向井太一にとって『SAVAGE』とは。ライブを越え改めて思うこと

向井太一 | 2020.06.24

 向井太一が初のライブアルバムとライブビデオを配信リリースした。昨年11月にZepp Tokyoで開催された「SAVAGE TOUR 2019」ファイナル公演を収録したものだ。『SAVAGE』というアルバムは向井がアーティストとしてのアイデンティティに悩み、苦しむ中で生まれたアルバムだ。彼のディスコグラフィのなかでも、いちばん暗く、異質なアルバムだといっていいだろう。しかし、その『SAVAGE』の楽曲を中心に演奏されたこのツアーファイナルでは、アルバムに込められた不安や葛藤が、観客の熱量や愛情と向井自身の力強い歌によって強烈な光に向かって突き進んでいくような印象を受ける。『SAVAGE』とは向井太一にとってなんだったのか、そしてそれを越えた今、彼はどんな気持ちを抱いているのか、語ってもらった。

――今回配信限定で初のライブアルバムがリリースということですが、こういう形で音源化しようと思ったのはどうしてですか?
向井太一:ツアーの時点では出すって決まっていなかったんです。ただ、自分の中でひとつ目標にしていたZeppっていうこともあるし、あとはコロナの時期で自分が動けなくて、リリースがちょっと先延ばしになったりとかしていたので、その間にできることがないかなと思って。去年のツアーは自分の中ですごく大切なものになったので、ライブ音源を出せないかなっていうので始まった感じです。
――あのライブ、実際に現場で観ていても本当に素晴らしかったんですが、あのファイナルっていうのをあらためて振り返った時に、どういうライブだったって思います?
向井:『SAVAGE』っていうアルバム自体が自分のものすごくパーソナルな部分が強く出た作品で――あのアルバムを作っていた時期が、曲を作るのも歌うのも辛い時期だったんですね。そういう、曲を作ってレコーディングしている段階で感じていたことや曲に込めたメッセージが広がるような、特にファイナルとかは気持ちが高ぶったライブになったと思います。
――ツアーをやったことで、アルバムを作っていたときとは違う感情が生まれてきたりもしましたか?
向井:全然違いましたね。自分のことを苦しめた音楽だけど、結局救ってくれるのも音楽なのかなって思いました。『SAVAGE』は最初の段階からすごく暗いアルバムになると思っていたんですけど、それをたくさんの人が受け入れてくれて、自分に「それでもいいんだ」って思わせてくれたというか。
――そもそも『SAVAGE』がああいうアルバムになったのはどうしてなんですか?
向井:僕、デビューして4年ぐらいなんですけど、作品を作るうちに自分自身を曲に反映させたいという、自分が実際に体験したことだったり抱えている思いみたいなのをどんどんさらけ出したいという欲求が強くなっていったんです。とくに『SAVAGE』を作ろうとしていた時は、自分のアーティストとしての方向性に悩んでいたりとか、書きたいものが分からなくなったりとかしていたんで、もうそれ以外を書こうっていう気持ちがそもそもなかったんですよ。「この気持ちを作品にしなきゃいけない」っていう使命感みたいなものがあって。自分が生きていくための意思表示がしたかったんですよね。
――今回のライブ音源は1曲目「Dying Young」という、アルバムの最後に入っていた曲から始まるんですが、あの曲ってまさに宣言みたいな曲じゃないですか。
向井:そうですね。
――自分が音楽家としてこうどう生きて死んでいくのかということをすごくストレートに歌っている曲で。あの曲がアルバムの最後で歌われていること、そしてライブで最初に歌われてることってすごく意味のあることですよね。
向井:まさにそうでした。そもそも英語詞にしたのも直接的な曲だなと思って、感情の部分とアート性のバランスを取った結果なんですよね。アルバムの最後に入れることも最初から決まっていたし、ライブで最初にやりたいっていうのも制作段階で決まっていたので。僕、わりといろいろな分野に手を出しているんで、音楽メインじゃないって思われたりとか、なんていうのかな、アーティストとしてすごくフラフラしてるように思っている人も多いらしくて。でも僕はすべての要素は自分の音楽に繋がると思ってるし、最終的には自分の中心である音楽の一部と考えているので、そういう意思表示とかもありました。だからそう思われている悔しさとかも含んだ曲でもあります。
――いろいろなインタビューでそういうことを話していて、そんな見られかたをしているのかと驚きました。
向井:ずっと言われ続けていたりするので(笑)。もちろんそれも含めて認めてくださっている方もたくさんいますけど、曲に込めたメッセージとかはやっぱりまだ伝わりきっていないと思うので、そこを追求していくのは大事だなと思ってます。
――その「Dying Young」から「Savage」を挟んで「Runnin’」に入っていくところがこのライブアルバムの最初の高揚ポイントだなと僕は思うんですが、この曲は『SAVAGE』のサウンドを象徴するような曲調ですよね。ビートが強くて。
向井:そうですね。原点回帰というか、デビューの頃にやっていたオルタナティブみたいな部分をもう一回やりたくて。特に「Runnin’」とか「ICBU」とかはそうですね。
――「ICBU」もライブで聴くと音源よりも肉体的になっていて、いいですよね。
向井:でもなんか。久しぶりにああいうバキバキの感じをやって、新鮮でしたね。自分にとって。
――かと思えば「SLOW DOWN」みたいな曲が入ってくるわけなんですけど。それこそこの曲は向井太一にとっては始まりみたいなところにある曲で。そういう曲が『SAVAGE』の楽曲たちの中に入って来ると、また違った意味合いとか色合いを帯びて聴こえますね。
向井:「SLOW DOWN」はデビューからずっと歌ってるんで、やっぱり歌ううちに歌に対しての思いとかも変わってきますね。あれはもともと自分の未来への希望だったりとか、支えてくれてるファンの人たちに向けてのメッセージになってるんですけど、改めてライブで一緒に歌ってくれてる人の顔を見てるとありがたいなって、本当にあったかい気持ちになります。
――というか、そのファンとの一体感、ステージでのコミュニケーションの部分もだんだん変わってきましたよね。
向井:ライブは本当に変わったと思います。デビューした頃はどちらかというと、メッセージも人と共有するというよりは内側のことを歌っているということが多かったですけど、ライブでは一方通行にならないように考えたりとか、あとは人との繋がりみたいなのをより深めたいみたいな気持ちもあって。特にライブに対しての意識みたいなのは、ここ数年で本当にがらっと変わりましたね。
――うん、だからすごくパーソナルな思いを歌っていても、それがちゃんと外向きのエンターテインメントになるっていうのは向井太一の表現のすごく重要なところだなと思うんですよね。「Can’t breathe」とか「君へ」もそういう感じがします。
向井:「Can’t breathe」は実話ですからね。自分のパーソナルな部分が全面に出ている感じです。
――「君へ」もそう?
向井:「君へ」は……これは公にはしてなかったですけど、きっかけは3.11の震災だったんです。あの時にずっとドキュメンタリーみたいのを観ていて。それまで自分の近い身内が亡くなったことがなかったのもあって、その時に初めて、近い人が亡くなる怖さとか気持ちを考えるようになって。だから、「君へ」はラブソングっぽいんですけど、僕的にはそういう、どうしようもないいちばん辛い感情とかを込めて書いたんですよね。コピーライターの阿部広太郎さんと歌詞を共作したんですけど、最初に僕がそういう歌詞を書きたいという思いみたいなのを喫茶店で話していて、その時大泣きしちゃったのを覚えてます。
――そういう、直接音楽のことを歌っていなくても、たとえば個人的な大切な人への思いとかを歌っている曲も、それが曲になるとちゃんとファンとか聴いてくれる人に向いたものになるっていう。アーティストとしての向井太一と人間・向井太一が常に重なり合っているというか。僕にとって向井太一の音楽というのはそういうものなんですよね。
向井:僕は人生をかけてというか、命削って歌ってるアーティストがすごく好きなんです。エイミー・ワインハウスとか、ぼろぼろになりながら歌っていたりとかしたじゃないですか。自分もアーティストとして、そういう自分自身を削って歌えるような人になりたいなと思っていて。だからさっき話した、デビューしてから作品を作り続けていくうちに、自分の考えとか思いをさらけ出したい気持ちが強くなってきたっていうのは、自分の理想に近づきたいっていうことでもあるんです。なので、プライベートな部分とアーティストの部分が重なりあって見えるっていうのはすごく嬉しいですね。
――これもこのライブアルバムの高揚ポイントですけど、「最後は勝つ」なんてそれがぶつかり合っているようなテンションで。
向井:「最後は勝つ」は結構『SAVAGE』全体を通して自分が書いてるものを象徴する曲でもあるんですけど、あれは、最初はもっときれいな言葉で書いていたんです。でもオブラートに包んで歌うようなものじゃないと思って、本当に「最後は勝つ」っていう自分の意思表示をそのまま歌ってるっていう(笑)。特にライブではもっと自分の思いみたいなのが凄い強く出てるんじゃないかなって。
――燃えてる!って感じですよね。
向井:自分で聴き返しても、結構熱くなってたなって感じがします(笑)。
――その「最後は勝つ」から「リセット」への流れも気持ちいいですよね。
向井:そうですね。リセットとか特に元々アニメのエンディングだったので、自分自身の曲を書いたわけではなかったんですけど、なぜか歌うほど自分の曲になっていくという感じで。本当に『SAVAGE』に入っていてもおかしくないような形になってると思います。自分の中でもすごく物語になっているような感覚がありましたね。
――うん、間違いなく繋がっていますよね。
向井:『SAVAGE』を作っていちばん良かったなって思ったのは、たぶんこういう感情って一生つきまとうもので、抜け出したいなと思っていたようなものが実は自分の創作意欲に大切な要素で。邪魔だと思っていたものが凄く大切に変わったというか。僕が育ってきた中で感じていたコンプレックスとか、すごい田舎で育ったので、自分が好きな音楽に共感してくれる人が少なかったりとか、その中でも自分の音楽に対する愛情みたいなものはやっぱ確実なものだったし、そういう不安になる要素は今後もつきまとうんだろうなっていうことが分かったのは、アルバムを作ってのいちばんの発見でしたね。だから前に作った曲も『SAVAGE』に繋がるようなものになっているというのは、自分自身の気持ちを素直に曲の中に入れてきたっていうことの表れだと思うので嬉しいですね。
――そして本編のラストが「I Like It」で。これはライブの定番曲になっていますけど、これこそ向井太一の音楽への姿勢をまっすぐ歌っている曲だなって思います。
向井:この曲はその、まさに自分が言われがちな、音楽を軽視してるようなイメージだったりとかファッション的なイメージを持っている人に向けて、「お前ら何言ってんだ」っていう、自分のすごく男クサい部分が出たなって思うんですけど(笑)、歌詞に今までの作品のタイトルとかが入っていて、自分が作ってきた音楽への敬意とか愛情をもう1回表したいなっていうことだったんですね。とにかく僕は自分の作品が好きだし、自分が歌ってきたものは嘘じゃないという自信を胸張って言えるので。そういうのを突き付けてやりたかったんですよ。自分の好きな音楽を誇らしく思うことって、自分自身を好きになることにも繋がるし。僕、自分の「好き」を話す時に、「嫌い」を挙げる人が嫌いなんです。「好き」だけでいいじゃんって。
――なるほど。まさに向井太一の音楽は「嫌い」を排除していった結果ではなく、「好き」をどんどん広げていった結果ですからね。音楽性も、歌っている内容も。
向井:「嫌い」っていうのが嫌なのは、傷つきやすいんですよ、すごく自分が(笑)。めちゃくちゃネット見て傷付いてるんで。だからこそ自分の好きを信じたくなったって感じですね、あの時は。
――だからもう、悩むのも怒るのも全部曲でっていう感じなんですよね、きっと。
向井:それは自分がアーティストで良かったなって思う部分ですね。落ち込むのも曲にすればいいし、恋愛で振られても曲にすればいい。たぶん音楽やってなかったら、すごく暗い人間になったんじゃないかなって思います。
――いろんな不安や葛藤との闘いは続いていきますし、そのたびに曲が生まれていくと。
向井:まだ全然、満足したくてもやっぱり悔しいことが圧倒的に多くて。そこに対する闘いですよね。それが今のモチベーションになっているし、パワーだなって思います。『SAVAGE』を作って、去年は病んでいたところが、「もっとやったろうやんけ」っていう気持ちになってるんで、アルバムにして良かったなって思います。
――アンコールの1曲目で「道」を歌っているじゃないですか。この力強くて前向きな感じっていうのも、『SAVAGE』の時期をくぐり抜けたからこそなのかなと思います。
向井:「道」も「リセット」と一緒でアニメのエンディング曲だったので、自分のことじゃなかったんですよね。だからそもそもアルバムにはボーナストラックとして入れる予定だったんですよ、本編とは関係なく。でも歌詞が『SAVAGE』とめちゃくちゃリンクしていて、これは本編に入れるべきだっていうので急遽入れたんです。まさに自分自身の葛藤も、未来への思いも、ファンのみんなの愛情だったりとか、みんなの思いに対する感謝の気持ちみたいなものもあの曲には入っていて。だからこれのアンコールの1曲目に歌うっていうのはすごく意味がありました。
――今、『SAVAGE』を作ってからは全然違う感覚で音楽に向き合っている感じですか?
向井:全然違いますね。明るい曲だったり、自分の中でちょっと楽な気持ちになれるようなものを作りたいなっていうのがあって。だから次に出す予定のデジタルEPとかはまた違った雰囲気なんですけど、今までと繋がる部分もあるようなものになってると思います。

【取材・文:小川智宏】

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リリース情報

LIVE ALBUM「SAVAGE TOUR 2019」

LIVE ALBUM「SAVAGE TOUR 2019」

2020年06月17日

TOY’S FACTORY

01.Dying Young(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
02.Savage(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
03.Runnin’(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
04.Crazy(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
05.SLOW DOWN(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
06.SPEECHLESS(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
07.Can’t breath(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
08.Confession(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
09.君へ(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
10.最後は勝つ(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
11.リセット(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
12.眠らない街(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
13.FLY(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
14.ICBU(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
15.Great Yard(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
16.I Like It(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
17.道(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
18.空(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)

リリース情報

LIVE VIDEO「SAVAGE TOUR 2019」

LIVE VIDEO「SAVAGE TOUR 2019」

2020年06月17日

TOY’S FACTORY

01. Savage(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
02. SLOW DOWN(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
03. リセット(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
04. ICBU(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
05. Great Yard(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
06. I Like It(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)
07. 道(Live at Zepp Tokyo 2019.11.14)

リリース情報

ツアーブック「SAVAGE BOOK」

ツアーブック「SAVAGE BOOK」

2020年06月17日

SHIBUYA TSUTAYA

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