次世代型シンガーソングライター・大比良瑞希が2ndアルバム『IN ANY WAY』で見つめ直した自分の歌とは

大比良瑞希 | 2020.06.03

 ハイセンスなR&Bやクラブミュージック、シティポップの文脈の中で、新しさと心地よさに敏感なユーザーがみんな彼女を見つめてる。大比良瑞希、4年ぶりの2ndアルバム『IN ANY WAY』。一度聴いたら忘れない、心のままに揺らめくような歌い方と、包み込むようなぬくもりをたたえた歌をたっぷりとフィーチャーしたこの作品は、蔦谷好位置のプロジェクト・KERENMIの楽曲「からまる」のCD初収録に加え、七尾旅人、tofubeatsらが参加した楽曲は、R&B、ファンク、レゲエ、ジャズなどを自在にミックスした、個性きらめく全12トラック収録。大きな飛躍の可能性を秘めたアルバムについて語る、彼女の声もはずんで聞こえる。

――このセカンド・アルバムは、4年ぶりということもあって、瑞希さんがその間にやってきたことの総まとめと言いますか。
大比良瑞希:そうですね。前作から4年間あいたので、そのぶん盛りだくさんというか、詰め合わせ感はありますね。
――曲ごとに参加しているミュージシャンも、多彩で豪華。瑞希さん、もともとミュージシャン仲間の間で社交的なタイプですか。
大比良:いえ、バンド活動は中学生ぐらいからしてるんですけど、もっとロック寄りなライブハウスに出ていて、そこで友達が増えなかったんですよ。対バンはライバルだし、にらみ合うみたいな感じで(笑)。でも2015年にソロになって、「Sunday Monday」という曲を出す時に、人にアドバイスをもらいながら自分でアレンジを始めて、ミュージックビデオも今までと違う感じで作ってから、最初にLUCKY TAPESの高橋海くん、Yogee New Wavesの角舘くんとかと繋がって、そこからtofubeatsくんと繋がって、フジロックに出たりして。そこから一気にミュージシャン友達ができて、自分も社交的になった気がしますね。
――tofubeatsさんはこのアルバムにも参加して、「無重力」を一緒にやってます。

大比良:「無重力」は自分で作詞作曲編曲をやらずにプロデュースをtofubeatsくんに委ねて、歌だけでの参加だったんですよね。いつもは作る側の気持ちが強いんですけど、初めて歌うだけだったので、歌に集中できたし、新しいことを考えるきっかけにもなりました。
――蔦谷好位置氏のプロジェクト・KERENMIの曲「からまる」も今回入っていて、これも歌オンリー。

大比良:そうです。それが自分の作品以外で歌のみで参加するという初めての機会だったので、私の歌はどういう歌だろう?ということを考え直したんですね。今回、フィッシュマンズのカバー「いかれたBABY」も入っていて、その時も自分の歌い方を聴き直したんですけど、「からまる」もそうで、きれいに歌うよりも「自分だけが持ってる部分をもっと大事にしてもいいんじゃないか?」ということですね。もともと私はいち音楽好きとして、音楽を作ることに幸せを見出してましたけど、歌詞だけじゃなくて、歌だったり、ギターの表現だったり、全部含めて自分を考えるきっかけになったというか、ほかの人が入ってくれることでそうなった部分はすごくあると思います。
――七尾旅人さんと共作の「ムーンライト」は?

大比良:「ムーンライト」は、去年の7月1日に「Eternal My Room」というタイトルでワンマンライブをやったんですけど、ゲストで旅人さんに来てもらえることになって、せっかくなら「ライブで披露する新曲を一緒に作りたいです」と思い切って言ってみたんですよ。そしたら引き受けてくれて、二人でスタジオに持ち寄った中の1曲です。ワンマンライブでは別の曲をやって、「ムーンライト」は途中までできていたんですけど、とある日の朝に突然「今日あいてますか」という連絡が来て、当日だからスタジオの予約もできなくて、カラオケルームで一緒に作って(笑)。カラオケのマイクで二人で歌って、そこでデュエットのイメージができました。
――たとえば制作中に「こういうジャンルの」とか「あの人っぽい感じ」とか、そういうワードが飛び交うことは?
大比良:それはありますね。もともと私が好きなファイストという女性アーティストがいて、エレキギター弾き語りなんですけど、プロデューサーによってトラックものがあったりとか、声を大事にしながらアレンジを考えるという部分で彼女の影響はすごくあって。もう一人がリアン・ラ・ハヴァスで、彼女もエレキギター弾き語りでも成立するし、低音がブンブン鳴ってる曲もあったり。だから「エレキギターの弾き語りが映える」「声が目立つ」「クラブでも聴けるような低音がある」、かといって「オーガニックすぎない」「R&Bすぎない」とか、そういうところを参考にはしますね。もともとその二組はすごく好きなので、制作中もよく名前が出ます。あとは曲ごとに、80年代や90年代のリファレンス(参考音源)が出てきたりとか。tofubeatsさんがプロデュースで入ってくれた「無重力」は、最初ジャネット・ジャクソンの「Together Again」とかソウルⅡソウルみたいなグラウンド・ビートとか、90年代のテイストはどうかと私から提案してみたりもしました。
――おお。なるほど。
大比良:音色の感じで言うと、「そろそろメインストリームに行きたいな」という曲もあれば、脇道の小さいバーで流れてるみたいなイメージの曲もやりたくて。キラッと感もあれば、ざらざらしたスモーキーな感じも入れて、両立するものを目指したいなというのは、今の曲も昔の曲も好きだからこそなのかもしれないです。
――そしてアルバムの1曲目を飾るのが「Eternal My Room」。これ、さっき言ったワンマンライブのタイトルと同じですよね。

大比良:そうです。2年前ぐらいかな、自分について考える節目だったんでしょうね。自分の好きなものもたまに信じられなくなっちゃったり、自分の言葉がわからなくなっちゃったり、一度、人に意見を聞かないと心配だったり、そんな少し自分を見失いかけた時に、「Eternal My Room」という言葉がふと頭をよぎって。「永遠の私の部屋」というこの言葉は、「私の部屋は私しか守れないし、好きな家具を置いて、好きに飾りつけしたい、それから初めて誰かを気持ちよくウェルカムできるかもしれない、よし、私の部屋は私が作ろう」というような、自分にとってのある意味”座右の銘”としてしっくりきていたんです。なので、あとからこの曲ができてきた時に、この曲こそ「Eternal My Room」というテーマで歌詞を書こうというふうにシンクロしたんですね。
――ジャケットにも、ミュージックビデオにも、マイルーム感が出てる。つまりこのアルバムそのものが、自分の落ち着くお部屋感そのままというか。
大比良:そうですね。常に自分の居場所を探すために音楽をやっている感じがどこかにあるというか、それがたまたま私は音楽なだけで、みんなそうだと思うんですけど、自分が一番落ち着くソファーを探しているというか、そういう感覚ですね。
――今回、自分で書いた歌詞はどうですか。最近、どんなことを言いたいモードだったのか。
大比良:6曲目に「In a small lake」という曲があって、この歌詞がアルバムの裏テーマでもあるというか、これも自分に向き合ってる曲なんですね。落ち込んだ時に書いてた曲なんですけど、悩みも負の感情も、”永遠”と向き合うからこそ出てくるものだし、自分から相手に向けて橋をかけないと何も始まらないから、「自分から橋をかけられるように体温を上げて行かないといけない」ということを書きたくて。リード曲ではないんですけど、自分が書きたかったことを凝縮できたと思ったりしてますね。なのでアレンジも、ギターと歌だけで伝えたいなと思って、一発録りしました。
――<冷めきった体温では向こう岸に続く橋をかけることさえできない>。すごく沁みる歌詞。
大比良:私はもともと、歌詞に限らずこういうインタビューも、普通に人と会話してる時も、自分が考えていることをうまく言葉で伝える自信はそんなになくて。昔から思っていることはあって、本当はもっと愛を伝えたいとか、もっと……というものがあるからこそ、音楽にとどめたい気持ちで、曲を作るようになったところがあるんですね。音楽自体にはインストもあるし、歌詞がマストじゃないじゃないですか。景色や感情を閉じ込めるには音楽の響きだけでいいから、まずは響き重視で最初に作るんですけど、でもやっぱり言葉は好きなので、書き溜めたりもしていて、それをあとでくっつけるんですけど。
――はい。なるほど。
大比良:歌詞、歌にとどまらず、五感で感じるものとして音楽をとらえているんですけど、今回初めて、ほかの人に書いてもらった歌詞がこんなに多かったので、自分で書く時に言いたいことをきちんと詰められたところはあります。特に「In a small lake」「Eternal My Room」「甘い涙」は、歌詞を書くことで自分の中のもやもやが晴れたし、誰かにも晴れてほしいし、寄り添えるものになってほしいという思いが今までよりも強くなった気がします。
――さっき、「そろそろメインストリームに行きたいな」という力強い言葉が出ましたけれども。それはきっと「甘い涙」や「ミントアイス」なんだろうなと思いますね。音楽的に深くてかっこよくて、しかもポップ。
大比良:そうですね。「甘い涙」は「メインストリーム行けるな」みたいな感じです(笑)。

――瑞希さん、もともとスター願望みたいなものって強かったんでしたっけ。
大比良:もともとはなかったと思います。中学でバンドを始めた時も、ボーカルは別にいて、ずっとギターだったんですよ。それが自分で曲を作ってるうちに、歌うようになったら、だんだん楽しくなってきて。意外と自分は前に立っていたいタイプなのかなって最近思いますけど(笑)。ここまで来たらもっと聴いてほしいし、まだ届け切ってないなという感じはあるかもしれないですね。売れてるって、単純に幸せにしている数でもあると思うし、そこに憧れはあるので、そこは諦めたくはないという感じです。ただここまで来て、メインストリームに媚びを売る気はないというか、さくっとそこに足を踏み込みたくない気持ちもあるので、自分が培ってきた自分の好きな部分を持って、一番いいところに行きたいという気持ちがあるところが、昔とは変わったと思います。二十歳ぐらいの時のほうが、ある意味夢も大きかったかもしれないけど、今は夢が小さくなったわけではなくて、自分のやりたいことで楽しく、息長くやりたいですね。
――最後に、アルバムタイトルの『IN ANY WAY』にはどんな思いが?
大比良:“とにかく”という意味なんですけど、「とにかくこれでやってみよう」とか、ポジティブな気持ちになる時に使う言葉だと思うんですね。このアルバムの曲はどの曲も、誰かの背中を押したい気持ちが強いですけど、とにかく一歩前に出てみないと始まらないというポジティブな気持ちを詰めたくて、『IN ANY WAY』にしました。ストーリー感のある言葉だとも思っていて、話の途中だとか、会話の間に入ってくるもので、それは人生の途中ということにも繋がるし、そういう響きにもシンパシーを感じてます。あとは、三つの単語の並びがかわいいなというのもあります(笑)。アートワークも含めて、すごく気に入った作品になりましたね。

【取材・文:宮本英夫】

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リリース情報

IN ANY WAY

IN ANY WAY

2020年06月03日

RED/サンバフリー

01.Eternal My Room
02.甘い涙
03.無重力
04.SAIHATE
05.RESCUE
06.In a small lake
07.ムーンライトfeat.七尾旅人
08.いかれたBABY
09.ミントアイス
10.からまる feat.大比良瑞希/KERENMI
11.Somewhere
12.Real Love 熊井吾郎remix

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ルソー 恋文
いろいろ書き溜めているノートを見返していたら、哲学者のルソーの言葉が書いてあったんですよ。「恋文を書くには、まず何を言おうとしているかを考えずに書きはじめること。そして何を書いたのかを知ろうとせず書き終わらなければいけない」という言葉を、いつだかの自分がノートに残していて、これ何だったんだろう?と思って検索しました。その時何でそんなことを書いたのか、自分の気持ちは検索しても出てこなかったのでわからなかったですけど(笑)。でもその言葉は自分の歌詞の書き方にすごく合ってると思うし、音楽って、始まりと終わりとか、根拠と目的とか、締め切りとかを考えるとどうしてもそうなってきちゃうんですけど、「この気持ちは大事だな」と思ってメモしたんだと思います。

肥料
最近部屋に木を置いていて、一本は元気なんですけど、もう一本が微妙に腐ったりとかしてて、肥料でもっと成長してもらいたいなと思って検索しました(笑)。

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