カネヨリマサル、前作から約10ヵ月ぶりとなる待望の2ndミニアルバム『心は洗濯機のなか』

カネヨリマサル | 2020.08.26

 前作『かけがえなくなりたい』から約10ヵ月ぶりとなる、カネヨリマサルの2ndミニアルバム『心は洗濯機のなか』。前作をリリースしてから、自分たちの音楽が「届いている」ということを実感しながら進んできた彼女たちが、自分たちの曲とそこに込められた思いを全力で信じて作り上げた、今のカネヨリマサルを体現する力強い作品だ。メインで楽曲を作るちとせみなが描く世界は、決して幸せに満たされない。いつも必ず、何かが足りなかったり、何かを失っていたり、傷ついていたり、悲しんでいたりする。でもそんなボロボロの心を丁寧に「洗濯」して、もう一度身につけて進んでいくのだ、というポジティブというよりはタフなメッセージがこのミニアルバムを貫いている。そのメッセージは、きっと、今の世の中にもまっすぐ届くはずだ。

――前作『かけがえなくなりたい』を出してから、どういうふうに進んできたんですか?
ちとせみな(Vo/Gt):『かけがえなくなりたい』は今までの、見えないところでふつふつとしたところを表現したミニアルバムだったんですけど、今回はそれをいろいろな人が聴いてくれて、新作を期待してくれる人がいる状態で作っていったので、さらにいい音楽を生み出したいなと思ってました。「いい音楽作らな」みたいな意識は凄くしてましたね。
――いろいろな人に届いているという実感はあった?
ちとせ:本当に自分たちが、まったく会ったことがないような……お客さんももちろんですけど、バンドマンであったりCDショップの人であったり、本当にいろいろな人に聴いてもらって、カネヨリマサルを知ってもらえたなって実感はめちゃめちゃありますね。
――もりもとさんといしはらさんはどうですか?
もりもとさな(Dr/Cho):全国流通っていうのが初めてやったんで、友達とかがCDショップ行って「CDあったよ」みたいな報告をしてくれたり。なんか認めてもらえたっていうか、お父さんとかお母さんとかにも「ちゃんと頑張ってます」っていう報告ができた感じがして。ちゃんとバンドも前に進めてるんやなっていうのが伝わりやすい感じだったので、それが凄くうれしかったです。
いしはらめい(Ba/Cho):自分たちの目に見えないところで、まったく知らない方がSNSとかで曲について「こういうときにこういう曲を聴いてこういうことを感じた」みたいなのを書いてくださっているのを見て、自分たちだけじゃないんだってすごく思いました。ライブとかでもあの曲がすごく好きって言ってくださる方がいて、目の前にそういう人がいるのがすごく大きく変わったなって思うところですね。
――どんな作品になったと自分たちでは思いますか?
ちとせ:すごく幸せな、ハッピーソングっていうのはこのアルバムには入ってなくて。悔しい思いとか失恋の気持ちとか、今後の不安みたいなものがちょっとにじむような曲が多いんですけど、その気持ちを曲にすることで前を向けるアルバムになったんじゃないかなと思います。私が曲を作る理由はやっぱり、負の感情を形にすることで前を向きやすくなれるとか、受け止めることができるっていうことだと思ってて。『心は洗濯機のなか』っていうタイトルなんですけど……心は1個しかないから、何回も使いながら、何回でも立ち直らせて自分を生きないとダメじゃないですか。それを洗濯物にたとえているんですけど、曲にすることで自分の気持ちが前を向きやすい形にしていくっていう。その思いは『かけがえなくなりたい』のときよりも強いかなと思います。
――なるほど。「ガールズユースとディサポイントメント」で<わたしの愛が正しくなるまでは>って歌ってますけど、まさにそういうことですよね。

カネヨリマサル『ガールズユールとディサポイントメント』MV
ちとせ:この曲は私の人生の中で何かを失ったりした悲しみを経て作った曲で。曲を作ってた時はボロボロだったんですよ、自分が。でもこの気持ちはいつか正しくなるだろうって、私が誰かを愛した気持ちも、いつか時間がたったら絶対に素敵なものになってるだろうなって思って。
――歌詞でいうともうひとつ、「君が私を」では<私は銀杏BOYZになれない>って書いてるけど、これは?
ちとせ:その前の歌詞から銀杏BOYZの歌詞をリスペクトとして取り入れてるんですけど……そういう気持ちはあるんですけど、銀杏BOYZのようにすべてをめちゃめちゃに愛したりはできない、そういう気持ちではもういられないっていう感じで作った……んやと思います(笑)。
――うん。なんかここも、もちろん「なれない」ってことなんだけど、同時に「でも私は私だから、私の気持ちが正しいんだ、これで生きていくんだ」って言っているような気がするんですよね。
ちとせ:そうですね、それもあると思います。
――どの曲もそうなんですけど、ちゃんと自分の気持ちを肯定していく、そのために曲にしていくというのが貫かれていますよね。
ちとせ:その自覚はありますね。曲にすることで正しく……やっぱり好きになれるんですよね、この悔しさとかを。それは昔『かけがえなくなりたい』の曲を作ってたいた頃は全然意識してなかったことで。
――『かけがえなくなりたい』はCD出すとかってことを考える前に作りためてきた楽曲の集大成みたいな側面もある作品でしたしね。
ちとせ:うん、やっぱりそれはこの3人になってライブもいっぱいするようになって、CDを作っていける環境になって特に感じるようになりましたね。なんで私は曲を作ってるんだろうって、いろんなタイミングで考えることがあって。ただ歌を歌ったり演奏したりすればいいわけじゃなくて、この気持ちを相手やお客さんに伝えるっていうことを、どうやっていったらいいかなってめっちゃ考えた時期があったんです。それでさっき話したような思いに至りました。
――音も含めて、バンドとしての軸がガチッと固まったというか、太い柱が立ったように思うんですよね。ちとせさんの書く曲もそうだし、それを支えるバンドのアレンジも、3人で同じ方向を向けている気がする。
ちとせ:今回のアルバムは、しっかり土台として『心は洗濯機のなか』っていうタイトルとかテーマもはっきりあるなかでレコーディングしていったので。ミニアルバム作るぞってなってアレンジを練り直したり、改めて作った曲がいっぱいあるので。3人でそういうアルバムを作るっていう意識で作れたのかなと思います。
――今回、特にチャレンジだったなって思うところは?
ちとせ:「白い帽子」っていう曲は……カネヨリマサル、ミドルテンポは結構あるんですけど、こういうバラードはなくて。改めてしっかり聴かせる曲を、と思ってやりました。でもずっと聴かせるだけじゃなくて、かっこいいところはかっこよく、心を締め付けるようなところは締め付けようって思って作りましたね。
――この曲は歌詞もすごく文学的というか、他の曲とは雰囲気が違いますよね。でもこの曲でも<乾かないわたしのこころ>って最後に言っていて。これもさっき話してもらった今作のタイトルの話に通じるものだったりしますよね。
ちとせ:やっぱり洗濯物が乾かない人もいたりするわけですよね。心が乾かない人もいながら生活していく。<乾かないわたしのこころ>って、そんな自分を認めている気がするんですよ。乾かない心があるっていう歌詞を歌うこと自体が、自分の気持ちを認めてるっていうことやなと思って。
――うん。もちろんカラッと乾いているほうがいいじゃんっていうのもあるけど、でも乾かない自分がいる。ちとせさんは必ずそっちに目を向けるよね。
ちとせ:そうですね。なんか、感じなくなるっていうのが嫌で。嫌なこととか傷付いたことを深く考えずに「さあ次行こう」ってできない人間なんですよ。傷つくのは分かってるんですけど、その傷ついた意味を自分で考えて、曲に変えて還元していきたいと思うんで。「ガールズユースとディサポイントメント」とか「ラクダ」とかもそうですけど、やっぱりこの乾かない悲しい心、悲しみは持ってるけど、自分はそのままでいいんだって肯定したかったんやなと思います。

カネヨリマサル『ラクダ』MV
――その思いをいちばん強く感じたのが最後の「まだ」という曲で。すごくシンプルで力強い、テーマ的にもストレートな曲ですよね。
ちとせ:これはもともと、私の弾き語りでしか存在しなかった曲なんですよ。それも1番しかなかったので、こういう構成になってしまったんですけど。
――うん、Aメロとサビが1回だけっていう短い曲ですね。いつ作った曲なんですか?
ちとせ:たぶん4、5年前とかだと思います。でも昔の曲ですけど、気持ちは本当に今も同じで。今を歌えてるなと思ったのでアルバムに入れました。
――じゃあ、バンドのアレンジは今回初めてやった感じなんですか?
ちとせ:そうですね。ちゃんとしたアレンジは本当に最近。この3人になってしばらく経ったくらいに作って。だいぶ眠らせてましたね。弾き語りが基本的には土台になってたので、あんまり凝ったことはしたくないと思って。ストレートな曲でありたいなと思ったんです。歌詞みたいに、今すぐ自分の思いを伝えるみたいな気持ちで、最初から最後まで勢いのある曲にしたいなと思って演りました。なのでめちゃめちゃ難しいコード展開もしてないですし、3人の音でしっかりストレートに作れたなと思います。
――<でも生きているから/でも生きていたいから/変わるの>って、まさに今日話してくれているテーマだし、アルバムを総括するような感じもありますよね。だから結構前からある曲だって聴いてちょっとびっくりした。
ちとせ:はい。散々後悔みたいなのものを歌って、ときには怒りとかも歌ってきたアルバムなんですけど......いろいろな気持ちがあるけど私たちは変わっても私たちであるっていう。それを最後の最後に言いたいなと思って。それで最後にしましたね。
――シンプルでストレートな曲にするというのは、メンバー全員そういう意識だった?
いしはら:シンプルになったなっていうのは、私はできあがってから感じたんですよね。でも、曲のもともと持ってるまっすぐさみたいなのが強いなっていうことは無意識で感じてて、そこに余計なものを入れたくないなっていうのは少しあったかなって思います。いつもだったら、自分がこの曲に対してどういうアレンジをして、この曲をもっとよくしていこうかっていうのがあったんですけど、この曲は、メロディと歌詞がもともと持ってるものの近くに自分がどれだけ行けるか、みたいなことをいちばん考えてやってたのかなって。
もりもと:私もそんなにはこういうアレンジしようとか、シンプルにしようみたいなことはあんまり考えてなくて。できるだけ曲に寄り添って、みなちゃんの歌詞と声が聴いてもらえる人に届くようなドラムを叩きたいなって思ってましたね。
――つまり、ちとせみなの曲と歌詞、そこに込めた気持ちを、どれだけまっすぐ届けられるかっていう。そこのブレがこのミニアルバムは一切ないんですよね。それを信じればいいんだっていうところが定まっている感じがする。それって要するに自信があるっていうことだと思うんだけど。
ちとせ:まあ、曲自体は……3人とも自分たちの曲は大好きです(笑)。それだけは確固たるものですね。曲には自信があります。その自信が3人よがりじゃなくなって。人からもらうパワーもちゃんと受け取って、このアルバムになったなと思ってます。
――うん、そんな感じがします。しかも、このミニアルバムで歌われている、いろいろな状況や気持ちがあるけどちゃんと前を向いていくんだっていうメッセージって、すごく今の世の中に対して響くものだっていう気がするんですよね。
ちとせ:はい。生活する上で、どんな時代でも「ずっと楽しい」っていうのは存在しないと思うんです。私はただ自分の生活の中での気持ちを表現してきて、これが絶対に正しいわけではないですけど、でもそれでよかったのかなって思います。状況がハッピーな人じゃなくても、自分たちの音楽がいろんな気持ちで寄り添えたらすごく幸せなことなんで。こうやって、自分の弱さを歌っていけたらいいなって思いました。
――すごく正直な音楽だからこそ、どんなシチュエーション、どんな世界でもちゃんと届くっていう。そういう作品だなって思いました。
ちとせ:はい。そうなれていたら嬉しいです。

【取材・文:小川智宏】





カネヨリマサル『心は洗濯機のなか』全曲トレーラーMV

tag一覧 アルバム 女性ボーカル カネヨリマサル

リリース情報

心は洗濯機のなか

心は洗濯機のなか

2020年08月26日

D.T.O.30.

01.シリウス
02.ガールズユースとディサポイントメント
03.今を詰め込んで
04.君が私を
05.白い帽子
06.ラクダ
07.まだ

お知らせ

■ライブ情報

”心は洗濯機のなか”Release Event
”雨が降った日”

09/25(金)心斎橋Pangea

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る