名古屋発の男女4人組バンド“ペンギンラッシュ”、Fanplus Music初登場!

ペンギンラッシュ | 2020.09.24

 名古屋出身の4人組バンド、「ペンギンラッシュ」。ギター、キーボード、ベース、ドラム、歌が同一線上に立ちながらサウンドを生々しく交わし合い続ける様は、おそらく多くの人が想像する「ロック」とは、かなり趣きが異なるのだと思う。ジャズ、ファンク、R&B、ラテンミュージック……様々な香りを漂わせながら、極上のグルーヴ、ドラマチックなメロディ、艶めかしいフィーリングを開花させるあらゆる楽曲は、フレッシュな刺激の塊だ。メジャーデビュー作となる3rdアルバム『皆空色』についてメンバーに語ってもらいつつ、このバンドの独特な作風の背景を探った。

――独特な作風のバンドですよね。
望世(Vo/Gt):結成当初から、そういうところがあるバンドだったかもしれないです。ジャズとかファンクのピアニストもやっている高校の軽音部の先生からの影響が大きかったんですよね。
真結(Key):望世と私で組んだバンドなんですけど、やりたいことをずっとやらせてもらっています。

――リズム隊のおふたりは、サポートメンバーとしての時期を経て正式加入したんですよね?
Nariken(Dr):そうです。僕らの方が5、6歳上なんですよ。ライブハウスの店長さんから「女子高生がやらないような音楽をやってるバンドがいるよ」っていう話を聞いていて、それで知り合ったんですよね。
浩太郎(Ba):僕はライブハウスで共演したことがあって、「若いのにこういう音楽性って、面白いなあ」って思っていました。
――個々のプレイの聴かせどころやアクの強さがあるのに、不思議とバランスが絶妙な4人ですね。
望世:なんかいい感じにいつもまとまります。
――曲はセッションで作っているんですか?
望世:実はそうでもなくて、曲のベーシックなものは私と真結と浩太郎が持ってきて、そこからスタジオで作り上げていくというやり方をしています。
――お互いのフレーズを交わし合いながら曲を展開させていくのは、ジャズからの影響?
望世:ジャズとは違うと私は思っていて。ジャズプレイヤーの人たちとも仲良くさせていただいているんですけど、やっぱり全然別なのかなと感じています。
――間奏の尺が結構長かったり、アウトロがドラマチックなフィナーレになっていたりするところは、一般的にイメージされる「ロックバンド」とは別のスタイルだと僕は感じています。
Nariken:ソロパートが多かったりしますからね。
――ユニークなスタイルなのにキャッチーなのが面白いです。ポップさの向こう側から、変わった隠し味がふと顔をのぞかせる感じというか。
望世:ありがとうございます。それが理想です。

――型にハマるのを良しとしないこのスタイルは、歌詞で描かれていることにも通ずるものがありますよね。「それって本当にそうなの? おかしくない?」っていう違和感を投げかける歌詞が多いですから。
望世:常にそういうことを考えていたりしますからね。幼い頃からいろんなことに対して疑問を持つタイプだったので。「括られる」っていうことに関しても違和感があるんです。バンドもそれぞれにカラーがあるのにジャンルで縛られるっていうのは、ちょっと違うんじゃないかなって思うんですよ。
――例えばペンギンラッシュは強引に「シティポップ」とかいう紹介のされ方をされそうですけど、しっくりはこないですよね?
望世:はい。シティポップではないですし(笑)。
――「得体のしれない架空のシティをイメージさせる音楽」という意味でのシティポップみたいな雰囲気はありますけど。
Nariken:ペンギンシティですか?
――そう。ペンギンシティのシティポップ。
望世:それ、いいですね(笑)。

――例えば、「二〇二〇」も、ペンギンシティのシティポップっていう感じです。誰かが決めた「答え」とされている型に押し込められることへの違和感が歌われていますよね?
望世:はい。これはまさにずっと考えていることです。私たちの世代は物心がついた頃からインターネットがあるので情報はたくさんありますけど、だからこそ考える力が失われてきているんじゃないかなと。もうちょっと先の未来がこの曲みたいな感じなのかなって思っていたんですけど、今年に入ってから世の中でいろいろなことがあって、そういう状況を見ながら、「これは今、もう既に始まっているんだな」って思って、タイトルを「二〇二〇」にしました。
浩太郎:これはもともと曲が先にあったんですけど、すごくパワーのある歌詞をつけてくれましたね。
Nariken:僕は歌詞を読みこんだりすることはあまりしなくて、語感とか言葉のリズムとかを自分の中に取り入れるので、意味に関してはこういう取材の場で知ることの方が多いんです。でも、フレーズとかが印象に残ることは多いですね。例えば「二〇二〇」だったら<その命惜しいならば>とか、印象に残ります。パワーワードというか、突き刺さる言葉があるんですよね。

――切れ味の良い言葉を彩る音も、思いっきり突き刺さってきますよね。ピアノソロなんて、いつも爆発しているじゃないですか。
真結:ありがとうございます。厳密に作り込んで弾いています。ジャズの音使いを参考にはしているんですけど、作り方は即興でやっているわけではなく、その曲にぴったりの音を納得いくまで探しながら時間をかけて作っています。
――パーカッシブなプレイスタイルを発揮することも多いですよね。
真結:はい。ピアノは打楽器ですから(笑)。リズムの出し方は、こだわっています。ペンギンラッシュの上モノの楽器はピアノがメインになってくるので、ピアノでできる表現は広げていきたいと思っています。

――あと、先ほども少し触れましたが、やはりアウトロですよ。「色彩」や「turntable」とか……挙げだすときりがないんですけど、「アウトロがかっこいい曲が多い!」というのは、みなさんの特徴のひとつとして言い切ることができます。

望世:嬉しいです。曲は最後までしっかり聴いていただきたいので。
真結:聴き終わった後の余韻を決めるのはアウトロですから大事にしたいですね。
――各楽器パートのフレーズの交わし合いがスリリングだから、クライマックスのアウトロに至る頃には熱量がすごいことになっているんでしょうね。
Nariken:嬉しいです。僕にとってペンギンラッシュの音楽は触れてこなかったタイプなので、そういう新鮮さもこのバンドをやりながら感じているんです。「この年齢になっても、こういう楽しいことをさせてもらえるんだ」っていう気持ちでいつもやっています。

――角度を変えて言い表すならば、「歌と楽器が同一線上で常に刺激し合っている音楽」ということなんだと思います。
望世:やっぱり、歌ものではないと思うので。楽器も大切というか、音を大切にしたいんですよね。
Nariken:各々がやりたいことをやって、誰かがやりたいことをやっている間は、みんなが一歩ずつ引いて……っていう、各々が気を遣い合いながらいい感じでやっていけるバンドなのかなと、僕は薄っすら思っています。
――「本音」も、いい演奏ですね。ベースが渋いです。

浩太郎:フレットレスベースを初めて使いました。この曲に合っていると思ったので。
――やはり、かなり個性的なサウンドのバンドですよね。地元の名古屋に、近い何かを感じるバンドはいます?
望世:いないです。名古屋はメロコアとかギターロックとかが盛んなので。
――名古屋は、もともとハードコアパンクが盛んですよね?
望世:はい。そういうのが地元の軸になっているのかなと思います。
――ペンギンラッシュの柔軟な発想や型にハマらない尖った姿勢は、ハードコアと言っても的外れではないとは思いますけど。
望世:たしかに(笑)。今後、「ハードコアバンド」って言おうかな。いろんな意味でハードコアではあるので。
――このバンドの根底にある「ちゃんと考えて、やりたいことをする」っていう姿勢は、ハードコアと通ずるものがあるのは確かです。
望世:そうですよね。周りの目や世間体を気にして自制してしまうことってありますけど、そこにはやっぱり違和感があるんですよ。こういう活動をするっていうのは、社会に適応できない人間なのかもしれないですけど(笑)。でも、だからこそ社会的なことに敏感にもなれるし、自分で考える力も備わると思うんですよね。
――そもそも「ミュージシャンになる」っていうこと自体も、「常識」とされているものに左右されない人じゃないと、なかなか選ばない道でしょうからね。
Nariken:僕の親は今でも心配していますよ(笑)。
真結:うちの親は、音楽をやることを応援してくれているのでありがたいですね。メジャーデビューするのもめちゃくちゃ喜んでいます。言いふらしていますから(笑)。
――(笑)。あと、みなさんの音楽に関して触れておきたいのは、「こういう感覚、空気感って、なんかわかる」っていう漠然としたフィーリングが表現されている点です。例えば「本音」みたいなことって恋愛の中でよくあるモヤモヤ感じゃないですか。
望世:恋愛に限らず、こういう「わかってほしい」「知ってほしい」っていう感情はありますよね。それを音で表すとこうなるのかなと。
――「冴えない夜に」や「あいだ」もなかなか言葉にできないフィーリングを描いていますし、「淵」はモヤっとした感情を音と言葉に託して思いっきり叩きつけていますよね?
望世:はい。「淵」は、負の感情全開というか(笑)。「心の中で中指を立てる」みたいなことを歌っていますね。常にリアルでありたいし、そこに少しひねくれ要素も入るので、こういう曲が生まれるのかもしれないです。あと、「メジャーでこういうことをしたら面白いのかな?」みたいな悪のりもあるんですよね。
――変な音を入れるのも好きですよね? 例えば「高鳴り」はきれいな曲ではありますけど、なんか様子がおかしいじゃないですか。

望世:ガラスが割れた音みたいなのが入っています。この曲だけじゃなくて、他の曲もよく聴くと「なんだろう、この音?」みたいなのが結構入っていますね。
――「高鳴り」の印象をざっくり言うと、「聴いてると不安な気持ちになる曲」です。
望世:それが狙いです(笑)。
Nariken:不協和音が入っているのって「高鳴り」だっけ?
望世:うん。あと「woke」も。「高鳴り」はピアノの3つ目の音が気持ち悪い。
真結:単音フレーズのピアノの部分の3つ目の音です。この曲は望世が作ったんですけど、デモの段階でこの気持ち悪い音が入っていたんですよね。
望世:間違えて入れた音なんですけど、こっちの方がしっくりきたので、そのまま採用しました。
――音楽の基本セオリーから外れているから、ピアノの先生の前で弾いたら怒られるはずです。
真結:私も弾くのをためらいました(笑)。
――(笑)。「色彩」もキャッチーですけど、転調の仕方がどうかしているじゃないですか。

浩太郎:これはかなり悪のりですね。前作ですごい転調をした曲を作ったんですけど、それとは違うアプローチをしてみたかったんです。「上がって下がって、下がった先は前と違う」みたいな感じの曲ですね。

――「高鳴り」や「色彩」にも表れている通り、音って人間の感覚をいろんな形で揺さぶれるのが面白いですよね。
望世:そうなんです。音って面白いですし、音楽って面白いんです。そういうものでずっとあってほしいと私は思っています。
――音と音楽の面白さを全力で探求しているこのアルバムはメジャーでの第一歩ですが、今後、どんな活動をしたいと思っています?
望世:自分たちのやりたいことを追求していくと良い作品ができるということがわかっているので、より追求していきたいですね。それを老若男女、いろんな人に聴いてほしいなあって思っています。
真結:やりたいことをやっていったら全部新しいものになっていくと思うので、そういうことをやり続けていきたいです。
Nariken:まだやってないことはごまんとあるので、それをやりつつペンギンラッシュっぽさ……「ペンギンエッセンス」って僕は呼んでいるんですけど、ペンギンエッセンスを残しつつ、幅広い音楽をやっていきたいです。
浩太郎:いろんな曲を今後も作っていきたいですね。「こんなことをやったら面白いんじゃないかな?」っていうのをどんどんやっていきたいです。
望世:これからもハードコアバンドとして頑張っていきたいと思います(笑)。
【取材・文:田中 大】
【撮影:郡元菜摘】

tag一覧 アルバム 女性ボーカル ペンギンラッシュ

リリース情報

皆空色

皆空色

2020年09月02日

SPEEDSTAR

01.本音
02.二〇二〇
03.あいだ
04.冴えない夜に
05.月草
06.turntable
07.eyes
08.woke
09.淵
10.高鳴り
11.喫水
12.色彩

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望世(Vo/Gt)
滝行体験
メジャーデビューしたので祈願じゃないですけど、この前、メンバー内で「滝に打たれたいね?」っていう話になったんです(笑)。長野県に良さげなところを見つけました。

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