新世代ヒップホップシーンの最注目株!19歳ラッパー・空音、セカンドアルバム『19FACT』リリース

空音 | 2020.06.24

 高校生の頃から注目を集め、昨年12月にリリースしたファーストフルアルバム『Fantasy club』が同世代を中心にヒットした2001年生まれ尼崎市出身のラッパー・空音。その前作からわずか半年で届いたセカンドアルバム『19FACT』は、『Fantasy club』とはある意味で正反対の、そして空音にとってはきわめて重要な1作となった。どこかファンタジックな歌詞の世界がいろいろな人に刺さることで広がった彼の音楽だが、今回はとくにアルバム後半にいくにしたがってどんどんディープに空音自身をえぐったような曲が増えていく。なぜ彼は今自身のリアルを刻もうと思ったのか。じっくり話してもらった。

――クリープハイプの「愛す」のリミックス、素晴らしかったですね。
空音:あれはトラックをShun Marunoっていうトラックメーカーにお願いして、いただいてから歌詞を書く時間が2日くらいしかなかったので、どうしようかなと思ってたんですけど、クリープハイプさんの他の曲を聴いたりして、尾崎世界観さんはこんな感じで書いてるのかなみたいなことを考えつつ作りました。歌詞はもともと原曲を聴いて「こうしたいな」っていう構成があって、その通りにしていったので、そんなに苦ではなかったですけど。
――すごく通じ合っているなという感じがしたんですけど、尾崎世界観、あるいはクリープハイプの表現のどういうところにシンパシーを感じていますか?
空音:尾崎さんのあの言葉選びとか、曲のコンセプトとか、たぶん良い意味で好き嫌いが分かれるタイプの音楽やと思うんですよ。たとえば恋愛とかも結構生々しく歌うので。それをさらけ出すのが恥ずかしくないっていうのが僕も結構同じなんです。それを曲にすることで他の人の共感をもらえたり、自分でも消化してるのかなっていうのが、たぶん僕もすごく似ているんだろうなって思います。
――まさに今回の『19FACT』もさらけ出している作品だと思うんですが、そのさらけ出し方が前作の『Fantasy club』とは明らかに違いますよね。
空音:そうですね。どちらかといえば前作は万人向けの作品なのかなって、作り終わった時から思っていたので。逆に今回は前作と比べるとだいぶ自分自身を深堀りして歌詞を書きました。前の作品は新規のリスナーを取り入れたいという気持ちが強かったし、空音っていう人間がどんだけ明るくてポジティブな人間かっていうのをわかってほしかったので。でも今回は――前作みたいな幻想的な歌詞を書くのもとても好きなんですけど、これから音楽をやっていくなかで、ヒップホップっていう音楽の神髄にあるリアリティみたいなところが絶対大事になっていくと思ってて。それをどのタイミングでリスナーに聴かせるかなと思った時に、たぶん早めに杭を打ったほうがいいんかなというか。それで「HaKaBa」とか「CIRCUS」みたいな歌詞を書きました。このアルバムの前半の5曲と後半の5曲の間でも、作っていくなかで自分の中での心情の変化がいっぱいあって、前半はどちらかといえばキャッチーなんですけど、それに対して後半の5曲は空音を知ってくれた人たちが聴いて共感してくれるような曲なのかなって思ってます。
――『Fantasy club』が間口の広いポップな作品になって、それは狙いでもあったんだろうけど、逆に行き過ぎたなとか、バランス取らなきゃなっていう気持ちもありました?
空音:いや、僕の中ではそんなことはなくて。結構柔軟にできるタイプだと思ってるし、どちらかといえばもともとやりたい音楽はあっち寄りだったんで。だから出すにしても遅かったぐらいなんですよね。あれを聴いて「こっちの路線に行くんや」って残念がる人もおったと思うけど、僕が聴いてきた音楽であったり、これからやりたいものっていうのはもっと幅広いので。その幅の広さを知ってもらいたい、わかってほしかったというのがありましたね。
――もしかしたら、そこは誤解されやすいポイントかもしれないですね。
空音:そうなんですよ、難しいんですよね。「そっちに行ってほしくなかった」とか言われることもあるんですけど、そうじゃなくて、僕自身やりたかったのはそっちなのでっていう。そこは聴きながら成長を見てもらいたい、長く付き合ってもらいたいなみたいな感じはありますね。
――1曲目の「Fight me feat. yonkey」も、キャッチーな曲ではありますけど、鏡に映った自分と戦うんだっていうのは実はシリアスですよね。
空音:そうですね。yonkeyくんとは前々から仲良くしてて彼の音楽性も分かっていたので、いざトラックをもらった時にはドンピシャで「欲しいものが来たな」と思って。書き終わった時には「これ1曲目やな」っていう手応えがありました。まあ、歌詞にあるとおり自分自身と戦っているっていう一面を見せつつ、僕じゃなくてみんな、ネガティブに考えずに日々を戦ってほしいなっていうテーマの曲ですね。
――その「Fight me」から「Flash」、そしてSUSHIBOYSとやっている「You GARI feat. SUSHIBOYS」の3曲がアルバムの掴みというか。「You GARI」でも、基本的に寿司の話なんですけど、そこに<始めた頃の俺に今聞きたい/お前の思うヒーローになれたかい?>っていうラインがあって。いきなりアーティストとしての自問自答が始まるっていう。

空音:音楽やってるともちろん良いこと悪いことも見えてくるし、音楽をやってるからこそ生活での変化も出てきたりしていて。ライブでも制作でも、自分の中で完全に完結しきれない時とかもあるんですよ。そこはそういうことを歌っています。それこそキャッチーな曲を出した時に思っていたのとは違う反響があったり、「昔の空音じゃなくなった」って言われたりして。僕自身が思うかっこいいアーティストが「ヒーロー」っていうたとえなんですけど、そういうものを受けつつも、自分がやりたいことを一貫してできるのがヒーローだと思うので。昔の自分から見て今の自分がずっとそうであってほしいなという。その部分は自分の中でも結構大事ですね。
――なるほどね。たとえば「Hug feat. kojikoji」がバズったときもいろいろ言われたじゃないですか。そういう誤解というか「そうじゃないんだけどな」っていう思いというのは結構しんどかったですか?
空音:「Hug」もそうですし、「cocoa feat. kojikoji」、「Brighter」とか「space shuttle」とか……そういうのは本当にやりたかった感じの曲なので、何か言われた時にあんまり折れることはなかったですけどね。BASIさんであったりkojikojiちゃんであったり、周りにいる人間が助けてくれたというか、俺の音楽を理解してくれてたので。あんまりネガティブで居続けることはなかったです。ただ、僕がラッパーとして機能してないと思われるのはすごく悔しかった。その鬱憤っていうか、自分の中に溜まってたものを発散するための今回のセカンドでもあるんですよね。
――kojikojiさんとは今回も「Girl feat. kojikoji」で共演していますが、彼女と一緒にやり続けているのはどうしてですか?
空音:kojikojiちゃんは出会った時から他の人とはちょっと違う一面があるなと思ってて。いろいろな人が彼女の曲であったり、「Hug」や「cocoa」をカバーしてくれてたりするんですけど、そういうのを聴いても、もちろんみんな上手なんですけど、やっぱりkojikojiちゃんしか持ってないものがあって。その才能というか天才的な部分は一線を画してるというか。あとは彼女も俺と一緒でネガティブになり過ぎないので、楽しいことを考えて良い方向に一緒に進んでいける人だなと思ってます。それが一緒にやり続けたいっていう理由のひとつなのかなと思いますね。彼女とは悩みを持つタイミングとか、俺が悩んでて相談すると彼女も同じことを思ってたりってことが多いんですよ。一緒にやり始めてから周りの変化がすごく大きくて、そんな中で同じシーンでやってきたというのも大きいのかなって思います。


――なるほど。で、アルバム後半にいけばいくほどどんどんディープになっていくんですが、「Shine like you feat. NeVGrN」では<誰かを傷つけてまで 歌いたい事など無いから>と改めて空音の根っこにある姿勢を言葉にしていますね。
空音:「Shine like you」はアルバムの真ん中の大事な位置で、その大事な曲にNeVGrNという同じ地元のクルーから連れてきた仲間を入れてるっていうのに意味があって。当時彼の私生活でいろいろ忙しいことがあったりっていうのを僕は知っていたので、彼を誘ったのはギリギリになっちゃったんですけど、それでも(前にNeVGrNと作った)「Boi in luv feat. NeVGrN」とは違う一面というか、音楽を始めた時から自分たちの中にあるかっこいい大人とか理想的な人間のことを歌いたいなと思って。だから歌詞もずっと思ってることというか、音楽をやっていく中で絶対一貫してズレたくないものを書きました。
――どうして「誰も傷つけたくない」というふうに思うようになったんですか?
空音:僕が音楽を聴いてきて、音楽で傷つけられるってことが根本的になかったというのが、そのマインドのもととなってるんですけど――音楽っていうのは誰かを常に救っているもんだと思うので。それこそ死ぬっていう意志を持って首を吊ってしまう人の手綱を掴むほど音楽は大事なものだと僕は思ってるので、僕もそういう音楽を作る立場になりたいんです。ヒップホップって聞くとすごく攻撃的な歌詞であったり、ワルの文化みたいなのがあると思うんですけど、僕の周りはクボタカイであったりRin音くんであったり、そういう人間ばっかじゃないので。もっとポジティブに明るい歌を歌ったり、何かを救おうと音楽を真面目にやってる人間もいるってことを知ってるので、僕もその姿勢を忘れたくないなと。
――クボタカイくんとかMega Shinnosukeくんとかもそうですけど、ポジティブであろうというか、音楽は光であり救いなんだっていうことをすごく真剣に伝えようとしている感じがして。そこは世代的な感覚もあるんですかね?
空音:世代はもしかしたらあるかもしれないです。それこそ僕もフリースタイルから入ったんですけど、フリースタイルバトルとかの文化に長いこと触れてる人間っていうよりは、音楽の真髄をもっと最初の方に求めているのがそれこそメガシンとか俺であったり、クボタカイとかRin音とかで。すごく競争が激しい中で、逆に手を取り合って音楽をするっていうのはすごく難しいことだと思うんですけど、その意識を持ってやり始めたのが、僕が一緒に音楽をやったり、周りにいたりするアーティストたちなのかなっていうのはすごく感じてます。
――とくにヒップホップに対しては、固定観念みたいなものが根強くありますからね。
空音:そうですね。すごく強いですね。
――そこからちょっと外れたことをやってると、途端に刺されるっていう(笑)。
空音:や、本当そうなんですよね(笑)。だからそこからちょっと自由に音楽をやっているのが僕らなのかなと思います。
――でもリアルじゃないのかと言われれば全然そんなことはなくて。さっきから話に出ていた「HaKaBa」という曲はそれこそ完全に心情吐露の曲になっていますよね。
空音:「HaKaBa」は、音楽を続けていく中でヒップホップの根底にあるリアリティみたいなことも大事にしていきたいと思って書いてたらああいう曲になってしまったっていう。音楽を始めた時からあった悩みであったり、たまに持ってしまうネガティブな気持ちであったり。「HaKaBa」を書いていて、僕も少しネガティブになっていくんですよね。もちろん最終的には「ステージを墓場にしてしまうほど音楽で頑張っていきたい」という意思が一番強いですけど、でもそうするためには払わないとあかん犠牲もあるだろうし、傷つけたくなくても傷つけてしまう誰かがおるかもしれへんしということをすごく考えて。でも「HaKaBa」はそういう面では絶対に『19FACT』にないとあかん曲やったから。空音っていうアーティストをいちばん分かりやすく伝える曲だと思います。「Fight me」だけじゃ分からないと思うけど、「HaKaBa」1曲聴いたら結構ガツンとくるかなと思って。
――高校を卒業して、音楽1本でやっていくんだと決意してここまで走ってきた1年間だったと思うんですけど、この曲にはその覚悟が改めて刻まれていますよね。
空音:もちろん高校卒業のタイミングで音楽でやっていこうとは思っていたんですけど、本当にこれでやらないかんなと思い始めたのは最近かもしれないですね。やっぱり、ライブするハコの規模が上がってきたりする中でそこにバックDJとか仲間を連れて行けているっていうのが、みんなに夢を見せるっていうことなのかなって思うし、ひとりで上がっていくだけじゃなくて周りをフックアップしていくことも大事だなって思って。前のツアーが終わって、よりその気持ちは強くなりましたね。
――つまり「背負っていく」っていうことですよね。「Daddy feat. yonkey」とかもそうですけど、いろんな人の人生を背負っていくんだっていう。
空音:うん、周りを連れて行きたいっていうのはあります。それで僕がいち人間として強くなっているところをもっと見てほしいし。最近はずっとそれを思っています。
――「HaKaBa」にも<ばあちゃんが言うんだ/「あんたの声 聞いただけで涙が出てくるわ」>っていうラインがありますけど、家族のことも同じように考えてる?
空音:はい、これは実話なんですけど――ラッパーあるあるで、歌ってることにいちばん共感できるのって、自分の周りの人間なんですよ。この曲も母親とかが聴いたらあんまり歌ってほしくないことも歌ってんのかなとかも思ったりするんですけど、ばあちゃんからの電話であったり、僕が頑張っているということを応援してくれているということであったり、それをちゃんと歌わないとたぶん届かないと思うんですよ、リスナーの人にも。だからそこの部分は自分の中の最大限のリアリティで紙一重の部分を歌っていると思います。音楽だけでやっていくって、親も心配するやろうけど、自分が選んだことやからあんまり親もとやかく言われへんし。だから頑張ってるっていうのを見えるような結果で伝えたいと思ってるんです。音楽で食べていくっていうのはもちろん全然簡単じゃないと思うけど、僕はすごく特別な気持ちを持って音楽やってるので、親にもそれが伝わればいいなみたいなことは感じてますね。
――それを踏まえてというか抱きしめて、最後の「拝啓」で前に進んでいくんだという姿勢を見せる。だからこのアルバムはやっぱり空音さんの19年の人生そのものであり、ここからさらに進んでいくためのスタートなんだなと思います。
空音:そうですね。すごくリアルな作品です。19歳って年齢はめちゃめちゃ微妙な歳ですけど、微妙やからこそすごく大事だなと思ってて。20歳に乗っかってしまうとそこからがっつり大人のフィールドだと思うんですけど、19歳だからこそできるがむしゃらさであったり遊び心はずっと忘れたくなくて。だから悪あがきした作品になりましたし、言いたいことも言ったしやりたいこともやり切れたと思います。

【取材・文:小川智宏】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル 空音

リリース情報

19FACT

19FACT

2020年06月24日

ビクターエンタテインメント

01.Fight me feat. yonkey
02.Flash
03.You GARI feat. SUSHIBOYS
04.Girl feat. kojikoji
05.水仙
06.Shine like you feat. NeVGrN
07.Daddy feat. yonkey
08.HaKaBa
09.CIRCUS
10.拝啓

お知らせ

■マイ検索ワード

旅行 荷物 詰めるときの言い方
旅行に行く時の荷造りのことをパッキングって言うじゃないですか。知人と話している時に「あれ、なんていうんだったかな」みたいな。言葉が分からなくなってしまって、それで調べました。

トップに戻る