Sano ibukiとは何者か? 彼が紡ぐ物語の主題歌とは? その扉を開くデビューアルバム『STORY TELLER』インタビュー

Sano ibuki | 2019.11.06

 現在、23才のシンガーソングライター・Sano ibukiが、メジャーデビュー作となる1stフルアルバム『STORY TELLER』をリリースする。構想約2年をかけて紡ぎ上げた12篇の空想の物語の主題歌たちを収録した本作。その主人公のどれかはきっとあなたとよく似た人だろうし、時には大切な誰かを思い出すこともあるだろう。彼はいかにして、聴き手の心に内在するストーリーの扉を開く人になったのか。デビューに至る経緯を皮切りに、彼が目指す表現方法を聞いた。

EMTG:音楽との出会いからお伺いできますか。
Sano ibuki:どちらかというと、音楽大好きという子ではなかったんじゃないかなと思いますね。僕は、小さい頃から、絵やお話を書く方が好きだったので、音楽が特出して好きだったわけではないんです。でも、僕が生まれる前から、父親がマイケル・ジャクソンを聴いてて。今でもマイケル・ジャクソンは大好きですし、アース・ウィンド&ファイヤーやスティーヴィー・ワンダーが音楽的なルーツにはなってるかなと思います。
EMTG:新作では「革命的閃光弾」や「沙旅商(キャラバン)」あたりにソウルミュージックの素養を感じました。
Sano:そうですね。前作『EMBLEM』では自分のルーツ的な要素をあまり前面に出しすぎると、自分が作りたい世界観とちょっとずれてしまう気がしたので、微かに滲ませる程度にしてましたね。
EMTG:では、音楽を自発的に聴くようになったのはいつですか?
Sano:小学6年生の時に、フジファブリックの志村さんを見て。こんなに言葉がダイレクトに伝わってくるアーティストさんがいるんだって衝撃を受けたんですよ。僕もこんなふうに歌えたらいいなと思ってギターを持ったんですけど、家族から「音痴だ」ってずっと言われてて(笑)。歌うのが嫌いだったんですよ。でも、バンドをやりたいと思っていたので、友達と組んだバンドではベースを弾いてました。邦楽ロックとか、ラウド系のコピーバンドもしていたので、当時の僕が今の僕を見たらきっと不思議に思うと思います。
EMTG:どこで切り替わったんですか?
Sano:高校時代はいろんなバンドを組んでたんですけど、その中の1つのバンドの友達と「東京行こうぜ!」って話になってたんですよ。でも、いざ上京するっていう時に、その友達はみんな、地元の岐阜での就職が決まっちゃってて。「あれ? みんなで東京行くんじゃないの? 俺だけだったの?」ってことで(笑)、ベースが一人で東京に来ちゃったんです。初めは自分の周りでバンドメンバーを探そうかなと思ってたんですけど、見事に友達ができず。一人ぼっちだったので、歌ってみようかなということで、アコースティックギターを買って。
EMTG:歌とギターを本格的に始めたのは上京後なんですね。
Sano:そうですね。その前から、文化祭で記念だから出よう、とかはやってましたし。親友と組んでいた二人だけのバンドで、他のバンドメンバーを探すために弾き語りでライブをやったりはしてましたけど、ちゃんとやってみようかなと思ったのは18歳の時ですね。
EMTG:当時を振り返るとどんな日々でした?
Sano:たまに自分の昔のライブ映像を見たりするんですけど、本当にがむしゃらで、“伝えたい”という本能が剥き出しのままに出てる感じがして。弾き語りの人じゃないようなアグレッシブさを持ってるな、こいつは、と思ったりしますね(笑)。当時は、一種の焦りというよりは、何をしていいのかわからないっていう部分があったと思う。そういうところに対しての、俺はこんなものじゃない!っていう気持ちが……恥ずかしがながらも出てたのかなと思いますね。
EMTG:そこでも音楽をやめなかったということは、音楽で生きていきたいという気持ちがもうあったんですかね。
Sano:いや、自分が感動したものを一人でも多くの人に伝えられる方法をまだ探していたんだと思います。弾き語りを始めてから1~2年くらいは、映像や写真を撮ったりもしていて。そういう表現方法を模索していた時期だったと思いますね。しっかりと弾き語りをやっていこうと思ったのも、ライブイベントに誘われるようになって、楽しいというよりは、自分の表現を伝えて、ダイレクトに反応が返ってくるということに、一種の快感みたいなものがあったから。そういう感覚があった上で、まだどれにすればいいのか模索してるっていう時期が続いていた感じでしたね。当時もまだ絶対に音楽っていうわけではなかったですね。
EMTG:どこで転機を迎えました?
Sano:今は拙すぎて消してしまったんですけど、前作に収録されていた「moonlight」のMVを自分の最後の音楽として出したんです。打ち込みで音を作って、映像の編集も自分でやって。自分一人で作ったものを出して、何も反応が返ってこなかったら、自分が伝えたい感動みたいなものは、音楽でも映像でも伝わらないなって思って。でも、結果的に、大きなステージで歌わせてもらう機会を得て、いろんな人に出会わせてもらった。いまだに自分の歌にはコンプレックスがありますけど(笑)、そこで、より多くの人に伝えられる方法はこれなのかもしれないなって実感しましたね。僕にとっては、音楽という表現が、自分が受けた感動を人に伝えられる一番の方法なのかもしれないと思いました。
EMTG:前作『EMBLEM』はご自身にとってはどんな作品になってますか。
Sano:引っ込み思案で、当時、バンドに自分が作った曲を持っていくとかはできなかったんですけど、「moonlight」や「finlay」は高校2年生の時に作った曲なんです。基本的には全部、古い曲で構成されているので、アーティストSano ibukiというよりは、個人のSano ibukiの紋章のような曲たちなんです。だから、インディーズで出したいと思って。今聞くと、たった1年前なのに、若々しいというか、エネルギッシュだなって(笑)、自分で聴いていても思いますね。なにも顧みずに走っていく感じがあるし、強いなと思います。
EMTG:メジャーデビュー作である1stフルアルバム『STORY TELLER』とはどんな違いがありますか。
Sano:一番変わったのは、主人公の設定ですね。キャラクター一人ひとりの履歴書みたいなものを作ったんです。ただ物語を書くだけじゃなくて、物語に書かれていないところでもどういう動きをするかを、頭の中でなんとなくイメージできるように、キャラクター一人ひとりの好きな食べ物や血液型、性格や性癖など……パーソナルなところから外見的なところまで、キャラクターに注視して、意識して作っていった。それがまず、一番の違いですね。僕はいつも、物語のプロットを作って、その主題歌を書くように曲を作っていくんですけど、今回は主人公たちが勝手に動き出してくれる要素がより強くなったなと思いますね。
EMTG:自らの生き方や愛し方を歌うのではなく、物語を作って歌うというアプローチをとっているのはどうしてですか?
Sano:僕は、いわゆる自分に対するコンプレックスが強いので、自分のことを歌っても誰も聴かないだろうって思っているんです。友達に最近の出来事を話して、面白いねって言われるのはわかるんですけど、作品を受け取ってくれる可能性のある方に、自分の話をしても意味がないような気がしてて。僕のことよりも、あなたの生活の中で、よりそばにいられる曲でありたいというところで言えば、物語を作りたいし、もっと言えば、自分の存在を消したい。作っているSano ibukiっていう存在も消したいというところが根底にありますね。
EMTG:そこまで徹底してるんですね。全曲、主人公は全部違うキャラクターですか?
Sano:そうですね。<STORY TELLER>という大きい作品の中の12篇の短篇です。この世界で起きている12個のお話っていう感じですね。自分の構想から言うと、実はこの曲の主人公が、あの曲のサブキャラだとか、そういうのはいっぱいあるんですけども、僕の絶対的な信条として、作者がストーリーを語りすぎちゃいけないっていうのは、絶対的に守っていきたいなと思ってて。
EMTG:楽曲解説をあまりしないほうがいいんですね。
Sano:例えば、「決戦前夜」は弱い主人公が成長する話で、日々を決戦前夜にするんだっていう覚悟を、「革命的閃光弾」では弱いわけでも強いわけでもない普通の子が、絶望の淵に立ったことで見えてくる、自分の誇りや大切なものに気づくことを意識して書いていて。「滅亡と砂時計」は究極の愛をテーマにしてたりする。でも、あまり解説しすぎると、受け取ってくれた人が感情移入できなくなっちゃうじゃないですか。それは絶対に嫌だなと思って。あまり詳細を話しすぎないほうが楽しめるんじゃないかなと思います。
EMTG:では、全体のテーマだけ聞いてもいいですか。
Sano:『EMBLEM』からも滲み出てるんですけど、大きなテーマとして、出会いと別れを掲げてますね。
EMTG:生きることや死ぬことを考えさせられる曲も多かったです。
Sano:そうですね。出会いと別れの究極を考えると、どうしても生と死になってしまうというか。いろんな出会いや別れを描いているんですけど、突き詰めていくほど、生きるや死ぬっていうことに直面するところはありましたね。楽曲それぞれにもテーマはあるので、そのテーマに沿って奥に入っていくと、違う扉を開けたはずなのに、同じ場所に辿り着いてる、という感じでした。そういうものを乗り越えたり、究極のものに触れているというところに、より美しいものを描きたいと思った何かがあったのかもしれないですね。
EMTG:また、アルバム全体を言いようのない孤独感が貫いてます。
Sano:主人公を描く時に、ただ主人公を描くのではなく、自分の意思を持たせるようにしていて。例えば、寂しいとか、辛いとか。単純に、誰かと喧嘩してムシャクシャすんなっていうのを託してみたりとか。いわゆる意志の1個だけを託して、突き進んでいく主人公たちを見ると、その先は、自分とは全然違う動きをするし、自分とは全然違う人なのだけど、やっぱり自分のひとりぼっち感が乗り移ってるというか。孤独感が否めない主人公が動いてるから、誰もいないところを好んでるような文章だったりするのは、パーソナルなところから生まれてる気がしますね。
EMTG:タイトルを「STORY TELLER」(ストーリーテラー)にしたのは?
Sano:それぞれの曲を作っていく中で、その物語を書いてる主人公をも書いてたんですよ。だから、僕のことじゃないんです。
EMTG:ええ! ストーリーテラー=Sano ibukiではない? 物語を歌っていくんだっていう意志表明かと思ってました。
Sano:違うんです。ストーリーテラーっていう別の人がいるんです。この12篇の物語を書いた語り部のことですね。ただ、僕としては、こういう物語があるんだよとか、主人公がいるんだよとかは、考えずに聴いて欲しいなって思うんです。この曲たちは、僕の手を離れた以上、僕の曲であって、僕の曲ではない。本当に、一番自分のそばにいるような曲たちにして欲しいなと思うので、何も考えずに聞いて欲しいし、それぞれのストーリーテラーを作ってもらえたらいいなと思いますね。

【取材・文:永堀アツオ】

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リリース情報

STORY TELLER

STORY TELLER

2019年11月06日

ユニバーサルミュージック

01.WORLD PARADE
02.決戦前夜
03.いつか
04.革命的閃光弾
05.Kompas
06.沙旅商 (キャラバン)
07.いとし仔のワルツ
08.Letter
09.滅亡と砂時計
10.Argonaut
11.マリアロード
12.梟

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靴のソールと馬毛ブラシ
僕はもともと掃除が大好きなんです。
よく変態って言われますけど(笑)、磨いてピカピカになった部屋を綺麗だな〜って眺めるのが好きなんですよね。
あと、物は1個1個、大切にしたいなっていう気持ちがあるので、最近は特に、靴のソールを調べていました。
靴を磨くのも趣味なので、自分で壊れてしまった革靴のソールを変えたいなと思って。
靴屋さんに持っていくのではなく、自分でできるといいなと思って、ソールをいっぱい調べてました。
あと、馬毛ブラシ。いい馬毛ブラシがないかなと思って探してますね。



■ライブ情報

Sano ibuki Premium Live 2019
11/08(金)渋谷WWW

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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