してから、メジャーデビューした自分と、曲作りをしている自分にギャップを感じることがあって。自信はすごいあるんですけど、自信があるからこそ、突然不安になったり、突然喜びがあったり……言ってしまえば気持ちが安定しなかったんですよね。そこで、自分って何なんだろう?って思ったことが今作の発端でした。それを考えている時期に書いた4曲なんです。
- EMTG:まさに、1曲目の「ベートーヴェンのホワイトノイズ」の歌詞は、ぐるぐると惑っていて、おっしゃっていただいた心境が映し出されていると思います。
- エンドウ:今作のテーマは、「ベートーヴェンのホワイトノイズ」の一節目ですからね。
- EMTG:《結局人間が好きだった なぜなら僕は人間だ》ですね。
- エンドウ:そうです。僕、川を見ながら歌詞や曲を考えることがあるんですけど、河原には野良猫や鳩がいるんです。僕は、生物学的に言ったら、野良猫と同じ動物じゃないですか。みんなに生と死はあるわけだし。でも、人間だから、突然舞い降りてくる感情に「不安」や「喜び」っていう名前を付けているんですよね。僕は考えることができる人間が好きだし、そういうふうに思うことが、メンバーもスタッフも愛おしく感じるきっかけになったんです。だけど僕は学生時代、人間が嫌いだって思っていて。人と接したくなかったし、そこから逃げるために音楽を聴いて、映画を観て、これらがあれば生きていけるって思っていたんです。でも、音楽や映画を作るのは人間ですよね。そこで、僕は視野が一点だけになっていたから、人間を嫌いだって思っていたけれど、仮に70億人いるうちの10人しか見ていないのかもしれないし、出会っていない残りの人たちを僕は好きなのかもしれないって思ったんです。今作の4曲はすべて、直接的には生と死については触れていないんですよね。「Girlfriend In A Coma」は、最終的には自分の頭の中で、こうだったらよかったのにって思い描いていた結末になる。「100年前」は、《思い出したんだ》で終わる。「7071」は、僕がベッドの上で天井を見ながら思っていたこと。だから「思う」っていう人間の頭脳の中で、4曲が書かれているんです。そういうところも含めて、考えることができる人間って素敵だなと思ったことが、この作品が生まれるきっかけになりました。
- EMTG:それが顕著に表れているのが「ベートーヴェンのホワイトノイズ」だと思うんですが、「ベートーヴェン」というキーワードが出てくるところも気になります。
- エンドウ:これを作っていた時によく聴いていたのは、ベートーヴェンじゃなくって、エリック・サティだったんですけどね(笑)。でも、ベートーヴェンって、誰もが知っている存在じゃないですか。で、ベートーヴェンの作品しか信じないって言っている人がいるとして――これは、学生時代の僕の話にも通じるんですけど、その楽曲しか信じないとしても、でもそれを作ったのは人間なんだっていうことが、僕の中ではものすごい大事で。いつのまにか、自分だけはすごく特別になってしまっていることってあると思うんですよ。それってある種、自分が人間であることを忘れているんじゃないかなって。
- EMTG:人間とは違う「自分」という種類だと思ってしまっている、というか。
- エンドウ:そうです。でも、それじゃ君は今ここにいないからって僕は言いたいんですよね。まさに思春期の自分は、周りが風景だとしたら、僕は主人公だって思っていたんですけど。歌詞にもありますが、《僕も君も人間だった》と思えるだけで、やさしくなれる気がするんですよね。それが強く伝えたかった思いなんですよ。いろいろ事件とかありますけど、僕も君も人間なんだし、やさしくなれたらいいなっていうことは、歌いながらも思っていますね。
- EMTG:「どうして自分だけ」みたいな発想で周りを攻撃することってあるかもしれないですけど、《僕も君も人間だった》って思えば、たしかにやさしくなれますね。
- エンドウ:そうそう。人は一人では生きていけないから。でも、僕はそれをストレートに歌いたくはなかったんです。だから「ベートーヴェンのホワイトノイズ」っていう、わかりにくいタイトルになっていますし。(聴き手に)ゆだねたかったんですよね。
- EMTG:人は一人では生きていけないっていうことを伝えようとすると、ともすれば説教くさくなってしまうと思うんですが、ベートーヴェンが登場することで、しっかりエンタテイメントになっているし、わかりやすくなっていますよね。ベートーヴェンのような偉人も、同じ人間なんだよなって。
- エンドウ:この曲を聴いて、そう思っていただけたら、僕はひとつ果たせたなって思います。ベートーヴェンも僕も一緒ですよっていう。
- EMTG:《当たり前の手前の理由を探した》っていう一節も響きますね。これ、「当たり前じゃん」で済ませて、手前の理由を探さないことってたくさんあるから。その浅はかさが、自分の失敗や、世の中の問題を生んでいるようにも思えます。
- エンドウ:そうですよね。男性だから何々とか、女性だから何々とか言いますけど、じゃあそういうふうにひもづけるのは何故?って僕は思いますし、何事も本質は考えるべきですよね。そこで、この曲で歌っている、自分が人間であるっていうことは、超本質っていう。
- EMTG:他の曲についても訊いていきたいんですが、さきほど「4曲とも直接的には生と死に触れていない」という話をされていた中で、「Girlfriend In A Coma」は、最もその匂いはすると思いました。実際はどうなんでしょうか。
- エンドウ:これは、タイトル通り「危篤状態」っていう。メジャーデビューもあった中で、自分の中の信念は生きているのか、死んでいるのかっていうことを、四季と彼女を描きながら比喩したんです。
- EMTG:なるほど。この曲には《1000年後》という歌詞も出てきますが、今作には「100年前」という曲も収録されています。
- エンドウ:紛らわしいですよね(笑)。「100年前」は、僕が14歳のころの思い出の話なんです。それがなんで「100年前」なのかというと、最後に《大人になった今なぜか思い出したんだ》ってあるじゃないですか。これ、僕が114歳になった時の、タイムカプセル的な曲にしようと思ったんです。今の医療技術の発展に僕はかけていて(笑)、114歳まで生きて、この曲を聴き返したいなって。「ベートーヴェンのホワイトノイズ」の話にもつながりますけど、自分が何者であるかを残したいんですよね。
- EMTG:自分のために曲を書くのっていいですね。どうしてもメジャーフィールドに行くと、周りのために曲を書かなければならないっていう気持ちに流されてしまうこともあると思うんです。
- エンドウ:それが「Girlfriend In A Coma」でも歌っているようなことになるんです。自分の中の魂を殺したくないなっていう。「7071」も、自分自身の葛藤ですよね。
- EMTG:「7071」は、曲調的にもコアなところを表現していると思いました。
- エンドウ:サウンド面での表現もしていますね。歌詞の内容を音で表したかったというか。
- EMTG:「100年前」「7071」「Girlfriend In A Coma」は、濃くエンドウさんとバンドのことが表れた、ご自身たちのための曲で。一方、「ベートーヴェンのホワイトノイズ」でも、ご自身たちのことをウソなく書かれているとは思うのですが、これは周りに向けたメッセージと捉えることもできますよね。
- エンドウ:そうだと思います。自分自身が迷子になった時に、自分自身に書いた歌詞でもあるんですけど、それは僕という人間に向けて書いたということなので、人間であればわかる歌詞になっていると思います。
- EMTG:外に向けたメッセージと、赤裸々な内面、どちらも表現されているから説得力が増す、という構図を持つ1枚になっていると思います。
- エンドウ:それが、この4曲を選曲した理由です。
- EMTG:前作の時に、料理と曲作りは似ているというお話をされていましたけど、今作は川を眺めながら曲を考えたということで。「外に出た」というところも、今作に影響しているのかなと思いました。
- エンドウ:外に出るようになりました。自分自身が不安に駆られると、家にいても仕方がなくなっちゃうんですよね。外に出て川を見たり、いろんな人を見たり、そういうことをしていると、じゃあ自分はどうしよう?っていう刺激を受けるんですよね。
- EMTG:ライブでもお客さんの顔は見ますか?
- エンドウ:見ます。フロアライブで見るみなさんの顔はまったく違うので。
- EMTG:今作の初回生産限定盤には、「ゼロ距離ライブ」と称して行っているフロアライブの映像が収められたDVDが付いてきます。そもそも「ゼロ距離ライブ」を行うようになったきっかけって、何だったんでしょうか。
- エンドウ:音楽を聴くシチュエーションを選びたかったっていうのが、最初のきっかけですね。シチュエーションって大事なんですよ、僕らの音楽は。ゼロ距離でもシチュエーションはいろいろ変えて、東京ではスクリーンを貼ったり。そういう、普段観ないようなセットだと、お客さんは忘れられなくなるんだろうなって。一番こだわっているのは熱量なんですよ。目の前でやると、温度も湿度も振動も違うんです。僕のマイクを通していない生の声も聴こえますし、そのスリルや緊張感の中で聞く音楽は、かなり刺激が強いと思うから。「ゼロ距離ライブ」は、そのすべてを僕らが先導して伝えに行く、ひとつの表現なんですよね。
- EMTG:9月には、そのゼロ距離スタイルでのワンマンツアーが行われます。なかなか類を見ないツアーになりそうですね。
- エンドウ:はい。日本を征服しに行くような感覚です(笑)。
【取材・文:高橋美穂】
リリース情報
Whitenoise e.p.
2019年06月26日
Ki/oon Music
1.ベートーヴェンのホワイトノイズ
2.100年前
3.7071
4.Girlfriend In A Coma
2.100年前
3.7071
4.Girlfriend In A Coma
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エンドウアンリ(Vo&Gt)
天気予報
天気予報はよく調べます。僕、最低でも2日先の天気予報まで知っていないと不安になるんです。時間がある時はテレビの天気予報も見るんですけど、「ここではああ言っているのに、ネットではこうなってる」とかっていうことがあるじゃないですか。その違いを、雲の動きとかを見ながら、僕なりに解釈するんです。趣味なんでしょうね。小学生のころの自由研究で、新聞の天気図をまとめてパラパラ漫画みたいにしたこともありました。メンバーからもよく天気を聞かれていて、カミヤマ(リョウタツ/Ba)くんからは、「歩く天気予報」って言われます(笑)。
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