ゴスペラーズが歩んできた25年――ハーモニーの変遷、意識の変化とは?

ゴスペラーズ | 2019.12.18

 本年メジャーデビュー25周年を迎えるゴスペラーズが、初のシングルコレクション『G25 -Beautiful Harmony-』をリリースした。
 個々のスキルも高いハーモニー・アスリートが見せる、多彩なフォーメーションは、時に王道、時に複雑、時に大胆、時に斬新。ポップス&アカペラ&ハーモニーという、ともすれば“守り”の印象が強いジャンルを体現しながら、一貫して“攻め”を貫いて来た5人。この5人のスピリッツが、アカペラという原野を開墾し、そこにハーモニーという雨を降らせ、豊かな土壌を作り上げた。これは、日本の音楽シーンにおいて、ひとつのエポックメイキングだと言っていいだろう。
 1994年のデビューシングル「Promise」から、この10月に発売された最新シングル「VOXers」まで、全52枚・58曲をリマスタリングした本作。タイトルにちなんで、ゴスペラーズのハーモニーの変遷、意識の変化を5人に訊いてみた。

EMTG:ゴスペラーズのハーモニーの変遷、意識の変化を軸にすえて、お話を伺っていきたいと思います。最初に、そもそも、ゴスペラーズは、どういうマインドを持ってスタートしたグループだったんですか?
村上てつや:最初に具体的なお題目があったかっていうと、そうじゃないっていうのが本当のところなんです。結成当初のマインドで言えば、単純に音楽リスナーとして聴いていても、綺麗なハーモニーは好きだし、楽しいものも好きだし、やっぱり熱いものも好きなんです……って、話なんですよね。人にどうやったら喜んで貰えるだろうかって考えた時に、熱いものは外せないって思った。それはリスナーとしてもそうだし、歌い手としてもそうだったんです。例えば、ひとつのグループ=チームがあって、どういうチームが観ていて楽しいのかっていうのが、結成当初から俺にとってはすごく大事だったんですよ。誰が1番とかそういうことじゃなくって、ここもいい、こっちもいいってところがあって、軍団として面白いってアピール出来たら、観ている人はすごく楽しいと思うんです。スポーツもそう。すごいエースがいて勝ち進むチームを観るのも興奮するんだけど、こいつもいい、こいつもいいよねってチームを応援したいなって思うんですよ。瞬間瞬間で主役が変わるような感じ。そういうところが、楽しいし、それが1番いいハーモニーじゃないのって思う部分もありますよね。
EMTG:デビュー前、ゴスペラーズのライブを観るまで、正直、自分の中で、アカペラと合唱の違いが明確じゃなかったんですよね。
北山陽一:そうですよね。要するに“ハモるんでしょ”みたいな。
EMTG:はい、おっしゃる通りです。
安岡 優:その違いをね、僕らはデビュー曲「Promise」をリリースしたことで、伝えられると思ってたんです。でも違った。「バラードだとやっぱり伝わらないんだな」って思ったんですよね。そこからシングルは、アップテンポの曲を……って、時代が始まる。メロウなのは出してるけど。当時、よく先輩たちに言われてたのは「早くバラード出して、売れちゃえよ」と。でも、それは僕たちの仕事じゃないっていうのがあった。だからケンカアカペラ(=アップテンポのアカペラ)ということにおいては、どこまでもボリュームの大きいものをやろう、と。
EMTG:DISC-1にそれが顕著に出てますよね。
安岡:ハーモニーが多少はみ出してもいいから、パワフルに歌おうっていう意識が強かった頃ですね。この意識が、DISC-2の1曲目の「熱帯夜」、アルバムだと『FIVE KEYS』につながっていくんです。
村上:その後、例えばすごくわかりやすいところで言うと「永遠(とわ)に」から「ひとり」って流れは、ゴスペラーズにとって、すごくいい形で世の中に届いたって実感はありますよね。ケンカアカペラとは違うけども、ヒットしたのが自分たちの1番芯に在るものでいけた。そこが本当に大きい。
黒沢 薫:“熱さ”を閉じ込められた曲でもあるしね。
村上:当時、「ひとり」が売れた時、俺「次のアルバムはアカペラにしよう」って、強硬に言ったんですよ。でもレコード会社のスタッフは違ったんですね。「今、自分たちのコアな部分を届けたいっていうのはわかるけど、たくさんの人がゴスペラーズに興味を持ってくれているタイミングで、まだまだゴスペラーズの概要を届けなければいけない。だから切り口は“LOVE SONG COLLECTION”でいきたい」と。
安岡:ハーモニーの持つ、スウィート感をとにかくきちんと届けようという考え方だったと思うんですよ。その時、1番、リスナーが手に取りやすいというか、世間が求めているところを切り出して、しっかり伝えていこう、という思いがあったんだと思う。
村上:俺は本当に強靭に反対したんだけど(笑)、でも最後はスタッフ側の意見を受けたんです。で「“LOVE SONG COLLECTION”出すんだったら、次のオリジナルアルバムでは、熱いのをやらせてくれ」って言ったんです。で、LOVE SONG COLLECTION『Love Notes』から、シングル「Get me on」、アルバム『FRENZY』っていう流れが出てくる。その後、アカペラのオリジナルアルバム『アカペラ』を作ることになるわけです。まぁそれ以来、アカペラ辛いなって話にね、なっちゃっていくんですけど(笑)。後日、メンバーと話してて、あれはアルバムじゃなくて、「UPPER CUTS 9502(MEDLEY)」(2002年発売シングル「星屑の街」のカップリング)が辛かったんだってなったんですよね(一同笑)。
北山:シングルで「星屑の街」を出すって決まった時に「やっぱりアカペラってバラードで綺麗なイメージだよね」って固まるのを僕らは極度に恐れたんです。だからカップリングに、アップのアカペラをメドレーで入れよう、と。この考え方は、すごく美しくてわかりやすいけど、そんなに頑張らなくてもっていう(笑)。
黒沢:あのエネルギーをアルバムになぜ残せなかったのかっていう話(笑)。
村上:結果として「星屑の街」ってシングルは、ゴスペラーズが最初から持っているコンセプトをいろんな角度から体現してるんですよ。アカペラで美しいもの、激しくて熱いものっていう。あと、主役の交代、とかさ。
EMTG:メインボーカルが交代する、歌い紡ぐ曲ですもんね。
安岡:その後、アカペラやハーモニーが、世間に浸透して、当たり前のようになってくるんだよね。これは後日談になっちゃうけど、「UPPER CUTS 9502(MEDLEY)」を聴いて「あんなアカペラがあるの初めて知りました」って、若い子に逢うことも増えていくし。そういう意味では、これまでなかったアカペラの扉を開く要素のひとつになったシングルだったと思う。
EMTG:DISC-3、DISC-4では、コーラスのアプローチが広がっている印象。
黒沢:そうですね。「言葉にすれば」とかでわかるけど、例えば、合唱との距離感が、デビュー以降数年よりは、明らかに変わって来てる。自分たちの中で、理由をつけて距離をとる必要がなくなってきたんですね。世間が、ゴスペラーズはハーモニーだ、って認識してくれていると実感出来るようになってきたのがやっぱり大きい。
安岡:この時点で、世間的にも、ハーモニーが古い……と誰も思わなくなってますから。だから、こちらの構えも無くなった。「言葉にすれば」で合唱の世界を知ることが出来て、より隔たりが無くなったんです。
酒井雄二:デビューしてからずっと、例えば、コーラスデザインとかは、絶対に明け渡さなかった部分でもあったんですね。でもそこも含めて、いろんな人の意見を取り入れてもいいって変化して来た頃でもあるんです。いろいろ、こだわり過ぎない形になってきたというか。こだわりという部分で言うと、コーラスも「あんまりみっちり、入れなくてもいいんじゃないの?」っていう、初期の自分達が聞いたらびっくりするような、ね。
北山:そうだよね。「1, 2, 3 for 5」とか、デビュー当時の俺達が聞いたら「さぼるんじゃねーよ。もっと(コーラス)入れられるところあるじゃん」って言ってたと思う(笑)。
安岡:世間にハモるというスタイルが浸透したことによって、本当にハモるべきもの、本当にハモりたいところだけハモるのが正しい選択だ、と。それが楽曲のためになるっていう選択肢が増えたって感じですよね。
北山:逆に、ハモるんだったら、そこには意味があるよねっていうのを求められる時期に入って来たとも思います。
EMTG:DISC-5では、「SING!!!!!」以降に新しいチャレンジの流れを感じます。
黒沢:今改めて(収録曲を)見て「SING!!!!!」からまた勢い出していきたいなって気持ちが出てるなと。DISC-4から、コーラスアレンジメントを人に委ねるって流れはあったけど、やっぱり「SING!!!!!」をボーカル、コーラスまでヒャダインくんに頼んだってことは結構大きくて。彼はレコーディングにも来てくれて、細かくリクエストしてくれたんだけど、それで、我々の中でゴスペラーズを再認識したんです。「あぁ、ゴスペラーズって、こういう風に思われてるんだ」っていう。「へぇ、面白いな」って。で、もっとガッツ出して、もっといこう、みたいな気持ちになったんですよね。
北山:それ、わかる! 「SING!!!!!」のコーラスデザインを(楽譜で)観た時に、その密度がすごくて。最初から最後まで緻密に書かれてた。それで「ここ最近、さぼってたかも、ごめんね」みたいな気持ちになりました(笑)。
EMTG:なるほど(笑)。実際は、さぼってないと思いますよ。コーラスを詰め込み過ぎない選択をしていただけだから。
北山:そう、さぼってたわけじゃないんだけどね(笑)。でも、ハモってカッコいいんだったら、ゴスペラーズなんだから、ハモってかっこいい方がいいよねってなるよなって。じゃあ、ガツンとハモろうって思ったんです。
EMTG:「SING!!!!!」は、<ハモらない時もある>ってワンフレーズが印象的で、ハーモニーもわざと外してるアレンジになってる。わざとハモらないようにするのは、大変なんですか?
村上:大変なことはない(笑)。
酒井:たゆまぬ努力で、ライブでは毎回違う変な音を探し求めてやってます(笑)。
北山:気を抜くとハモっちゃうんですよ。
安岡:そうそう。そこ気をつけないと。
村上:そういう意味では気が抜けない(笑)。
EMTG:12月21日のデビュー記念日には、4回目の全都道府県ツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2019~2020 “G25”」が始まります。
村上:今まで以上に、客席との距離感の近いライブにしたいなと思ってます。でも距離が近すぎるライブもちょっと違うなと思ってはいるんですけど。でも今回は、やっぱり感謝祭なので、これまでよりは、ちょっと近い方にツマミを回していこうかな、と。
EMTG:毎回ライブで必ず自己紹介があるところに、客席との独自の距離感、もっと言ってしまえば、初めてライブを観る人も含めて、一緒に楽しみましょうという、ゴスペラーズのスタンスが現れている気がします。
村上:自己紹介、大事だと思いますから。自分が他のアーティストのライブ観る時、ひとり一言、メンバー紹介があって欲しいなと思うから。
安岡:自己紹介のないライブとか、観ててストレスあるもん(笑)。ソロならいいけど、グループだと自己紹介、絶対欲しいと思う。
EMTG:わかりました(笑)。デビュー以降、ほぼ毎年、全国ツアーを行っているのも、ファンにとってはすごく嬉しいことだと思います。
黒沢:そう思ってもらえたらすごく嬉しいですよね。でも、ゴスペラーズは本当にツアーが好きだから。例えば「この街は○年ぶりだな。○年ぶりに観に来てくれた人もいるんだろうな」とか思うと、何度も歌っている曲でも、毎回、すごく新鮮な気持ちで歌うことが出来るんですよね。今回のツアーも長いけど、毎回新鮮な気持ちで歌いたいと思うし、毎回新鮮だと思ってもらえるように頑張ります!

【取材・文:伊藤亜希】

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リリース情報

25th Anniversary Single Collection BOX「G25 -Beautiful Harmony-」

25th Anniversary Single Collection BOX「G25 -Beautiful Harmony-」

2019年12月18日

Ki/oon Music

[Disc 1]
01.Promise
02.U’ll Be Mine
03.Winter Cheers! ~winter special
04.Higher
05.Two-way Street
06.カレンダー
07.待ちきれない
08.ウルフ
09.終わらない世界
10.Vol.
11.夕焼けシャッフル
12.BOO ~おなかが空くほど笑ってみたい~
13.あたらしい世界

[Disc 2]
01.熱帯夜
02.パスワード
03.永遠(とわ)に
04.告白
05.ひとり
06.約束の季節
07.誓い
08.Get me on
09.エスコート
10.星屑の街
11.Right on, Babe

[Disc 3]
01.新大阪
02.街角 - on the corner -
03.ミモザ
04.一筋の軌跡
05.風をつかまえて
06.Platinum Kiss
07.陽のあたる坂道
08.It Still Matters ~愛は眠らない
09.言葉にすれば
10.青い鳥
11.ローレライ

[Disc 4]
01.Sky High
02.セプテノーヴァ
03.1, 2, 3 for 5
04.宇宙(そら)へ ~Reach for the sky~
05.ラヴ・ノーツ
06.愛のシューティング・スター
07.冬響
08.NEVER STOP
09.BRIDGE
10.It’s Alright ~君といるだけで~
11.STEP!

[Disc 5]
01.氷の花
02.ロビンソン
03.太陽の5人
04.SING!!!!!
05.クリスマス・クワイア
06.Dream Girl
07.GOSWING
08.Recycle Love
09.Fly me to the disco ball
10.ヒカリ
11.In This Room
12.VOXers

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

ゴスペラーズ坂ツアー2019~2020 “G25”
12/21(土) [東京]かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
12/23(月) [埼玉]ウェスタ川越 大ホール
12/26(木) [神奈川県民ホール 大ホール
12/28(土) [千葉]君津市民文化ホール
01/09(木) [兵庫]神戸国際会館 こくさいホール
01/11(土) [奈良]なら100年会館 大ホール
01/12(日) [京都]ロームシアター京都 メインホール
01/18(土) [山口]下関市民会館
01/19(日) [岡山]倉敷市民会館
01/25(土) [山梨]東京エレクトロン韮崎文化ホール 大ホール
01/26(日) [群馬]桐生市市民文化会館 シルクホール
02/01(土) [大分]iichikoグランシアタ
02/02(日) [宮崎]日向市文化交流センター
02/09(日) [香川]ハイスタッフホール 大ホール(観音寺市民会館)
02/11(火・祝) [愛媛]松山市民会館 大ホール
02/15(土) [鹿児島]鹿児島市民文化ホール 第一
02/16(日) [熊本]市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
02/22(土) [栃木]宇都宮市文化会館 大ホール
02/23(日) [茨城]日立市民会館
02/28(金) [新潟]苗場プリンスホテル ブリザーディウム
02/29(土) [新潟]苗場プリンスホテル ブリザーディウム
03/07(土) [三重]四日市市文化会館 第1ホール
03/08(日) [岐阜]バロー文化ホール(多治見市文化会館)
03/13(金) [富山]砺波市文化会館
03/14(土) [愛知]名古屋国際会議場 センチュリーホール
03/20(金・祝) [福井]福井市文化会館
03/22(日) [静岡]静岡市民文化会館
03/28(土) [和歌山]和歌山市民会館 大ホール
03/29(日) [滋賀]滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール
04/11(土) [福島]いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
04/12(日) [山形]山形県総合文化芸術館 大ホール
04/18(土) [青森]リンクステーションホール青森
04/19(日) [岩手]北上市文化交流センター さくらホール 大ホール
04/25(土) [北海道]函館市民会館
04/26(日) [北海道]札幌文化芸術劇場 hitaru
04/29(水・祝) [秋田]秋田市文化会館
05/02(土) [徳島]鳴門市文化会館
05/03(日) [高知]高知県立県民文化ホール オレンジホール
05/05(火・祝) [広島]上野学園ホール
05/06(水・祝) [福岡]サンパレス ホテル&ホール
05/09(土) [愛知]名古屋国際会議場 センチュリーホール
05/16(土) [沖縄]沖縄コンベンションセンター 劇場棟
05/23(土) [島根]島根県民会館
05/24(日) [鳥取]鳥取市民会館
05/27(水) [大阪]フェスティバルホール
05/30(土) [東京]東京国際フォーラム ホールA
05/31(日) [東京]東京国際フォーラム ホールA
06/06(土) [長野]ホクト文化ホール
06/07(日) [石川]本多の森ホール
06/13(土) [新潟]新潟県民会館
06/14(日) [宮城]仙台サンプラザホール
06/20(土) [神奈川]厚木市文化会館
06/21(日) [埼玉]三郷市文化会館
06/27(土) [長崎]島原文化会館 大ホール
06/28(日) [佐賀]鳥栖市民文化会館 大ホール
07/05(日) [大阪]フェスティバルホール

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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