THE ORAL CIGARETTESが証明する“使命”と『SUCK MY WORLD』という“愛”
THE ORAL CIGARETTES | 2020.05.04
アルバムをリリースするたびに飛躍的な進化を遂げていくTHE ORAL CIGARETTES。4月29日、通算5作目となるアルバム『SUCK MY WORLD』がリリースされる。サウンドの幅を広げてくるだろうとは思ったが、想像以上の貪欲さで表現力を拡張してきたのには驚いた。もはや、“ライブでアガるキラーチューン”以外にも、様々な名曲を打ち出せるバンドに成長したと言っていいだろう。今回、特に出色だったのはR&B要素をスマートに取り入れた点。それも、付け焼き刃ではない本気度で取り組んでいるのだ。今後は新たに彼らを知る人、ハマる人もがさらに増えるに違いない。果たして、ここまで大胆なチャレンジをした裏には、バンドに何があったのだろうか。制作の裏側から、今の世の中に思うことなど、幅広く語ってもらった。
- ――最新アルバム『SUCK MY WORLD』は、予想を上回るチャレンジと新たな側面を引き出した楽曲が揃いましたね。メッセージ性も強く感じますが、“こんなアルバムを作りたい”みたいな青写真はあったんですか?
- 山中拓也(Vo/Gt):“自然に戻る”とか“根源に戻る”がテーマでした。
- ――アルバムの冒頭の「Introduction」から、英語でそのものズバリのメッセージが流れますもんね。そういうテーマに向かおうと思ったキッカケは何だったんですか?
- 山中:前作の『Kisses and Kills』(2018年6月リリース)で、未来をさらって、このまま技術が発展していろんなものが生まれていく中、本当に大切なものがなくなってませんか?……っていうメッセージはすでに提示し終わったと思うんです。だから、次は過去に戻って、なんでそういうことが大事なのか……それを全部解き明かしていこうと思っていて。
- ――なかなか壮大なテーマですね。
- 山中:だと思います。ただ、そう思ったのって、去年、変な夢を見たからなんです。それによって、自分が単純に生きていると思っていたのが、全部“生かされているんだ”っていう使命を感じたからなんですね。その夢も、寝てみたわけじゃなく、気絶した時に見たんですよ。夏フェスに出演するために泊まったホテルで。
- ――えっ? 大丈夫だったんですか?
- 山中:はい。そこで“これを伝えるために俺は生かされているんだ”って思ったんですよ。人って運命を何周も回り続けているんだなってことを感じて。だから出会う人に関しても、気の合う人が勝手に寄ってくるのは偶然じゃなく、必然だったんだって気づいたりね。今回はその過去の部分をしっかり通っていかないと、これから先、伝えたいことがちゃんと伝わっていかないなって気がして。それで、一度過去に戻りましょう、根源に戻りましょうっていうのをメッセージしようと思ったんです。メンバーにも最初にそれを言って、アルバムの思いを共有させてもらいました。
- ――すごい夢を見たんですね。
- 山中:でも、俺のまわりの人達って結構みんな見てますよ。同じ内容じゃないけど、急に使命を感じる夢を見てたり。だから“もう見た?”みたいな会話が普通に飛び交ってます。
- ――ちなみに、他のメンバーの皆さんも不思議な夢を見たり……しました?
- 中西雅哉(Dr):ないですね(笑)。
- 鈴木重伸(Gt):ないです!
- あきらかにあきら(Ba/Cho):ないです!
- 鈴木重伸(Gt):ないです!
- ――最初に拓也さんからその話を聞いた時は、どんな風に感じましたか?
- 鈴木:すごく興味深かったし、ただの夢で終わらせるわけじゃなく、それがバンドの行き先につながっていっているのが面白いなと。
- あきら:俺は拓也からそれを聞いた時も全然疑わなかったし、伝えたいことを表現するのは、まさにバンドがやるべきことだと思いましたね。
- 中西:僕は結構スピリチュアルな話が好きなんですよ。ちょうど10年くらい前かな? 夢と現実がわからない時期があって……。夢を見た時は、それが夢だってわかるじゃないですか。でも、現実にいてもそんな感覚になることがあったんで、夢について調べたことがあったんですよ。だから興味深かったです。
- あきら:俺は拓也からそれを聞いた時も全然疑わなかったし、伝えたいことを表現するのは、まさにバンドがやるべきことだと思いましたね。
- ――さて、アルバムの内容ですが、オーラルらしいアッパーな曲、ダークサイドな曲、聴き応えのあるバラードに加えて、R&B要素の強いファンキーな楽曲が増えたのに驚きました。選曲はどうやって決めたんですか?
- 山中:最初から全部決まってました。ここでこういう曲を作る……みたいに、パズルのピースをはめていくみたいな感じで。
- ――では、いくつか曲をピックアップしてお訊きしますが、3曲目の「Fantasy」みたいな曲は、やはりそのファンキーさに驚いたというか……新鮮でした。かなりノリ重視のプレイが求められると思うんですが、リズム隊はどう取り組んだんですか?
- 中西:こういうリズムの楽曲って、僕自身は普段からめちゃめちゃ聴いてるんですよ。すごく好きなジャンルではあります。ただ、ドラマーとしては、これまでやったことがなくて。四つ打ちとはいえ、それだけじゃとどまらないので、仕上がるまでに苦戦しました。
- ――特にどういう部分が?
- 中西:拓也が飲みの場で知り合った、ファンクミュージックに詳しい人がM3「Fantasy」のアレンジに入ってくれたんですけど、割と感覚的な人っていうのは聞いてたんですね。で、実際にプリプロでお会いしたら、説明がすごく感覚的で(笑)。「この曲はこんな感じで……じゃあ、あとは現場で!」ってノリだったんですよ。僕は結構、事前に準備していくタイプなので、そのスタイルを変えずにレコーディングに臨んだんです。そうしたら、これまでの自分の概念が全部ぶっ壊されて……。とりあえず、僕が準備していたものは全部ナシになって「1からいきましょう!」と。で、ブースからは擬音のみのオーダーが来るんですよ(笑)。
- ――「そこはダン!……バァ~ンで!」みたいな感じですか?
- 中西:ホンマにそんな感じですよ(笑)。それに慣れた頃にはレコーディングが終わってました。いつもなら録り終わってから録りこぼしがないか確認して終わるのに、気づいたら「あ、OKで~す!」っていう(笑)。だから、あとで音源を聴いて“あ、俺、こういうフレーズ叩いてたんや”って気づきましたね。最初は、そういうやり方に慣れてなかったんで、若干イライラしましたけど、上がってきた音を聴いたらすごく納得しました。自分自身、ドラムに対するエゴが結構あったんやなって。そこは納得させられました。
- ――あきらさんはどうでした?
- あきら:面白かったですね。僕とか拓也も感覚的な方やと思ってたんですけど、それ以上に感覚的な方にディレクションしてもらうと、さらに深いところまで掘り下げなアカンのやとか、今まで何となく出来てると思っていたことも、全然中途半端やったなって気づかされて。あと「お酒飲んだ方がいいよ」って言われたりね。
- ――その方がグルーヴが出るとか(笑)。
- あきら:頭じゃなく、体で演奏する感覚っていうんですかね。それが本質なんだなって僕も思ったんですよ。で、録り終わったあとで、いろんな人に音を聴いてもらったんですけど、「めちゃめちゃベースのノリが出たな」って言ってもらえて。そこで自分自身もひとつ上のステージにいけたと思うし、成長できたのかな。すごく覚醒した気がします。
- ――シゲさん(=鈴木)はこういうノリの楽曲は楽しめました?
- 鈴木:俺もまさやん(=中西)に近いのかもしれないけど、結構組み立ててスタジオに行くタイプだったんですよ。でも、最近は現場で「こういう風にやってくれる?」って言われることにも抵抗がなくなっていたんです。だから雰囲気で言われても大丈夫でした。面白かったし、すごく楽しめながらレコーディングできたと思います。あとは、自分の中でも課題だったカッティングは、レコーディングまでにひたすら練習して体になじませましたね。特に右手でリズムを取るとか、自分には苦手なことだったんで。
- ――皆さん、ステップアップされたんですね。で、そもそも拓也さん、アレンジャーさんとは飲み屋で会ったんですか?
- 山中:そう。俺が前に住んでいたところって、クリエーターが多い街だったんですよ。普通に居酒屋に行くと、絶対店内にひとりはクリエーターがいるみたいな環境で。で、ある日、音楽の話をお客さんとしてた時に、「あれ? バンドやってんの?」って話しかけられて。
- ――そんな感じの出会いですか(笑)。
- 山中:そうなんです。で、彼が「俺も音楽作ってるよ! AIの『Story』もやってたから」って言うので、俺が「これからはR&Bとかゴスペルも入れていきたいんですよね。ファンクもやりたいし」って言ったら、「じゃあ、手を貸して欲しい時は言ってね!」って。
- ――ライトですね(笑)。
- 山中:でも、そこから家に遊びに行ったり、お酒を飲みながら一緒に曲を作ったりしてたんです。そういう流れがあって、今回のアルバムでは手を貸して欲しいんだけどってお願いしました。
- ――それも出会うべくして出会った必然ゆえの縁なんでしょうね。あと、気になったのは、シングル「ワガママで誤魔化さないで」のカップリング曲だった「Color Tokyo」を、敢えてアルバムに収録していることなんですが、ここには何か意味があるんでしょうか。
- 山中:「Color Tokyo」については、あきらの意見が強かったんですよ。
- あきら:この楽曲は、今のTHE ORAL CIGARETTESやから言える歌詞だと思っていて。田舎者の僕らが東京に出てきて、そこから東京に染まっていくというか……僕らから見て、東京が彩られていくのが視覚的にもわかる歌詞だったし、サウンドも東京という街を表しているなって。単純にそう思えたので、この曲を推したかったんです。カップリングで終わらせたくなかったというか。
- ――アルバムにうまくハマりましたね。それも必然ってことでしょうか。あとは、オーラルのダークサイドが炸裂する「Naked」もカッコいい仕上がりで印象的でした。
- 山中:これ、レコーディング中、散歩に行っているあいだに作った曲です。散歩に行って帰ってきて、速攻でまさやんに「パソコン開いて!」って言って作りました。
- ――またムチャ振りを(笑)。しかも、かなりリアルな歌詞ですよね。
- 山中:リアルなところを歌詞に落としていく方が、人間っぽい部分がしっかり見えるだろうなっていうのが狙いでした。意外と実体験で起こりそうなこと……っていうか、実際に起こったことをそのまま赤裸々に書いただけなんです。ヘタしたらこの曲を聴いたやつが“あ、自分のことだ”って気づくレベルかも。でも、それでもいいんじゃないかなって最近思うんですよね。包み隠す必要もないなって。
- ――やんわり匂わせるんじゃなく、敢えてストレートに表現するのは潔いですね。そんな濃い楽曲が揃ったアルバムのタイトルを『SUCK MY WORLD』にした理由は?
- 山中:アルバムジャケットも全て込みで、意味を持たせたタイトルをつけたんです。まぁ、結局は愛なんですよ!
- ――愛……ですか!
- 山中:愛って、キレイな意味でしか認識されない気がするけど、俺は愛ってもっといろんな感情があるものだと思うんです。それをどういう風にアウトプットするのか、どういう風にインプットするのかが、愛になるのかならないかの分かれ目なんじゃないかなって。俺からしたら攻撃することも愛だと思うんで、例えばアグレッシブな曲に関しても愛で書いてるつもりです。
- ――アルバムタイトルも攻めてるなぁと思ったんですが、根本には愛があったんですね。さて、5月にはアリーナツアー“JAPAN ARENA TOUR 2020「SUCK MY WORLD」”も控えてます。時期的にライブができるのか不透明な状況ではありますが、ライブがやれるとしたら、アルバムの世界観を大きい会場でしっかり見せていただけるわけですよね。
- 山中:原点とか根本に戻るのがテーマなので、それを表現できるようなライブにしたいと思ってます。
- ――無事に開催されることを祈ってます。ただ、こういう時期だからこそ、音楽について感じたことはあったんじゃないですか?
- 中西:日本って災害が多い国だけど、ただ自粛するだけじゃなく、やっぱり音楽が必要だっていう考えも浸透してきたと思うんですよ。もちろん、作り手のメッセージを押しつける必要もないし、聴き手が聴きたいものを制限する必要もない。ちゃんと寄り添う時もあれば、離れる時もある……だから、あまり固く考えずに聴きたい音楽を選んで欲しいなって思いました。
- 鈴木:ライブをやれないのはすごく残念ですけど、(3月に対バンツアーの)延期の発表をしてもライブを待っていてくれる声がすごく多くて。僕らが思っているより、みんな前向きなんだなって感じるし、そういうお客さんの声が聞けたのは、僕ら自身も安心させてもらいました。
- あきら:改めて音楽って強いなって感じましたね。確かに今の状況って、困っている人も多いんだけど、これはこれで僕は受け入れられていて。むしろ、この期間がないと成長できなかった部分もあったと思うんです。ライブが延期になるのは悲しいですけど、僕らがこれから作る音楽にもいい変化があると思う。そう考えると前向きになれますね。逆にどう仕掛けていく?っていう会話がメンバー間で出来ているので、こんなことくらいでは負けないですよ!
- 山中:僕はこの先も、こういうことが何度もくると思うんです。今回、起こるべくして起こったんだなって気がするし。言い方は悪いけど、みんなが見つめ直すいい機会なんじゃないかなって。エンターテイメント業界がライブやイベントを中止することで、どれだけエンターテイメントが力を持っていたかを国が認識するいい機会になったと思うしね。そこに対して、僕らはもうちょっと国に支援して欲しいっていう気持ちもあるわけです。“音楽でこれだけたくさんの人を支えてたんだよ! だから一度よく考えてください”って提示できるタイミングじゃないかなって。お客さんからしたら、ライブに行けなくなって、どういう風に音楽に向き合うのか、ひとりの時間にエンターテイメントとどう向き合うのか……普段、情報過多の時期には、そんなことなかなか考えなかったと思うんですよ。ライブに行けないのは辛いけど、それをマイナスに捉えるんじゃなく、ホントに好きなバンドってこういうバンドなんだ、音楽ってこういうもんなんだって気づく瞬間になったらいいなって。僕はそれも含めて、今回のアルバムテーマでもある“偶然に思えて全部必然だよ”っていう部分をとなえていきたいんです。そこで人が何を感じるかが一番大切だし、僕はそれを大切にしてここまでやってきた自信があるんですね。だからこそ、これからも自分の人生をかけて証明していくんだっていう使命を感じてます。
- 鈴木:ライブをやれないのはすごく残念ですけど、(3月に対バンツアーの)延期の発表をしてもライブを待っていてくれる声がすごく多くて。僕らが思っているより、みんな前向きなんだなって感じるし、そういうお客さんの声が聞けたのは、僕ら自身も安心させてもらいました。
【取材・文:海江敦士】
リリース情報
SUCK MY WORLD
2020年04月29日
A-Sketch
01.Introduction
02.Tonight the silence kills me with your fire
03.Fantasy
04.Dream In Drive
05.Maze
06.Don’t you think (feat.ロザリーナ)
07.Hallelujah
08.Breathe
09.ワガママで誤魔化さないで
10.Shine Holder
11.Naked
12.Color Tokyo
13.From Dusk Till Dawn
14.The Given
15.Slowly but surely I go on
02.Tonight the silence kills me with your fire
03.Fantasy
04.Dream In Drive
05.Maze
06.Don’t you think (feat.ロザリーナ)
07.Hallelujah
08.Breathe
09.ワガママで誤魔化さないで
10.Shine Holder
11.Naked
12.Color Tokyo
13.From Dusk Till Dawn
14.The Given
15.Slowly but surely I go on
お知らせ
■コメント動画
■ライブ情報
THE ORAL CIGARETTES JAPAN ARENA TOUR 2020「SUCK MY WORLD」
05/30(土)埼玉 さいたまスーパーアリーナ
05/31(日)埼玉 さいたまスーパーアリーナ
06/20(土)愛知 ポートメッセなごや3号館
07/07(火)大阪 大阪城ホール
07/08(水)大阪 大阪城ホール
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「Tonight the silence kills me with your fire」振替公演
06/08(月)広島 BLUE LIVE 広島
w/ GOOD ON THE REEL
06/09(火)山口 周南 RISING HALL
w/ GOOD ON THE REEL
06/11(木)岐阜 EVENTHALL club-G
w/ tricot
06/12(金)静岡 SOUND SHOWER ark
w/ tricot
07/16(木)石川 金沢 EIGHT HALL
w/ ラックライフ
07/17(金)新潟 新潟LOTS
w/ ラックライフ
07/21(火)神奈川 川崎 CLUB CITTA’
w/ Crossfaith
07/22(水)群馬 高崎 club FLEEZ
w/ Crossfaith
07/28(火)福岡 Zepp Fukuoka
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07/29(水)鹿児島 CAPARVO HALL
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08/25(火)宮城 仙台GIGS
w/ ODD FOOT WORKS
08/26(水)山形 山形ミュージック昭和Session
w/ ODD FOOT WORKS
THE ORAL CIGARETTES Zepp Tour
「SUCK MY WORLD」
08/22(土)愛知 Zepp Nagoya
09/02(水)東京 Zepp DiverCity
09/07(月)大阪 Zepp Osaka Bayside
09/09(水)福岡 Zepp Fukuoka
09/16(水)北海道 Zepp Sapporo
※状況により開催中止・延期となる場合もございます。
最新情報はオフィシャルHPにてご確認ください。
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