9月21日(月・祝)22日(火・祝)の2日間にわたって開催されるオンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING」緊急座談会!

NIPPON CALLING座談会 | 2020.09.16

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 9月21日(月・祝)と22日(火・祝)の2日間にわたって開催されるオンラインフェス「NIPPON CALLING」。もともとは「TOKYO CALLING」として東京の新宿・渋谷・下北沢の3エリアをまたいで行われていた巨大サーキットが、新型コロナウィルスの影響でリアルイベントが難しい状況が続く今年はオンラインに「場所」を移して開催されるのだ。東京のみならず全国の51会場を舞台に、全204組のアーティストが生配信と収録でライブを届けてくれるこのイベント。「全てのライブハウスとアーティストとオーディエンスのために」という理念のもとこれまで4回開催されてきた「TOKYO CALLING」の根幹はまったくブレることなく、むしろこういう形になることでその姿勢が鮮明になった気すらする。この前代未聞の「サーキットフェス」はいかにして誕生したのか。発起人の菅原隆文氏(株式会社エル・ディー・アンド・ケイ取締役)はじめ、イベントの運営の中心メンバーである綿谷剛氏(RAD CREATION株式会社代表)、民やん氏(株式会社CLOUD ROVER代表/「見放題」実行委員長)、首藤宏昭氏(株式会社PROJECT FAMIRY代表)の4名にお話を伺った。


<PROFILE>

菅原隆文
株式会社エル・ディー・アンド・ケイ取締役
綿谷剛
RAD CREATION株式会社代表
首藤宏昭
株式会社PROJECT FAMIRY代表
民やん
株式会社CLOUD ROVER代表/「見放題」実行委員長

――「TOKYO CALLING」がスタートしたのが2016年で、今年で5年目ということになるわけですが。そもそもこのサーキットイベントがスタートしたきっかけというのは何だったんですか?
菅原:きっかけは、僕が担当しているドラマチックアラスカというバンドがいるんですけれども、彼らが2014年にデビューしたんですね。そのプロモーションをしていく中で――ラジオだったり雑誌だったり、いわゆるメディアを使ってプロモーションすることも多かったんですけれども、ロックバンドはイベントを通して大きくなっていったっていうのがあって。当時、各地でいろんなサーキットフェスが隆盛していて、それこそ民やんがやっている「見放題」とか、ワタがやっていたのは――。
綿谷:「GRANDLINE」ですね。
菅原:とか、首藤さんのところはちょうど「TENJIN ONTAQ」を始めるところでしたよね。
首藤:「ONTAQ」が2015年からですね。
菅原:だから結構そういうのがあって。ドラマチックアラスカっていうアーティストの視点から見て、すごくプロモーションがしやすかったんですよ。広島の「MUSIC CUBE」とか新潟の「RAINBOW ROCK」とか、そういうイベントに出ると一気に名前が広がっていく。特に関西がすごくて、「見放題」があって、「COMIN’ KOBE」があって、FM802さんがやっている「MINAMI WHEEL」があって。本当1年間通していい感じのイベントがあってすごくいいなという思いがあったんです。翻って東京はというと、大きいフェスはたくさんあるんですけど、インディーズバンドがまず目指すべき最初のステップみたいのがなくて、なんでないのかなっていうことをずっと思ってたんです。あったとしてもそれぞれ新宿だったり、渋谷だったり、下北沢だったり、地区に分かれてやってるので、全体的な東京としてのシーンというものがないなと。それをまとめたサーキットフェスがあったらいいなと思いついたんです。
――それがきっかけだったんですね。
菅原:うん。その頃僕らは「宇田川コーリング」っていうオーディションをやってたんですけど、それを大阪でやるときは民やんと一緒にやって「梅田コーリング」で、福岡でやるときは首藤さんと「大名コーリング」って言って、名古屋でやるときは「大須コーリング」としてやってたんです。それをやっていく中で、3日間続けて10会場、要するに3地区30会場300アーティストっていうコンセプトがでてきて。でもこれはひとりでは絶対できないなと思ったんで、この3人に話して「一緒にやらない?」と。
民やん:「見放題」もちょうどその前の年、2015年に東京に進出してやったりしていたんですよ。なので話をもらった時は「さらに大きいことに挑戦できる機会だな」と思いましたね。そうやって他の方と一緒にやるっていうのもなかなかなかったので、また自分の幅が広がるかなっていう。だからそんなに悩むことなく、ぜひ関わらせてほしいって思いました。
首藤:僕は九州でずっとやっていたので、九州から出るのはどうなのかなっていう部分もあったんですけど、なかなか九州のバンドが東京のイベントに出る機会ってないんですよね。そのきっかけのひとつになることは間違いないと思ったので、地元の底上げというのも考えて関わらせてもらおうと。東京でライブするっていうのはやっぱり夢のひとつじゃないですけど、若い子のチャンスになればいいなっていうのもありましたね。
綿谷:僕も同じですね。レーベル的にもありがたいし、名古屋のバンドが東京に行ける機会を自分で作れるなと思って。だから悩むことはなかったですね。
菅原:最初4人で集まったの、あれ福岡だっけ?「ONTAQ」の時だよね。僕としてはみんな受けてくれるかなっていう不安があって、「これダメだったらどうしよう」っていう感じだったんです。ひとりじゃ絶対できないんですよ。300組集めるだけのコネクションもなかったし。なのでちょっとドキドキしながら打ち合わせに挑んだのを覚えてます(笑)。でもみんなわりとあっさり「やりましょう」って言ってくれて。ただ、4人が4人ともすごく個性的だと思うんですよ。僕もそうですけど、首藤さんもワタも民やんもそれぞれ違う考えなんで。一筋縄ではいかないというか、いろいろぶつかることもあったし、危機とは言わないまでもいろいろありました。まだまだ課題はあるなと思いながらやってます。
――初年度にお邪魔したときに、これだけの規模にもかかわらずDIYっぽさをすごく感じたというか、ある意味文化祭的な空気があったのを覚えていますね。
菅原:今もそんな感じで、基本的には変わらないですけどね。ただ、やっぱり僕も当時は本当にド素人で。今も素人なんですけど、少しはちゃんとしなきゃなっていう思いも前よりはあるので。
――アーティストのブッキングなども分担してやっているんですか?
菅原:完全にそうです。それぞれ得意分野が違うじゃないですか。大雑把にいうと僕と民やんがギターロック系で、首藤さんとワタがメロコア系とか。得意分野と不得意分野っていうのが合わさっていい感じになってるのかなっていう気はしますね。
――今年は新型コロナウィルスの影響でフェスやイベントが軒並み延期や中止に追い込まれているわけですが、その中で「TOKYO CALLING」は「NIPPON CALLING」としてオンラインで開催するという決断をしました。発表のタイミングもかなり早かったですよね。
菅原:でも、その決断までにはいろいろありましたね。3月から発表する6月までの3ヵ月は難しかった。あの頃は毎日のように4人で「どうする?」って話していました。僕としては4月のうちに「TOKYO CALLING」の開催発表をしたかったんです。もうできないのはわかってたんで、とりあえず発表だけしちゃいたいなっていうのが、個人的にすごくあったんですよ。1%でも可能性があるのであれば我々は何か立ち向かっていきたいという思いで準備をしていたんですけど、それすら許されない空気になってしまって。それこそ民やんがイベント中止にしたりとか、首藤さんも「ONTAQ」を中止にするっていう決断をするタイミングだったんで、いったんそれはやめようということで。その後結構しばらく、何もできないときがあったじゃないですか。4月とかはほとんど動いてなかった。
首藤:何もやってなかったですね。ずっと払い戻しと、キャンセルと。
菅原:イベントがどんどん中止になっていき、リアルでの開催はちょっと難しいなっていう思いのなかで、オンラインでやれないかなと思って。ただ、当初は3日間やる予定だったんですけど、それを全部やるのは確実に難しいなと思ったので、2日間でやろうと。それがいつ頃かはちょっと覚えてないんですけど、6月1日の発表のわりと直前だった気がします。
――全国のライブハウスから配信で、という形になったのはどうしてですか?
菅原:「TOKYO CALLING」をやるにあたって、いつもやってもらってるんですけど、池袋Admとのコラボステージをやりたいなって思って渉くん(豊島”ペリー来航”渉/バックドロップシンデレラのギター・ボーカルで池袋Adm店長)と「今年どこでやる?」みたいな話をしていて。下北がいいかなみたいな話をしていたんですけど、配信なら池袋でできるんじゃない?みたいなことをふと思いついて。これなら東京じゃなくてもできる、「NIPPON CALLING」いけるじゃんって。そこで急遽名前が変わったんですよね(笑)。
――菅原さんもおっしゃったとおり、3月くらいから4月、5月くらいまでは、ライブができない状況が続いていて。みなさんそれぞれに大変だったなかで、「NIPPON CALLING」やろうっていう方向に向かえたのはなぜだったんでしょう。
菅原:個人的には本当に何もできてないなっていうのがすごく辛かったんですよね。その中で「TOKYO CALLING」できないかもなっていう思いはすごくあって。でも、やめちゃったらもう終わりじゃないですか。だからなんとか実現したいなっていうのはとにかくずっと思ってましたね。
綿谷:そういうアイディアが出てきて、僕はめっちゃありがたかったですね。半分諦めてたんですよ、いろいろ。難しいかなあと思ってたんですよね。全国のライブハウスをつないで配信するっていう発想はまったくなかったんで。
首藤:地方とつないでもらうことによって地方のハコも知ってもらえるきっかけになるしね。イベント自体も、東京だけなんでまだ知らない人たちもいると思うんです。そういうところで分母を広げるじゃないですけど、そういう作業の一環にもなるし。仲のいいライブハウスと一緒にできるっていうのも個人的には楽しくて嬉しいですね。連絡取るきっかけにもなるので。
民やん:これ、収支のことを考えたらやれるかわかんないんですよね。まったくわからないんで、収支計算ができない。でもそれよりも今動いていることを見せたいってのがありましたね。全国のライブハウスを巻き込めるっていう発想になったときに、収支度外視して、めちゃめちゃいいなと思いました。結果的に今まででいちばん多い会場数になっているので、本当に大丈夫かなっていうのはありますけど(笑)、そういう意味ではすごくやりがいがありますね。自分のことで言うと、7月の見放題がこれもどうするか全然答えが出せなくて、本当に5月の末ぐらいにオンラインに舵を切ったので、「NIPPON CALLING」と並行していたんです。それで自分的には前に向かえたというか。
菅原:やっぱり、ライブハウスの窮地っていうのがあったじゃないですか。特に地方のライブハウスが苦しんでいたので。それで「NIPPON C ALLING」やろうってなって、地方のライブハウスに「こんなことやるんだけど」って、電話しまくったんですよ。嬉しくなっちゃって。たとえば山陰のAZTiC(松江canova/米子laughsの運営会社)の三瓶(大地)に電話したら「本当嬉しい」と言ってもらえて。こないだ行ってきたんですけど、話してたら5月の末あたりはもう絶望してたと。でもその1本の電話ですごく変わったって言うんです。「『NIPPON CALLING』があったから立ち直れました」みたいなこと言われて、それはすごく嬉しかったですね。その時本当に自分にそこまでの気持ちがあったかって言われたらちょっとわかんないですけども、ライブハウスっていうものがなくなってしまうかもしれないという中で、今回こういうことをやったから改めてライブハウスと向き合えたっていうのはありました。来年以降も同じ形でやるつもりはないけど、何らかの発展的な形で関わりが深めていけたらいいなっていうのはすごく思ってますね。
――サーキットイベントのおもしろさのひとつって、アーティストとの出会いもそうだけど、ライブハウスとの出会いというのもあると思うんです。行ったことのないハコに、サーキットに入っているから行ってみるとか。それが今回はオンラインだからこそ全国規模でできるというのはあるかもしれないですね。でも会場の数は増えて、かつその配信とか収録とかっていう部分も乗っかってきて、実際やるとなったらめちゃくちゃ大変だろうなって思うんですけど。
菅原:そこはもう、うちのスタッフが(笑)。まあ、完全にやることは増えましたね。配信の手配とか、今までだったら現場をこなせばOKだったのが、事前収録してデータを集めて、それを配信に乗っける作業もあるじゃないですか。回線チェックしなきゃいけないとか、今相当バタバタしてますね、全会場で一斉にテストしたいとかって言っても、みんなのスケジュールそんなに合わないじゃないですか。まだテストできてないですからね(笑)。
――ブッキングの勝手も違いますよね、配信前提だと。
首藤:やっぱりリアルをやりたいんで、配信はしたくないっていうアーティストもいるんですよね。そこは自分の気持ちは伝えつつ、でも強要はしたくないので。でも逆にきっかけになったっていうバンドもいますし。当日がうまく終わって、やってよかったなっていうポジティブな形で終われば、今後の選択肢に繋がって、アーティストにとってもライブハウスにとっても変わってくるのかなと思うんですけど。
綿谷:うん。配信やるならまずは自分たちでやりたいみたいなアーティストもいたりしましたし。でもやってよかったということにしたいし、それがつながっていけばいいかなと思いますね。
民やん:この会場がやりたいって言ってくれるんだったら会場のためにも出ますっていうバンドもいたりして。自分のホームグラウンドで出てくるっていうバンドも結構いますんで。東京に来て、知らない会場でやってますというよりは、熱量とかMCとかも違うものになるのかなっていうのはありますね。
菅原:そうだね。配信ライブってそんなにたくさんはできないので。その中で「NIPPON CALLING」に出ていただけるというのはすごくありがたいなと思ってます。「NIPPON CALLLING」だからこそ出たいって言ってくれる人もいるし、それこそコラボステージがたくさんあるんで、そういうメディアさんとのつながりのなかで出てもらえるというのは嬉しいですね。
――これだけの会場でサーキットをするというのもオンラインじゃないとできないですしね。
菅原:今回mahocastっていうプラットフォームを使ってるんですけれども、サーキットしやすいプラットフォームになってるんです。家にいながらにして、旬なバンド、これから何か面白そうなバンドっていうのをたくさん見てもらえるっていうのはいいかなと思っています。今年はフェスがほとんどなかったので、あのタイムテーブルの感じを見て「久しぶりだな」っていうのはすごく思ったので、楽しんでもらえたら嬉しいですね。
民やん:いろいろ配信ライブがある中で、この「NIPPON CALLING」って、音楽番組の特番みたいな感じだと思うんですよね。そういう意味ではみんなにワクワクしてもらっているなっていうのもすごく感じます。やることはそんな変わったことはしない、まっすぐなライブを204組集めてるんですけど、やっぱこの集まってる感じの楽しさが伝わっていればいいなと思います。
――204組が出るオンラインライブって他にないんじゃないですか?
菅原:おそらく今年いちばんたくさん参加してるんじゃないのかなって。日本ではたぶんそうだし、世界的に見ても。今ライブがなかなかできない中で、本当にひとりでも多くの人に見てもらって、かっこいいバンドがいっぱいいるよっていうのを忘れないでほしいなと思いますね。

【取材・文:小川智宏】

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