向井太一「新しい扉が開けたみたいな感覚」――『Supplement』からわかる変化とは

向井太一 | 2020.07.31

 自分の内面を見つめて心情を吐き出したアルバム『SAVAGE』を経て、向井太一はどう変わったのか? その変化をこれ以上ない形で体現した作品が完成した。わずか4曲のEPだが、agehasprings百田留衣(YUKI、中島美嘉、Aimerなどの楽曲を手掛けるプロデューサー)を起用して取り組んだ野心作「僕のままで」、盟友CERSIO COUPEと組んでかつてないほど外向きのメッセージを放つ「Comin’ up」、向井のストーリーテリングの巧さとアイデンティティともいえるR&Bサウンドががっちり噛み合った「Ooh Baby」に「Just Friends」と、どの曲もそれぞれの方向性で向井太一というアーティストの行く末を照らしている。聴く人の日常の糧にしてほしいという思いを込めた『Supplement』はどのようにして生まれたのか? 今彼が感じていることを、率直に語ってもらった。

――アルバム『SAVAGE』を経て次に向かっていくという中で、どういうふうに今作に進んでいったんですか?
向井太一:今回は結構初期の段階で『Supplement』という、タイトルというかコンセプトが決まっていたんです。『SAVAGE』の時はどちらかというとすごく内にこもった、自分の中の憤りとかを掘り下げてぶつけるみたいな作品だったんですけど、それをリリースしてツアーをやった時に、ファンのみんなが受け入れてくれたりとか、新しい人たちが聴いてくれるようになったりしたのを感じて。自分がありのままでいられることがすごくありがたいし、本当に嬉しいことだなと思ったんです。だから次はそれを返せるような、誰かの力になるようなものを作りたくて。それで『Supplement』っていうコンセプトにして作っていいきました。
――リード曲の「僕のままで」は、これまでの向井太一のディスコグラフィの中でもすごく開けた印象がある曲になりましたよね。今回、百田留衣さんと組んだのはどういう経緯だったんですか?
向井:とにかく自分の中で、次のステップに行きたいっていうのがあって。だから、最初から新しい人とやりたいっていうのはあったんです。百田さんはマネジメントの制作チームから提案いただいたんですけど、百田さんの手がけられた楽曲はもちろん知っていたし、一緒にやったらどうなるだろうっていうのが想像できなくて、それがワクワクに変わっていきました。最初にお会いしたときには、もう自分がどういうメッセージでどういう楽曲を作りたいのかというのがかなり明確にあったので、そこから曲を作っていただいたんですけど、メロディラインのベースは百田さんが作ってくださっているんです。
――ああ、そうなんですね。
向井:そう、だから結構音のハメ方というかメロディの行き方みたいなのが、今までの僕の楽曲とはちょっと違った雰囲気で。でも歌えば歌うほど自分の体に馴染む感じもあって。新しい扉が開けたみたいな感覚がすごく強いです。
――確かに、メロディがこれまでの向井太一の中にはなかったものだなっていうのは思いますね。
向井:そうですね。百田さんが作ってくださったベースのメロディに、僕がブリッジのメロディとかを加えて、最終的に肉付けしていくっていう感じで作っていきました。歌詞でもGASHIMAさんに参加していただいてるんですけど、歌詞のハメ方がちょっと難しい箇所が何か所かあって、そこで助けていただいて。
――メロディを委ねるって結構大きな決断じゃないかと思うんですけど、そこに躊躇はなかったですか?
向井:すごく楽しかったです。シンガーソングライターと謳っている以上、どうなのかなって考えたりとかもしましたけど、なんていうのか、自分の曲になる感覚があったんです。歌詞を自分で書いてるっていうのもあったんですけど、ミュージックビデオの撮影とかで自分で歌ったりしていても自然に涙が出たりとか、作り方は今までと違うけど、自分のコアの部分で大切にしてるものはちゃんと表わせているというか。「自分の楽曲」って胸を張って言えるようなものが作れたと思ってます。表現したいものがはっきりあったし、それを最初の打ち合わせですごく熱く伝えたんです。それを百田さんが汲み取ってくださったんだと思います。
――なるほどね。確かに、歌詞だけを読んでいくと『SAVAGE』の続きみたいな感覚もあるんですけど、そこに百田サウンドが入ってくることによって、がらっと景色が変わって開けていくような感じがあるんですよね。そこがこの曲のポイントかなと思うんですが、歌詞についてはどういう気持ちで書いていったんですか?
向井:『SAVAGE』で自分の中の感情を全部吐き出したんですけど、リリースしてツアーをやってっていう中で、「この感情はたぶん一生戦い続けるんだな」っていうことをすごく感じて。だから今回も、そのリリースしても消えなかった思いみたいなものをもう一回書きたかったというのはありました。今回ほかの3曲はどちらかというとフィクション的に書いた楽曲なんですけど、やっぱり今感じていることだったりとか、伝えたい自分の気持ちみたいなのは作品のどれかには詰めたいって思うんです。そういう部分で「僕のままで」は大きなポイントとして、最初からこういう楽曲を作りたい、みたいなのはありました。
――<怖くなったんだよ 自分がわからなくて>と言いながらも、最終的には<歌い続けてるよ ずっと 僕のままで>と言い切っている。ある種の「答え」にたどり着いたような感じもありますね。
向井:でも「見つけた」って感じではないんですよね。イメージとしては、暗闇の中にいたのが『SAVAGE』だったとすると、そこに光が差し込んでいるのが見えて、でもその光の中にはまだ入っていない、みたいな。それが今の自分の状況かなと思っていて。自分の中ではやっぱり全然満足していないし、自分がまだ上の方まで行けているっていう感覚もないし。ただ『SAVAGE』を出したことによって自分が歌い続ける意味というか、今歌うことによって戦ってるみたいな意識がすごく明確に分かってきたんで、それがより表れている感じはします。
――その「歌い続ける意味」というのは?
向井:僕、もともとすごくコンプレックスが強くて。マイノリティの意識がある中で、楽曲を作ったりとかライブで歌うことによって自己肯定をしようとしてきたんです、ずっと。でも作り続けてもそれがなかなか実らなくて、自分の行きたい場所にも行けなくて。そこで自己肯定ができなくなったのが『SAVAGE』の時期だったんです。でもそこを抜けて、苦しみだろうが悲しみとか悔しさだろうが自分が生きる上では必要な要素で、それも音楽にできるんだったら自分が歌う意味になるなと思ったんです。そういう思いを吐き出しても自分をサポートしてくれている人たちがいてくれるというのがありがたいし、改めて「自分自身で良かったな」って思えた時期だったんですよ、去年は。だから改めて「自分自身でいること」が自分が歌う意味でもあるし、生きる意味でもあるなと思って、それを表現したかった。「僕のままで」というタイトルそのままなんですけど。
――なるほどね。それはこのEP全体を通してもそうですよね。スタイルは4曲バラバラだけど、でもその振れ幅こそがトータルで向井太一なんだっていう作品だなと思います。
向井:そう感じていただけると嬉しいですね。ちょっと怖さもあったりしますけど、やっぱり自分が今作りたいものっていう信念はあるから。
――と言いつつ、「僕のままで」を聴いて、次にCELSIOR COUPEさんと組んだ「Comin’ up」が来るっていうところでちょっと安心するというのもあるんですけど(笑)。
向井:確かに(笑)。いつもの安定感みたいなのはありますよね。これはもう「サプリメント」といえばこういうのだろうなっていうのを楽しく作らせていただきました(笑)。なんか、どっしりと構えるっていうより、笑い飛ばすぐらいの勢いで書けたらいいなと思っていて。仕事に行く時とか学校行く時、やだなって思う時にもちょっと足を早めるような、背中を押すような曲になればいいなと思って作りました。結構自分の得意な部分だったりもするし、ライブでどういう感じでお客さんを煽るのかみたいなのもすごく分かりやすい楽曲ですね。
――確かに「乗り越えた先の新しい君は輝いてる!」みたいな歌詞って、勢いがないと書けないかもしれないですね。
向井:もう「チョコラBB」とかイメージして(笑)。ちょっと今日疲れてるなっていう時にこの1曲、みたいな(笑)、そんな曲になればいいなと思っていて。だから結構外側に向いた曲って感じです。
――今までそういう「外に向かって元気を届けるんだ」みたいなモードで曲を書くことってありました?
向井:……ないかも、そう言われると。うん、ないですね、そういえば。
――そうですよね。やっぱり向井太一のモチベーションの中には常に、自分の気持ちを自分で見つめたいとか、それを吐き出したいとかっていうのがあったと思うんです。でもこの曲はそれを一切取っ払っている気がして。
向井:確かに。その視点で考えたことはなかったですけど、それも『SAVAGE』を出せたことが大きかったと思います。自分の中で一区切りついたというか。だからこそこういう楽曲が作れるようになったっていう。「Just Friends」なんかも、自分のことじゃないですけど、デビュー前ぐらいからずっと書いていた歌詞なんですよ。それを今回掘り起こして。フィクション的に曲を作ることがここ数年なかったんで、やっと作れたんです。なんか『Supplement』っていうコンセプト自体が、そもそも自分に向けたものっていうよりは人に向けたものだったので、その中でちょっと肩の力を抜いて、違った視点で書けた曲だと思います。
――やっぱりそこはすごく重要だと思います。今までの作品のタイトルを並べてみても、自分のことっていうところが大きかったじゃないですか。
向井:そうですね、めちゃくちゃ大きかったと思います。特に『PURE』ぐらいからは自分自身を表すっていうのがテーマになっていたから。久しぶりにこういう楽曲の作り方をした気がします。
――でも、この作品が向井さん自身に重ならないかっていうと、全然そんなわけはないですし。むしろ自分自身を伝える方法として、よりポップに、オープンに伝える術を身に付けたみたいな感覚なのかな。
向井:その通りだと思います。まだ模索中ですし、それが正解かどうかも分かってないですけど、自分のやりたいことは最大限に表現できたっていう自信はあります。
――わかりました。今回アートワークについてはどういうイメージで作っていったんですか?
向井:今回はLeo Youlagiくんっていう、もともと知り合いだったんですけど初めて一緒にやるフォトグラファーと作って。自分の中ではこういう写真を撮りたいみたいなのがあったんですけど、それを話したらLeoくんから、この石膏みたいなもので固めるっていうのはどうかっていう意見をいただいて。『SAVAGE』から「僕のままで」の間に、自分が塗り固められていた感情とか自分自身に貼るレッテルみたいなのがちょっとはがれかけてる感じがしていたんですけど、それが表現されているなって思ったんです。
――そうか、これはいろんなものが剥がれていっているっていうイメージなんだ。じゃあ、ここからはどんどん光の方に向かっていくぞっていう感覚もあるんですか?
向井:でも、もしかしたらまた『SAVAGE』を超える激重なものを作るかもしれない(笑)。
――はははは!
向井:自分のその時の感情に沿うだけですね。自分の環境が変わったり、年齢もそうだし、置かれる状況によって作る楽曲ってどんどん変化していくだろうし、でもそれが自分自身かなと思いますし。
――その変化が楽しみです。ちなみにこのEP、いつごろ完成したんですか?
向井:本当に完成したのは6月の頭とかそれぐらいですね。
――ということは、作っていくなかでこのコロナ禍の状況というのも少なからず重なる部分はあった?
向井:そうですね。でも直接的なものは正直、あんまり書きたくなかったっていうのはありました。自分自身も当事者だったし、影響はもちろんしてるんですけど、直接的にここに入れたというのはないです。ただ、最初の予定どおり5月にリリースしたのと、こうして7月にリリースするのとでは、作品に対しての思いみたいなのは全然違うと思います。作品の意味みたいなのが強くなった感覚はあります。
――本当にそう思います。というか、このタイミングで『Supplement』という作品を作るということの巡り合わせみたいなものって、ポップミュージックとしてとても大きなことだなと。
向井:うん。もちろん何も考えてないことはまったくなくて、コロナもそうだし、僕の地元、九州の豪雨もそうだし、それこそBlack Lives Matterとか、いろんなことが起きて。自分が生きるのに必死な人がたくさんいて、心を痛めるようなこととか怒りとか悲しみがあったりする中で、喜びを見つけることすらちょっとタブーになってたりする感じもして、ちょっと自分の中でパニックになった部分もあったんです。自分に何ができるかっていったらやっぱり曲を作ることでしかないんですけど、今このパニックになっている中で「みんなで立ち上がっていこう」みたいなことは僕は言えないなって思ったんです。自分自身がそういうマインドになっていないし、そこで嘘をつきたくなかった。だから、自分が歌えること、歌いたいことをピュアな気持ちで作品にして、それが結果的に人にとっての「サプリメント」になればいいなって。
――そうやって素直に作品を作ることが、向井さん自身にとっても「サプリメント」として機能したということかもしれない。
向井:うん、僕にとって音楽ってそういう要素がすごく強い気がします。音楽ってものが必要なものなのかとか、エンターテインメントってやっぱりあと回しにされたりとか……それよりももっと大切なものがあるっていうのは、言っている意味もすごく分かるんです。だからその中で、僕らは何を表現すればいいのか、やっぱりすごく大きな課題になりましたよね。そうやって考える中で新しい戦い方とか新しい表現の仕方みたいなものを得た人は、たぶん僕を含めてたくさんいると思うし、それぞれがただ出せばいい、ただ歌えばいいみたいな時代ではないと思うんで。そこは自分も模索中なところが大きいですね。

【取材・文:小川智宏】





向井太一 / 僕のままで(Official Music Video)

tag一覧 J-POP EP インタビュー 男性ボーカル 向井太一

リリース情報

Supplement

Supplement

2020年07月29日

MIYA TERRACE

01.僕のままで
02.Comin’ up
03.Ooh Baby
04.Just Friends

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先日『ジュラシック・ワールド』を観ていて、ローレン・ラプカスさんっていう女優さんが出ていて。「めっちゃ見たことある、この人!」って思って、でもどこで見たかまったく思い出せなかったんですよ。それを調べました。そうしたら『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』っていうアメリカのドラマがあって、女子刑務所の話なんですけど、その看守役で出ていた方でした。



■ライブ情報

Release Live -Supplement-
08/28(金)


THE BONDS 2020
08/02(日)大阪 大阪城ホール

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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